遠い世界の近い未来(9.2)
投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/12)
遠い世界の近い未来(9.2)
応接室の豪華な調度品を見ておどおどする薫と水元に苦笑する横島。
クライアントに料金をふっかけるハッタリ用に妻が用意した豪華な品々だが、その大半は、霊障や呪詛などいわくつきの品をタダもしくは二束三文で買い叩いて手に入れたものだ。
その辺りの商売気っというかアクの強さに欠ける点が、この事務所の名前に「横島」が加わらない理由の一つである。
水元たちに気楽にくつろぐように言って、キッチンの方に移る。
「横島さん、お風呂と食事のお手伝いをお願いします。この人数ですから冷蔵庫のあるだけ全部出しちゃってください。」
根っから人をもてなすことが好きなおキヌはうきうきとしている。
「着替えは‥‥ たしか、家の方にひのめちゃんの泊まり用のがありましたよね。」
義妹のひのめは、よくこちらに泊まりにくるので、衣服とかひと揃いは、用意している。年齢も背丈も同じくらいだから使えるだろう。
ちなみに、事務所は生活するのに十分な広さはあるが、この建物の裏に家を構えている。
「取ってきますので、少しお願いします。」
「ああ、ついでに令子と蛍子のようすも見てきてくれ。」
「起きていたら美神さんに来てもらいますか?」
「うーーん」
少し考え込む。
夜も遅く、妻の体調を考えると休んでいてもらいたい。
が、勝手に話を進めた時、同じ結果になるとしても、いったん壊してでも自分の主導で話を決めないと収まらない性格である。
話せる時に話しておかないと、こじれる可能性も高い。
「起きていて、体調がよさそうなら来てもらってくれ。」
「わかりました。」
おキヌが出ていった後、冷蔵庫、冷凍庫から夜食やいざという時のためにおキヌが差し入れてくれている料理を取り出す。
電子レンジに入れるかコンロにかけるだけだからすぐに手配は終わる。風呂も同じ。
食器を取り出し、応接間の方に並べに行く。
応接室では、水元は防護ジャケットを脱ぎ、ソファーに身を沈めている。何か考え事をしているようすである。
子供たちもブレザーと靴、靴下を脱ぎ捨て、シャツのボタンをゆるめ、くつろいでいる。ただ、こちらは、何かを話していた最中だ。
「横島のにーちゃん。」
薫が、代表するように横島に声をかける。
「夜更けにあんな森の中でおキヌちゃんと何をしてたんだ?」
「・・・!!」
横島の食器を置く手が止まる。
オバハンでも遠慮しそうなストレートの直球に、それ以上の言葉が出ない。
「そやそや、横島はん、巫女さんの格好させたおキヌちゃんと何してたんや? あの格好は横島はんのリクエストか?」
葵も身を乗り出して、尋ねる。
‘何、考えとんじゃ〜! 今時の子どもは〜 ’
心で叫ぶが、一方で、屋敷を見張っていた時のシーンが記憶によみがえる。
‘しかし、よく考えてみると、さっきは、けっこう、いい感じだったな〜。’
‘二人っきりで‥‥ こう、おキヌちゃんが身を寄せてきて‥‥ 俺がそれに応え肩を抱いて‥‥ ’
‘そういえば、みそぎ(禊ぎ)をすましていたから、さわやかな香りがしていたし。やっぱり、おキヌちゃんの巫女姿は、清楚で可憐だし‥‥’
「あの‥‥ その‥‥ 申し訳ありません。 ‥‥って、紫穂!」
水元が、代わりに謝ろうする言葉が、パニックを起こした声に変わる。
横島も我に返り、紫穂という子が、近づいて来るのが目にはいる。
‘この子は、たしか、サイコメトラーって‥‥ 能力は、触れた者の思考や記憶を読みとるぅ!! ’
水元が、とっさに、横島と紫穂の間に割り込んでくれる。
紫穂は彼に触れ、後に続くことを悟った彼の顔が恐怖で固まる。
「おに〜ちゃん。水元もぉ、同じ事考えてるから、教えてちょうだぁ〜い?」
「だぁーーー!」
頭を抱え込みしゃがみこむ水元。
「違うーーーぅ! それは、違うぞーーーぉ! 何でーーぇ、俺がーーーぁ、おキヌちゃんにーーーぃ 」
さっきの妄想を追い出すために、壁に頭突きを連発する。
「趣味は人それぞれ違うから、恥ずかしいこと違うで。なぁ、葵、紫穂。」
「「うん。(そや。)」」
同意のしるしに大きくうなずく二人。
「だいたい、あたしらのスクール水着姿を好きな人だっているし‥‥ 水元は、あんまり、好かんかったみたいやけど。なぁ、水元。」
同意を求めるが、当然、返事の出来る状態ではない。
その間に、ようやく、気を鎮める。
「仕事だよ、しごと!」
声が、まだ、上擦っている。
「で、巫女の格好は、俺がさせてるわけじゃない!!」
「ほな、嫌いか。」絶妙のタイミングで葵のツッコミがはいる。
「好きだ‥‥ 」思わず本音が漏れる。
「じゃなくてぇーー 巫女服は、GS(ゴーストスイーパー)としてのおキヌちゃんの制服みたいなもんだ。」
「GSって何に?」と紫穂。
「へ?!」横島はそんな質問は予期していなかった。
「いや、除霊をしたり、妖怪や怪物を退治するんだが‥‥」
改めて説明するとなると、けっこう、難しい。
「”除霊”って。」葵が、思い出したように手を打つ。
「紫穂、この前、テレビで、変な霊に取り付かれたおねーちゃんを怪しげな服装で怪しげな呪文でお払いしてたのおったやろ。たぶん、あれが仕事なんや。」
「ああ、あれか。たしかにあれは怪しかったな。でも、横島はともかくおキヌちゃんは普通に見えるけど。」
薫が、さりげなく失礼なこと言うが、横島は、聞いていない。
‘今時、個人の除霊をテレビで? どこの話だ?’
最初に会った時から、話がかみ合わない点を思い出す。
水元たちはエスパー、超能力という言葉を使っている。
エスパーや超能力は認知されているが、霊力の発現形態の一つとして考えられ、それほど多用されない言葉である。
”バベル”の説明もそうである。超能力を含む霊力の研究など、政府はおろか中小企業でも日常的に取り組んでいる。今更、政府が「超能力」を研究する独立機関を創設した話など聞いたことがない。
まるで「霊力」やGSを知らない世界の住人と会話しているようだ‥‥
離れそうになる思考を目の前の収拾に振り向ける。
「とにかく、巫女さん姿は俺が頼んだわけじゃないし、あそこには、仕事でいただけだからな。」
「まっ、そういうことでいいけど。」
薫が、ジト目で見ながらも、矛を収める。宿主を追い込むつもりはないらしい。
「うん?」
横島は、テーブルに無造作に置かれた新聞におずおずと手を伸ばす水元に気づくが、そのままにする。
今までの
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