ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―3―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/ 6)

「さて……ここか…」

俺の目の前には、古びた洋館が建っていた。

「しっかし、なんちゅーお約束な……」

俺は今回の…この世界で初めての仕事を請け負った時の事を思い出す。

………………










「洋館に幽霊っすか?」
「はい。まぁ、幽霊です。話を聞く限りでは悪霊でもないみたいですね。とりたてて、大きな危険も無いかと思います。」

協会で斡旋して貰った仕事は、一番難易度の低い仕事だった。
ある資産家が購入した別荘に、幽霊が住んでいるらしいんで、何とかして欲しいって依頼らしい。

「じゃあ、別に放っといても良いんじゃないすか?」
「ま、一般的には幽霊というのは気味悪がられるモノですから。それが悪霊じゃ無くても過敏に反応するものなんですよ、一般人は。」

ま、その辺は分からんでもないけどさ。

「あ、そうそう。この依頼ですけど報酬額はかなり低めですよ?諸々差っ引いて貴方の手取りは30〜40万くらいになります。で、それは実際に除霊にかかる金額抜きの話ですから、貴方の除霊スタイルが何か道具を使われるのなら、恐らくほとんど赤字になりますけど……」
「あ、大丈夫っすよ?俺、道具使わないんで。」

金の掛かる道具はね。

「そうですか。それではこちらの方に書類が……」

………………










「いかにも居ますって感じの所じゃねえか。」

うっそうと生い茂ったちょっとした林の奥に佇む、蔦だらけの洋館。これってば出来すぎなくらいの幽霊屋敷だろ?

「ま、何にせよ入ってみるか…」

―― ギィィィーーー ――

錆びて重くなった扉を押し開けて、俺は建物の中に足を進める。

「お邪魔しま〜す。どなたかいらっしゃいますか〜?」

ん……確かに居るっぽい。かすかにだけど霊派の痕が感じられるな。

「どなたですか〜?……」
「うおうっ?!いきなりかよオイ!?」

目の前に、品の良さげな中年女性が現れた。それは勿論……

―― 幽霊だな、どう見ても ――

「ようこそお出で下さいました。わたくし、この家の主でリツと申します。」
「あ、これはこれはご丁寧に。私は横島忠夫という者です。」

あ、つい挨拶返しちまった!?

「横島様ですか?それで、本日はいったいどのような御用向きでしょう?」

ん〜……すっげぇ丁寧な対応してくれるオバハンやな〜…

「え〜とですね、実は単刀直入に言いますとですね?なんて言うかその〜……」
「はい?」

こ、こらアカン!緊張すんな〜…いつもみたく悪霊だったら、問答無用で極楽送りなんだけど、くっそー!しかしとにかく言わんと!

「実は、成仏していただけると有りがたいんですが〜……いかがなものでしょうかね?」

だいたい、幽霊になってこの世に残るって事は、この世にたいして何かしら執着してるって事で、それを何とかしてやらんと成仏して貰えんのだからして…

「あら?なんですの、成仏って?」
「は?」

あれ?

―― あ! ――

もしかしてこの人ってば…

「もしかしてアンタ、自分が死んでるって事気づいて無いのか?」
「え?死んでるって……何の話ですの?」

やっぱり。結構居るんだよな、自分が死んだ事に気づいて無いやつって。
これはきちんと説明してやらんといかんか…

………………










「…という訳なんですよ。」
「はぁ、それはビックリですね〜」

俺はつらつらと事のいきさつを説明した。しかしこのオバハン、どっかズレとるな。

「え〜と……分かっていただけました?」
「はい。つまり、私わたくしは40年前に死んでいて、もう幽霊になっていて、なので成仏したほうが良い。という話なんですよね?」

何故、そんなにあっさりと受け入れる?

「いやぁ、まあそのとおりなんですがね?本当に分かってます?なんかリアクションが薄いな〜って感じちゃうんですけど…」
「はぁ…申し訳ありません。わたくし、良くのんびりさんって言われてましたから。
「あ、いや!誤ってもらう類の事では!」

流石、良い所のお嬢さんだっただけはあるな。物腰の一つ一つに品が…

「生前……しかももう少しお若い頃にお会いしたかったです。」
「はぁ?」

さて、それでどうすっかね?

「で、ですね?一応こちらとしてはこのまま穏便に成仏していただきたいんですけど…何か思い残したこととかあります?ってか、幽霊になってるんだから何か有るんだと思うんですがね…」
「はぁ…それがさっぱり。なにしろ、自分が死んでいたって事にも気づいてませんでしたし。」

そう言えばそうだったな。

「じゃあ、このまま成仏して貰っても良いですか?いや、成仏したほうが良いんですよ?早いところ転生して次の人生楽しんだほうが得ですって。」
「ええ、そうですね。あの、それで…」

ん?やはり何か心残りが?

「成仏ってどうしたら良いのでしょうか?」
「だあっ!」

あんたはおキヌちゃんですか?!

