ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDV−7


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/ 7)

 瞳を開けると、誰かが立っていた。浅黒い青年だ。アーマーを装備していることから軍の関係者か何かだろう。
 ここの異変を察知して調査に駆けつけたのだろうか。
 彼の瞳はこちらへと向けられ、しかしその瞳は警戒の色に染まっていた。
 何を警戒しているのだろうか。ひょっとして敵が自分の後ろにいるとか?

 彼は首を後ろへとめぐらそうとした。
 しかし、首はまったく回らなかった。何かに固定されているとかそんな生易しいものではなく、体の権利とでもいうべきものを奪われたかのように。


「これは、操身術?傀儡(くぐつ、人を操ることです)か」
 まるで糸か何かで吊られているかのようにのっそりと体を起こした守衛を見て、彼はそう確信する。
 まともに立ち上がれないものなら、こんな風に吊られているようには立ち上がれないはずだ。
 しかも、
「しかも白目とは気持ち悪い・・・」
というふうに、彼らの目は見えているのかどうなのか、わからないほどに白い。
 それらが、コンテナの陰からちらちらと集まってきていた。
 今彼を取り囲んでいるのは、締めて10体ほど。この数ならば、突破することも無理な話ではない。
 ・・・相手を殺すのならば・・・
 意思のないがゆえに、はたこうが蹴飛ばそうが、関係なく襲い掛かってくる。ひょっとしたら体さえ無事ならば、死んでも向かってくるのかもしれない。
 いざとなったら体ごと消さねばならないかもしれない。これでも天界の宝物庫の一つを守る守衛だ、仲間とはいえないが、彼らを消すのは正直忍びない。
 ・・・でも結局やられているからな、職務怠慢で罰の一つでも与えてやるか?とすらジークは考えなかった。決して考えたわけではない。


 ジークは戦闘意欲を緊張に変え、熟練の戦士が持つテリトリーとでも呼べる網を敷いた。霊力を研ぎ澄ませ、相手の一挙一動に対応する。
 敵は全10体。長引けば、仲間が駆けつけてくるかもしれない。
 これまでの相手の動きから、漠然的な行動しかとれず、すばやく走るなどの行動はできないらしい。
 したがって、彼のとった行動はひどく簡単なものであった。


 対象が、自分に向かって走ってくる。
 己のうちに何かを叫ぶものがあったが、これは無視できる。肝心なのは、焼き付けられた命令を実行し、完了できるか。
 自分の先にはいくつかコンテナがあり、この先に自分に命を与えた人物がいる。
 自分の使命は、彼らを守ること。
 そのために、自分は腕を振り上げた。


 体が動かなかった。
 いや、正確には動いていた。動いていたが、自由ではなかった。
 体が勝手に動くからだ。まるで誰か違うものの中に自分が入っていったかのように。
 勝手に腕が持ち上げられ、勝手に振り下ろされていく。
 眼前に迫った魔族の青年へと。


