時をかける思い
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/ 9)
「あああああぁぁぁぁぁ」
叫び・・・それに激しく似た悲鳴がどんどん遠ざかっていった。
わたしはただいやいやと首を振りながら、それを見守っていた。そうすることしかできなかったから。
叫び声はあたしの脳をかき回し、それでも現実性を残すためか、遠ざかり、途切れる。
どすん、と同時に地面を激しく殴りつけるような異音。
わたしは、ただ嫌な気分で椅子に腰掛ける
何で、こんな悲劇しか繰り返さないのだろうか・・・
時をかける思い
「ああああぁぁぁぁっぁぁ」
どぉぉぉんんん
何かが地面を激しく打ちつけた。
辺りには、その何かが激しく地面を叩いたせいだろうか、煙と一緒に砂やら埃やらがモアモアと持っていた。
野次馬たちは、その埃やらを片手で追い払いように扇いではいたが、埃が晴れると同時に見えてきた何かを見るなり、その顔を一様に引きゆがめる。
それは恐怖にゆがむ顔でもあり、両の腕足があらぬ方向にひん曲がるさまでもあり、圧力に負けた内臓物が折れた骨のおかげで苦もなく体表に露出したあれな様でもあったり・・・とりあえずは、子供にも見せられないどころか、3日間は飯を食えないとも語り継がれる伝説的なあれっぽいものがそこにあった。
ここは某県某市某町の某ビルの真下。
そのすでに人ともいえないような何かは、すぐ目の前のビルから降ってきた。
そのビルは黒く高いつくりになっていて、これでもバブルのときにはハジケまくっていたらしい。何の事業を行っていたかは知らないが・・・なんにせよ、バブル崩壊後時が立つほどに落ち込んでいき、終いにはこんな事件が起こった、というわけだ。
もっとも、このビルはすでに売り払われており、ある種殺人に対してのみ千客万来的な雰囲気すら持ってはいたが・・・
「はいはいどいてどいてくださいねー」
と、そのとき、場の雰囲気を極端にぶち壊しかねない人物の声。
人の波をかきわけかきわけ、一人の青年がその姿を表した。金のかかっていなさそうなジャンパーで身を包み、頭にはバンダナをしている青年で、まだ年端も行かぬ、あるいは少年とですら適切なのかもしれないが。
「うわっ、ちょっ。・・・・・・これは、・・・(今晩はまともに飯が食えないかも・・・)」
その少年は、足元に転がっているそれを見た瞬間、右手を口元へ押しやり、顔をそらす。
と、その少年の後ろから、もっと小さい少年を左手で引いてきた少女が現れる。
「これは・・・殺人ですか・・・仏道に反する異特な行為ですね」
2人は一様に頭に二つアクセサリーを身につけ、ある程度は金のかかっていそうだが、肩にかけたながっぽそい布がかとなく怪しい。
その若い少女は、少年の目を隠していた。見えないように。
「ちょっとあなたたち、何やっているんですか。それ以上近づいちゃいけませんよ」
と、藍色っぽい制服を着こなして出てきたのは巡回警察官のものだろうか。これから彼は現場を維持していくためらしいテープとコーンを持っていた。
彼は野次馬たちを必死に体でどかすと、いまだに退散しないこちらを振り向き、顔をしかめる。
「ちょっとあなたたち、あなたたちもいい加減どいてくださいよ。遊びじゃないんですから」
「いいのよ、かれらは。こんなでも一応プロのGSなんだから」
と、不意に後ろからの返答にぎょっとする警官。
彼が後ろへ首をめぐらせると、そこには派手なボディコンの美女がめんどくさそうな顔で突っ立っていた。その後ろにはなんか白い影のようなものが見えた気もするが、気のせい、気のせいだわははと、彼は納得(?)する。
とそこで彼、だけではなくその場にいた野次馬たちも、やや遅れてぎょっとする。何にと聞かれれば一様にその発言にと答えるだろう。
この貧相でさえない上にあまりいいとはいえない顔を持ったこの青年が、『ゴーストスイーパー』だと?
ああ見よ、この神のみぞ知る前衛的な奇跡を。巷では踊るゴーストスイーパーがはやっているが、これとはもう別次元だ。現実はいつも過酷だ・・・
「そこまで言うことはないでしょーが!!」
青年は半泣きのような表情で叫ぶと、目をきりっとさせてまた地面に叩きつけられた何かと向き合う。
ようは行動でその証明をするつもりらしい。
その間に、女性は持っていたバッグから、GSであるというライセンスを取り出す。
「これがその証明で、何か文句ある?」
と、ややけんか腰でこちらを見つめてくる。強気な女性なのだろうか?
