ザ・グレート・展開予測ショー

伝わらないもの3(完)


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/12)

「・・・この臭いは・・・血臭!!」
 シロの目が急に鋭くなり、一気に駆ける。

 横島の声がするが、彼なら自力で付いてくるだろう。
 ドア同士の連結のための鉄鎖―屈めば問題なく通れる―をけり足で引きちぎり、薄暗いビルの中へと突入する。入り口からすぐ右側にある階段を迷わず駆け上り、二階、三階へと駆け上がる。
 やや遅れて後方から二人分の駆け足が聞こえてくる。
 シロが駆け上がるほどに強くなっていく臭い。
 先程垂れ流したような臭いではなく、乾いた鉄の臭い、飛んでしまった肉の臭い、積もった埃臭さ。それらの事から、数日間は放置されたのであろう。
 少なくとも臭いには暖かさと、生臭さは消えていた。

 四階に達したとき、それらは最高値へと達した。

 その部屋の中には、大きい筆に赤をつけ、ひたすら殴り書きしたような、そんな言葉しか思い浮かばなかった。
 入り口から入ると、正面には真紅に染め上げられた壁。おそらくその壁付近でそれは起こったはずだ。
そこから壁伝いに流れていく赤。もたれながらこちら、入り口へと向かってきたのだろう。そして溜まった血の塊。おそらくここで体力の限界に達し、倒れたのだろうか。そこから何かを引きずったようにして描かれる赤。這いずってでも入り口へとむかっていこうとした様子が目に浮かぶ。
 人間は、体内の三分の一でも血を抜かれれば、死に至るという。だが、この光景を見る限り、三分の一どころか、スベテを吐き出したようにすら思える。現に、この入り口にはまったくといっていいほど、血が見えない。

「はぁ、はぁ、はぁ」
 後ろから荒れた呼吸音が聞こえてきた。
 横島と、依頼人が今やっと階段を上りここまでたどり着いたようだ。
「こ、ここに本当にいるんでしょうね・・・ニュースじゃぁ確か・・・」
 といいながら、依頼人はこの部屋へ向かって歩いてきた。
「ニュース?・・・じゃぁあなたはあの事件の関係者かなにか?」
 と、妙に鋭く横島は声を上げる。
「い・・いえ、べつにそんなわけじゃ・・・」
 と、この部屋の中へと入ってきた2人は、絶句する。
「こ、これは・・・?」
 二人が見たのは、おそらく自分と同じ光景。
 思ったことも自分と同じ事。

 こんな状態で人が生きていけるはずもないこと。
 横島の頭には、次第に事件の真相が見え始めていた。




「あんた達さぁ、魂の尾って知らないの?」
 不意によく通る声で、こちらに語りかける声が聞こえた。
「えっ!!」
 三人が三人とも、弾かれるようにそちらへと振り向く。
 そこには、黒い上着を羽織った女生徒、白いワンピースを着こなした少女がいた。
「体が死んでも、魂さえ生きていればほんの少しだけ生きていけるって事。過去歴史的に有名な人ってのは、こういったことからきてるのよ」
 それは横島の上司と、そのアシスタントの一人であった。



「えーと、えーと・・・」
 横島の頭は事態の整理のためにフル回転をはじめた。
「お、おキヌちゃん・・・なんでここにいるの・・・」
 と、その質問に答えたのは、意図した人物ではなく、その隣にいた女性。
「どっかの馬鹿があたしの知らないところで儲けていたからとっちめようと思ったわけよ」
 さぁっと、よこしまは自分の血が音を立てて引いていくのを感じる。
 すぐに身振りを交えた視線を飛ばす。
(堪忍やー、しかたがなかったんや、このままでは餓えて死にそうで)
 美神も視線で返す。
(ほーう、あんた、このわたしに口答えする気?どうなるかわかってるんでしょうね)
 その周りには、この2人のやり取りがわからなく取り残される人数名。とはいっても、この二人の超感覚は、人間の数万倍を超える感覚を持つ猫又ですら、知覚できないのであるのだから、すでにGSとかで収まるところではない。
(だってだって、ここの所予定外出費とかがかさんできて・・・)

