しょーと・しょーと [バトル・ウィズ・ウルブス編]
投稿者名:dry
投稿日時:(03/10/13)
註:この投稿は原作への依存度が高いので、できれば原作と併せて読むことをお勧めします。
《撤退》
辻斬り事件の犯人を捕縛するどころか、その圧倒的な強さの前に返り討ちに遭ってしまったGSの面々。
マリアにしがみついて現場から離脱するものの……。
「おい、マリア! さっきから高度が下がっておるぞ!?」
「エラー・発生。推力が・不足しています。目標地点到達前に・墜落する・可能性・84%!」
「何とかならないワケ!?」
「左腕部切断による・エネルギー流出・および・重量オーバーが・原因です!」
「腕はどうしようもないから、重量を軽くするしかないようだね!」
ここで美神の一言。
「地上に降りてたら、あいつに追いつかれるかもしれないわ。こうなったら、誰か一人をここで落とすのよ!」
一同、しばし沈黙。
「……儂は西条を抱えておるから降りるわけにはいかんぞ」
「……あたしも冥子を離せないワケ」
「……私だって背中を負傷してるわ」
各々主張するが、あまり理屈になっていない。
「カオスは仕方ないとして、エミ、あんたの体勢なら先生に冥子を渡せるでしょ」
「おたくこそ、西条さんと違って背中に大した傷を負ってるとは思えないワケ」
事態を弁えず、口論を始める二人。
「私は髪まで切られたのよ! だいたいあんた、さっきは役に立たなかったじゃない!」
「誰のおかげで退くことができたと思ってんの! あたしは精霊石を使った所為で、大赤字なの!」
だんだん話がずれていく。
「………!!」
「………!!」
夜空に飛び交う罵詈雑言。
「……マリアくん、そこのビルの上を通過してくれ。私が屋上に飛び降りる」
「イエス・ミスター・唐巣」
結局、唐巣神父の決断により墜落の危険は免れた。
その後、病院で無事合流しているところを見ると、辻斬りと再遭遇することは無かったようだ。
……ちなみに、この夜の戦いで一番役に立たなかったのが実は唐巣神父本人だったのは、ここだけの話。
《後始末》
人狼の襲撃から一夜明けた美神令子除霊事務所。
『精霊石で外壁に穴を空けるとは、オーナーも無茶をしますね』
珍しく人工幽霊一号がぼやく。
オーナーである美神が遠方にいるため受信できる霊波が弱く、事務所の修復が上手くいかないようだ。
どうでもいいが、無人の建物から声だけが聞こえてくるので結構不気味である。
『内装はひとまず置くとして、せめてドアと外壁の穴を塞がないと……おや? あちらに見えるのはタイガーさんでは?』
向こうから徒歩で近づいてくるタイガー。
破壊されたドアの前まで来たものの、何を躊躇うのかそれ以上進もうとしない。
「……つい持ち出してしまったが、一体どうしたもんかノー」
『タイガーさん、何か御用でしょうか? あいにくオーナー達はまだ戻っておりませんが』
「わぁっ!? ……何じゃ、人工幽霊一号じゃったか。おぬしに隠し通すのは無理ですケンノー……。実は、これを返しに来たんじゃ」
懐から、バスルームにあった美神の下着を取り出した。
「頼む! ワシにできることなら何でもするケン、このことは内緒にしてツカーサイ! もし下着ドロをしたことがエミさんにバレでもしたら、ワシはお終いなんジャ――ッ!!」
女性の下着を握り締めて建築物に土下座する大男という光景も、なかなかお目にかかれまい。
『……承知しました。その代わりに、応急処置で構いませんからこのドアと二階の壁を修理していただけませんか?』
「それくらいお易い御用じゃ! 恩に着るケンノー、人工幽霊一号!」
事件の事後処理にタイガーを利用する人工幽霊一号。意外としたたかである。
《超回復》
かろうじて犬飼の追撃を振りきり、地獄組組長の別荘に辿り着いた美神達。
