ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―6前半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/12)

「今日は、横島さんにお話が有って来ました〜」

ニコニコと笑う六道理事長は、俺の緊張に気づいているのかいないのか…そんな事とは全く無縁に話を始める。

「お話って言うのは、今日の除霊の事です。」
「は…はい、いったい何でしょう?」

なにしろこの人、美神さんでも逆らえないっていうとっても恐ろしいお方だ。いや、普通に接してる分にはほわわ〜んてした、年の割りに可愛い感じの人なんだがね。
怒らせたらそりゃあもう……

―― ブルブルブルブル ――

とにかく、穏便に済まさねば!

「本日の桜町の除霊に参加していたGS全員に話を聞いて回っているんですよ〜…あと残っているのは横島さんだけなんです。」
「あ、そうですか!はい、いったいどのようなお話でしょう?」

六道理事長は俺が横になっているベッドの脇にあった丸椅子にフワリと腰を下ろす。やや淡い色使いの留袖が動きにあわせて優雅に舞った。

「とりあえず〜〜〜今回は大変でしたね〜〜〜。どうですか〜?お体はなんとも有りませんか〜?」
「え?あ、ああ、はい。特に大きな怪我もしなかったっすし、ちょっと疲れたって程度で、怪我とはは全然大丈夫っす!」

右手の人差し指を「ん〜〜〜」って感じで唇に当てて、小首をかしげて聞いてくる六道理事長。

「それは良かったです〜♪それにしても、素晴らしいですね〜♪」
「はい?」

と、それまで細めていた目を少しだけ開けて、口の端を持ち上げて、六道理事長が俺の事を褒めてくれた。
なに?俺、なんで褒められてんの?素晴らしい?何が?

「皆さんにお話を聞いて回って来たって言いましたよね〜?それで分かったんですけど〜、今回の除霊って横島さんが殆ど一人で悪霊と戦ってた〜〜って。その辺を確認しておきたいんです〜〜〜」

あ、なるほど。
なんでこの人が来たのか?その理由がだいぶ分かった。
当初の予定どおりに事が運んでいたなら、今回の事は仕事のレベルとしては中の下程度の楽な仕事だったはずである。だが、今回は予定がおもいっきし狂っちまったもんだから…
はっきり言ってかなりヤバイものに変わっちまった。
例えば…俺が結界を張ったり、地脈の流れを変えてやったり出来ないような霊能者だったとしたら……今ココで六道理事長と話をしてる事なんて無かっただろう。
ほんと、文珠って良いもんだ…
俺が文珠を使えなかったとしたら、多分今頃はどこぞの船頭さんに、『渡し賃は六文だよ〜』なんて言われてたに違いない。

「横島さんの事は協会から資料を貰ったんですけど〜〜…GS免許取ってからついこの間まで全く活動してませんでしたわよね〜?」
「あ、ええと…今まで海外の修行場を転々として修行をしてたんっすよ。GS免許取った所までは良かったんすけどね……」

そして俺は…ああ、こっちの世界の俺はGS免許を取った後、とあるGSの元で見習いGSをはじめたんだ。

―― いや ――

はじめようとしたんだ。と言い直すべきだな。
何故なら、見習いとして働こうとした初日にクビになっちまったから。
ギリギリのラインで合格した俺は、その事務所から土壇場で戦力外通告を受けたのである。
なんでも俺の後で面接したもう1人の新人が、俺なんかよりも圧倒的に優秀だったんだそうな。
もともと、自分の力が大した物じゃあ無いって自覚してた(この世界の)俺は、これを気に修行の旅に出た。
結果は……
3年前に比べてどれくらいの力が付いたのか、その結果はこれからの俺の仕事しだいって所だろうか。

「ざっと見積もっても、一流GS並みの能力が無ければあの状態で悪霊を1人で除霊するなんて出来ないと思うの〜。」
「いや、運が良かったんすよ。」

だから当然、俺みたいな何処の馬の骨とも知れないGSがどうやってそれだけの事を出来たのか?って疑問に思ったんだろう訳で…

「でも〜…ちょっとやそっとの運だけじゃ〜出来ないわよね〜?」
「いや〜…俺も一応3年間必死に修行しましたんで。」

これは本当の事。成果の程は自分じゃあはっきりと答えられんが、少なくとも霊力は格段に強くなっている。

「ん〜〜〜それだけ〜ぇ?」
「え!?そ、それだけって言うのはど…どう言った意味合いでしょうか〜〜〜?」

うん。明らかに疑われてますな。

「何か〜〜〜特別な力でも身に付けて来たんじゃないの〜?」
「ドッキーーーーン!?」

この人、一見ボケボケしておりますがその実すげぇやり手で、俺なんかじゃあ足元にも及ばない切れ者なんです。
伊達に超名家、六道家の当主をしていないって事。

「貴方の能力、霊波刀って書いてあったけど〜…本当にそれだけ〜?」
「ドドドドドド!ドッ!キーーーーーーンッ!!?」

なんか、バレバレ!?
いや、待て待て!俺が文珠を使えるって所までは流石に分からんだろう?!
これはアレだろ?カマを掛けてんだろう?

