ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦!「彼女もしくは彼女(前編)」


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/10/ 4)


 
「暇ならどうです。海でも見に行きません?」

 特に何かを意識したわけではなく、なんとく口をついて出た言葉だった。

「そうね。今日は暇だし、いい天気だしね」

 意外にあっさりと美神がOKしたことに横島は拍子抜けしたが、いつもの気まぐれからくるものだろうとさほど気にはしなかった。

 横島が高校を卒業してから結構な年月が過ぎ、見習いGSから正社員に出世し、中古だがさほど悪くない自動車を手に入れるまでの収入にはなっていた。
 
 海岸線沿いの道路に中古車を路肩駐車し、二人してガードレールに寄りかかりぼんやりと海を眺めた。
 本当に思いつきの行動だった為、他にすることもなく、ただ静かに海を眺める。
 空は雲ひとつなく晴れ渡り、秋を感じさせる潮風が心地よかった。

「……昼間の海も綺麗ね。海と空、それぞれに同じような青だけどやっぱり違うわね。同じ種類の色だけど、決して相容れない異なる青」

「……そうっすね」

 普段の美神らしからぬ様子に横島がちらりと横顔を覗う。
 少しだけ眩しそうに、まっすぐ海を見つめる彼女の顔はとても綺麗だった。
 普段の傲慢さを感じさせない、素直な感動が彼女の目元に浮かんでいた。
 そういえば、最近の美神さんは少しだけ変わったような気がする。
 美人であることに変わりはないが、落ち着いた艶っぽさみたいなものが最近は出てきたような……。
 よく知る人の少しづつの変化に戸惑いながら、それを好ましく思うような気持ちで横島が美神を横目で眺めた。
 その気配を感じたのか、美神も横島に視線だけ投げかけた。
 悪戯っぽい彼女の視線に胸が高鳴り、慌てて目を逸らしてしまう。

 そして、少し経ってからもう一度美神を盗み見ると、彼女はまだ横島を見つめていた。
 目を逸らしたことを怒るようでもなく、ただじっと見つめ続ける。
 まるで、何かを待つような美神の視線に、横島はつばを飲み込んだ。
 今、ここで言うべき言葉が、彼の胸の中にわだかまる。
 横島は小さく息を吐き、少しうつむいて、ガードレールを握りなおした。
 笑ってしまうくらいに、その手は汗で濡れていた。
 でも、なんとなく海に誘っておいて、その場の勢いでこんなことを口にして良いのだろうか?

 横島の葛藤を見透かすように、美神は辛抱強く待ち続ける。
 彼女の望む言葉はただ一つだけ。
 それはきっと、彼が今口にしようとしている言葉と同じ。
 以前の自分からは、こんな姿は想像できないかもしれない。
 胸の高鳴りを抑えて、隣にいる男性からの言葉をいつまでも待つ自分。
 自分は変わったのだろうか? その自覚はあまりない。
 自分よりも横島クンのほうがよっぽど変わったと思う。
 いえ、変わったのではなく、成長したというほうが正しい。
 本当に逞しくなったと思う。
 彼の成長に引きずられて、自分も変わってきたのだろうか?

「あの……美神さん」

「ん」

「あの、俺は、その」

「うん」

「あ、いや……美神……いえ、『令子さん』……」

「……はい……『横島さん』……」

 もどかしく、でも、辛抱強く二人は言葉を交わした。


 そして、横島が勇気を振り絞って吐き出そうとした最後の言葉は、しかし、突然のクラクションで遮られたのだった。


 二人が耳をつんざく音のするほうを驚きと失望がない交ぜになった表情で見れば、そこにはコブラから降り立ち、仁王立ちする美神令子の姿があった。

「なっ!? 美神さん!? 美神さんが二人!?」

 あまりにも現実離れした人物との対面に、横島は絶句した。
 今まさに隣にいる美神も同様に、驚愕を隠せないでいた。

 その驚愕する二人を冷ややかに見つめ、コブラから降り立った美神令子は呆れたように、自分と同じ姿の存在に言い放ったのだった。

「まったく、何やってんだか? 本人に断りなく、あんまり馬鹿やらないでほしいわね」

 事態の異常さに対する驚愕を、怒りのほうが上回った美神が殺気を込めて言い返した。

「本人って、アンタこそ何を言ってるの?」

「偽者が、調子に乗ってんじゃないってことよ」

「偽者っていうのは、どうやら私の事を指してるようね」

 あの美神令子が一人ではなく二人いるという光景は、なかなか恐ろしいものがあり、横島の背中がなぜか寒くなった。
 今の状況を理解することを放棄し、二人の美神さんにしばかれたらさすがの俺も死んでしまうだろうな、というような場違いな感慨に耽りつつ呆然と美神たちを眺めていた横島が、違和感に気づいた。

 今まで話していた『美神』と、後から現れた『#美神』。
 どちらもその物腰は本物としか思えないのだが、何かが決定的に違う気がする。
 同質でありながらも、異質な何かをはらんだ二人。

 横島がその違いを見極めようとした時、もう一台の自動車が後方に停車し、中から女性が飛び降りた。

「暮井先生!!」

 女性の顔を見た横島だけが、大きく叫ぶ。
 二人の美神は、それぞれ侮蔑と納得の視線を暮井に送った。

「……なるほど……またしても、ドッペルゲンガーってことね……」 

 横島の隣にいる『美神』が、全てを悟った表情で呟いた。
 その目には何故か、憐憫だけしか浮かんでいなかった。

「美神さん!! 怒ってるのは、ここからでも十分に分かるわ! でも、お願いだから、その作品だけは処分しないで! やっと、本物と同じ作品が出来たの! 今までと違って、オリジナルが閉じ込められることもないんだから!!」

「ふざけてんじゃないわっ! どこが同じなのよっ!!」

 暮井のあまりにも勝手な言い分に、『#美神』が叫んだ。
 横島はその『#美神』の言葉に、内心で同意してしまう。
 どちらも横島の知っている『美神令子』なのだが、まだその違いを区別する適正な言葉が見つからないだけであり、確かにこの二人はどこか違うのだ。
 
「……そう、確かに同じじゃないわね。……自分が本物と対面したにもかかわらずドッペルゲンガーかどうかも分からない、よく出来た偽者なんだもの……」

 何かを悟ったような『美神』の言葉に、横島は何故か胸が締め付けられた。
 
 そして、彼の胸中は大きく揺れた。

 偽者である『美神』を本物と思い込んで告白しようとした自分。
 それはあまりにも間抜けとしか言いようがなかった。
 本物と偽者の区別すらつかないくせに、何が告白だろう?
 自分が愛しく思っていたのは、なんだったのか?
 外見だけを愛した、偽りの愛? 
 欲情のみを求めた、肉体関係?
 俺は、美神さんの傲慢でわがままな性格も、全てひっくるめて愛したんじゃないのか?

 目の前の事態を完全に遮断して自己嫌悪に陥っている横島を現実に引き戻したのは、やはり、『美神令子』の声だった。
 
「覚悟は出来てるってわけね」

 『#美神』がリムーバー液を手に、ゆっくりと自分の写し身に近づく。
 
 『美神』は、何かを考え込むように目を瞑り、そのままじっと動かなかった。


                          〜つづく〜

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