「いや、そ、それは大丈夫です。こちらでやってあげられますんで。」
「あら?それはそれは、重ね重ねお手数をお掛けします。よろしくお願いしますね。」

はぁ、やっぱ少しズレとるわ。流石、元深窓の令嬢。
ま、とにかく気持ちが変わらないうちに成仏してもらおうかね。

「成」「仏」

俺は両手に1つずつ、2つの文珠にそれぞれの文字を込め…

「じゃあ、とりあえずコレでこの世ともお別れだけど、なに…また直ぐに転生出来るさ。あんた、良い人だしな。」

ほんの少しだけ、話をしただけだけど…この人は絶対良い人だろ?

「気持ち良い、あったかい魂してたよ。」
「あら?有難うございます。横島さんも、とても良い方で…会えて嬉しかったですわ。」

ははは…そうでもないんだけどな?

「じゃ……いってらっしゃい。」

―― パアァァッ ――

「はい…いってきます。」

俺は両手の文珠を彼女に向けて放る。文珠はその効力を発揮し、大きく輝き、そして……

「……ちゃんと逝ったな。」

今回の仕事は終わった。

………………










「いやあ、ほんとに良いのかね?」

俺は懐に入ってる茶封筒の重みを感じながら、ホテルへの帰路に付いていた。
今回の報酬は、手取りで36万円也。

「美神さんの所では間違っても有り得ん出来事だな。」

常に危険度Sクラス、報酬SSクラスだからな。
ほんと、コレぐらいで良いだろうに。

「まあ、今回のは出来過ぎだったけど。」

幽霊が何もごねずに成仏してくれるなんてのは殆ど有り得ねぇ。だいたいは未練が有って幽霊やってる訳だしな。

「かえって悪霊のほうがやりやすいんだがな…」

悪霊なら問答無用で祓ってやれば簡単だ。別に普通の幽霊だってそうしようと思えば出来ないわけじゃ無いけど……やっぱり普通の幽霊を力ずくで祓うのには抵抗ある。

―― それでも祓わなきゃいけない時も有るけどな ――

これで経験値1って所か。
この世界の俺には実績が無い。だから大きな仕事は斡旋してもらないのだ。
でも、とりあえずこれで次からは雑魚悪霊の除霊も回して貰えるようになる。
当然、幽霊よりも悪霊のほうが危険も高い。
そして報酬も高い。
ま、美神さんが相手にしてきたような大物は、俺みたいなペーペーに回ってくる訳無いし。なんとかなるだろ?

「1回100万位の仕事をちょくちょくこなしてれば楽勝か?オイ!」

現実はそう上手くいかねぇんだろうけどさ……
夢くらい見たって良いよな。ウン!

―― !? ――

「なんだコレ!?」

霊圧!?しかもかなりデカイ!?

「どっちだ!?」

俺は辺りを見回す。そしてこの嫌な気配の元を探った。

「あっちか!」

流石にこれくらいデカイと簡単に見つかる。

「いったい何が居るってんだよ?」

あんまり面倒事には関わりたくねえんだけどな……
ほんと、あそこにゃあ何が居るんだ?

………………










「!?」

あれってば悪魔か?!
で、

―― うえっ! ――

す、スプラッタ!?
胴体チョンの内臓ドバーッ!!
血が血が血がぁぁ!!!
この悪魔の仕業かよ?

「ざまあねえな!まだ時間は残ってるぜ?」

―― げ!? ――

よく見たら、もう一人捕まってるじゃねえか?
くそ!助けられるか?!

「オイ!ちょっと待て!!」
「アアン?ちっ!見られちまったか…まあ、まだ7秒…」
「ちょ、待ちな…」

俺のほうを向く悪魔。
まだ7秒?なんだ?

「余裕だぜ!直ぐ戻る、待ってなエミ!」
「待て!ベリアル!!」

―― ダンッ!! ――

うげ、来た!?
クッ!
しかし、この位のスピードなら!

―― 霊派刀 ――

「なに?!」
「こなくそっ!!」

―― ザシュッ!! ――

「グギャッ!?」
「嘘ッ?!」

俺は一直線に向かってきた悪魔から、ほんの少しだけ身体をずらし、交差する一瞬に霊派刀で横に薙いだ。
どうやら俺が霊能力者だって気が付かなかったみたいだな。
隙だらけで突っ込んできてくれたから、ビックリするくらい上手くいった。

「あー……ビックリした。っと、オイ!大丈夫かそっちのひ………と…え?」

2度ビックリ。

「アンタ!いったい何者!?」

だってそこに居たのは…

「………………」

俺の良く知ってる…

「ベリアルはあれでも上級魔族よ!?それをアンタ…」

よく焼けた小麦色の肌、ウェーブのかかった長い黒髪…

「いったい何者なワケ!?」

―― エミさん!? ――

美神さんのライバル、小笠原エミさんだった。




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