その夕方、負傷したシロを抱えて居眠りをしていた横島は、腕の中に違和感を感じ目を覚ますのだが……。
「あ、あれ……!? 拙者、なんか大きくなっているよーな……。なんで?」
「そ、そんなことより、お前……女だったのか――っ!?」
言葉遣いや振る舞いから、彼女のことをてっきり男の子だと思っていた横島。
一晩で女らしい体つきに変化したシロに驚きを隠せないでいた。
シロの身体の、包帯でさらしのように巻かれた部分を見やる。
(そーいや胸なんてあって無きが如しだったもんなあ……胸!? つーことは、手当てをしたとき俺はこいつの服を脱がせたり、胸を生で見てしまったり、あまつさえ触ったりしたということに……)
「……横島さま、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいでござる」
ちょっと顔を赤らめて、恥じらう仕草をするシロ。
横島は自分がシロ(の胸)を凝視していたことにようやく気付いた。
「ハッ!? 何故こんなガキにドキドキしているんだ、俺!? 違う! 断じて違うぞ!! 俺はロリコンじゃない!! 違うんだ―――っ!!!」
「なに変なことを口走ってんのよ!!」
「あぅっ!!」
「ああっ、横島さまっ!?」
睡眠を妨げられて不機嫌な美神に殴り飛ばされるのは、お約束どおり。
《ルーツ》
根拠1
「月と狩りの女神アルテミスに従う狼が、その後の人狼の祖先よ!」
根拠2
『よろしい!! 力を与えます!! お手っ!!』
「はいっ!?」
根拠3
『今じゃ! 首にナワをかけろ!』
「ナワ!? ……これか!」
「……シロ、もしかしてあんた達の祖先って、アルテミスに犬(猟犬)として扱き使われていたんじゃないの?」
「うう。思い当たる節があり過ぎて反論できないでござるぅ〜」
のちのシロに対する犬扱いは、故無きことではなかったのかもしれない。
《欺瞞》
フェンリルと化した犬飼の撃退に成功したその翌々日。
美神の事務所では、人狼族御一行様がここぞとばかりにドッグ・フードを食べていた。
美神や長老の苦言も意に介さず、ひたすら箸を動かす。
そしてシロはと言うと、横島の腕を引っ張り外に連れ出そうとしていた。
「横島先生、散歩行こっ! 散歩!!」
「別にいいけど、お前はドッグ・フードを食わないのか?」
「いくら拙者でも、そこまで命知らずではないでござる」
頭に疑問符を浮かべる横島に、シロはさらに説明を続ける。
「以前、父上の使いで長老の家へ参ったとき、長老がドッグ・フードを食べていたのを目撃したのでござる。それで拙者、美味そうだったので是非食べさせて欲しいと頼んだのでござるが……」
ここで長老の方を見やる。
「『これは大人が食せば大変美味だが、子供にとっては毒となり口に入れれば立ち所に死んでしまう物でもある。すまぬが成人しておらぬお主に与えるわけにはいかん』と言われたでござるよ」
それを聞いた途端、ピタッと箸の動きを止める人狼の男達。
何故かあらぬ方を向いてシロと視線を合わせようとしない長老。
(ぜってー、嘘だな)
(正に子供騙しね)
(シロちゃん……)
長老達を白い目で見る横島と美神。一方、おキヌはシロに憐れみの視線を送る。
気まずい沈黙が事務所内に流れた。
「? みんな、どうしたでござるか?」
「あー、気にするでない。……とにかくじゃ、シロ。超回復で少し成長したとは言え、まだ食べてはいかんぞ」
「分かってるでござるよ、長老。それより先生、散歩行こっ!」
「シロ……。いや、何でもない。行くか」
ドッグ・フードを貪るシロの姿を想像すると、あまり真相を話す気になれない横島だった。
今までの
コメント:
- あとがき
『バトル・ウィズ・ウルブス!!』より。
たわいない話ばかりですが、この中に一つでも楽しんで頂けるものがあれば幸いです。m(_ _)m
