ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その39)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/15)

「じゃあみんないい?」

M山広場本部、
令子の声に生徒と連絡の取れる最低限のスタッフを残し、全員がスクリーンに注目する。

「別に変なところはないみたいじゃないの?」

確かにエミの言うとおりパっと見異常は見られない、霊団の減少率も生徒の位置把握も正常に作動している。
旧式という懸念も考えたが、新型レーダーと見比べても違いはあまりない。

「そうなのよ、レベル3以上の霊力探知設定ならね、でも・・・・」

そう言って令子はパチっとあるスイッチに触れる。
するとスクリーンの色、が変わり同時にそれを見ていた者の表情も変わった。

「これは・・・・令子」

他のメンバーと違って床に正座させられていた横島が鋭い目つきで妻に答えを求めた。

「まぁ、みんなに説明しなくても分かると思うけど今の設定は結界探知設定ね、
 いい?こっちがM山、今は結界が張られてないから全体的に青い色で覆われてるわね・・・」

令子の言うとおり確かにM山全体は青い色で覆われている、しかし・・・

「で、こっちが隣山のN山・・・・・見て、発動前の結界・・・微弱だけど山全体を囲うほどの結界が張られているわ
 しかも発動すればかなり強力なものになるわね、こんなの一朝一夕で出来るわけないし・・・
 少なくとも10年前からコツコツ精度を上げていったみたいね」

「ちょ、ちょっ待ってくれへんか!?10年やて?そりゃあ隣山ってこともあるかもしれへんけど、
 ここで10年以上も除霊作業やってるんやで、それなのにウチらが気付かへんなんて!?」

鬼道の言うとおりだった、10年以上も除霊行事をやっているがN山の異常なんて一度も探知したことなどない。

「おそらく・・・M山に張った結界が強力すぎたんですね。
 普段の結界調査でもその霊気はかなりの範囲に広がっていることが分かりますから
 そのせいで機械じゃ測りきれないということがあってもおかしくないですね」

ピートの丁寧な質問に押し黙るしかな鬼道。

「でも、それが何か問題でもあんのか?」

「バカね・・・そりゃ霊山ってこともあるけどこんなに巨大な結界が自然に出来るわけないでしょ?
 明らかにN山には何かいるわね・・・しかも私の勘じゃ結構やばい奴が・・・」

「でも・・・ま、それなら今回調査する俺らが気をつければいいだけだろう?
 生徒達が除霊作業やってるのはN山じゃなくて、M山なんだから」

楽天的な夫にハァとため息をつく令子。

「それならいいんだけどね・・・これも見て。
 ここと、ここ・・・それにそこと、ここ・・・M山の何箇所に霊的歪み・・・があるのわかる?」

「あ!!?」

「強力な結界を張ったり、解除したりするとたまにこうやって霊的に空間が歪んでしまうことがあるわ?
 神隠しってあるでしょ、あれも空間歪曲に巻き込まれてどこかに飛ばされたりしたっていう説もあるわ」

「もし、これに巻き込まれたら生徒達が・・・」

「そう・・・。でも、そんなに強力な歪みじゃないから飛ばされてもせいぜい数十キロ範囲・・・・
 霊的に強いところに飛ばされる可能性が高いわね・・・」

「つまり・・・」

「N山に転送される可能性が高いってことよ」



その一言に本部のスタッフ全員の背筋に冷たいものが走った。








「せぇのぉ!!」
「しっ!」

バシュゥッ!
シュバっ!

1mほどの悪意の塊、悪霊がひのめの拳に貫かれ、幸恵の霊刀に裂かれると低いうめき声と共に消滅する。
派手なアクションは起こさないが二人のコンビネーションは確実に除霊率を向上させていく。
他の四人より除霊経験は少ない二人だがその阿吽の呼吸は他のメンバーに何ら遜色はなかった。

「とりあえず、ここらへんの悪霊は一掃したかな?」

「で、でも光ちゃん・・・私達の担当範囲はもう少し向こうまであるみたいだけど・・・」

「う〜ん、どうするみんな?」

班長は実はおさげ少女の斉藤久美なのだが、それを代弁するのはいつも活発少女・木下光の担当だった。
介錯丸を収めた幸恵と、神通トンファーを下ろしたかすみの答えは・・・

「もう周囲に悪霊や妖怪の気配は感じないし、少し休んだほうがいんじゃないかな?」

「幸恵に賛成、ちょっと飛ばし気味だったしね。それに本部に連絡をとって指示をもらうってのもいいかも」

と、この場で一度息を整えたほうが提案した。
全員まだ余裕はあるが予定終了時刻のAM4時まではあと1時間もある、ここで折り返しということで休むのも悪くない。

(う〜ん、私はまだ全然元気なんだけど・・・)

(『そうやって己の力を過信する奴がやられていくわさ』)

心眼の小言に『べ〜っ』と舌を出しながらここらで休憩という案に一応納得しなたのかその場に腰を下ろした。
しかし・・・

「冗談じゃありませんわ」

その一言に全員視線が一点に集まった。どこか不機嫌そうな京華のもとへ。

「こんなところで休んでる暇なんてあるのかしら、わたくしの見立てではまだこの先にいくらでも敵がいるのよ」

「ちょ、あんた!何勝手言ってんのよ!」

そんな京華に噛み付いたのはひのめではなく光であった。
ひのめも文句言ってやろうと思ったのだが、先に光が京華につっかかったため出遅れた形になる。

「待って!落ちついて、ね?・・・・京華もどうしたのよ?」

そんな光と京華の仲裁に入ったのはかすみだった。

「別に・・・何でもありませんわ」

「何でもないってことないでしょ?」

そう言いつつもかすみは何となく京華の感情の変化の理由に気付いていた。
ひのめと決着がついてから幾分か過去のことを振り切ったつもりだったのだろう・・・
でも、先程のひのめの才能の開花を見てからまた昔のトゲトゲしい雰囲気が出ていることをかすみにまで誤魔化せることは出来なかった。

