ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦!「彼女もしくは彼女(後編)」


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/10/ 4)



「美神さんっ!」

 横島と暮井の声が重なるが、こめられた想いは全く別のものだった。
 
 そして、横島は二人の美神の間に立ちはだかった。

「どういうつもり?」

 『#美神』が自分をおどおどと見つめる横島に、静かに聞いた。

「いや……その……これは、つまり……」

 自分の行動の理不尽さに情けなくなりながらも、横島は必死に何かを言い募ろうとした。
 彼の後ろに立つ『美神』は微動だにしない。

「あんた達が何をしていたかなんて、今更聞かなくてもある程度わかるわ。いくら私だって、そんなに鈍くないもの」

「これは、その」

「私が今まであんた達がやってたことを承知の上で、もう一度、あえて聞くわよ?」

 横島の言葉など歯牙にもかけず、静かに『#美神』が問う。

「あんたは今、目の前にいるそいつを偽者と知ってなお、庇うというのね?」

 その言葉に、横島は涙目でがくがくと頷いた。
 自分でも馬鹿だと思う、しかし、それでも、何もせずに見過ごすことが出来なかった。

 その態度に『#美神』がこれ以上ないくらいに激怒し、怒鳴った。

「あんた、どうしようもない大馬鹿野郎だわっ! あんたが好きなのは、偽者なのよ? 私を模写した私ではない存在。あんたはこの先、そいつを偽者と知りつつも『美神令子』として愛情を注ぎ、そいつも自分を偽者とわきまえながらも『美神令子』としてあんたに愛情を注ぐつもりなのっ!? あんたが愛する女っていうのは、あんたの都合のいいように返事をするだけのダッチワイフなのっ!? ふざけたことを言ってんじゃないわっ! 考えただけでも反吐が出るっ!! あんたらのやろうとしていることは欺瞞だらけで自己満足な、偽りの愛に過ぎないわっ! 私はそんなもの、絶対に認めないっ!!」

 『#美神』の吐き気を抑えるような罵声に、横島は声もない。
 しかし、彼がその場を動くこともなかった。
 ただじっと、涙を浮かべて立ちすくむ。

 不意に、今までのやり取りを静かに聞いていた『美神』が横島をそっと横に押しやった。
 そして、自問自答するような口調で語りだした。

「――歪な鉢で、歪んだ想いを注がれて育った愛情は、美しい未来を咲かせることは出来ないのかしら? 互いの異常さを認め合いながらも、それでも寄り添って生きていくことはおかしいこと? 欺瞞に満ちた生活の中から、愛情を育むのは不可能なことなのかしら? ――私にはわからない――。ただ一つ分っているのは、私が偽者であっても、今ここにいる『私』を横島クンが選んでくれたということだけ。偽者を本物として慈しむ。それを偽りの愛と呼ぶのは、間違いようもないでしょうけどね――」

 それは、誰にともなく語りかけられるような、静かな言葉だった。

 呆然とその場に立ちつくす横島に軽蔑の一瞥をくれると、『#美神』が『美神』に歩み寄った。 

「さて、お別れね。絵の具は完全に処分するから、二度と会うことはないでしょう。GS美神令子は、後にも先にも私一人で十分よ。さようなら。もう一人の『私』」

 ゆっくりと、リムーバー液が『美神』に降りかけられた。

 そして……。

「!? どういうことよっ!!」

 『美神』に変化はなく、頭から被ったリムーバー液が涙のように頬を伝った。

「本物は私。横島クンを愛しく思っている、私。――きっとあなたの完成には、一年以上かかったんでしょうね。あなたは確かに私と全く同じだった。暮井の腕と情熱が本当に素晴らしかったのね、それは認めてあげる――でも、あなたと私は決定的に違うの。それが何かわかる? 答えは簡単。それは、今持っている感情の違い。あなたは暮井が制作し始めた当初の、その当時の感情と心を持つ私なの。でも、過去の私と今の私は違うわ。周囲から少しづつ影響を受けて成長し、ゆっくりと変化している。その違いよ」

 驚愕のあまり、言葉もない『#美神』の頭をそっと抱く。
 未だに自分こそが偽者だということを信じられない表情を浮かべていた。

「自分が自分であることの確信。それは、どこからくるのかしら? 自分の中にゆるぎない過去の記憶があるからこそ、今の自分が自分であると確信できる? では、記憶そのものが刷り込まれ、差し替えられたとしたら――誕生した直後から、過去を背負った本物たり得るのかしら?」

 優しく、慰めるように『美神』は続けた。

「血気盛んで、傲慢な私。こうして対面してみると、今とほとんど変わらないわね。でも、だからこそ私はあなたを否定出来なかった……あなたは偽者でも紛い物でもない、過去の私そのものなんだから……」

 抱きしめた『美神』からリムーバー液が伝わり『#美神』が解けていく。
 自分が溶けていくのを認め、『#美神』がぼろぼろと泣き出した。
 消えていく過去の自分を憐憫の眼差しで見つめ、『美神』は何かを必死に心に刻み込もうとするように、その場で俯いた。 

 そして、泣きじゃくる『#美神』はついに、その涙とともに消え去っていった。

「完成された作品は永遠にして不変なものだけど、人間はたえず変化し成長しつづけるものよ……」

 しばらく俯いていた美神がゆっくりと顔をあげ、暮井を見つめて呟いた。

 美神の言葉に暮井は何も言わず、そのまま肩を落として車に乗り込んだ。
 その姿を、複雑な表情を浮かべて見送った横島は、暮井がもう二度と本物と同じドッペルゲンガーを描くことはないだろうと何故か確信した。


「美人が台無しね」

 絵の具で汚れた美神が肩をすくめ、一度大きく息をついて、わざと明るく言った。
 彼女の言葉に横島が慌ててポケットを探り、シワだらけのハンカチを差し出した。
 彼の性格を代弁するようなハンカチを苦笑と共に受け取ると、美神が小さく呟いた。

「……ありがとう」

「いや、こんなハンカチですんません」

「じゃなくって」

「は?」

「さっき、私を庇ってくれたことよ」

「いやその……」

 なんとなくごまかすような表情を浮かべた横島に、美神がくすりと笑った。

「その顔じゃ、確信があったわけじゃなさそうね。……ま、そのほうがあんたらしいわね」

「はは、すんません」

 頭をぼりぼりと掻いて横島が気まずそうに謝ると、意地悪そうに美神が言った。  

「まあいいわ、許してあげる。そのかわり……」

「……そのかわりって、なんすか?」

 恐々と尋ねる横島。
 彼女がこういった表情を浮かべるときには、あまりろくなことがない。
 そんな彼に構う事無く、美神が続けた。

「そう、許してあげるかわりに、さっきの続きを聞かせて。……とっても肝心な最後の台詞を、私、まだ聞いてないもの」

 そして、横島はもう一度覚悟を決めて小さく息を吸い、最後の言葉をささやいたのだった。



                 fin


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa