ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦! 『青い日向で、Close To You!』


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/10/14)


 晴れた日曜日に事務所の屋上に上れば、そこはとても爽やかさに満ちていて快適だ。
 天気が良く、日当たりも良好とくれば、風の涼やかさも、清潔な薄絹が顔を撫でていくようで心地よい。
 そして、干した洗濯物の渇きが早いのが何よりありがたい。

 事務所のあちこちにある植物類に、備え付けの小さな如雨露で水を与えた。
 陽光が良く当たる場所に鉢を置いてあるから、いつも青々と葉を茂らせている。
 ちょっと目にはよくわからないけど、少しずつ伸びていっているようにも見える。

 布団を干せる、からっとした空気交じりの晴天はとっても大歓迎だ。
 満開の向日葵がそのまま空気に溶け込んだような温もりと日向の匂いを好まない住人はいない。私も含めて。
 できれば彼のアパートにも行って、お掃除とか布団干しとかしておきたいけど・・・・・・。

 お買い物も無事に終わった。
 今日は近くの商店街でバーゲン・セールをやっていたから、多く買うために彼にも手伝ってもらった。
 あそこは鮮度の良い物が多くそろっているから、人手があったほうがいい。

 事務所の台所にはとても大きな冷蔵庫があるから、新鮮な材料を一杯詰め込むことが出来て嬉しい。
 今日の昼食の献立は、蒸した鶏肉と野菜のサラダに魚介類とクリームがたっぷり入った熱々のパスタ。
 冷たく新鮮なアップル・ジュース。
 食後の紅茶と小皿に乗せたフルーツの盛り合わせが好評だったようで、作り手としてはとっても満足だ。

 でも、今日の一番楽しかったのは、短い時間だったけど、彼と二人っきりになれたこと。
 お買い物に行ったとき、重い荷物を進んで持ってくれて。
 昼食の用意をしていたとき、手伝ってくれて。

 もっともそのことに改めて気が付いたのは、ついさっきなんだけど。
 買い物先の商店街で、肉屋のおじさんや魚屋のおばさん、八百屋のおばあちゃんに言われたことがきっかけで。
 ご飯のときもぼうっとしていたから、失敗せずにすんだのは本当によかったけど。

 今、改めて思い出すと恥ずかしくてたまらなくなる。
 なぜと問われれば、答えは、嬉しすぎるから。
 彼は顔を赤くして否定してたけど。

 ―――――――すごく、嬉しかった。



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           青い日向で、Close To You!


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 例えば、肉屋のおじさんは。


 「らっしゃい、おキヌちゃん! 今日はご亭主と一緒かい?」

 「ご、ご亭主!?」

 「い、いきなり、なにをっ!?」


 例えば、魚屋のおばさんは。


 「あら、おキヌちゃん! 忠夫ちゃんも一緒かい。・・・・・・ってことは、とうとう『横島キヌ』になるのかね?」

 「え、え、ええっ!?」

 「お、おばはんっ!?」


 例えば、八百屋のおばあちゃんは。


 「おや、いらっしゃい。若夫婦ってのは、いつ見ても初々しいもんだねぇ」

 「あ、あうう・・・・・・」

 「あ、あのなー、ばーちゃん・・・・・・」


 二人して真っ赤になっていた。私は頭に血が上っちゃって。
 横島さんはちょっと動きがぎこちなくって。
 そんな私たちを見やる商店街の人たちは妙に楽しそうだった。
 恥ずかしくて、でもけっこう嬉しかった私は悪い子でしょうか?


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 不意にシャープペンを投げ出して、机に突っ伏した。
 でも、それじゃ全然おさまらなくって・・・・・・ベッドに飛び込んで、枕を抱きしめて七転八倒。
 自分がふと漏らした一言が、自爆へのスイッチだった。

 机に向かって1時間弱。時刻で言うとお昼の13時半。宿題がぜんぜん進まないよ。
 ため息はどっと漏れるし、顔はお湯が沸かせそうなくらいに火照っているし、心臓だってまったく落ち着きがないもの。
 いつもなら心と身体を落ち着かせてくれるはずのアイス・ハーブ・ティーやミント・キャンディーも、とっくになくなってるし。

 こんな日に国語の古文を、しかも恋愛物の短歌なんて目にするものじゃない。
 さっきまで古文の教科書を、いつのまにか恋愛指南のテキストにしちゃっていたわたし。
 本に折り目がつくのも構わずに、握り締めて読みふけっていたんだけど・・・・・・。
 訳するたびに頭の中で、ふわふわの綿菓子みたいなものが桜色に色付いて来ちゃったんだ。

 紫式部さま。お気持ちはわかりますけど、何もこんな時にわたしの気持ちを揺さぶってくれなくたっていいじゃないですか。
 小野小町さま。彼が今夜、夢に出てきちゃったら・・・・・・わ、わたしは、どう行動すれば良いのでしょうか?
 和泉式部さま。織女(織姫)さまには一度お会いしましたけど・・・・・・や、やっぱりまずは実行が大事なんですね。

 我ながらバカみたいって思うけど、なんでか『練習』してみよう、なんて思い立っちゃって。
 それで呟いてみたんです、はい。
 ゆっくりと、力をこめて・・・・・・って、そんな必要はなかったのに。
 で、結果的にベッドに飛び込んじゃったわけでして・・・・・・・・・あうううう。


