ザ・グレート・展開予測ショー

オロカナルモノタチ(一)


投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/10/11)



それは


あまりにも突然で


なんの理屈もなく


とてもとても甘美で


狂おしく


それでいて――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――恋する者達





黄昏時の山道を、一台の軽自動車が走っている。
それを運転しているのは見た目二十歳にも届いていないような少女。助手席には同じくらいの年齢の少年が座っている。
不意に少女――ルシオラが口を開いた。

「楽しいわけないわね、私とドライブしたって……
 バカだわ、私。よく考えたらこっちは東側だから、夕日なんか見えないのに……」

そして気恥ずかしげな表情を作り、苦笑する。
確かに空は赤く染まっているが、山の陰に隠れて夕日そのものは見えない。

「……なにやってるのかしらね」

それを聞いた少年――横島は、少し前の彼女の言葉を思い出していた。

……一緒に夕焼けを――

……買い物につきあって

(……! そういうつもりで――――!?)

「下っぱ魔族はホレっぽいのよ。……子供と同じだわ」

心臓を――――――

「お前の迷惑を考えないで……ごめん」

――――――わしづかみにされたような気がした。

「ル…ルシオラ……!!」

気づいた時には叫んでいた。

「一緒に逃げよう!!」

こいつを……ルシオラを、こんなことで死なせたくない。
誰かに使い捨てられるなんて、絶対に間違っている……!
――本心からそう思った。

ききききっ!

ルシオラがブレーキを踏み、車が急停車する。

「ヨコシマ……!! ……本気で、言ってくれてるの?」

あまりの事に、思わず疑いの言葉を口にしてしまう。

「あたりまえだろ! とにかく……な!?」

即座に肯定し、返事を促す。
……体の中が、熱い。横島は、誰かを好きになるってのはこういうものなのか、と頭の片隅で思った。

「おまえ……優しすぎるよ」

すっ

背中に手を回す。横島も柔らかく抱き留めた。……しばし幸福な時間が流れる。
夕日は既に沈み、辺りは暗くなっていた。

「……でも、ダメ。それはできないわ」

「え……!? なんで――」

「……ごめんなさい。……でも、おまえの思い出になりたいから――」

ぐいっ

ルシオラの肩を掴み、引き離す。横島は顔はうつむけている。それに辺りの暗さも合わさって、表情を見ることはできない。

「なんで……っ! そんなこと言うんだ!? なんだ『思い出』って――
 俺はそんなことのために言ったんじゃない……!!」

いつもの自分らしくないと、自分でも思う。しかし――
こいつのことが好きだから。愛おしくてたまらないから。
頭が、どうかしてしまったんじゃないかと思うほどに。……そんな本気の怒号。

「あ……ごめん、なさい……私……っ」

「あ、いや……俺の方こそ、怒鳴ったりしてごめん」

互いに目を合わせることができず、気まずい。
無言のまま、ルシオラは車を発車させた。



「――あのさ」

それからしばし後。意を決したのか、それとも沈黙に耐えきれなくなったのか、横島が唐突に切り出した。

「その、なんでなんだ? 逃げられないってのは……俺はそんなに頼りない……か?
 ……あ、いや、言いたくないならいいんだけど――」

さっきの勢いはどこへやら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
正直、慣れていないのだ。こういう雰囲気で話をする事に。
しかしそれでも、どうやら必死さは伝わったらしい。ルシオラの表情に動揺が走る。

「……」

言いたい。言いたくない。
知って欲しい。知られたくない。
自分の、心を。

「私……私はっ……みんなを裏切れない……! それに……死ぬのも、怖い」

少し震えながら、静かに告白する。

「おまえが頼りないなんて、言わない。だけど……だけど、私、はっ……」

横島はそれを黙って聞いている。しかしだんだんと顔つきが変わってきた。
瞳に力強い光をたたえ、口元を引き結び、歯を食いしばる。
それは――決心。

「――俺を……俺達を」

こいつはこんな顔をしているべきじゃない――

「頼って、くれないか……?」

アシュタロスの下になんか、いるべきじゃない――

「そりゃ、元は敵同士だけど……」

こいつも、他のみんなも――

「きっと、なんとかしてくれると思うんだ」

とても、温かいんだ。

「な……?」

自分一人を頼れなんて、そんな思い上がった事は言えない。
でも、本気で家族を心配する、そんなこの娘を。
自分は、愛してしまったから。どうしても、助けたいから。

「……うん」

ついにルシオラは頷いた。横島の本気を感じたからか、その小さな声にも嬉しそうな響きが混じっている。
そろそろ、アジトの建物が見えてきた。

「……今日の夜、みんなが寝てから、出られるか?」





――その夜、二つの人影が山を下りた。





太陽が頭上に登り切る頃、ルシオラと横島の二人は東京都都庁の前にたどり着いていた。

「――ここの地下が、俺達の――オカルトGメンのアジトなんだ」

そう言って横島は、ルシオラの手を引いてビルの中へと足を踏み入れた。
があっ、とくぐもった駆動音を立てて自動ドアが開く。それをくぐり、ロビーを進む。
そしてカウンターに座っている女性に声を掛けようとした。

「すいません、美神隊長は……」

その瞬間。

ばぢっ!!

