伝わらないもの2
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/12)
野次馬たちが『なんだ〜』とかなんとかいいながら去っていく中、一人の男だけがそこに残っていた。
彼は恐る恐るといったように、目の前に口を開いたテントへと足を運んでいく。
「あっ、あの」
青年の第一声に、横島とシロの瞳は動く。
「はいはい、いらっしゃい」(男ぢゃねいか、ねーちゃんがいーの)
横島はカウンター―とはいっても、安物の木の机に、それらしい紫の布を被せただけだがーにある椅子に腰をかけ、客に対応する。
・・・ややぞんざいだが・・・
まぁ、今日の客はこれが最後だから、男でもいいだろ?と、指の中の5個目の文殊に視線を落とした。
少年というよりは、青年に近い男と、一房だけ色違いな髪を持った少女がそこにいた。
この人たちが何でもやってくれる人なのだろうか?確かに看板にはそのようなことが書いてはあったが・・・
思うにこの2人は自分とそう年齢的に違いはない。あるいは年下ですらありうる。
「・・・それで、何かご依頼ですか?」
と、内容こそ丁寧だが、なんか棒読みすら入っているような発声で、その青年は口をあける。
「え・・・ええ、まぁ人探しを・・・」
促され、友喜は口を開く。
「・・・エーと。人探しですか・・・」
といいながら、彼は右手を持ち上げ・・・ここで友喜は驚愕する。
青年の今持ち上げた拳の中から、凄まじいほど光が溢れていたからだ。
「こ、これは・・・?」
「ああぁ、いいのいいの、気にしないでね」
と、彼はへらへらと笑いながら、しかしその間に、光は次第に力を弱めていく。
そして、その拳は開かれた。
その中から姿を現したのは、『捜』と書かれた丸い玉であった。
「・・・えーと・・・さっきの光は?」
「ああ、あれは気にしなくていいから・・・」
と、横島は青年のほうへと手のひらに収まった玉を運ぶ。
コロン、と玉は中を回り、依頼主である青年の手のひらの中へ落ちてゆく。
「その玉へ向かって探したい人を思い浮かべてみてください」
「あ、はい・・・」
その青年は、半信半疑といった視線でこちらを見つめていたが、覚悟を決めたように目をつぶり、集中のためか、息を整える。
次の瞬間、彼の脳裏に何かがひらめいたのか、ばっと瞳を開く。
「い・・・今のは?」
彼の声は多少裏返っていた。そして、未知に対する感覚とは違う、まるで恐怖体験をしたときのように、脂汗を垂れ流していた。
横島はそんな彼を無視つつ、手のひらを差し出す。
「はい、一万円」
「せんせぇぇ」
「待て、何でここでシロが声を上げる?」
と、大声を上げてきたのは後ろで控えていた弟子であり、彼女の顔には取り合えずもういろんな色が浮かんでいた。
「なんなんでござるか、さっきの客とのこの値段の差は。もう少しまじめにやるでござるよ」
横島は少し困ったように頭をかく。
「これが当初規定してた金額なんだよ。仕事の難易度に合わせて報酬が上下するのは当然だろ?GSを目指すのなら憶えておけよ」
と、それらしいことを口にしておき、なるほどーとか何とか言って考え込む弟子を尻目に、それが男なら当然値上げされるのだ、と心の中で付け足しておく横島。
「・・・で、これって疑うわけじゃないですけど・・・本当に効くんですか?」
先程は何かを感じていたはずだが、それでもこの小さな玉に安心感が沸きあがってこない青年は、やはりまだ多少の疑問をつけながら、呈示された金額を取り出してゆく。
札を出す際に、かすかに震えるその指は、大目の金額による震えではなく、それすら気にならない何かによる震えであるようにも見える。
横島はなんとなく嫌な気を覚え、こいつとは関わらないほうがいいかとは思ったが、ふと傍らの少女へと視線が向く。
彼女は何事かを探るような視線で、青年を見つめていた。彼女の感覚は常人よりも、はるかに優れている。おそらくは、何をこの青年がしようとしているのかも、なんとなくは判っているのかもしれない。
「横島先生・・・」
そういえばこの少女に師匠らしいことは、何一つもやってあげていないな・・・そんな考えが小さな罪悪感へと昇化していき、仕方ないと横島はため息を一つ吐く。
「わかりました・・どちらにせよあなたが今日で最後のお客でしたからね、付き合えるところまでは付き合ってあげますよ」
といいながら、テントをしまおうと首を後ろへとめぐらす師匠の目の先には、すでにテントを片付けた弟子の姿が写っていた。
三人は、駅前からどんどん離れていき、小さな路地を今は進んでいる。
確かこの先には廃ビルしかないはずだが・・・
雲行きの怪しい依頼を、何を思ってか自分の師匠は同行することになった。師匠は優しいから、そんな依頼でもぶつぶつ文句を言いつつ、やはり断れないんだろう。
彼女はそんな師匠を誇りに思い、また、そんな師匠を持った自分をうれしく思う。
彼女はそんな師匠を仰ぎ見る。
彼の顔は、少しずつ前進するごとに、だんだん険しいものへと変わっていく。彼は危険やいやなものに対して妙に敏感にできている。おそらくここまで敏感になれるのは、犬神の中でもそうはいまい。
でも、だからこそ彼のその感覚はこういった『仕事』に向いているのだ。
彼の本職は『ゴーストスイーパー』と呼ばれていた。
常に危険と隣り合わせ。場合によっては死に至ることも少なくはない。
だからこそ、彼のその感覚は必要であった。ある種、天職なのかもしれない。
もともと、彼は人に命令されて動くのはそんなに上手ではない。
いや、むしろ・・・自分から何かをやることによりその強さを発揮する。
自分とこの師匠が始めて修行したとき、師匠にも自分の師がいたが、その管理から放たれることにより、なれないながらもよい師として振舞い、リードした。
だから、彼はこのままでは終わるような人物ではない・・・おそらくは彼にもひとり立ちするときが来るだろう。そう遠くないうちに・・・
それでも・・・
自分は彼を師匠として崇める。
どんなときにでもついていくと覚悟を決めながら、彼女は自分の師匠を見上げるのだった。
「おそい!おそいわよ!ぜったいおかしいわよこれ!!」
と、いらつき気味に叫んでいるのは、黒い上着を羽織った美女、名を美神といった。
この女性を形容する言葉といえば・・・外見上は文句なく美女で通るが、内面的にはノーコメント。
そんな彼女は、いらだたしげに広いオフィスのそこら辺で行ったり来たりを繰り返していた。
「いつもならこの時間になれば、『美神さん〜こんにちは〜なんか食べるものないっすか〜』とか何とかいいながらくるのに」
そこに扉の前で冷や汗を流しながら、少女が答える。
「で、でも今日は横島さんのお仕事の日じゃあないじゃないですか。たまにはこんな日があっても・・・」
白く、清潔そうなワンピースを着こなし、腰まである長い髪をまっすぐに下ろしている。
誰もが彼女を見てはこう思うことだろう。
可憐である、と
だがそんな感情とは縁の遠いこの空間の支配者は、さらに目をきつくさせて言う。
「だってあの丁稚はもうただのバイト君じゃないのよ。本来なら毎日来て靴でも磨かなくっちゃならないってのに・・・」
・・・とそこまでいってから、彼女は何かに気づく。
「そういえばあいつここ最近、仕事のない日は来ないようになってる気がするような・・・」
少女はぎくりとしながら、答える。
「きき気のせいじゃないですか?ほ、ほら、横島さんだって学校とかの都合もありますし」
「そういえばさぁ、タマモに初めて油揚げ食べさせたのって横島君だったっけ?きつねうどんの・・・」
ちなみに、今まで横島が食べていたのは、一般的なカップラーメンで98円、きつねうどんは168円。これは人類にとって大きな進歩である。
「た、たまには奮発したいときもあるんじゃないですか?」
美神はじと目で少女―おキヌと呼ばれている―を見る。
「でも確か今までのあいつの奮発って『ぃやったぜ、これでやっとラーメンに卵を入れることができる』じゃなかった?それにシロから聞いたんだけど、横島君の部屋にウォーキングマシーンがおいてあるって聞いたんだけど?」
少女の目は虚空へと向かい、えーとえーととか何とかいい始める。
「どういうことなのかじっくりと聞かせてもらいたいんだけど?」
ずいと迫る美神の前に、少女の力はあまりにも無力であった・・・
壊れかけ、鉄棒がそこかしこに見える塀を越えると、ぼうぼうの草に囲まれた5階建てのビルがそこに構えているのが見える。このビルも、塀と同じ様にそこらに鉄の棒が飛び出している。
そのビルを簡潔にいうと・・・
不気味だ・・・としか言い様がない。
ここに訪れるのはこれで三回目になる。
最初は親友たちと昔、肝試しに訪れたとき。あの時はよかった・・・
次に訪れたときは・・・あいつを刺してしまったとき。何で刺したかはわからない。理由など、どうでもいい。
道端でちょっと口論して、ここに呼び出して、刺した。それが事実。変動など起こりようもない。普遍的なもの。後悔しか湧き上がらない。子供の持つあいつさえいなければ、的な短慮な思考では、到底追いつかないもの・・・焦りに似ている。それでいて漠然的な恐怖。
三度目は今日ということになる・・・
果たしてここに本当にあいつはいつのだろうか?
いたとしてもなんといえばいいのか?それよりもあいつは生きているのか?生きていればどうする?病院へ連れて行く?馬鹿な、そしたら警察に連れて行かれるのは自分だ。貴重な一生を無駄にするつもりか?じゃぁどうする。止めを刺すつもりなのか?いや、そんなつもりは・・・どうする?どうする?
・・・わからない・・・自分はもしあいつに会ったらどうするのか、どうしたらいいのか、わからない・・・
今までの
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