ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(8)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/ 5)

遠い世界の近い未来(8)

外に出た水元たちは、笛の音がする方に進んでいく。
 荒れ果てた庭を抜け、これまた朽ちた生け垣を越え、外に出る。

「「「・」」」
 出たところで、森からこちらに来る人影を認める。
 背負っていた葵を生け垣のそばに下ろし、薫と紫穂にまかす。
 自分は、両手を上げ、前に出る。
敵かもしれないが、抵抗する余裕はない。

「こちらは、”バベル”の水元といいます。敵意はありません。」
 できるだけ穏やかに声を掛ける。

それに対し、相手は、何かを投げる動作をすると、目の前の地面でガラス玉のようなものが柔らかい光を放つ。

『化学反応式の発光体?』

 光の量から考え、かなりの高性能なものだ。

柔らかい光に、ハイキングの途中のような服装の男性が浮かぶ。

 歳は、少し上か、柔和そうな顔つきだが、こちらを見る目つきは、公安の特殊部隊員のように油断がない。

 あと、後ろに陰にはなっているが、もう一人‥‥

水元の観察が止まる。

「あら、怪我をしてるんですか。」
 そう声を上げ、巫女服の女性が駆け出してくる。

 夜更け、幽霊の荒れ狂った荒廃した屋敷、そこに巫女姿の女性。水元らは三人とも、声に詰まり、立ちすくむ。

 女性は、そんな反応にかまわず、葵の傍に駆け寄り、額に手をかざす。

「「「ヒーリング?!」」」
三人は、今度は、声を上げる。
 真珠色の淡い光がかざした手に浮かび、葵の荒い息づかいが落ち着いていく。同時に、擦り傷や切り傷も薄れていく。

「ヒーリングって初めて見るけど。これは、これですごいなぁ。」
薫が、葵が回復していくようすに素直に感動している。

二〜三分後、葵がうっすらと目を開く。
 やがて、体を起こし、自分の様子を確かめる、異常はないようだ。

「これで、大丈夫。」
 女性は葵から離れ、こちらを向く
 かなり『力』を使ったようで、かすかに女性の額が汗ばんでいる。

「おキヌちゃん、いいのか? 傷の手当なら文殊でもできるが。」
隣の男が心配そうに声をかける。

”もんじゅ”? 耳慣れない言葉が引っかかる。

女性は、優雅に、しかし、力強く首を振る。
『私にできる仕事は、私がします。』
 口には出さないが、そう表情が語っているように見えた。
 その毅然としたようすに水元は思わず、見とれてしまう。

「次は?」
 紫穂の方に手をさし出す。

「私はいい。」
 紫穂は、身を引いた。実際たいした怪我はしていないし、助けようとしてくれる人の心を読むのは気が引ける。

「そう。」
 おキヌは優しそうに微笑み、特に無理強いはしない。

 薫は、消耗が激しく、何よりもヒーリングに興味があり進んで手を出す。
「うーーん、気持ちいい。まるで○ンケルの一番高い奴を二〜三本あおったみたいだぜ!」
わかりにくい比喩だが、効き目は十分と言うことだ。

「最後は、あなたですね。」
 手を握ろうとするのに対して、水元は反射的に手を引く。

「あたしら、別にしたら、綺麗なネーチャンに手ぇ握られるなんて滅多にないで。遠慮したらばち(罰)があたる。」
 元気を取り戻した薫のツッコミがはいる。

 おずおずと差しだした手を柔らかく暖かい手が包みこむ。
 穏やかな力のようなものが流れ込み、節々の痛みが消えていく。

しばらくして、脈拍が早く血圧が高いこと(ついでに顔が赤いこと)を除けば、水元も楽になる。

「おねーさんは、おキヌちゃんていうの?」
 一段落したところで、紫穂が尋ねる、さっきの呼びかけを聞いたようだ。

「そうですよ。私は、氷室キヌっていいます。」

「で、”おキヌちゃん”か、かわいい名前やわ。」
 葵もようやく話に加わってくる。
「お姉ちゃんは、どこかと契約している?」

「私、今フリーですけど。」

「なら、桐壺のおっちゃんに頼んで、特務エスパーにスカウトしてもうたらどやろ。水元のにーちゃんより、よーーっぽど役にたつで。」
明らかに無能呼ばわりされ、苦笑する水元。自覚があるからあまり腹は立たないが。