「ははははは!嫌だなあ、六道さん。ほんと、それだけっすよ!今回は本当に運が良かっただけですって。俺が修行で身に付けた力は霊波刀ぐらいのモンですよ。」
「でも〜、他のGSにヒーリング使ってるでしょ〜?しかもすっごく強力な奴よね〜?」

そう言えばそうでしたーーー?!!
しまったな。わざわざ当主自らがやってきたって事はそう言う事だったか。
そういう事ってどういう事か?

「それを聞いたからには〜しっかりと確認しておきたいじゃない〜?それで、どうなの〜?」

ヒーリングっていうのは割合とポピュラーな能力では有る。
ただし、人によって能力に雲泥の差が有る能力だ。
そして…自惚れるわけでは無いが、俺のヒーリング(正確には文珠)の能力はかなり強力だったりする。
そして、強力なヒーラー(ヒーリング能力者)と言うのは貴重な存在であり…

「いやあ……その〜、なんと言いますか〜…」

どうする?いっその事、文珠の事全部話しちまうか?
一応は内緒にしとこうって方針だったが、絶対に内緒にしなきゃいけないってモンでも無いしな。
ここは六道理事長に全部ぶっちゃけても良いかも……

「ん〜?まあ、良いわ〜…それよりも〜今日の本題に入りましょう〜♪」
「へ?」

あれ?今までのが本題だったんじゃ無いの?

「まったく別の話って訳じゃないのよ〜?」
「は、はぁ…」

どうでも良いのですが、一度も崩れませんねそのニコニコ?

「横島クンって〜…今は何処にも所属してないんでしょう〜?」
「あ、はあ。確かに今、所属している事務所は…」
「そうじゃ無くて〜いわゆるGSの派閥の事よ〜」

GSの派閥?

「あれ?なんかそう言えば聞いた事あったような?なんだっけ……」

3人いれば派閥が出来るの例に漏れず、GS界にもやはりそれなりに派閥っていうものが出来上がっている。
それで、六道家はその派閥の1つのトップに当たる訳だ。
六道家の公認って事で事務所を開けば、看板にその名前が入っているだけでこの世界での信用が全く違う。
フリーのGSをやってる奴以外は、ほぼ100パーセント何処かの派閥に入っているはずだ。
ちなみに美神さんは六道の派閥に所属してたはず。美神さんの家もそこそこに歴史の有る家柄なので、結構古くから六道家との繋がりがあったとか…

―― 結局、派閥ってなんなのか? ――

ぶっちゃけて言うと、旧家、名家の勢力争いらしいんだけどね。昔、美神さんが「しょーもな」って興味無さそうに説明してくれた事があった。
ただ、いくらしょうもないモンでも日本GS界ではその影響力はすこぶる大きいのも事実。
例えば俺が個人事務所を開くとしても……法律的には問題無くても、現実的にはどこかの派閥に入っておかないと後々問題になるケースが多い。
この場合、派閥に入るって言うのは、契約書が有って云々といったモノではなく、「貴方のグループに入れて下さい〜♪」って程度の仲良しこよしみたいなモンだ。
派閥に入ると、他の事務所とバッティングしないような調整とか、企業等大口の顧客からの依頼の斡旋などを“なあなあ”で行ってくれる。
逆に派閥に入らないと、少なくともこの国では正規のルートからの依頼が一件も入ってこない……という話を聞いた。
派閥に入るのに条件が有る訳でもなくて、入ったから何かするって訳でもない。何て言うか、派閥て言うのはトップの方達の見栄らしい。

『うちのグループは現在何人のGSがいるぞー!』
『こっちはこんな能力を持った凄いGSがいるんですよー!』
『この間、こんな難しい事件を無事に解決したんじゃ!』

等々、精々使い道と言えば他の派閥の奴と会った時に自慢するための材料だそうな。
ほんとにしょうもなっ!

『古い家ってのは何処でも見栄張って家を持たせてんのよ。』

と、美神さんがアホだわ、そんな金にならない事。ってとことんコケ下ろしていたのが印象深く記憶に残っている。
ちなみにGS協会っていうのは、そんな派閥のトップ達と国が一緒になって創ったんだってさ。
もちろん、日本のGSを組織的に統率するって目的が一番だけど、派閥同士で大きな喧嘩しない様にとか、お互いの手の内を探る牽制的な意味合いがあったりとか…

―― 組織って腹黒い ――

だが、ふむ?
この話の流れからして……




<後半に続く>

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