伝わらないもの
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/12)
「はぁ、はぁ、はぁ」
赤く染められた獲物を片手に、彼は激しく二酸化炭素を吐き出す。
薄暗いこの部屋全体が、気色の悪い赤に染め上げられていた。
彼の周りにはデスク、椅子、その他が散乱しており、今までここで何が起こっていたのかを大いに物語っていた。
それらが散らばる部屋の端に彼は立っていた。
あるものを見下ろすように。
そこには、彼の元友人が寝転がっていた。
腹部を押さえつけながら・・・
『いてぇ・・・友喜・・・いてぇ・・・じゃねぇ・・・かよ』
それは呻く・・・
その言葉の一つ一つが今となってはただ、痛々しい。
何で、俺はこんなことを・・・
しかし、彼の思考が導き出した答えは・・・
「うぅわあああぁぁっぁ」
ただ、恐れるようにして叫んで逃げ出すことだけであった。
伝わらないもの
一人の青年が、その廃ビルから逃げるようにして飛び出してきた。
彼はそのまままっすぐ200メートルほど進んでから、後ろを振り返る。
そこには先程まで自分がいたはずであったビルが、天にむかって聳え立っていた。
灰色でところどころ銀色が混ざっている。要するにコンクリの間から鉄棒が見えているということだが・・・
そこにはいまだに先程の惨状が広がっているであろう。極度の興奮状態でよく覚えていないが、おそらくは4階当たりなはずだ。あれが横たわっているのは・・・
彼は親友だったはずだ。そう・・・確かに親友だったはずだ。
だが、その仲も驚くほど簡単に壊れてしまった。本当に簡単に、くだらないことで・・・
この青年の名は、村神友喜といった。
某私立高校を卒業後、今は大学進学をめざし一年の浪人中。19歳である。前髪のみが少し跳ね上がっていて、薄い上着にハーフパンツといういでたちには、若干の幼ささえ残している。
性格はかっとなりやすいわけではなく、だからといって温厚であるというわけでもない。好奇心がまぁまぁあり、だがしかし妙な保守性もある。さらには、後悔にぶち当たったときは、ひたすらに悩む傾向もあった。
この青年を形容するとすれば、ただそれだけ。たったそれだけのことである。
だから、この青年が人を刺したなど、誰も考えなかったであろう・・・
その事件から一日二日は、極度の精神的疲労、恐怖、胸の高鳴り、悪夢により寝付けない夜を迎えていた。
そしてさらに三日目の朝を迎えることになる・・・
いつものごとく、友喜とその両親たちは、リヴィングでテーブルを囲み、朝食であるパンとたまごを口へと運ばせていた。
友喜はコーヒーを口へと運びながら、壁際においてあるワイドTVに目を送る。食事中とはいえ、ニュースによる情報の摂取もまた、必要な儀式のうちになっていたからだ。
だが、しかし・・・
『昨夜、付近の住民による情報により、○○ビルの4階から大量の血が発見され・・・』
「ぶっ!」
と、友喜は口の中に含まれていたコーヒーを残らず、正面でパンをかじっていた母親にはきかけてしまった。
「ちょっと!友喜!何て事をするのよ」
「ご、ごめん母さん。でも、ちょっとだまって」
と、勢いつけて立ち上がった母親を片手で黙らせると、友喜はそのニュースを黙って聞き入る。
『なお、この血痕の持ち主と思われる被害者は現場付近では発見されず、県警では拉致事件の関係ありと見て捜査を行っております・・・では次のニュースを・・・』
そんな馬鹿な・・・あいつの死体が存在しない?
病院にでも運ばれたのか?
いや、でもそれなら病院から警察に伝わるはずだし・・・
どういうことだ?
友喜の頭は真っ白になっていった。
「ふ〜ん・・・別にいいけど?でもあたしはただ働きなんか嫌よ?」
広いオフィスの中で、美女がつぶやいた。
黒い上着にスカートといったような、いつもに比べればだいぶ落ち着いた格好ではあるが、部屋の中央に位置するデスクに女王様然で腰掛ける辺り、この女性の内面を見せ付けているようだ。
今彼女の目の前には、若い男が立っており、何かを美女に手渡していた。
そして、その口から何かが漏れる・・・
「まぁ、いいでしょ。やってあげるわよ」
美女はにやりと口の端を上げ、男が部屋から出るさまを眺め観ているのだった。
「ねーねー、今日のテレビ見た?」
隣に腰掛けていた女生徒が、友喜へと声をかける。
「あ・・・ああぁ」
どこか虚ろな声色で彼は返す。
ああ、そりゃぁみていたさ。何てったって彼を刺したのはこの僕なんだから・・・
この手のひらにはまだその感触が残っている。
まな板で肉に包丁を刺す感触に似ている(特に新鮮で、大きなやつ)。人を殺す快感を知ったものは、禁断症状になるとスーパーで肉を買うというが、彼らはこういった感触を楽しんでいるのだろうか?