尚、[〜〜編]となっていますが、続編があるかどうかは未定(笑)。 (dry)
- はじめまして。ROM男といいます。
GS本編の裏話って感じで面白かったです^^
長老及び大人の人狼に騙されてることにまるで気付かないシロがとても可愛いですね〜♪
是非とも続編の話も読んでみたいです。 (ROM男)
- はい、どうもヒロというものです。
うちの犬がドッグフードをおいしそうに食べていたので、僕も食べてみたら凄まじくまずかったのを憶えています・・・(好奇心です、決して変態ではないつもりです)
あと首の周りに縄をつけたらぶつぶつができたのも憶えています。
犬でなくてよかった・・・ではなくて、原作らしくよく出来上がっていると思います。
短いながらにまとめるところはまとめることができるのは、さすがに実力の違いってやつですね。申し訳ない気持ちで一杯です。
ではでは、がんばってくださいませ。 (ヒロ)
- 素直に爆笑しました。ともかく笑いまくりました。
どのエピソードも原作の事実の裏側を見事に衝いていて、どのエピソードも原作で語られなかった真実として納得の行く内容でした。
口論の外側から申し訳無さそうに辞退を申し出る唐巣神父。目的のためには意外と手段を選ばない素敵な被造物、人工幽霊壱号。回想の中で無意味に倒錯する横島くん。大人気ない長老と他の人狼族。いずれもみな面白かったです。
特に『アルテミスの飼犬』疑惑に妙に納得してしまった私はもうシロニスト失格かもしれません(笑)
お話の形式としては4コママンガを読むかのような印象が斬新で、しかも原作に沿った形が展開予想として非常に望ましいものであると思いました。
次は是非とも[私を月まで連れてって編]でお願いします(爆)←既に続編を脳内決定 (斑駒)
- どーも、BOMといいます
笑いました〜・・・最初から最後まで笑いっぱなしっす!
シロにあくまでも毒だとしてドッグフードをやらない村の大人達・・・ツボでした
これからも(ってか是非とも続編を!)頑張ってください!! (BOM)
- どれも面白かったですが、ルーツが特に良かったっす。
いや、多分みんなも漠然と思っていたことに、明確な答えを出していただいた感じでした。w (KAZ23)
- 笑えました(笑)
原作の裏側ではこんな一場面があったんですね、
しかも全然違和感がありません、そこを上手く突いたdryさんの手腕に脱帽です♪ (ユタ)
- シロが可愛いです!(爆)最高っすーーーー(^^)
こんにちは〜 えび団子です〜
唐巣神父、流石は神に仕える身です(泣)まあ、役に立ってなかったとかは置いといて。そして何と言ってもドックフードが面白かった。成人するまで食べちゃいかんぞ、あんたの都合かいっ!!w
投稿おつかれさまです〜 (えび団子)
- ドックフードネタに一票(爆笑)
語られなかった裏側を、きれいなギャグネタで補完し、さらに原作を楽しむ。dryさんの手腕に脱帽です(^^)
☆すべての戦いは終わり、いまやシロは横島の腕の中。父親を思い起こさせる男の匂いに、どことなくどきどきしながらも、その腕のぬくもりに安心感を覚えたのだった。
「……先生」
「何だシロ?」
「ちょっと、匂うでござる」
「……すまん」
そういや彼、漏らしてました(だいなし)
……暴走してしまいましたぁ、ゴメンなさい(ノД`) (矢塚)
- どれも有りそうで、しかも短く纏まってて面白いです!
>撤退
「君の方こそ大丈夫かね?」
「待ちたまえ美神くん!!/独りじゃ危険だ!」
実は病院でもろくな活躍が無かったのは内緒(笑)。
>後始末
そのぱんつもピートたちと一緒に霧になったんだね……。
>超回復
28頁後、同じ件で他人をサイッテー呼ばわり(笑)。
>ルーツ
根拠4『おあずけはなしだ!!』(19巻21頁、誇り高い狼?)
