ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(23)


投稿者名:K&K
投稿日時:(03/10/10)

 5月に投稿して以来約5ヶ月ぶりになりますK&Kです。この5ヶ月間ひじょうに忙しくて更新する時間が
ありませんでした。もうこの話を覚えていない人、知らない人がほとんどだとおもいますので近いうちにこれ
までの分を加筆修正して「創作文集」の方か「椎名作品二次創作小説投稿広場」へ移させていただき、今後は
そちらへ投稿したいと考えております。
 ちなみに以前のものは「過去のベスト展開予想100の48(02/8)」以降にはいっているので、興味
のある方はご参照下さい。

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 ワルキューレは「BAR 酔妖日」と書かれた扉を開けるとなかを見渡した。薄暗い店内はすでに客
であふれている。すぐにカウンターの隅に目的の男をみつけた。躊躇うことなく近づく。

 『待たせたな。』

 そう声をかけると男−人間のふりをしているが、その正体は魔族−の隣に腰を降ろした。

 この男だけだはなく、実は店内に人間は一人もいない。この店は歌舞伎町のはずれにある、様々な理
由で魔界にいられなくなった魔族や住処を追われた妖怪やらが多く集まりいつしか『租界』と呼ばれる
ようになった一角で彼等相手に商売をしていた。

 『で、どうだった?。』

 男の方を見ることなくたずねる。結城の部屋を出た後ワルキューレは以前から情報屋として使っている
この男のもとを訪れ、ブルタスクの消息に関する情報を集めるよう命じたのだ。

 『あんたが喜ぶような情報はなかったよ。ブルタスクはあの事件までは確かにこの租界にいたらしい。
  だが、あの日以降姿をみた者は誰もいない。噂じゃ事件を起こした連中に消されたんじゃないかっ
  ていわれてるよ。もっとも、事件の翌日人間達と会っているのを見た奴がいるって話もあるから、
  そいつらに匿われているのかもしれないがな。』

 『そうか。』

 期待していたわけではないが、想像どおりの答えに少し落胆する。だがワルキューレはそれを一切
表情に出さずにつづけた。

 『もう一つの方はどうだった。』

 『そっちも同じ。苦労した割には大雑把な情報しか手にはいらなかったよ。なにせ『租界』の外の話
  だからな。』

 『前置きはいい。判ったことを話してくれ。』

 男は首をすくめると、グラスをあおった。

 『知り合いの人間の情報屋に何人かあたってみたんだが、大雑把にいえば傭兵ということらしい。
  本名、国籍は不明。主に政府関係者からあまり表ざたにできないような仕事を請け負っているらしい。
  内容によっては裏社会の仕事もうけている。腕のほうは確かだそうだ。種族は違うがまあ、あんたの
  同類みたいなもんだな。』

 こちらもまた想像どおりの答えだった。

 『だがワルキューレともあろう者が、傭兵とはいえ人間のガキに興味をもつとはどういった風のふき
  まわしだい。っと、これはルール違反だったな。』

 鋭く一睨みされて男は慌ててワルキューレから視線をそらせた。ワルキューレはポケットから大きめの
金貨のようなものを3枚だすと男にわたした。

 『皇魔幣3枚、3000マイト分とは随分気前がいいな。』

 皇魔幣とはサタンの魔力が込められた魔界の通貨で、通常の貨幣としての使用法以外に、込められた
魔力を吸収して己の魔力を一時的に増加させるといった使い方もされている。

 『お前は引き続きブルタスクを最後に見た連中のことを調べてくれ。』

 そう言い残すとワルキューレは立ち上がり店をでた。



 ワルキューレはそのまま横島が通っている学校へと向かった。
 下校の時間にはまだ少し早かったのか、校門のまわりには一人の学生もいない。ワルキューレは目立たぬよ
うに気を配りながら、学生がでてくるのを待つことにした。
 やがて、最後の授業の終了を告げるチャイムがなり、その音が消えると同時に横島が校門から飛び出してき
た。その後を追いかけてきたらしい愛子とかいう妖怪が、彼の背中に向けて校門の所でなにごとか叫んでいる。
ワルキューレは二人に見つからぬよう物陰に身を隠した。
 数分後、結城の姿が現れた。彼は特に他の学生と談笑するでもなく、一人でこちらの方へ歩いてくる。ワル
キューレは静かにその後をつけ始めた。結城は特に寄り道をすることもなく、真っ直ぐ駅へ向かった。改札を
通り、ホームに停車している車両に乗り込む。ワルキューレも同じ車両に乗り込むとさりげなく彼の隣に立っ
た。

