ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(5)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/10/13)




 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──その5──





「どわわわわわ〜〜っ!?」

 登ったのと順を逆にして、6人は1階へ向かって駆け出した。
 背後から迫る無数のナイフが、そんな彼等を追い立てる。

「ちくしょうっ! コレでも食らえっ!!」

 薫の振るった見えない腕(かいな)が、宙で狙いすましているナイフを破砕した。
 が、すぐに別の刃物が足されて来る。

「だぁ〜っ! キリがねぇっ」

「立ち止まらないで走って!」

 言うなり、タマモはフッと狐火を吹き出す。 ポルターガイスト現象を起こしている霊達が、牽制される様に遠のいた。 単なる炎ではなく霊力の塊なだけに、霊体にも当然有効なのである。

 相手が怯んだと見たタマモに手を引かれて、薫も再び走り出した。

「きゃ〜〜」

「なんや紫穂は楽しそうやな」

 ジェットコースターを楽しんでいる様な悲鳴に、必死で走りながらも葵は溜め息混じりに呟いた。
 ちょっとズルいなと思わないでもない。 横島は背にした荷物も物ともせずに、紫穂を小脇に抱えて走っているのだ。 

「あんたもされたいの?」

「ややな。 おば……お姉さんにそないな事、言わんて」

 ぴくりと動いたこめかみに、慌てて葵は言い直した。
 場所がここでないなら、揶揄った揚げ句に薫達と共に逃亡するところだが、この状況ではテレポートと言う訳にもいかない。 …自分一人ならともかく、別の結界の中に居る薫と紫穂も連れ出せるか、定かでないのだ。

 6人が戦略的撤退を計ったのは、霊達の行動がいきなり組織立った為。

 タマモ達を先頭にした捜索が、最後の部屋まで届くのに30分近く掛かった。 気取られぬ様に、一部屋一部屋漁っていた為で、無闇と広かった訳ではないが。

 それが最後の6部屋目に達した時だった。
 扉を開けるや否や、突然そこから霊体が溢れ出してきたのだ。 それだけではない。 廊下に漂っていた霊達までが、彼等を意図的に包囲する様に動いた。 何処から調達したのか、ナイフ等まで飛び交い、対処しきれなくなって逃げ出した訳だ。

「タマモ」

「何よ?」

「居た?」

 振り返りながらの美神の問い掛けに、タマモは首を振る。
 さっき、ちらりと見た限りでは、中に人の気配は無かった。 霊臭はともかく、人の体臭も。

「なら、次行くわよっ!」

 美神も葵を引っ張るようにして、横島達を追い越して行く。

「次ぃ行くもくそも…」

「ぶちぶち言ってないで走るっ」

「わぁってるってっ」

 タマモ達も横島達の脇を追い抜いて下へと向かう。
 別に横島の脚が遅いとかそう言う訳ではなく、殿をスイッチする為に待っていたからだ。

「そらよっと」

 最後尾になると、拡げたサイキックソーサーを面で叩き付ける様に後方へと投げる。 速度ではなく接触面を重視した為だ。
 投げると同時に、再び紫穂を抱えて走り出す。

「重くない、ですよね?」

「ん? あぁ、大丈夫、大丈夫」

 答は判ってるけど、それでも尋ねてしまう。
 小脇に抱えられたその視界からすら、横島の肩越しに背負った荷物が見えるのだ。 紫穂自身の倍じゃきかないと思うが、それにしたって彼女のウェイトくらい気にならないなんて事は有るまい。 普通なら。
 言ってしまえば、至極普通ではないのだが、横島は。

 1階の天井が高い分、それに応じて長い階段だが、だからと言って降りるのにそんなに掛かる訳もない。
 着くなり美神は神通棍を引き抜いた。

「って、下でも大歓迎?」

 入ってきた時とはまるで違う、統率された様な動き。
 売店兼喫茶室側からも、レストランホール側からも、霊の壁が迫り寄る。

「なんやねん、こいつら?!」

「操られてるみたいな感じね」

 タマモが見回して、面白くなさそうに呟いた。

「おいおい、マジかぁ?」

「そんな事言ってる暇なんか無いわ」

「だったら、どぉすんのさっ! このままじゃジリ貧じゃん」

 薫に対する美神の答は、一方……レストラン側に走らせた神通鞭の一撃。

「なんでそっちなんですか?」

 進むにしても何の根拠が、と紫穂が尋ねる。

「霊の厚みがこっちの方が厚いもの。
 守りたい方に過重配分するのは、ま、当然でしょ?」

「そら、そやな」

「なら、とっとと行くぞ〜っ!」

 葵の納得の声に、薫が宙に浮いてる椅子などを弾き飛ばした。
 タマモが遠距離の霊体へ狐火を飛ばし、美神が正面を遮るモノ達へと鞭を振るう。
 後方からの相手には、横島がサイキックソーサーを先程同様に撃ち出し、3組の面々はそのままレストランへと雪崩れ込んだ。