 ぼか・・・

 と、当然いつもの事ながら拳が飛んでくるのだが・・・

(馬鹿、お金がないんだったらいつでも貸してあげるわよ)
 彼の胸に飛び込んできたのは、重い拳ではなく、軽い一撃と優しい言葉であった・・・

(利子はつくけどね・・・)
 ・・・言葉であって欲しかった・・・



「村神友喜君。でいいわよね」
 その女性は確認、ではなくただ言ってみただけというように、こちらへ訊ねる。
「ええ、はい」
 なぜこの女性は自分のことを知っているんだろうか?そんな疑問は彼にはなく、この事件を解く人物である、そんな気持ちが友喜に芽生えた。極度の状態による精神的寄生、依存性が高まり、友喜の心はすでに疲れ果てていたからかもしれない。
「あなたの友人に頼まれていたのだけれど・・・これ、受け取ってもらえない?」
 その女性は、懐から一枚の手紙を取り出す。
 そこには、『友喜へ』と綴られた勇二からの手紙だった。日付は三日前。つまり殺した日のうち。
 いてもたってもいられなくなり、友喜は包みを破り、中身を取り出した。

 そこには、簡潔な文字が綴られていた。


『友喜、ごめんな。いまさら許してくれとはいえないけど、俺はお前とこれからも仲良くやっていきたい』

『これからもできたら親友でいてくれよな』

 親友でいてくれよな・・・

「ああぁ・・・・・・あああああぁぁぁぁああ」
 友喜はがっくりと膝をつき、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。


 一人の男の嗚咽が、その場を支配していた。

 なぜあと一日殺すのをためらわなかったのだろうか?

 なぜ自分はこんな親友を殺してしまったのか?

 なぜ・・・なぜ・・・?

 さまざまな疑問しか、彼の頭を支配しようとはしない。

「君の友人の・・・勇二君はね、本当はそんなに怒ってはいなかったんだよ。君に呼び出されたときも死ぬかもしれないってなんとなく思ってたらしいわよ。でもね、そんなに気にするなってさ」
 黒い服を着た女性が、軽く肩をぽんぽんと叩くが、今の友喜の耳には何も入っては来なかった。

 ただひたすら嗚咽が木霊していただけだった。




「・・・で、結局どうしてあそこにいたんですか?」
 友喜を警察へと自主させてきた帰り道、横島はそれとなしに美神へと振る。
「う〜ん、それなんだけどね・・・なんか急にピンと頭に閃いちゃってさ」
 返答に困ったように美神が答える。
「きっとあの人たちはずっと親友だったんですよ。死んでしまっても・・・だから美神さんにも通じたんですよ」
 おキヌがはかなげに答える。
「命散ろうとも思い続ける間でござるか・・・けれど今回はそれがやや皮肉に聞こえるような・・・」
 シロも複雑といったような表情で答える。
 まぁ、本当はこれは文殊の効果によるものだが、真実は闇の中のほうがいいだろう。
「・・・で、美神さんがただであんなことやるとは思えませんが、お金をどこかでもらったんでしょ?」
 と、じと目で近づく横島に、そうだ!とやや気合の入った声で答える美神。
「あの勇二ってこ。実は切手マニアでさぁ、今まで集めてきた切手全てをくれるって言うのよ。んで、帰ったら早速オークションにかけるつもりなんだけど、あぁんな簡単な依頼に対してもらえるお金が未知数って、なんか得した気にならない?」
 と、きらきらした目で真っ赤な太陽へと両の手を伸ばす彼女に、一同はこぞって感じる・・・

(あなたは太陽に手を伸ばせるような人物か?)



 夕暮れ、赤く反射するレンガを基準とした建築物。ここは美神の除霊事務所。
 そして今彼女がいるのはそのオフィス。左右をさまざまな資料、考古書物で一杯の本棚に囲まれ、その中央には大きなデスクがずどんと構えている。
 そのデスクへと向かって彼女は歩いていく。
「人口幽霊一号、美神さんはまだ?」
『いえ、ですがもう少ししたら来ると思われます』
 虚空からの返答から、そう、と頷くナインテールの少女は一言発する。
「おなかすいた・・・」
 ・・・と、なんとなく視線を下ろした彼女が見たものは、デスクに乗った小さな四角い紙の束であった。
「・・・これは?」
『さぁ、仕事に関するファイルでもありませんし、霊具の類でもありませんから・・・』
 二人はこぞって首を傾げる・・・(人口幽霊の首はどこにあるのやら・・・)
『おそらくは横島さんの新手の嫌がらせなのかもしれませんし、何でしたら私のダストボックスにでも入れておけばよろしいかと』
「それもそうね」
 と、横島あらありうる的な思想の元、彼女はその紙の束をポイッと捨てるのであった。

 いや、いいことした後は気分がいい。



 数時間後、一人の女性の怨嗟と激昂がこの地域を揺るがしたことは、もはや言うまでもない・・・

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