「駄目よ〜、葵ぃ  ”バベル”の待遇、メチャ悪いから、こんないいおねーさんを引き込んだらかわいそうよ。」
 実力のあるエスパーは、様々な企業や団体と専属契約を結び、その能力を生かした活動している。
 で、政府や政府系団体は、予算やその他のしがらみで一番敬遠されている職場とされている。

「あなたたちのオーナーは桐壺さんですか。横島さん、桐壺事務所ってありましたっけ。」
 おキヌから横島と呼ばれた男は首を横に振る。

「にーちゃん、横島って名前か?」
 薫がついでのように尋ねる。
「ああ、横島忠夫だ。」
 おキヌとは違うぞんざいな言い方に、少し、憮然とするが、気を取り直し、水元の方に向く。

「あの強引な除霊は、君がやったのか?」
 何となく気勢はそがれたが、言っておく事は言っておきたい。

「ちっ、ちっ、こいつにそんな芸当できるはずないわ。」
一歩踏み出した。薫が、得意げに立てた人差し指を横に振り否定する。

「あれは、あ・た・し。あのくらい、特務エスパーのあたしにゃ楽勝だぜ。」
誇大表現だが、間違っていない。

「そーいや、自己紹介してなかったな。」
 腰に手を当て、胸を張る。
「あたしは、明石薫。テレキネシスを使う”バベル”が誇る最強のエスパー。」

「うちは、野上葵。テレポーターで、”バベル”最優秀のエスパーや。」

「私、三宮紫穂。サイコメトリーが使える”バベル”最高のエスパーで〜す。」

最後に、水元が口を開こうとすると口が開かない。
 薫がニヤニヤし、代わりに葵が口を開く。
「で、こいつは水元光。うちらの下僕で荷物運び、苦情処理係、あと、弾よけ。他には‥‥ 忘れとった、”バベル”特務エスパーチームの現場運用主任でうちらの上司や。」

「ところで、さっきから”バベル”言ってるけど、”バベル”って何だ?」
横島が、尋ねてくる。

「”バベル”を知らんのか? にーちゃん、本当に日本人か?」
薫が真顔で尋ねる。
設立当時は、結構、鳴り物入りで紹介されたし、ニュースなどでも良い評判は少ないとはいえ、取りあげられることも多い。
 超能力の啓発番組のスポンサーとしても知名度は充分にあるはずだ。

水元は、”バベル”と特務エスパーの本当のところ(特に、今日の任務について)は、ぼかしながらもあらましを説明する。

 だが、どちらも、ますます、わからないといった表情だ。

「ところで、この後、どうするおつもりですか。」
しばしの沈黙の後、おキヌが、水元たちのようすを見ながら尋ねる。

「・・・」
 水元は、ほこりに汚れ、霊たちによりそこここが裂けた身なりの自分たちの姿を思い出す。

「どこで迷ったのか仲間とはぐれちゃったんです。合流できれば良いんですが、ひょっとしたら、先に帰ったかもしれません。」

「じゃあ、横島さん、事務所に来てもらったらどうですか? お仲間を探すとしても、あの子たちを連れ回すのはかわいそうです。」

彼女のヒーリングで、さしあたり、危ない状況は脱したが、十歳の子ども連れで森の中で孤立していることに変わりはない。

 葵のテレポートも、一晩でも時間は空けたい。

 彼女の招待を受け、彼の事務所とやらに落ち着いてから”バベル”との連絡を図るのが現実的な方策だろう。
 
「そうだな、これ以上ここで立ち話をするのもなんだからな。」
 横島は、手慣れたようすで何か模様のついたわずかに光る玉を周囲に五角形に配置する。
それぞれに事・務・所・転・移の文字が浮かんでいるのは水元たちはわからない。

「葵ちゃんだったか、テレポーターというのは。」

 葵が、不審気にうなずく。

「俺も、けっこう似た芸当ができてね。」
横島が、精神を集中すると玉が一斉に光を放ち、光に中に全員の姿が消える。


 その様子を、木の上からうかがうモノがいたことを、今は誰も知らない。

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