ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦!「ワンダフル・トゥナイト」


投稿者名:きたきう
投稿日時:(03/10/10)

 先に車を降りて、ドアを開ける。
 車内から姿を現した美神さんを見て、周囲からどよめきが起こった。

 
 今日は、丸金グループの新社屋の披露パーティーに招待されてやってきたのだ。新社屋建造にあたって、美神さんが土地の除霊と浄化、さらに社屋のデザイン(風水学・霊的構造学にもとづく)に携わったからだ。

 
 車を降りた美神さんをエスコートしながら、僕は周囲の視線が少し気になった。美神さんのガメつさを噂しているのか、それとも彼女がドレスアップした姿に見とれているのか。
 金銭への執着心については、僕はどうでもいい。いまさらかばう気はない。しかし、もし、今日の美神さんのドレス姿に見とれているなら。
 僕は、少し誇らしい気分になる。なぜなら、彼らより先に、僕は彼女を見ることができたから。
 
 
 先に事務所に行って、注文したタキシードに着替え、美神さんの到着を待っていた。やがて。
 「横島クン、準備できた?」
 ワインレッドのドレスを着た美神さんを見て、僕は息をのんだ。そんな僕を見て、美神さんはニッと笑った。自分の美しさを充分に理解した上での笑いだった。そういう彼女がカンにさわる男もいるだろうが、それでも僕は、素直に彼女を奇麗だと思った。・・・・・・


 パーティー会場の中に、すでに数百人ほどが来場し、ざわめきあっていた。僕は、人の多い場所はあまり好きではないが、会場は広いし、空調が効いているので、それほど不快感はなかった。
 
 こういう場所に来るのは初めて、という訳ではないので、割と落ち着いていられた。ダンスタイムの前の時間、美神さんに左腕をとられながら、僕は今日のパーティーのシュミレーションをしていた。
 
 今日のパーティーには、丸金グループの御曹司も来ているのだという。今後の付き合い上、美神さんは彼と一曲踊ってやる必要があるだろうと思う。そして時間を見計らってひきあげることになるだろうか。

 などと考えているところに、さっそく彼はやってきた。すでに会場に入る前に挨拶は済ませてある。今回は以前と違い、僕が美神さんの恋人役をする必要はない。

 「どうでしょう、美神さん。私と踊っていただけますか?」

 僕は美神さんの返事を待たずに、左腕を軽く上げた。僕がいやがる理由はなかったからだ。「手を離さんかいダーリン!(ヒジ打ち)」というギャグは一回やってるし。

 「・・・・・・?」

 美神さんは、僕が考えるタイミングより少し遅れて、僕の腕を離した。去り際に美神さんと目が合って、ぎくっとした。美神さんの目には、少し怒っているようだった。




 僕は、パーティーマナーなんて、どうせ知らない人間だ・・・などと考えていた。美神さんの返事を待ってから腕を離すべきだったと反省しつつ、パーティーに来た人たちと話をしていた。
 「僕は美神さんの弟子です」というだけで、周囲の人たちに通じた。中には僕の名前を知っている人もいて、少し驚いた。
 父親がどこかの会社の重役だという女子大生と話をし終わって、後ろを振り向いて、僕は思わず飛び上がりそうになった。いつのまにか、美神さんが僕の後ろにいたのだ。

 「み、美神さん・・・。もう終わったんですか?」
 
 美神さんは僕の言葉には答えず、こういう場所は疲れるわねとつぶやき、苦笑した。

 「あの、美神さん。・・・さっきはすみませんでした」

 僕は周囲を見回し、小声であやまった。会場から引き上げたあとであやまるか、とりあえず今あやまっておくか。やっぱり早いうちがいいだろうと思ったからである。

 「すみませんって、なにが?」
 「いやその。さっきダンスの誘いを受けたときです。美神さんの返事の前に腕を上げてしまった」
 「へー、そんな決まりがあるの?」
 「えっ?」

 美神さんは僕の顔を眺めていたが、やがて底意地の悪い笑顔を浮かべて、言った。

 「そうね。悪いと思うなら、私と踊ってくださらない?」
 「え。―――――」


 正直に言う。恐怖が先にたった。というより、ここは現実か。目の前にいるのは美神さんなのか。
 彼女は僕の返事を待たず、僕の手をとり、歩き出した。



 踊っていたときの記憶はほとんどない。まともな踊りにはなっていなかったはずだ、それだけは間違いない。
 
 もうひとつ、間違いのないことがある。

 踊っているとき、美神さんの緑がかった黒い瞳は、僕の瞳を捕らえて離さなかった。
 ということは、僕の瞳も、彼女の瞳を捕らえて離さなかったのだろうか。―――――





 すでにタクシーを呼んでいる。会場から少し離れた場所で、僕と美神さんはタクシーを待っていた。
 なかなか興奮が治まらない。アルコールが入ったせいでもあるだろう。
 すぐそばに、大きな川が流れていた。街路灯の光が川面に反射して細かく光る様子を眺めていると、少し体の熱が引いていくような気がした。

 「横島クン」

 美神さんの声に振り向いた。今の彼女の瞳は不思議なくらい穏やかだった。

 「なんですか?」
 「今日はご苦労様」
 「ええ、美神さんも」

 僕は川のほうに向き直り、柵によりかかって川面をもういちど眺めた。対岸の夜景の奇麗さに気がつき、やっと余裕を取り戻せたかなと思ったときだった。
 
 美神さんが僕の隣に来て、僕と同じ姿勢で川を眺めはじめた。

 しばらくは、そのまま二人して夜景を眺めていたが、やがて僕は美神さんから少し離れて、彼女を見つめた。

 「なんで離れるの?」
 「いや、その。―――――」

 風が、彼女の髪をなびかせ、街路灯の光が照らす。

 「今の俺は、美神さんを、こうして見ていたい」
 「・・・フンだ。カッコつけちゃって」

 たとえ美神さんが気を悪くしたとしても、こうして僕は僕の気持ちに気づかなければならない、と思ったのだ。


 やっぱり僕は、美神さんのことが好きなのだと。

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