ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―2―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/ 5)

―― ボフッ ――

「さ〜て……どーしたもんかね…」

ホテルに戻った俺は備え付けのベッドに寝転がり、そのまま天井を見上げてこれからの事を考える。
いったい俺の身に何が起こったのか?
ずーっと考えてた。出来る範囲で調べても見た。
でも結局のところ、答えなんて分かりゃしねぇ。

「それでも、状況を整理してみれば…」

まず、長飛丸の雷に打たれたって事は間違いない。
何故なら俺は、自分の体に受けた衝撃を、一瞬だけだが素晴らしく壮絶な衝撃を思い出すことが出来たからだ。
ほんと、アレは洒落んならんて……
でも、それじゃあ俺はなんでこうやって生きてる?
俺は自分に問いかけてみた。そうやって暫く考えて、そして見つける。
俺が見つけたもの、その答えは多分こう……

―― 時間移動 ――

あのとき、俺と美神さんは同時に雷の直撃を受けた。
そしてその時の感触を、俺はほんの少しだが覚えてる。いや、思い出すことが出来た。
もう駄目だ…と思った瞬間、体ごと別の場所に引っ張られるような、景色が暗転して時間が止まったかのような感覚。

「多分、美神さんの時間移動の能力が働いたんだと思うんだよね……」

結局のところ断言なんて出来無いけど、状況を考えればそれが一番しっくり来る答えだ。
ま、そこまでだったら特にたいした問題じゃ無い。俺の文珠を使えば…今はまだちょいと無理かも知れんが、時間移動は不可能じゃねえと思う。
ここが過去でも未来でも、なんとかなる。なるはずだ!

「でもなぁ……」

俺は又、考える。いや、それは既に確認だ。
でもさ…
それでも、そんなあっさりと認めたくねーってば。

「ここは多分……」

ここは…今俺がいる場所は、どうやら過去でも未来でも無いらしい。
でも、現在…つまり、俺がいた時代でも無いようだ。
そんな場所を呼ぶとき、人はこういう言葉を使う。

「並列世界……ってやつなんだよなぁ…」

そう、パラレルワールドってやつ。
そんな馬鹿な!?って思ったさ。
流石に非常識だろう?そんな無茶苦茶な話、納得できるかっ!

「で〜もなぁ…」

GSなんてやってると、常識ってのがどれだけ当てにならんもんかは身に染みて分かってるし……
なんとか無理やりにでも今の自分の状況を納得しようとすると、行き着く答えはどうしたってそれだけになっちまう。

「どうしたもんかね…」

今日1日、いろんな所を駆けずり回って来た。そして自分の目で確認してきた。殆どが俺の知ってる世界と変わんねーみたいだけど、それでも違う部分もそれなりに有った。

「まず俺の存在が違うしな。」

どうやら、この世界にも「横島忠夫」が存在してるみたいだ。
ってか、今の俺がそれだ。

―― どういうことだ?――

時間移動のパターンは2つ。
体ごと過去なり未来なりに飛ぶパターンが1つ。
これの特徴は、なんと言っても2人の同一人物が存在してしまうって事。
例えば、俺が1週間前に時間移動したとして、そこにはもう1人…1週間前の俺が存在して、2人の俺が会話を交わしたり出来るって事だな。
そして、もう1つのパターン。
精神だけが時間移動しちまうやつ…
このパターンだと、俺が1週間前に時間移動すると、俺は1週間前の俺に戻る。
例えば1週間前の俺が飯を食っていたとしたら、俺はその飯を食ってる最中の俺に重なるって訳だ。
そこから1週間分の記憶を身に付けて…

「今回のは、状況的には後者なんだけどな…」

問題は、そこにいた横島忠夫が、俺の知ってる横島忠夫とは別の横島忠夫だった事。

「クッソ!やっぱ分かんねー!!」

ほんと、俺ってば一体全体、なんでこんな事になっちまったんだか。

―― ギュルルルル〜 ――

「あ…」

こんな状況でも腹は減るんだな〜…
なんか、ルームサービスでもとるか。
ひとまず飯を食ってから考えよう。

………………










「それでは、こちらの書類に必要事項を記入してからもう1度こちらの窓口にお越し下さい。」
「ういっす。」

俺は今日、GS協会の本部に来ている。
事務の窓口でお姉ちゃんから受け取った書類には、すごく見覚えが有った。

「やれやれ、まさかもう1度手続きするはめになるなんてな。」

ゴーストスイーパーの免許にも、更新手続きというものが存在する。一応毎年行う事になっていて、最低でも3年に1回は更新しなければいけない決まりだ。
その理由はいくつかある。
まずはGSという、ぶっちゃけ胡散臭い職業の人間をしっかりと管理しておきたいということ。
GSの仕事には常に危険が付きまとう。いつ何処で何が起きたっておかしく無いって職業だ。なもんだから、当然毎年…いや、毎月のように人は減る。
怖くて辞める奴、怪我して辞めざるをえ無くなった奴、その他個人的な都合で辞めてく奴、そして……死んでしまった奴…
いくら胡散臭くたって、GSは社会に無くてはならない職業だ。
今何処に、どんな能力を持った奴がどれだけいるのか?
協会としては出来る限りそれを把握しておかねばならない。
特に能力というものは重要だ。
世の中に霊能力者ってのは意外と多く存在している。そんな中には珍しい能力を持っている奴もいたりして……

