オロカナルモノタチ(三)
投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/10/11)
絶対に答えの出ないこと
絶対に答えを出すべきではないこと
この世界には
そういうものが存在する――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――惑う者達
ああ、こいつ、手小さいなぁ……
ルシオラの手を掴んで走りながら、横島は唐突にそんなことを思った。
この小さく柔らかいものを手にしているだけで、何となく心が満たされるような気さえする。
なぜ、これを一度手放したのか。なんと馬鹿だったのか。
しかし、今はまた手に掴んだ。もう、離さない。失いたくない。
その為には――他に何もいらない。
するっ
いきなりルシオラが立ち止まり、繋いだ手が放れた。極軽度の絶望感に襲われる――既視感。
「ねえ……やっぱり戻ろうよ……おまえにも、仲間がいるでしょう?
こんな事したら、もうそのヒト達に会えなくなるよ……? もしかしたらおまえまで人類の敵に見られるかも……」
横島の瞳をのぞき込みながら言う。それは本気で彼を心配しているようで。しかし。
「もう……嫌なんだよ……っ! 全人類の為に誰か一人を犠牲にするとか、そういうの……
あんな、おまえを閉じこめて利用しようとしか考えないような所に、いたくないんだ……っ!!
俺は、おまえと一緒にいれさえすれば、それでいいんだ!!」
ルシオラがあんな扱いを受ける事が我慢できなかった。
人類がどうなるとか、どうでもよかった。自分たちに干渉するモノのいない、何も関係ない所に逃げてしまいたい。
ただ、彼女と幸せになりたい。それだけなのに……自分は間違っているだろうか?
「ヨコシマ……」
胸がざわつく。心が熱くなる。
このヒトは本当に私だけを見ていてくれる――私だけを。
理性がなにかを叫んでいる。流されてはいけない、ここで逃げても――戦わずに逃げても、待っているのは破滅だけ。
「ルシオラ、一緒に逃げよう! 誰も何も関係ない場所に……
どうなるかわかんねーけど、俺……絶対おまえを守るから……っ! 何があっても……っ!!」
胸がざわつく。心が熱くなる。
私だけを私だけを私だけを私だけを――見ていてくれる。
ああ、なんて。
「……うん。……一緒に、行こう」
なんて心地よいのだろう――――――
「ルシオラを逃がした? 西条君、あなたが?」
「はい。……美神隊長」
隊長室で、偉そうに椅子に座った美智恵と立ったままの西条が向き合っている。既にルシオラを逃がしてから二時間は経っていた。
朝、起床して身支度を整え、自分の仕事部屋にやってきてから、一番最初に聞いたのが
「あの魔族の少女を逃がしました」
という愛弟子の言葉だった。
軽い頭痛を覚え、嘆息して立ち上がり、つかつかと近づく。
「……自分が何をしたか、わかって言っているのかしら?」
詰問する。自分でもかなり声色が荒くなっているのがわかる。激怒しているのだ。
「何を、とは? 僕は恋人二人を会わせてやっただけですが?」
それがわからないわけでもないだろうが、西条は軽い口調で言い返す。……内心、どう思っているかは別として。
ぱんっ
頬に衝撃。
「これは立派な命令違反よ。本来なら厳罰ものだけど……人手が足りないこの時に、あなたを処罰する事も出来ないわね」
ふう、とため息をついて椅子に向き直る。
「……この部屋から出ていって、自分の仕事をしなさい。私がキレないうちに。早く!!」
既に十分キレているように見えるが、それだけを言い放つと机に向かう。
そして、ぶつぶつと何事か呟き始めた。
「――追っ手を出すべきかしら? だめね、アレの強さは並じゃないわ。なんの策もなければ返り討ちがオチね。
放っておく?……そうね、敵にとっても裏切りものなワケだし、それほど脅威にはならないか……
まだろくな情報も引き出せてないけど……仕方ないわね――」
その声を背中に聞きながら、西条は隊長室の扉に向かう。自動ドアがぷしっと間抜けな音を立てて開いた。
しかし彼はそれを踏み越えず、部屋の中へ振り返って自らの師に向かって問いかけた。
「先生。我々が――先生がやっている事は、正しいのですか?
令子ちゃんへの異常な特訓や、一度横島君を見捨てかけた事や……その彼に好意を寄せる――」
そう。西条は、美智恵のやり方に少なからず疑問を持っていた。
世界の為と言いながら、やっている事は間違っていないか、と。
しかしそんな彼の台詞は、背中を見せたままの美智恵に簡単に一蹴される。
「――今この状況は現実的に世界の危機なのよ。漫画やドラマの世界じゃなくて、現実にね……っ!
そんな甘っちょろい事言ってられる事態ではないわ……っ!
学校で習う倫理観や哲学は、机の上に置いておきなさい!!」
「――っ!」
苦渋の表情を浮かべ、部屋から一歩出る。扉が閉まる。
西条は廊下を歩き出しながら煙草とライターを取り出す。
そしてぽつりとひとりごちた。
「……愚か者は、誰だ……?」
正義の名を冠する剣の使い手は、ため息をついて紫煙をくゆらせた。
今までの
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