ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDV−6


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/ 7)

 辺りは漆黒に包まれていた。明かりはわずかしかない。闇に浮かぶ月と、いまだぱちぱちと燃ゆる炎。

 そのあたりはコンテナや倉庫類に囲まれていた。
 その中央にたたずむ男が一人。さらにはその周りを取り囲むようにして倒れる男2人。

「殺したのか?」
 どこからともなく、物を尋ねる人の声がした。
「いえ。僕が殺生が嫌いなことは知っているはずでしょう」
 だからというわけではないが、こちらからも返す。
「確かにそうだけど、そういう考え方じゃぁ、妙神山の連中には通じないかもね」
 声の主が、闇夜から降りてきた。小柄な男だ。フードのようなマントに包まれているせいで、どのような姿かは、うかがうことはできない。
 要するにおかしな格好ということだ。
 対して自分のほうも、コートに包帯といったいでたちなので、そうは変わりないだろうが。
「そのことなんですがね、どうやらその山から一人ほど誰か来るみたいですよ」
 コートの男がそういうと、小柄な男は少々驚いたように返す。
「どうしてそれを・・・と、『君の力』か・・・それにしてもどうして一人でくるんだ?僕たちをなめているのか。それとも何らかの罠か・・・」
 小柄な男は考えた。この男は、この組織の頭脳的な存在で、作戦立案や、部隊の指揮など、要所要所に渡り、その力を発揮している。その頭脳が割り出した答えは一つである。
「とりあへず、逃げておけば問題はないだろー」
 当然、目的のぶつをもらっておいてからではあるが。

 守るもののいなくなった扉は、存外簡単に開いた。
「早く物を見つけるぞ。いつ他の守衛が駆けつけるかわからないからね」
 小柄な男は、警戒色も濃くそういった。
「ああ、それなら心配はありません。全員僕が眠らせてあげましたから」
 何事もないかのような物言いに、小柄な男は隣のコートの男を見上げた。
 こいつとは古い仲になるが、たまに底知れないものを感じる。
「ささ、ぼぅとしてないで。目的のものを探しましょう」
「あ、ああ。分かっているよ」
 きょろきょろと周りを二人して見回せているうちに、すぐにそれを確認することができた。
「あった。これだ」
 小柄な男が、厳重に封印されたそれを持ち上げる。
 封印は、透明なケースのようなもので、中身は簡単に確認できた。いくつか機能不全なところもあるが、修復可能なレヴェルだ。

 男は、封印を壊すべく、力をためた。

 封印は四角い透明な箱のようなもので、上には赤い色のふたがしてあり、線のような隙間が何本かあった。
 それはあるものに似ていた。というかまるっきりそれだった。
「何で虫かごなんだ?」
「まぁ、それだって虫っぽいわけなんだし」
 そういって、コートの男は封印を施された対象を指差す。
 そこには、黒い物体がゆっくりと動いていた。黒い体に、六本の足、頭から飛び出た角のようなもの。ひとえにそれは、カブトムシとも形容できる。
「虫ってか、これはゴキブリだろう」
 小柄な男は、呆れたように呟く。実際、どういった形であるものかを知っていたが、こういう形でこれを見ると脱力感しか生み出されない。
「まぁ、確かに同種ですが、人間の子供はこういうのを捕まえて喜んでいるようですよ」
「それは知ってる。でもねぇ、夏にカブトムシやらクワガタムシを捕まえて喜んでいる中、ゴキブリを手で掴んで笑っているやつなんて見たことがないよ。むしろスリッパかなんかでぼこぼこにされている姿しか、思い浮かべられないなぁ」
 小柄な男は、腕を組んで呟く。実際、カブトムシなどに比べれば、ゴキブリは比較的嫌悪の対象になるであろう。そもそもこれらの虫たちの違いなどはそうはない。角があるかはさみか触覚か、ということだけだ。
「よし、僕たちが真の意味でよい未来を手にするときには、ゴキブリたちにもよりよい未来を提供することをここに宣言するぞ」
 と、小柄な男がそう宣言したとき、
「誰か、射程内に侵入したみたいですね。これは・・・ジークフリードさんですか」
 コートの男が、警戒を発する。
 どうやら、妙神山からきたものとは彼らしい。
「ちょうどいい。ここで彼も始末するか」
 ぱりんと音とともに、封印が破れ、なかに収まれていたカブトムシが小柄な男の手の上に乗る。それと並行するかのように、彼がしゃべった。
「それは無理でしょう。彼と僕らとの間には実力が開いていますから」
 男はそういうと、
「さっさと逃げるべきです」
と付け足した。
「でもこれは罠の可能性もあるからな。逃げていくことを見越した罠なのか、戦うことを見越した罠なのか・・・」
 どちらも可能性のひとつとしてあった。だからこそ、コートの男は提案した。
「なら、ここは僕の能力で彼を食い止めましょう」
 言うなり、男の影から何かが伸びた。それらは、彼らの脇で気絶してた守衛たちへと伸びていき、彼らの影へと合わさっていった。

 彼の周りには、数多くの守衛たちが倒れていた。死んでいるわけではない、呼吸音、脈が彼らにはあり、容易に気絶しているとわかる。
 これがすべて一人の手によるものだとすれば、容易なことではない。ひと一人、殺さずに倒すということは、それ相応の手加減というものが必要だ。
よほどの実力差があるのならまだしも、彼らも一応は練磨された兵だ。そのような所業を連続して行うなど、どのような奇跡が起きたのであろうか。
 コンテナの先からわずかながら顔を出した青年は、その先に目標がいないことを確認する。
 彼の名は、ジークフリードといった。浅黒い肌にハーフアーマーを着こなし、軍属であることを意識してか、ベレー帽を被っている。
 彼は一人で、この作戦区域にいた。彼らの作戦はこうだった。

 まず囮としてジークがこの区域に潜入。目標と接触後閃光弾を発射。すぐに彼の姉ワルキューレ率いる小隊が来る。羽があるから遊撃には向いているはずだ。
敵がそのまま逃げるようであるのなら、外で待ち構えている小竜姫らによる霊波動砲によって滅殺。そのまま交戦するのならば、小竜姫はこちらに合流する。
逃げようが戦おうが、どちらにせよ相手を叩く。作戦というにはあまりにも粗野だが、効果的な方法だろう。


 いくつかジークがコンテナを越えたとき、それは起こった。
 彼の足元を縫うようにして過ぎ去っていく影。それはすばやく突き進み、彼の後ろで倒れていた守衛のそれと合わさっていった。
 そしてぶるぶると震える守衛。まるで何かが体の中へと浸食していくように。

 それが目を開けたときには、それはそれであってそれでなきものだった。

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