 「誰かと思ったら、あんたか。」

 結城が口を開いた。やっとで聞き取れるくらいの小さな声だ。ともすれば走り出した列車の騒音にかき消さ
れそうになる。口調には微かに驚きの響きがあった。

 『ほぅ、気が付いていたのか?』

 実はワルキューレの方もかなり驚いていた。まさか尾行に気付かれるとは思っていなかったのだ。気配は十
分にたっていたはずだ。だが、結城の次のセリフで納得した。

 「昨日横島に言われてオカルトGメンの西条とかいう奴と会ったからな。尾行くらいはつくかもしれないと
  思っていたのさ。だが、まさかあんただとは思わなかったよ。」

 相手が素人なら別だが、尾行があることを想定している者を単独で尾行しつづけるのはまず不可能だ。

 「で、要件は?」

 『話をきいてもらいたいことがある。』

 「今回は拒否権はあるのかい?」

 最初の邂逅で銃口を付きつけて脅したことへの皮肉だろうが、無視してワルキューレは続けた。

 『拒否してもいいが、後で後悔することになるかもしれない。』

 「わかったよ。6時に部屋へきてくれ。」

 ワルキューレは微かに頷くと、ちょうど停車した駅のホームで車両をおりた。



 ワルキューレは結城の部屋のドアの前に立っていた。時計を見ると指定時間の5分前だ。実はここには30
分程前に到着していたのだが、念のために怪しい気配の有無を確認していたのだ。電車の中でのやりとりで、
横島(美神令子)がある程度こちらのねらいどおりに動いてくれたことは判ったが、もしGメンが結城を監視
していたらやっかいだった。
 だが、そういった監視はまだついていないようだった。
 インターホンのボタンを押した。
 誰何の声はなく、すぐにドアが開いた。

 「時間どおりだな。まあ、入れよ。」

 結城が声をかけてくる。だが、ワルキューレはすぐには中へはいらなかった。まず人間など及ぶべくもない
知覚を総動員して部屋の中の様子を確認する。だが、結城以外の人物や、結界等の気配は感知できなかった。
 とりあえずは罠はないと判断して部屋にはいる。結城はその様子を黙って見つめていた。
 案内されたのは、以前ワルキューレが匿われていた部屋だった。

 「立ち話というわけにもいかないだろうから、好きな場所に座ってくれ。」

 ワルキューレは自分が使っていたベットの上に腰をおろした。

 「何か飲むか?」

 ワルキューレは首を振る。

 「じゃあさっそく要件に入ってもらおうか。」

 そう言うと結城はパソコンラックの前のイスにすわった。

 『私を襲った連中の正体をつきとめ報復するためにお前の力を借りたい。』

 ワルキューレは単刀直入に切り出した。くだらない駆け引きで時間を無駄にしたくはない。

 『お前が裏でいろいろとヤバイ仕事をしているということは知っている。報酬も現金で用意してある。』

 パチンと音を立てて指を鳴らすと床の上にいきなりスーツケースが出現した。

 『前金として一億入っている、仕事が終わったらもう一億出そう。』

 結城はスーツケースを無表情に一瞥すると、すぐに視線をワルキューレに戻した。

 「なぜ俺なんだ?。魔族がらみの仕事ならGSかオカルトGメンの方が適任だろう。横島かあいつの雇い主
  にでも頼んだほうがいいんじゃないか?」

 『私を襲った連中は人間で戦闘のプロだった。この仕事は除霊というよりはプロ同士の殺し合いというべき
  もので、どうしても人間界の裏の事情に詳しい者の協力が必要なのだ。美神令子は確かに有能なGSだが
  彼女はあくまでも表の社会の人間だ。』

 「俺を選んだわけは?」

 『私の情報ソースからお前がプロだという裏付けがとれたこと。後は私のカンだ。』

 結城はワルキューレから視線をはずすと、暫くじっと考え込むように虚空の一点をみつめていたが、やがて
おもむろに視線を戻すと口を開いた。

 「まず、あの事件に関連することであんたの知っていることを全て話してくれ。あの日のあんたの任務に関
  してもね。それが仕事を受ける条件だ。」

 ワルキューレは、結城と目が合った瞬間から首筋に鳥肌が立つような感覚を覚えていた。彼の視線からは一
切の感情が、ライトのスイッチを切ったかのように抜け落ち、結城の表情をあたかも壁に飾られた能面のよう
にかえていた。必要なら自分を殺すことにいささかの躊躇いもみせないだろう。十分にそう感じさせる表情だ
った。
 ワルキューレの心の中に結城を仲間にすることへの微かな不安が生まれる。だが彼女はそれを押し殺した。
今のままではいずれ魔族軍MPか自分を襲った連中につかまるのは目にみえている。

 『話すのはかまわないが、聞けばこの仕事から下りれなくなるぞ。』

 ワルキューレは動揺を悟られぬよう結城の目を見据えながらいった。

 「かまわないさ。すでにある程度まきこまれているのには変わりないんだ。だが今のままでは情報が少なす
  ぎて敵が誰なのかも判らない。」

 結城の答えを聞き、ワルキューレは魔界で指令官室に呼び出された時からのことを順番に話はじめた。

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