>欺まん
ステーキ食ってる内はまだ「ろり」なのか……。
>大団円(矢塚さんの)
犬塚(父)どのの男のにほひもやはり(汗)。 (Iholi)
- ↑ あ、「〜やはり(汗)」の後に続くのは「マーキング」です。 (Iholi@だーてぃ)
- 矢塚さんのコメで更に落されて大笑い(^^)
特に、ドッグフードの、まるで血汚穢吐(これで合ってたっけ?)の様なオチが、シロらしくて良し(笑) (逢川 桐至)
- いいですね〜面白かったです。
僕はギャグがかけないので、素直に尊敬します。
次回作に期待! (月夜)
- 見事に斬りましたね、「バトル・ウィズ・ウルブス」・・・(^^;
そして、見事なツッコミ・・・。
こういうのも面白いものですね(^^ (マリクラ)
- 原作の裏側が確かに見えました(笑)
いや、お見事です、dryさん。原作を深く読み込んでいなければ、これは書けませんね。
喜んで賛成の一票を投じます! (ロックハウンド)
- 拙作に票を入れて下さった皆様、本当にありがとうございます。
では、感謝を込めてコメント返しを。
>ROM男さんへ
こちらこそ初めまして。
シロを書いたのは初めてなのですが、上手くいった様で一安心です。
続編は…気が向いたらという事で、どうかご容赦を。(^^;
>ヒロさんへ
ドッグ・フード、首に縄…何事も経験ですね。今後の人生に役立つか微妙ですが(笑)。
ちなみに私の腕はまだまだ未熟ですから、恐縮する必要はないですよ。(^^;
>斑駒さんへ
4コママンガは少しだけ意識して書きました。もう少し徹底すれば、よりテンポ良くなったかな?
ところで、このお題は「マリアを主役に!」という事でしょうか?(笑) (dry)
- >BOMさんへ
改めて初めまして。
人間との交流に乏しい人狼族には、ドッグ・フードは貴重品なのかもしれませんね。
大人としてのプライドをかなぐり捨てるくらいに(ノД`)。
>KAZ23さんへ
この原作エピソード、全編通して「人狼≒犬」とする描写が多いですからね。
もしかして、私が止めを刺しちゃったのかな?(^^;
>ユタさんへ
ここ暫くは色々と試して来ましたが、今回久しぶりに原作裏話を書いてみました。
この反響を見ると、どうやら私にはこれが一番合っている様です。(^^;
>えび団子さんへ
思慮深い年長者は、若者達のフォローに回るという事ですね。
神父がその実力をひけらかさないのは、徳の高さを示しているのでしょう。多分(ノД`)。 (dry)
- >矢塚さんへ
実は失敗すると品の無いものになりそうだったから、このネタは没にしました。
見事お笑いに昇華した矢塚さんに、一票(笑)。
>Iholiさんへ
私には身に余るお褒めの言葉、有り難うございます(ノД`)。
それにしても、原作も拙作もツッコミどころ満載(笑)。
>逢川 桐至さんへ
初めまして。
おそらく、一休さんの様にとんちでドッグ・フードをせしめる事はできないでしょう。
やはりシロには騙され役が似合います(笑)。
>月夜さんへ
初めまして。
淡々とした文体に笑いの要素を盛り込むのが今回の目標の一つだったりします。
楽しんで頂けた様で、ホッとしております。(^^; (dry)
- >マリクラさんへ
はい、バッサリと斬らせて頂きました。
ツッコミが多いのは私の性分ですね。余りに多いと嫌味になるので匙加減が難しいです。(^^;
>ロックハウンドさんへ
そして拙作の裏側には、没になったネタが死屍累々と横たわっているのです。
原作を読む時に、ついついネタを探してしまう自分が憎い(笑)。 (dry)
- 『END』の文字が抜けていたので、最後におまけの一編をどうぞ。
《希望》
シロが美神達の元へ旅立ったその日の昼下がり。
人狼の里の墓地には、犬塚の墓前に花を手向ける長老の姿があった。
「人狼の誇りに拘るあまり、人としても狼としても道を踏み外す。皮肉なものよな」
「しかし、犬飼の言う通り、一族の存続を図る為に我らが様々なものを捨てて来たのは事実じゃ」
「他種族との共存もその一つ。だが、これからは人間との交流が必要なのかもしれんの」
「お主の娘が美神殿らと共にフェンリルに立ち向かう姿を見て、つくづくそう思ったわい」 (dry)
- 「長く険しい道になろうとも、シロならば必ずや人間達と人狼族の掛け橋となってくれるであろう」
「なんの、心配するには及ばん。あの子は儂らの想像以上に逞しく成長しておるぞ」
「まずは最初の試練に打ち勝てるよう、共に見守ろうではないか。犬塚よ」
…美神からシロの予防注射に成功したとの便りが届いたのは、数日後の事である。
END
これにて[バトル・ウィズ・ウルブス編]は終了。 (dry)
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