「京華・・・あなたまだ・・・」

「別に・・・・・、とにかく!あなた方が動かないならわたくし一人でも先に行かせてもらいますわ」

「ちょっと待ちなさいよ!京華!」

一瞥の表情を浮かべてその場を去ろうとする幼馴染の腕を掴むかすみ。
だが・・・

「わたくしに構わないで!!」

「キャッ!」

ドンっ

かすみは振り向き様に京華に押され尻餅をついてしまう。
それを見てすぐに幸恵がかすみに寄り沿い抱き起こと視線をそっと京華のほうへ移した。
幸恵の視線に京華はハっとした表情を見せるとふいに目を逸らして森の中へと駆けて行く。

「京華!」

「私が追いかける!」

かすみの声と共に飛び出したのは美神ひのめだった。








「ハァハァ・・・ったくどこいったのよ」

『まだそんなに遠くへは・・・・・ん、そこの吊り橋に誰か・・・』

心眼に言われ目をほそめこらしてみる・・・。
すると10mほど先にあるボロい吊り橋が目に入った・・・
その真ん中へんに立っているの月明かりのおかげもあってすぐに誰か分かる。

「こんなボロっちぃ吊り橋にいたんじゃ危ないわよ」

「ふん、・・・・よりにもよって今一番見たくない人が来ましたわね・・・誰かに頼まれたのかしら」

京華は吊り橋のロープに寄りかかりながら少しだけひのめに微笑浮かべると眼下に流れる川の流れに視線を向けた。

「んなわけないでしょ?場の流れよ流れ・・・申し訳程度に来てやっただけよ!」

少しだけ顔を顔を赤らめて本音を出さないのもこの子らしさか・・・
心眼はそう思いながらも口には出さなかった。
そして、訪れる僅かな静寂・・・・・・・・それを破ったのはひのめのほうだった。

「あんたさぁ・・・そりゃ団体行動が苦手だと思ってたけど、橘さんにああいう言い方はないんじゃない?
 それに少し変よ?前はどんなに性格はムチャクチャでも物事は冷静に割り切ってたのに・・・
 今のあんたは情緒不安定な子供みたいじゃない」

「・・・・・・・・」

ひのめの言葉に京華は何も返答しなかった。
内心ではもちろん腹が立って仕方がない、なぜ私がこんな奴にと・・・でもどこかで・・・自分の中のどこかで・・・
ひのめを認めて、自分を諌める感情があったのも事実だった。
でも、そんなことは認めれない・・・認めたくない・・・それもまた京華の素直な思い。

「はぁはぁ!ひーちゃぁん!三世院さーん!」

「お、出迎えご苦労!みんなは?」

「ん、さっきのところ。・・・・・かすみちゃんも怒ってないって言ってるよ?
 早く行こうよ、ね、三世院さん」

駆けつけた幸恵から差し出される手、それを早くしなさいよと言いつつも少しだけ笑って見てるひのめ。
そんな光景にちょっとだけグッと何かが胸にこみ上げる京華・・・。
ゆっくりゆっくり・・・と手を伸ばし・・・・・・・・たそのとき!

ガクンッ!


「うわあぁぁっ!」

突如三人が立っている吊り橋グラつく。
ひのめ達はその場に立っていられずロープにつかまりながら何が起こったかを確認してみると・・・

「ひ、ひーちゃん・・・あれ!」

幸恵の指差した先、それはおそらく三人の重量で切れた橋を支えるロープ。

「だから、こんなボロ橋に来るの嫌だったのよ、あんたのせいだからね!」
「なっ!わたくしは誰も来てくれなんて頼んでませんわ!親切の押し売りはやめて下さらない!」
「ふ、二人ともこんなときにケンカしないでぇ!」

こんなことより早く戻らないと、と言いたいところだが二人はケンカに夢中で話を聞いていない。
しだいに激しくなる二人の口論を止めるために幸恵が取った手段は・・・・

チンッ・・・・ザシュっ!!

「・・・ケンカなんてしてる場合じゃないだろう・・・」

幸恵(裏)はそう言って抜刀した刀を鞘に収める。
確かにひのめと京華は静かになった同じところに視線を向けて青い顔で・・・

「あれ、そんなに強く言ったつもりじゃないんだけど」
「違うわよ!さっちゃん今何斬ったの!?」
「え!あんまり気にしてなかったんだけど・・・」
「そ、それ・・・橋を支えてた最後の主な縄じゃ・・・」
「へっ!」

京華の説明に幸恵が素っ頓狂な声を上げたとき・・・


ブチブチブチブチ・・・ガラガラガラガラ!!

「うわあぁぁぁぁぁああぁぁ!!」
「きゃあああああぁぁあ!」
「あああぁぁあああーーーーーーーーーっ!!」

三重奏の悲鳴を上げながら川へ向かって落下していくひのめ達だった。



                                 その40に続く

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