だが、この警官でもこういった事件のときのGSの必要性はわかっていたので、文句は言えなかった。
自分が死んだことを気づきもしないで、そこらをうろつく霊。殺すべき対象が死んだことを理解できずに、厄災を振りまく霊。またはその呪い。などなど、こういった人死にに関わるGSの存在は貴重だった。
と、同時にこういった現場に遭遇したら、その概要を説明する義務もGSには課せられていた。
だが、それなのにこの女ときたら・・・
「ねぇ横島君。まだ、まだなの。もうわかったでしょ、みなれたでしょ、みあきたでしょう?」
と、もの凄まじい剣幕で青年をにらみつける。
「な、そんなこといったって。この人もう魂がどっかいっちゃって・・・」
と、困ったようにその部下(奴隷?)は返す。
その後ろで、女性をなだめすかす少女とその弟であろう、少年。
「でもまぁ、とりあえず霊害の心配はないとおもいます」
あまり自信はなさそうに、青年は笑う。
が、どちらにせよGSの保障を得られたことは確かだろう、警官は現場を維持すべきテープを張り始める。
「ったく、こんな事件に出くわすなんて・・・あぁついてない。こんな一銭の得にもならないことに、ならないことに、ならないことにぃぃぃ」
「ぢょ、ぢょっどびがびざん、ごんだごうじゅうどべんぜんでざづじんをぉお」
と、ぶんぶん首を振られて泡すら吹きかけている青年を尻目に、駆けつけた刑事たちはそのビルを包囲し始めた。
いや、実際警察たちはずいぶんと前にこのビルを包囲はしていた、してはいたが上の思惑とか何とか言うやつで、なかなか中へと進入することができないでいた。
「じゃぁあれでしょ。こういうやつよ」
と、パトカーの横で待機していた刑事の横に、先程青年を絞め殺そうとしていた女性がいつの間にか接近していた。
「『事件は会議室で起こってるんじゃない。現場で起こってるんだ』ってやつ」
・・・もはや何もいうまい。まぁ確かに主演はかっこよかったが・・・
大勢の人たちがわたしを求めて駆けつけるのがわかる。
この今目の前にある窓から見えるもの。
階段から見下ろせることだってできるし。
なんにしても、わたしのほうへ駆け上がってくるのがわかる。
ここはこのビルの6階。
広いオフィスはバブルのころを匂わせる風もなく、散漫としていた。
わたしは皴になった仕事用の制服をただす。ピンクのブラウスがちょっと気に入ってたな・・・
倒れた椅子。彼が座っていたもの。わたしが蹴飛ばしたんだ。彼が遅かったから・・・
散らかった書類。みんなで一緒になって一つの授業に取り組んだよね・・・
何度も消されたりしたホワイトボード。これに部長のハゲとか書いたこともあったかしら・・・
そして・・・渇いたように口をあけ広げた窓。さっき私が一人の男を突き落とした・・・
彼はわたしの求める『彼』じゃないから。
場違いなようなことを口走っていたから。
突き落としてしまった。
いっそ、死んでしまいたい・・・
長く、待つことが長いと思うのならば、なぜ生きているの?
でも死ぬわけにはいかない。
彼がいるから・・・
わたしが彼と遭ったのは、いつだったかしら。
そうだ、それは十年位前かしら。
彼はわたしと同期だった。
仕事もそこそこ、誠実で易しい。ありふれたような性格だったけど、だからこそ徹底することの難しい性格。それを徹底していることは頑固であることに似ている。
だから、わたしは可愛いと思えた。
彼はある日、こう告げる。
『なぁ、俺、お前のことが好きなんだ・・・結婚してくれないか?』
そのころはバブルの好景気だったから、仕事をもっとしたいほうが強かったから、わたしは首を振ってしまった。今思えばなんでこのときうなずかなかったのだろう・・・
そして何年かの月日が過ぎた。
ふった事など何の気もしないように、彼は普通にわたしに接してくれた。
でも、バブルは崩壊した。
会社は一気に転落する。わたしは、何もできずにいた。
無力だ。
別に会社に貢献したいとか、そんな志は持ってはいなかったけど、何にもできないことがわたしの心をさいなんだ。
そんな時、彼はまたいってくれた。
『俺、今度会社を作り上げるつもりなんだ。こんな時勢だろ?非常識だってことはわかってるつもりだけど、次の世代のためにも一つ何かを起こさないといけないと思うんだ』
彼はまじめだった。だからこそ、彼なりに一生懸命に考えてそんなことを言い出したんだと思う。
『だから、一緒に来てくれないか』
わたしは、うれしくて何度もうなずいた。自分を必要としてくれる。無力感にさいなまれなくてもすむ。
このときは確かに保身的な考えで彼についていったのかもしれない。それでも、私は確かについていこうとかんがえた。
『会社を立ち上げる資金が調ったら、必ず迎えにいく。だから、それまで待っていてくれ』
わたしは待った。その甲斐あってだと思う、1年もたたないうちに彼は来てくれた。
『開業を祝って、ここは一発温泉旅行としゃれ込みますか』
彼は笑顔でそういった。私も笑顔で答える。
幸せだった。わたしたちは今幸せの真っ只中にいる。
そして、今ここにわたしは立っている。彼の会社を助けるために、この会社に別れを告げるためだ。
告げるために来たはずだ・・・
では何でわたしは人を殺した?
わたしは誰を待っているって?
わたしは、一体・・・?
今までの
コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa