ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(9.1)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/12)

 遠い世界の近い未来(9.1)

 光が消えた時、水元たちは、様式から見て昭和初期あたりに造られた洋館の前に立っていた。
 背景に見える高層建築群の夜景からここが東京の一角であることがわかる。

「「「「テレポート!」」」」
水元たちは、驚きの目で横島を見る。
 葵のテレポートと体感は異なるが、これだけの質量を奥多摩から東京都内までテレポートできるとなれば、この横島という人は葵に匹敵する能力があることになる。

「おキヌちゃんのヒーリングもすごいけど、横島のテレポートもなかなかすごいぜ。超度は7いくかな? なぁ、葵。」
薫が、同じ能力を持つ葵に話しかける。

「ウチかって、体調が万全ならこのくらいはやって見せたるわ。」
不機嫌そうに答える葵。
 どちらかといえば、稀少な能力であるテレポートを使えることが彼女の自慢である。
「横島はん、うちと同じテレポーターようやけど、落ち着いたら、どっちが上か、勝負しようやないか。」

子どもたちの中で一番冷静そうに見えても、子どもっぽい(子どもだが)発想に微笑む横島。

「俺は、テレポーターというわけじゃないんだよ。」

「えっ」
 意味が理解できない、今の能力のどこがテレポートでないというのか。

「もう一つくらいはいけるか。」とつぶやく横島。

手の平を出すと、その上に白いモヤが生まれ、一つにまとまっていく。
 やがて、それは、ゴルフボール大の光る玉にかわる。

「これが、”文殊”。俺の『力』だよ。」
生成した文殊を葵に渡す。

 ガラスのような素材でできた玉を見つめる。自らわずかに光を発する以外、特に、何という感じないが‥‥

「そういや、これか? さっき、周りに並べたのは。この珠でテレポートができんのか?」

葵の質問にうなずく、横島。

「なんや、造って、並べて、結構めんどくさいな。うちならタメなしでテレポートできるで。やっぱ、うちのほうが上やな。」
 一人で納得する葵。

「これがねぇ。」「ふ〜ん。」
 順々に子供たちの手に渡り、最後に水元の手に来る。

「そのかわり、何通りかに使える。さっきの光を出したのもこれさ。普通は、爆弾なんかの代わりに使うことが多いんだが。」

水元は、横島の話す内容に驚き、手の珠−文殊を見直す。

超能力は、薫の破壊フィールドのような応用技を別にすれば、一人につき一種類とされてきた。

 仮説として、『力』そのものを目的に応じて使い分けられる超能力という概念を聞いたことがあるが、実例は、一人も見つかってないはずだ。

 彼は、そうした超能力者なんだろうか?
そこまで考え、愕然とする。

 これだけの人物が、”バベル”の調査網に掛からないはずはない。
 超度 7 級のエスパーのリストは全部頭に入っているし、特殊な超能力者のリストも同じだ。
 もちろん、非公認のエスパーも少なくないが、そちらの極秘リストにも「横島忠夫」の名前はなかった。

なぜ、これだけの超能力者が知られていないのか?

 知らないと言えば、廃屋で出会ったようなハッキリとした心霊現象があることも聞いたことがない。
 超能力の発現以来、オカルトに代表される超常現象の研究も本腰を入れて行われたが、そちらについては、未だに否定的な結果しか出ていない‥‥

あのテレポートから周囲に異質なことが多すぎる。

 ひょっとして、周囲が正常で自分たちが異質なのかも‥‥

水元は、頭を振り、その考えを追い出す。

 ここ数時間いろいろなことがありすぎて、とんでもないことを思いつくんだと、自分を納得させる。

でも、本当に‥‥

「立ち話はこれくらいにして、入りませんか。」
 おキヌがうながす。

「そうだな、いろんな話は、中に入ってからだ。」
 横島が、先に進む。葵たち、おキヌも続く。

‘あっ、これ‥‥’
 水元は、文殊を返そうとするが、思いとどまる。
 返せと言われていない以上、できれば”バベル”に持ち帰り研究したい。
 言われたら、返すつもりでポケットに収める。



 玄関に近づくと玄関灯が点灯し、ドアが開く。

「横島様、お早いお帰りですね。キヌ様、ご苦労様です。」
 機械的ではあるがどこか暖かみを持つ声がどこからともなくする。

 AIが制御する住宅がテレビで紹介されていたが、見かけとは裏腹に最新設備を導入した家らしい。

「オーナーは、体調がすぐれないということで、自宅にもどられました。特に、急を要する件は、入っていません。」
 流暢な口調で話すことができるなかなか性能のいいAIだと思う。



案内されたのは、十畳近い広さがある応接室で、高価そうなソファーやテーブルが置かれている。
 サイドボードや本棚も工芸品という仕上げで、これも高価そうである。
 そこに並べられているものも、値段が高そうなものばかりだ。

「横島って、けっこう、お金持ちみたいなんだけど、こんな所に世話になっていいんかな?」
庶民派の薫が、物珍しげにきょろきょろ見回し、同じく庶民派の水元にささやく。
 お嬢様の紫穂は、自分の家と同じかな、という感じで眺めている。

「今さら、他に行くわけにも行かないし‥‥」
 心の底で、無駄な願いと思うが、いちおう、言っておくだけは言っておく。
「とにかく、みんな、おとなしくしてくれ、頼む。」

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