電気がショートしたかのような音を聞き、振り返ると。
それこそ電撃を喰らったかのような様子で、ゆっくりと倒れ込むルシオラがスローモーションで見えた。
床にはかなり強力な結界陣――封印用ではなくその範囲内の妖魔にショックを与えて麻痺させるタイプのもの――が敷かれている。ルシオラに目をとられている横島は気づかなかったが。

「ルシ……!」

「動くなっ!!」

辺りからばらばらとオカルトGメンの制服が現れ、その先頭に立っていた西条が声を張り上げた。
彼らはそれぞれ、銃器――おそらく銀弾入り――を手にしている。その狙いは――ルシオラ。
そしてその表情は、程度の差こそあれ、皆怯えと嫌悪に染まっている。

「なっ……なにやってるんだ西条……銃を降ろせよ……!」

横島は突然の出来事に戸惑っている――というかぐちゃぐちゃに混乱しているた。
ルシオラがこんな眼差しを向けられる事が理解できないのだ。
もちろん、冷静になれば当たり前だと分かる事である。彼らにとってルシオラははっきりと敵でしかない。
横島が触れたような優しさを知らないし、どんな理由があってここに来たのかも知らない。
ただ、自分を、家族を、自分たちの世界を守りたいだけだ。そんな彼らを誰が責められるだろうか。

「横島君、こっちへ来てもらおう。話を聞いてやる」

倒れ伏したルシオラを抱きかかえて呼びかける横島の言葉を無視し、西条は冷徹に言い放った。
しかし彼は表面的には厳しく見せているが、内心酷く動揺していた。
横島の様子があまりにも――違う。悪い意味ではない。むしろ、倒れている女魔族に対するこの言動――
そこから導き出した彼の予測は、良くも悪くも的中していた。

「……ヨ……コシマ……ヨコシ、マ……」

意識が朦朧としているのか、ルシオラは途切れ途切れに自分を抱きかかえている相手の名を呼んだ。
はっはっ、と苦しそうな呼吸音を立てている。手は横島の服を握りしめていた。

「ル、ルシオラ……ごめん、ごめんな……こんな事になるなんて……」

「い……いいのよ、気にしないで……やっぱり、魔族は……怖い、わよね……」

横島は『甘かった』と後悔していた。Gメンに駆け込めば、なんとかなると思っていたのだ。
あまりにも楽天的すぎた。自分主観で物事を見すぎていた。恋は盲目、とかそんな言葉で許される事ではないが。
完全に罠を張られた所へルシオラを連れてくる結果になってしまった。
しかしその彼女は、この事態をある程度当然の事と見ている。妹たちを連れてこなくて良かった、とかそんな事を頭の片隅で考えていた。

「……安心したまえ。なにも我々は、その娘を殺そうとしてるわけじゃない
 取り調べを受けてもらうが――どうもキミの様子を見る限り、危険はなさそうだしな」

西条が二人に近づいて来ながら言った。その言葉の後半は、横島とルシオラの二人にしか聞こえないような、ささやくような声だった。
そして横島の間合いの半歩外で一度立ち止まり、後ろを振り返って他に二人のGメン隊員を手招きした。
おそるおそるといった感じで近づいてくるその二人を連れて、ルシオラの――その隣には横島もいるが――側に立つ。

「あの程度なら、そろそろ回復し始めているだろう? 悪いが復調する前に連行させてもらう」

横島がルシオラをかばうように西条との間に割って入った。
そして何事か言おうとしたらしいが、多少よろけつつも立ち上がったルシオラの言葉に先をこされた。

「わかり、ました……」

「ルシオラ!?」

「大丈夫よ……心配、しないで……」

横島も急いで立ち上がり、そのふらつく体を支えてやる。
しかし西条はその二人の様子を容赦なく無視し、連れてきていた隊員達にルシオラを連れていくように命じた。

「横島君、彼女が心配だろうが、まず先に先生――隊長に会ってもらおう。彼女はそこの二人に任せたまえ」

迷った。しかし。

「……わかった」

彼はまだ心のどこかでオカルトGメンを信頼しているらしかった。
――しかしそれが誤りであることに気づくのに、そう時間はかからなかった。



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