 山の端と言う場所にしては、割と広い空間。
 2面は外を臨むガラス窓。 その向こうでは、中と違って霊達がただ無秩序に漂っている。
 入ってきた面は入り口とレジカウンター。 それに化粧室だろう入り口。
 そして、残る1面は。

「奥、調理室の方!」

 タマモが匂いを嗅いで、そちらだと方向を示す。 
 地図を頭に描いて、美神は続けた。

「食料庫… 地下室だわっ」

 こんな場所で商売が成り立って居たのは、ウリが有ったからだ。
 広く作られた地下貯蔵庫は、そこでモヤシや椎茸、アスパラなどの栽培まで行っていた。
 崖下からの山女や岩魚、それに近隣から直で買い付けた蕎麦で、通好みの店として知られていた訳だ。

「けっ。 (ピー)の癖に、考えやがって」

 取り出したドリンクを呷って、薫が吐き散らす。

「そやったら、さっさと行こ」

「そうね、とっととケリ付けないと。
 横島クン。 後ろは任せたわよ」

「はいっ」

 すし詰めの霊達をしばき、蹴散らし、燃やし、固定のテーブル等を避けながら突き進む。

 図面からすれば、広いとは言え隠れる場所がそう有る訳ではない。
 美神達を先頭に、調理室へと入って行った。 シンクやら調理台やらが並ぶ最奥。 そこに地下へと通じる扉が有った。

 すぐさま横島が扉に取り付く。 紫穂も一緒だ。
 代わってタマモ達が食堂との出入り口で、入って来ようとする霊体を押し止める。 彼女達の攻撃は、多少の距離なら問題ない。

「開けます」

 美神にそう告げて、横島は扉を開いた。
 狭い口から出て来る霊を、美神が吸印札で蹴散らす。

「行くわよっ」

 入って行く美神達に続いてタマモ達。
 結界札を扉に貼り付けると、横島達も階段へと入って行った。 札でどれくらい防げるかは心許ない限りだが、無いよりはマシだろう。 下とて、1・2階を考えれば、溢れかえっているに違いないのだから。

 思いの外深く……10mくらいだろうか……下って、地下室に辿り着いた。

「へぇ…」

 予想に反して、霊達は居なかった。
 薄暗い照明の下、遠くは棚やら貯蔵庫やらの影で見えないが、ぱっと見には何も見えない。

 手前のビニールハウスの様な物は、もやしかアスパラ用のモノだろう。
 棚にはたくさん薪木が立て掛けられ、そこにはいくつもの椎茸。

「そんなに経ってない体臭が、奥へと続いてるわ」

 小声で告げるタマモに、美神は頷いた。

「それじゃ、ここからはシフトを変えるわ。
 横島クン達を先頭に、タマモ達、そして最後に私達」

 不意打ちにも対応出来る横島を前面に、遊撃させるタマモ達を続け、人質確保が最優先なので葵を最後に。
 それぞれ頷くと、真中の通路を奥へと向かう。

 ゆっくりと中程まで進んだ辺りで、奥に人影が見えた。

「居た」

 ボサボサ髪の大学生かそこらの青年が、蒼ざめて衰弱しきった様子の子供を抱え込んでいた。
 一緒に居る3人と同じくらいのまだ小さな少女の、怯えている様子は誰の顔にも憤慨を浮かばせる。

「行くぞっ!」
「ちょっと、待ちな…」

 足早に近付こうとした横島達を、美神が止める間も無く、地下室全体が大きく揺れる。
 6人が共にその場にしゃがみ込んだ瞬間、紫穂の居た場所を中心に大きな穴が開いた。

「ぃやぁあぁっ!」
「どわぁ?!」
「きゃあぁぁっ!」

 横島と紫穂、それにとっさに後ろへと薫を突き飛ばしたタマモとが、どんよりと暗いソコへと落ちて行く。

「横島クン、タマモっ!」
「「紫穂っ」」

 穴に向かって伸ばされた、少女二人の異能の力は、しかし間に合わなかった。

「くくくっ…
 ひひっ… ひ〜っひっひっ」

 奥の男が、耳につく笑い声を上げた。
 それを合図にか、周囲に幽霊の仄白い身体が幾つも浮かび上がる。

 知らず、残された3人の目が座った。
 二人の少女にとって、何にも代え難い同胞(はらから)だ。
 そして美神にとっても、これからの信用すら左右する出来事。

 噴き出る様な怒りが、その貧相な男へと向かう。

「いい度胸だな、てめぇ!」
「泣こうが喚こうが、もう許さへんでぇ!」
「極楽に、逝かせてあげるわ!」

 そんな剣呑な空気を、ようやく読めたのか。

「ふへへへ…
 …ふへぇ?」

 男の顔に、初めて怯えが浮かぶ。
 周りの霊達すら、彼女らを避ける様に、遠巻きに見守っていた。





 【続く】



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……ぽすとすくりぷつ……

 ようやくここまで届いた(^^;
 やはり電波任せに始めると、後始末が大変だなぁ(苦笑) …いえ、まだ半ば過ぎなんですけどね、予定では。

 んでもって、少しは早かったでしょうか、今回(^^;
 次もあまり開けない程度に、何とかしようと思ってますです、はい。

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