ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(9.3)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/12)

遠い世界の近い未来(9.3)

食器を並べ終わった頃、おキヌがもどってくる。
 巫女姿からTシャツ、ジャージと動きやすい格好に着替えてきている。
「美神さんは、蛍子さんと眠っていました。」
「そうか。」
 取りあえず、この状況を説明しなくてすんだことを喜ぶ。

おキヌが子供たちを風呂に案内する。

しばらくして、風呂から子供たちが出てくる。全員がTシャツに短パン、義妹の着替えだ。薫と葵は、少しサイズが合わないのか、お互いTシャツの方を見ている。

「とりあえず、腹ごしらえだな。」
横島が、率先して腰を下ろす。

テーブルの上には、シチュー、フライ物、野菜の煮付けなど、統一感に欠けるもののいろいろな料理が並んでいる。

「冷凍物や作り置きで、何にもありませんけど。」
 暖かいみそ汁を配りながらおキヌは言うが、そんな不満を持つ人がいるはずはない。

「「「では、いただきま〜す。」」」三人が声を合わす。

しばらくは、無言で口を動かす子どもたち。

「お口に合いませんか?」
 おキヌが、手が止まったままの水元に気がつく。

「いや、そんなことはありません。」
 少し手をつけるが、すぐに止まる。

おキヌは、さらに言おうとするがやめる。

「しかし、横島はんも幸せ者や。姓、違ごたから、結婚はまだみたいやけど、おキヌはんは、良い嫁はんになるで。」
焼きおにぎりにかぶりつきながら葵が、おキヌに言う。
一瞬、横島とおキヌの間に何とも言えない空気が生まれるが、何事もないようにおキヌが答える。
「横島さんには、奥さんがいるんですよ。私は、仕事の上で手伝ってるだけなんですよ。」

「そうか、横島のにーちゃん、惜しいことしたな。」
葵は、そう言いながら、水元の方を向く。
「水元、チャンスや。釣り合わんけど、ダメ元で‥‥」
 葵たちもいつもの水元のようすがおかしいことに気づく。

気を悪くしたように、紫穂に心を読むように合図を送る。

「いや、今日は待ってくれ。明日、必ず、話すから。」
 真顔の水元に紫穂も手を引く。
そして、また、考え込む。

 その点で、明るく談笑とはいかなくなったが、ほとんどを平らげた薫たちは満足気に箸を置く。

 食欲が鎮まった代わりに、睡魔が襲ってきて、子供たちは半睡状態になる。

 汚れた食器をキッチンに移したあと、ここを子どもたちの寝室にするということで、横島と水元は所長室に場所を移す。

 所長室備え付けの小さい冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一つは自分が取り、もう一つを水元に渡す。
「別に、酒はダメって事はないよな。」

水元は、しばらくそれを見つめた後、一気に飲み干す。
 慣れないため、せき込んでしまう。

「もっと、強いのがあるけど、どうする。」
横島の問いかけに首を振る。
「さて、そろそろ、話してくれて良いだろ。」

「気づいてましたか。」
 質問と言うより確認である。
「僕たちが、どこか別の世界から来たことを。」

「お互い、あれだけ話がかみ合わないとな。」

「しばらく現実逃避をしていたんですが、”テレビ”で思いつきまして。」
 テーブルの新聞を取り、機械的に読み上げる。
「”行列ができる除霊事務所”に再放送の”GS75”。」  
いずれも、人気番組である。
「私たちの世界ではこんな題名は、パロディでしか考えられません。他を見ても、超能力に関するニュースが全くないし、代わりにあるのが悪霊や妖怪が引き起こした事件。どうみても、私たちの世界の新聞とは思えません。」

「間違いないんですか?」
おキヌがコーヒーを持って入ってくる。だいたいは、彼女も察している。

「子供たちは?」
「完全な爆睡状態です。あれじゃ、起こすのに”爆”の文殊がいりますよ。」
コーヒーを配った後、腰を下ろす。

「で、いつ帰るんですか?、帰るんだったら、それまでに洗濯物を乾かしておかないと困りますね。」

 おキヌの心配の理由を知り、脱力する水元。

「いや、俺たちにとって、異世界とかは、あまり珍しい話でもないんでね。」
横島は、苦笑してフォローする。

 彼自身、過去の世界を体験したことがあるし、少し意味は違うだろうが、コスモプロセッサが創り出した疑似異世界をメンバー全員で体験したことがある。

「えっ、帰れないんですか?」

「”わからない”が、今の答えかな。」
 横島は努めて楽観的に言う。今、おキヌを心配させても始まらない。
 が、来た事情が判らない限り、たぶん、帰るのは無理ではないかと思う。

「文殊もあり‥‥」
おキヌはそこまでいって口をつぐむ。
 文殊が万能でないことは知っている。

横島は、おキヌ心遣いを察し、それについては何も言わない。

「いずれにしても、取りあえず、十分に睡眠を取ってからのことだな。」

その点、水元にもおキヌにも異存はなかった。

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