「時間移動とか、ネクロマンサーとか…」

かくいう俺もそう。

「……文珠とかな。」

そんな稀有で便利な能力ってのはきちんと管理しておかないと、って事。
でも、そうだよな……文珠のこと、どうすっかな?
俺は、文珠を使える。試してみたら、ココでも使えることが分かった。
ただ、この世界の横島忠夫は文珠を使えないらしい。
霊力的には俺と全く変わらないんだが…

「…妙神山で修行してないからかもな。」

ココに来てから一番戸惑ったことが、俺の中に俺ともう1人の俺の記憶が混在していたことだ。
俺がこの世界にきてから、この世界の横島忠夫の意識が出てきたことも、それを感じたこともない。だが、この世界の横島忠夫の記憶はいたる所で出てくる。

「ほんと、いつも突然だからビックリするんだよな…」

でも、まあ何とかそれにも少しずつ慣れてきた。
で、それで分かった事。
この世界の俺には、他のGSとの接点が無い。美神さんの所で働いていなかったのではなくて、美神さんと知り合ってすら無いようだ。

「ははは……っていうか、美神さん見つかんねーし…」

俺はこの状況を打開しようと、急いで美神令子除霊事務所に向かったのだが……
事務所なんてどこにも存在しなかったのである。旧事務所のあった場所にも行った。でもそこにも事務所なんて存在しなかったんだよ。

―― まいったねどーも ――

俺はどうするべきだろ?
とにかく元の世界に戻る方法は見つけなきゃいかんとして、当面どうやって生きていくかも問題だよな。
ココの横島忠夫はGS免許取ってから約3年間、延々と修行三昧だったみたいだ。

―― 俺の癖に俺の癖に俺の癖に俺の癖に ――

信じられんよ、ほんと。
なんて言うか、この世界の俺はすげぇ普通だ。
自分で言うのもなんだが、俺は多分普通じゃないんだと思う。っていうか、親父の相手もお袋の相手も、美神さんの相手もその他の俺の回りにいたGS連中の相手だって、普通じゃ絶対に務まらなかったしな。
どう贔屓目にみても、俺の人生は普通とは反対の波乱万丈な人生だったぞ。
なのにこの世界の俺ときたら、小中高て平凡に生きてきて、高校生の時に突然霊能力に目覚めて(強いて挙げれば平凡じゃないのはこの出来事くらいか?)GSになって、でも仕事無くて力を付ける為に修行に明け暮れるって……

―― こんなの俺じゃねーーーっ!! ――

「ハァハァハアァハァ……」

ま、それは良いとして、今後の事だ。
とにかく、元の世界に帰るまではこっちで生活せにゃならんのだ。で、俺に出来るのはGSくらいだし。



選択肢1
何処かの除霊事務所に雇ってもらう

選択肢2
自分で除霊事務所を立ち上げる

選択肢3
文珠を売って日銭を稼ぐ



「………………」

ま、3は除外だな。
俺が文珠を造れるってことはなるべく内緒にしておこう。

「こっちの俺は文珠を造れないし、あまり注目されるのも拙いかも知れない。」

文珠は強力な道具だ。あっちでは美神さんや隊長なんかが居てくれたから良かったけど、こっちじゃあ変な事に巻き込まれるかもしれんしな。
だから、こいつの特殊技能欄も…

「霊波刀…っと。」

コレだけ書いておけば良いよな。
俺は履歴書みたいなその書類にサラサラとボールペンを走らせる。

「これで良し。」

最後に特記事項の欄に特に無しと記入して、俺はそれを事務の姉ちゃんに渡す。
それを受け取った姉ちゃんは、それをリーダーに取り込みカタカタとキーボードを叩いて言った。

「それでは更新の手続きを行います。終わりましたら放送でお呼びいたしますので、こちらの番号札を持ってお待ち下さい。」

「38」と書かれた札を受け取り、俺は待合室の長椅子に腰を下ろす。
あとは霊力測定が有るだけだ。霊能者の霊力は実は大きく下がる事も有り、あまりに低いと免許の取り消しも有り得るんだそうな。
なもんで免許の更新毎に数値を測るのだが、まあ大丈夫だろう。美神さんも「霊力値だけ」なら俺はトップクラスだって言ってくれたしな。
これでとりあえず、急いでやらなきゃいけない事はなくなった。
とはいえ、なんとか金を稼がんと、また見習い時代の生活水準に逆戻り…

「それはぜってーやだ!」

そう言えば、確か協会では仕事の斡旋とか求人情報とか扱ってるって聞いたな?
美神さんの下に居たんで縁無かったけど。

「38番の番号札をお持ちの横島様、38番の番号札をお持ちの横島様、2番窓口までお越し下さい。」
「お!」

よし!とにかく何か仕事しよう!いつまでこんな状態かは分からんが、とにかく金は必要だもんな!

「こちら、必要な書類一式になります。これを持ってアチラの測定室の方へお進み下さい。」
「あ、分かりました〜…」

さて…そうと決めたら、暫くはこの生活を楽しんでみるか?

……………………










俺はこの状態を軽く見てたようである。
それが間違いだったの気づくのは、まだ暫く後の事だった。




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