ザ・グレート・展開予測ショー

オロカナルモノタチ(二)


投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/10/11)



誰かのために生きるあなた


あなたのために生きる誰か


自分ひとりのためだけに生きる人生なんて


虚しいじゃないか――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――愛し合う者達





「隊長! いつまでルシオラを捕まえているんですか!? 早く出してやってください!!」

ルシオラがオカルトGメンに捕まってはや三日。横島は彼女と連絡すら取れていなかった。
面会に行っても、なんだかよくわからない屁理屈――横島はそう思っている――をこねられて門前払い。
なんとか顔の確認だけはできたから、抹殺されていない事は分かっている。が、それで安心できるわけもない。
業を煮やした彼は隊長――美神美智恵の所へ直談判に来ていた。

「……ふう。あのね、横島君。彼女は戦略上非常に有効な捕虜なのよ? そう簡単に釈放できるわけないでしょう」

戦略。捕虜。確かに美智恵はそう言った。ルシオラを、この対アシュタロス戦での手札の一つにするつもりなのだ。
むろん、彼女を直接戦わせるわけでも、ましてや人質――そんなものが通用するはずがない――にするわけでもない。
情報。いかに強大な力を持っていようとも、それをうまく活用できなければ闘争に勝つ事は難しい。
ましてや今回の敵は、単純な戦闘能力においてこちらを圧倒している。
よほどうまくやらなければ、戦いにすらならないだろう。

「……じゃあ、これだけは教えてください。今、ルシオラはどんな状態ですか? ……嘘はつかないで下さい」

傷でもつけてたら許さない、と考えながら横島は言った。そして掌に彼の霊能力の集大成たる、文珠を作り出す。
これは、己の霊力を圧縮凍結して小球にまとめ上げ、ある特定のキーワードを与え解凍する事で――その込められた霊力量を上回る作用はあり得ないにせよ――好きなように世界に干渉できるという、馬鹿馬鹿しいほどに強力な能力である。
これを使えば嘘など簡単に見破れる。わざわざこんな事まですることから、彼の本気が見て取れた。

「……尋問中よ。身体的――魔族だから霊的、と言った方が良いかしら? に、異常はなし。
 で、彼女にかけられていた呪いみたいなモノ――監視ウィルスとか言ってたけど――それももう解除してあるわ。
 情報提供の交換条件としてね。まあ、近日中にはそれと似たような術式を開発して、かけ直すけど。
 ……はっきり言えば、私はまだ彼女を信用していないのよ。
 この状況それ自体が、もしかするとアシュタロスの罠かもしれない。いつ再び寝返るかもわからない。
 しかも相当強力な力を持っている魔族には、枷をつけておかなければならないわ」

目の前が真っ白になった。
なんなのだ、これは。
この人は――オカルトGメンは、ルシオラをルシオラと見ていない。あくまで、アシュタロスの女幹部としてしか。
そして、裏切られないように枷をつけ、そして裏切るようならそれを容赦なく発動すると言う。
これでは……これではまるで、アシュタロスと同じではないか。
魔族もヒトも、もしかしたら神族ですら、考えることは同じだというのか。
……ひどく、馬鹿げている。こんなモノに自分は頼ろうとして、結果、こうなってしまっているのか。
こんな事に、彼女は振り回されているのか。

「……横島君?」

美智恵が訝しげに声を掛けてくるが、横島は聞いていなかった。
何事か口の中でぶつぶつと呟き、そして彼女に声も掛けずに部屋を出ていく。
美智恵はそれを、困惑した表情で見送った。





横島は気が付くと、自分のアパートが見える場所まで帰ってきていた。
どこをどう歩いたのか覚えていない。それほどまでに、彼は怒っていた。
美智恵に、西条に、オカルトGメンに。そしてなにより、あまりにも迂闊すぎる自分自身に。
いっそのこと、都庁を襲撃してやろうか。彼らしからぬ、危険な発想すら頭に浮かぶ。
文珠で通り道を爆砕しながらつき進み、ルシオラを助け出して逃げる自分。なんだか、三流ファタジー漫画の主人公みたいだ。
そんな現実味のない想像図を描きながら、アパートの階段を上る。
するとそこには――西条がいた。

