ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(7)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/10/ 4)

 はじめに、
 本作品の 薫 について、言葉遣いが原作と異なる(薫は関西弁でない)との指摘がありました。今回以降は、言葉遣いを改めています。

遠い世界の近い未来(7)

 水元たちが屋敷の大広間に実体化した時間を少し遡ったころ、この屋敷を伺う二つの人影があった。

二人とも二十代半ば。
 一人は、森を歩くのに適したいで立ちの男性だが、もう一人は、いわゆる巫女の姿をした女性である。

「たしかに、霊団として暴走し始める一歩手前の数だな、これは。」
 男性−横島忠夫は、見鬼くんの反応から状況を確認する。
「でも、タチの悪い霊はなさそうだし、おキヌちゃんの笛で楽勝か。」

呼びかけられた女性−氷室キヌもその判断に軽くうなずく。

 平成バブルと呼ばれる短い春が終わり、その春に浮かれた人がわざわざ森の一角を切りひらいてまで建てた別荘がそのまま粗大ゴミと化したのが目の前の屋敷である。

 見捨てられた建物の家相が悪かったのか、しばらくすると浮遊霊が吹き溜まりはじめた。

 当初は心霊スポットとして、スリルを求めるバカップルのデートコースになったりテレビの取材班が訪れたりと、かえって、話題の種になったものだ。

 しかし、霊障が本格化し、付近のハイキングコースにまで霊が出没する及び、土地の観光協会は、GSによる除霊を決断した。
 当初は、地元のGSを考えたが、その霊のあまりの多さにしり込みし、結局、暴利を取るが腕は確かと評判の美神除霊事務所に依頼が回された。

 事務所の実力であれば、何の問題もない除霊作業はずだった。

 ところが、しばらく前から所長であり、横島の雇用主、そして妻の美神(令子 別姓と取っている)の微熱が引かず、日常生活に支障はないものの霊力と集中力を必要とする除霊作業は控えざるを得なくなっていた。
 それでも、横島一人ですませられる仕事と思われたが、霊団という作業の性質上、念のために、フリーのGSとして活動しているおキヌに、事務所として、助っ人を依頼したのだ。
 彼女は、ネクロマンサーとしてこうした霊団を扱うことにかけては日本はおろか世界でもトップクラスの実力を持っている。


「久しぶりですね。二人で仕事をするのは。」
心なしかテンションの高いおキヌ。
 自分では押さえようと思うのだが、二人だけの仕事に高揚感は隠しきれない。

「ああ、7、6年ぶりかな。」
 横島は、妊娠〜出産まで神経質になった妻が仕事を控えた時以来だったことを思い出す。

おキヌは、フリーとして単独、もしくは、他のGSと共同作業をすることもあるが、やはり、美神事務所からの依頼で仕事をすることが多い。
 その時は、美神を加えて三人というなじんだシフトが常にとられてきた。

 ちなみに、仕事の効率上、美神から横島−おキヌコンビで仕事をするよう何度か要望があったが、それは、おキヌの方で断ってきた。

 今回、おキヌが、横島と二人だけの仕事を引き受けたのは、美神の病気が比較的長引いておりスケジュール的に回復を待てなかったことと、相手が自意識のない浮遊霊であっても自分の手で穏やかに除霊をしたいという想いがあったからである。