理解できない・・・肉の感触、それに包まれた臓器の感触、血の流れ、気持ちの変化、嫌なこと。
・・・そして、あいつ・・・
今思えばなんで刺してしまったのだろう・・・
当然、傍らにいる女性にそんなことを言えるはずもなく・・・
「と、ところでさ、勇二がいなくなくなったんだってね」
と、話を変える。その彼の背には、大量のしずくが光ってはいたが、当然目の前の女生徒からは見えるはずもない。
「ウン、勇二はどこいったんだろーね」
と、女性とも首をかしげる。
ちなみに勇二とは、友喜の親友である被害者。
彼らはこの予備校『進大学院』の生徒である。
大きくも小さくもない、ありていに言ってしまえば普通の予備校である。
白を基準としたその外装は、親しみやすさを押し出しているが、郊外に位置しているせいか、生徒数はあまり多いとはいえない。
『ああぁ、そういえばなんでもやってくれるって言うことで有名な人がいたなぁ』
と、その女性とは虚空を仰ぎ見て、ふと一言発した。
『本当にいろんなこととかやってくれるんだよ。この前なんかわたしのマロン(猫)を見っけてくれたし』
友喜の首は、勝手にその女生徒のほうへと向かって言った。
「そのひと・・・どこに行けば会える」
「ねぇねぇ、このネックレス。壊れちゃったんだけど・・・」
「まかせなさい!!」
と、いうなり彼の指の先が光だし、『接』というような文字の浮かび上がった玉のようなものが生まれる。
それをチェーンへ近づける・・・すると、たちどころにネックレスの千切れたチェーンが再接合され、新品のような輝きを見せ始めた。
「ありがとうございます。それで、御代はいくらでしょうか」
「あなたのような美人になら格安にして500円でいいっすよ。どうしてもというのであるならば体で・・・」
「せ・・・せんせい・・・?」
とまぁ、朝からこんな調子でその男は荒稼ぎしていた。とはいっても、最後の事柄に関しては成功したためしはないが・・・
さらにいうのであるのならば、この力にも制限がかけられており、一日先着5名までが限度であるが・・・
「だってしょうがないだろ?あの女王様のとこじゃ稼げないし、最近なんか拳の捻り加減とかがなんかええ感じに決まってきて、ボクサーも真っ青なんだよ」
「いえ、そのことではなくて、いくらなんでも手当たり次第に婦女子を口説くのは・・・」
と、彼の傍らに立っている少女が非難・・・にはやや遠いが口を挟む。
「こうしないとやってけないんだよ。何てたってって俺の霊力の源だから」
と、彼は胸を張って語る。
はれることか?
ここは某駅前広場。
そこには小さいビニールテントがしつらえており、そこには
『困ったときにはお助けいたします』
と、雑な字でつづった看板が立てられていた。
ここでこの青年たちはアルバイトのつもりで構えていたのだが(何しろ給料が給料なんで、そろそろ天へおはすはずのお爺様とお婆様が手をふっているのが見えたんですよ)、一日何回という限定性のためか、それともその利便性のためか、なんにせよほとほとに儲かる程度に稼げてはいた。
が、今はこうやって貧困人生貧困ロードを謳歌しているが、これだけが彼らの肩書きではない。
というか、これは本当の肩書きを取り払った上で成り立った臨時収入である。
男の名は、横島とよばれていた。偉大な師を持ち、彼自身それに継ぐ力を持ち合わせるもの。
オカルトの界隈では、この名はそれなりに有名であった。
その傍らに佇んでいる少女の名はシロといった。横島を師と仰ぎ、常に前向きな判断で、事を推し量ろうとするもの。
ちなみに横島が貧困生活を歩む羽目になった一端は、この少女からである。
「お前がウォーキングマシーンなんか買うからぁ〜、俺がこうやって稼がなくっちゃぁならないんだろ?」
だそうで・・・
「そ、それはいつも先生と一緒にいるための、苦肉の策でござるよ・・・本当は拙者も外に行きたかったのでござるが・・・横島先生が負傷していた為に外に出られぬというから、断腸の思いで・・・」
「だからぁぁぁぁ、お前が『一人で』外に出てれば済むことだろぅがぁぁぁ」
とまぁ、そんな感じで、ここ最近はこのやり取りが日課になっていた。
「そ、それでは先生は拙者と一緒にいたくはないと・・・先生は拙者のことが嫌いだとでも・・・」
と、今日のシロはいつもと感じが違っていた。
なんと言うか、いやに情熱的に迫る吐息、見つめる視線、そして溢れんばかりの雫・・・
「え、あ、ちが・・・」
「先生は・・・拙者をお捨てになるのですかぁ」
ああぁぁああぁぁぁぁ・・・(エコー)
どよどよと、何事かを感じた野次馬根性旺盛な人々がこちらに集まってくる。
彼らの瞳に写るのは、当然ながら横島とシロ・・・
その彼らが思い浮かべることは、容易に想像できる。
「だぁぁぁ、わかったよ。帰りに肉でも買ってやるから、機嫌直せよ、な?」
とまぁ、こんなことをやっているから、いくら稼いでも財布に穴が開いているがごとく、浪費をしてしまうのだ・・・
今までの
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