 『・・・・・・・・・・・・』


 ダメです。限界です。もう降参しちゃいます。
 えーと、英語で言うと・・・・・・『ほーるど・あっぷ』だったっけ? あれ、違ったかな?
 あははは、うーん、もうなんでもかまいません。
 心臓発作なんて、以外と簡単にかかっちゃうものなんだと思う。

 ああ、さっきの自分と、口にした言葉を思い出すと、救急車が必要になっちゃいそうだ。
 屋上に上って風に当たりたくなった。
 身体中の空気を入れ替えに行こう。ほかほかになっちゃって大汗かいちゃいそうなんだもの。
 ベッドから立ち上がるまでが、また一苦労な気がした。


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 階段を一歩一歩上るたびに、頬の火照りと心臓の鼓動が連動していく。脈拍の数は、今、幾らぐらいなんだろう。
 へとへとだよ、もう。この階段ってこんなに急だったかなぁ?
 屋上への扉を開けたとたん、感じた空気はやけに澄み切っているように感じた。

 今日はちょうどいいくらいの涼しさが肌に触れている。朝方に洗濯物を干したときとちっとも変わっていない。
 火照った頬を冷やすにはちょうどいい感じ、と、思う。
 ちょっと想像力が豊か過ぎるかな・・・・・・なんて、軽い自己嫌悪も感じないわけじゃないけど。
 うう、いやになるほどお天気が良すぎるよぉ。自分の気持ちと完全なまでに裏腹なんだもの。


 「あ、お布団、どうなったかな?」


 あぁ、もう。美神さんみたいに、誰かさんのせいに出来たら楽なんだろうけどなぁ・・・・・・って、いけないいけない!
 そんなことしちゃったら・・・・・・・・・・・・・・・き、嫌われちゃうもん。
 いまは、お布団のことだけを考えなきゃ!・・・・・・って、こんなだから年寄りくさく思われちゃうのかなぁ。

 お布団は屋上の床上に敷いた茣蓙に置いてある。一度軽く叩いた後に敷いたから、埃は大分なくなっているはず。
 つきたてのお餅や、膨らんだパン生地のようなお布団を見るのが大好きです。
 干してあるのは、客間用和室に置かれていた大きめの敷布団。膨らみ具合も楽しみだったんだけど・・・・・・。
 今日に限ってはそうじゃなかった。


 「よ、横島さんっ!?」


 真っ白なお布団の中に埋もれていたのは、見知った彼。ほんとに気持ちよさそうに寝ている。
 青色のジーンズの上下に、赤いバンダナが相変わらずのスタイル。
 ジーンズの下は水色のTシャツで、墨痕も鮮やかに『邪』の一文字が書かれてある。
 あ、やばい。彼の寝顔を見てるだけで、また顔が火照ってきちゃった。
 んもぅ、なんでこんな時に、こんな所にいるのかなぁ。誰かのいたずら・・・・・・なわけないけど。

 わたしはドキドキする胸を押さえながら、お布団の上に跪いた。
 ううう、大冒険するわけでもないのにぃ・・・・・・。なんでこんなに緊張するの?
 布団から漂ってくるお日様の温もりと、ふわふわとしたやわらかい涼風は相変わらず気持ち良い。
 ふと、緩やかな風が彼の前髪と両の瞼を撫で付けていった。

 ふわり、と浮き上がった彼の前髪が、隠していた睫毛をあらわにしたとき、わたしの心臓が大きく跳ね上がった。
 意外と長くって、整っていて。そういえば、彼の顔をじっくり見たことなんてなかった・・・・・・。
 わたしって、意外と好奇心が有ったみたいです。靴を脱いで、彼の真横に跪くと、まじまじと顔を覗き込んでしまった。
 ううう、ごめんなさいごめんなさいっ、横島さん!


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 時間なんか気にしないで、彼の唇からもれる寝息を聞きながら、ずっと彼の顔を見ちゃっていた。
 ああ、良い天気です。良い風です。良い心持なのです。すっかり眠くなっちゃった・・・・・・。
 わたしと来たらさっきから、うとうとしっ放しなのだ。でも、ここで眠るわけにはいかない。
 でも、頭が重い。瞼も重い。お布団に引っ張られそう。

 目覚ましに頭を振ろうとするけど、ちょっとこの気持ち良さには抵抗するのは難しいかも。
 あれ? 急に身体全体がほかほかしてきた。
 うーん、これは気持ち良い・・・・・・さっきまでの、疲れるドキドキはどこかに行ってしまったみたい。
 うふふっ、そういえば『練習』のセリフも、いろいろ考えていたなぁ・・・・・・。

 でも・・・・・・。
 何度だって、言います。わたしの視線の先にいるあなたに。
 何度でも、言いたいんです。わたしを守ってくれるあなたに。
 このまま眠っちゃいますけど、夢の中ででも、もし会えたらちゃんと言います。




 ――――――「横島さん、大好き!」




 あ、でも、起きている時でも、チャンスがあったら、絶対また言っちゃいます。本当ですよ♪









                おしまい♪

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