「テメエ……!」

怒気を膨らませて睨み付ける。今にも掴みかかりそうだ。
しかし西条はそんな横島の様子を飄々とした態度で受け流し、用件だけを伝えた。

「明日の午前四時、都庁の前に来たまえ」

「……なに?」

「遅れるなよ」

そして横島のすぐ側をすり抜けて、階段を下りていった。





ルシオラは今、都庁地下に特設された、対神魔用呪縛結界の敷かれた部屋に閉じこめられていた。
いつかのテレビ局に臨時で作られたモノとは違い、念入りに手を加えられたそれは中級魔族たる彼女をすら完全に押さえ込んでいる。
その壁際に据えられた、素っ気ない純白の簡易ベッドに腰を掛け、彼女は何をするでもなく――他に何もないのだから当然だが――虚空を見つめていた。
ふう、と何度目かわからないため息をつく。ある程度覚悟していた事とはいえ、やはり一人というのはつらい。
Gメンの取り調べも嫌になる。尋問は『まだ』拷問の域には入らない程度で、今のところはぽつぽつと当たり障りのない情報を渡すだけで許されているが、いつ『そう』なるかもわからない。

「……せめて、ヨコシマに会うぐらい、許してくれないかしら……」

ささやかな望みを呟く。……頼んではみたのだが、曖昧な返事しか帰っては来なかった。おそらく、無理であろう。

がちゃり

その呟きを聞いたわけでもないだろうが、ちょうどそのタイミングで扉が開かれる。心持ち、音を潜めているように感じられた。
入ってきたのは長身の男。ここに来たときに自分を捕まえた人間。確か名前は……

「何か用ですか?……西条さん。まだ時間ではないでしょう?」

訝しげに尋ねる。まだ日もろくに昇っていない早朝である。いつもの取り調べは昼を過ぎてからだったのだ。
西条は扉を開いたままその入り口に立ち、少しの逡巡を――言いかけた言葉を一度飲み込んで――見せてから口を開いた。

「……君をここから出そう」

「え……?」

「……付いて来たまえ」

そう言って、返事も聞かずに部屋を出る。ルシオラも慌ててそれに従う。
廊下には人気がなかった。見張りぐらいは付いているだろうと思っていたが、人っ子一人いない。
西条はルシオラが自分の後を追ってきていると音で確認し、後ろを振り向かず足早に進む。
ルシオラも女性としては背の高い方だが、西条は更に長身である。
自然、ルシオラは小走りになってしまい、西条に上手く話かけられない。
正直、なにかの罠じゃないかと思わなくもない。まあ、あの結界から出てしまえば、力ずくで逃げ出すことも可能ではあるのだが。
しかし先ほどの西条の様子からは、そんな感じは受けなかった。むしろ、他の人間に見つかるとマズいとでもいうような……

そんなことを考えているうちに玄関ホールへと出てきた。結界が敷かれてあった場所である。
一つの人影が目に飛び込んでくる。誰かは言うまでもないだろう。

「ヨコシマ!」

ルシオラがその名を小さく叫ぶ。
すると横島はものも言わずに駆け寄ってきて、彼女を抱きしめた。

「え、ちょっと……!」

「大丈夫だったか!? 何かされなかったか? ごめん、俺のせいでこんな事になって……」

ぎゅっ、とルシオラの頭を胸にかき抱くようにして、よほど心配だったのだろう、横島は一気に捲し立てた。
少し息苦しい。しかし、嫌ではない。それどころか――

その様子を西条は黙って見ていた。しかし腕時計に目を落としてから、一度咳払いをし、二人に声を掛ける。

「あー、雰囲気をブチ壊すようで悪いが、そろそろここにヒトが来る時間だ」

はっとして、横島は腕の力を緩める。そして建物の出口に向かいかけてから、振り返って西条に尋ねた。

「なあ、どうして……お前がこんな事をしてくれるんだ?」

それに対する答えは素っ気ない。

「ふん……キミの知ったことか」





走る。朝靄に包まれた早朝の街を。
走る。ルシオラの手を引いて。
走る。……どこへ向かうのか。





「さて……先生は、なんと言うだろうね……?」

逃げる二人を見送って、後ろ頭を憂鬱そうに掻きながら、西条は美智恵――あと一時間もすれば起きてくるだろう――の所へ向かった。


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