 ジークは下半身の筋肉をたわめ、爆発的に闇夜を駆け巡る。
 黒き世界に黒が疾駆していき、たちどころに目標へと肉迫した。
 こちらを認識した目標は、腕を振り上げ、迎撃しようとする。
 ジークは振り下ろされた腕を、跳ね上げる己の腕で弾いた。腕に予想以上の負荷がかかる。
 どうやら相手は潜在筋力の総てを酷使しているらしい。これでは数分と経たないうちに、相手の筋肉が引き千切れてしまう。
 ・・・痛いだろうな・・・
 相手の攻撃を弾いた右腕には、強い痺れと脱力感が加わり、攻防に用いることは難しい。しばらく使わないほうがいいだろう。これが叩き潰されなかったのは、ひとえに霊力の差としか言い様がない。
 なので、無事であった左の手に拳をつくり、目の前の標的の鳩尾に食い込ませる。 鈍い音と生々しい感触とともに、衝撃が相手へと送り込まれる。
 さらにそのまま、続けざまに放つ波動。こぶしから解き放たれる力は、そのまま相手に喰らいつき、優に5メーター以上は吹き飛ばして後ろのコンテナに叩きつける。
 吹き飛ばされた守衛の一人は、そのずたずたになったコンテナに体を蝕まれ、なかなか起き上がれそうにもない。
 残り9人。半分は無視することになるだろうから、5人か?
 そのうちのこちらに近い手前の2対が、突撃を開始する。残りの7体も、散漫ながら、行動を起こしているようだ。
 2人は帯剣していた刃を引き抜き、一人は横殴りの斬撃、もう一人は縦からなる一線を閃かせる。
 一人目をジークは刻むようなバックステップを用い、さらにもう一人はステップの勢いを殺さぬまま、重心を低くしての回し蹴りを繰り出す。
 鋭い蹴り足は、そのまままっすぐに相手の剣を持つ腕へと吸いこまれてゆき剣筋をそらす。
 一人目はそのときには二撃目の為の構えを行っており、その照準はジークへと向かっていた。
「ちっ」
 鋭く舌打ちすると、ジークは左腕を鋭く押し出す。
 押し出された腕の先には、ちょうど攻撃のモーションに入っていた男が立っており、彼に喰らいつくように命じた何かの発射する感触が腕に伝わる。
 見ることの叶わぬほどの速度のそれは、彼の構えていたその刃を弾くように叩き、
その次の瞬間、弾かれた刃の真下、ちょうど男の胸当たりから閃光が迸った。
 圧縮した霊気を、攻撃的なまでに研ぎ澄ませ解き放つ。たったそれだけ、それだけだが、その光は男の体を叩き殴り、大きく吹き飛ばす。
 さらにジークはその姿勢から低い起動を保ったまま反転し、いまだによろめいている二人目へと足を突き出す。
 無作為なように突き出された足は、直線的に男へと向かっていき、胸板へと吸い込まれていく。
 そして、瞬間的に凄まじい衝撃を受けたかのように、吹き飛んでいく守衛。練磨を繰り返さなければ身につかない威力だ。
 ジークは蹴り足をすぐに引き戻し、構える。残り7人。
 こちらに近い手前側の二人は、刃を引き抜き、こちらを見据える。白い目で・・・
 さらに後方から囲んでいた5人は、精霊石が詰め込まれた銃を引き抜き、狙いを定める。
 そろそろ、体力的にも辛いので(殴り合ってると爆発的に体力と精神力を使うので)、銃を構える守衛を無視し、手前の守衛へと突き進むジーク、それを迎え撃つ守衛。
 2人の守衛のうち、手前の一人が刃を持ち上げる。後方の一人は、刃を後ろへ向け、一線する力を高めるために、爆発にも似た霊気の集中を見せる。
 一人目の刃を円の要領で回るようにかわし、続けざまの斬撃を、回転の勢いを殺さずにすばやく相手の手首を掴む。そして相手の胸板へ向かってそっと手を添える。
 閃光が相手とジークの間で輝き、凄まじい衝撃が発生したのか守衛は吹き飛ぶ。
 吹き飛んでいった男は、後方で刃を構えていた男へ向かっていき、当然のように彼はそれをよける。
 ・・・が、よけたときにはすでにジークは彼の眼前だ。
 繰り出される裂迫の一撃をよけるすべなどない。ないが、ないはずだった。

 傷を負ったのはジークのほうであった。
 いや、正確には刃を構えていた男も傷を負っていた。彼のほうが傷は深く、深刻な問題に達していた。
 ジークは瞳を横へとずらす。
 そこには硝煙を上げる銃を構えた、守衛たちがいた。
 ・・・どうして、考えがよぎる。
 普通は、味方も誤射する危険性が高いため、接近戦では発砲しないというのがセオリーだ。だが、意思を持たぬ彼らには、そんな常識など通用するはずもなかった。


 撃ちたくはなかった。だが、目標が照準に入る。攻撃を行うために移動範囲を極端に狭める今が、おそらくは最後のチャンスであろう。
 しかし、自分は撃ちたくはなかった。この魔族の青年や、何よりも自分と職を同じくする仲間を。
 
 しかし彼の指は、そんな葛藤を行う彼をあざ笑うかのように、確実かつ素早く、動き始めるのだった。

 乾いた音とともに、第二波が放出された。


 飛び交う弾丸を、あるいは障壁を使い、またあるいは叩き落しながら防いでいた。
 しかし、そのうちの何発かは当りそうになる。これでは自分の防御能力でこれを防ぐくれることは到底無理なことだろう。
 ジークがそんなことを考えていたとき、自分が叩き落した弾丸が派手に破裂した。
 まばゆい閃光が自分とその足元で倒れえている守衛を包み込む。
「しまった」
 とっさに霊力で防御を繰り出す。が、閃光はジークのアーマーで包んでいない腕を少し焼き、軽症でよかったと胸を撫で下ろしたジークがほっとしたときに、血をだらだらと流す守衛の姿が目に入った。
 先程の閃光によって、腕や背中を焼かれたらしい。
 このままでは、足元で倒れている守衛が死んでしまう。今までは行動できないくらいに叩きつけていたため、他の守衛は死なないであろうが、さすがに死人を出すわけにも行かないだろう。
 彼は、ジークフリードという青年は優しかった。軍属であるのならば他人の生き死にを任務に対してどのように関わるのか、その程度でしか認識しない。だが、彼はそれができなかった。
 だから・・・
「こちら、ジークフリード。これより戦線を離脱する」
そういうなり、大きく天に向けて跳躍した。
 その左腕には、緑色の血にまみれた守衛がぶら下がっていた。

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