 なおも、状況を観察しているうちに、おキヌが少し身を寄せてくる。

 時候は9月の半ば、夜の奥多摩とはいえ、特に寒いわけではない。

 観察中の間も増加し続ける浮遊霊の集団のもたらす霊圧が、感受性の強いおキヌに意味のない不安感をもたらしている。

 それに対し、横島は、軽く肩に手をかけほっそりとした体を抱き寄せる。
 おキヌは横島の体温を感じ、同時に伝わる暖かい想いに不安感が静まる。

「落ち着いたかい?」
 あくまでも自然に振る舞う横島。

 女性に対するやさしさは、初めて出会った時からかわらない。最初は、それを好ましく思い、ついで、何ものにも代え難いものを感じ、今は‥‥

その心地よさに、もう少しだけ体を寄せる。
それに対応するかのように、おキヌを引き寄せる横島の腕に力が入る。

「えっ?! はっ?! なにっ!!」
 軽くパニックになるおキヌ。顔は上気し、鼓動は聞こえるかと思うほど高鳴る。

ところが、腕はすぐに離れ、横島の注意は廃屋の方に向けられている。
何か状況の変化があり、反射的に力が入っただけらしい。

上づった気持ちの持って行き所に困り、うつむく。赤くなった顔は見られたくない。

「おキヌちゃん、これを。」
 小型ディスプレイを示す横島。
 仕方がないので、少しだけ顔を上げ、ディスプレイを見る。
 その表示がさっきと大きく変わっている。

「まさか‥‥ S級の反応が三つ? 四つ? 」
 S級の霊能力といえば美神や横島と同じだ。たまたま、彼女の知り合いにはそのクラスが多いが全国で十何人という数しかいない。
 神族か魔族が降臨したかとも思うが、霊力のパターンは(とりあえず)人間のそれである。

「少し、様子を見てみよう。霊たちも活性化しちまった。」
高霊力者の出現という予想外の展開に、横島も慎重にならざるを得ない。

 高霊力者の出現で浮遊霊たちも、恐慌をきたしている。中心部ではポルターガイスト現象が荒れ狂っているはずだ。

 現れた連中の安否は気になるが、固有の霊力がS級なら浮遊霊程度では嫌がらせをするのが精一杯だろう。

 数分後、霊的エネルギーのバーストが記録され、見鬼くんのリミッターがふっとぶ。
 霊団の霊圧が一気に半減するとともに霊力のバーストにより追い散らされた霊たちが拡散し始める。
 どうやら、中の連中が、強引な除霊を敢行したらしい。

「おキヌちゃん」

「わかってます。」
 おキヌも、そこはプロとして何年も除霊作業に係わっている。状況の変化を的確に捉え、自分のすべきことにとりかかった。
 ネクロマンサーの笛を操り、暴走した霊を引き留め、癒し、成仏させていく。
十分ほどで、あらかた片づく。

「どこのGSか知らんが、やるならもう少し丁寧な仕事をやれってんだ。」
横島は、けっこう腹を立てている。

 暴走したまま拡散しかけた霊を阻止できたのは、たまたま、おキヌがいたからだ。
 美神・横島コンビでも、いったん分散した霊をまとめて除霊する芸当はできない。
 一歩間違えば、暴走した浮遊霊たちが奥多摩一帯に混乱をもたらしたかも知れないし、それは美神除霊事務所の失態として記録される。

「文句の一つも言ってやるか。」
 廃屋の方へ行こうとするところ、向こうから近づく人影を見つける。


 両手に文殊を精製する、まだ、文字は入れないが、幾つかの危険な文字を思い浮かべる。 いきなり敵対してくることはないと思うが、相手は自分や妻に匹敵する霊力の持ち主たちである。さっきの、強引な除霊を見ても、用心をしておくのに越したことはない。

 相手は、両手を挙げ、敵意のなさそうな声で名乗った。
「こちらは、”バベル”の水元といいます。敵意はありません。」

 横島は、その様子にやや警戒感を解く。
 ただ、”バベル”という言葉にひっかかる。所属団体の名前のようだが心当たりが浮かばない。

 片方の文殊に「光」の字を込めて相手の手前に投げ出す。熱のないそれていて暖かみを感じさせる光が周囲を照らし出す。

 今なおイラクに駐留する国防軍の兵士のような野戦服を着た若い男だ。体つきは自分と同じくらいだが、線は細め。年齢は、二十歳前後か? 気弱そうな面もちが、衣装と合っていない。

 背後に子供らしい小さい人影が二つ‥‥ いや、三つ。
 陰で詳しいことは見えないが、そろいのブレザーにベレー帽と‥‥

「あら、怪我をしてるんですか。」
 横島の観察は、おキヌの反応で中断される。

 水元たちのようすを見たおキヌが、止める間もなく駆け寄る。

 巫女姿の女性が飛び出してきたことに相手は、呆気にとられたのか動かない。

 おキヌはその反応を無視し、横たえられた子供に霊力を込めた手をかざす。

 あとがき
 うっ やってしまいました。
 一応、別ルートも考えたのですが、わざわざ、地雷を踏むようなコースに入ってしまうとは、業の深い話です。
 絶対可憐と極楽のクロスオーバーものは、すでにこの道の大家の方が先に手をつけているだけに(それも投稿時期で並んでしまったことを含め)余計に冷汗ものです。
 まぁ、これも一つの話として認めていただければ幸いです。

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