ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(4)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/10/ 3)




「うぅ拙者も…」

 未だにシロはこの配置に文句を言っている。
 しょうがないなぁとばかりに苦笑するおキヌだったが、彼女とてちょっとはそう思っていた。

 だが、幽霊壁を一々しばきながら突っ込むのは大変な作業である。
 だから、最前同様おキヌが一時的にでも祓い、その隙に突入するのが安全で且つ楽なのだ。 出て来る時も同様な事を考えると、彼女には外に残って貰う方がいい。

 ただそうなると、後衛専門のおキヌだけと言う訳にもいかなくなる。 前衛役が必要なのだ。
 そして中に突入する人間からは、精々一人割くのが限界だろう。 結果として、前衛としては強く、しかし臨機応変に欠けるシロが残される事となるのは自然な成り行きだった。

「ぶつぶつ言わない。 戻る時も頼んだわよ、おキヌちゃん」

 頷く彼女の横で恨めしそうにしているシロだったが、
「おキヌちゃんを頼んだぞ」
 との、横島の言葉に、打って変わって「任せるでござる」と機嫌を戻す。 その現金な様子に、何人かから苦笑が漏れた。





 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──その4──





「あたしらの事、ガキだと思ってなめてるだろ?」

 簡易結界の使い方を横島・紫穂ペアに実演させての、薫の第一声がそれだった。

「そんなヒマな事、する訳ないでしょ」

 少女の叩き付ける様な視線を逸らして、肩を竦めながら美神はそう答えた。

 かつて新幹線の時にも使った物と同様の簡易結界である。 彼女自身も似た様な感想を持ってるだけに、突っかかられても仕方ないと思う。
 ただ、今回の作業は少女達を連れて行くのが前提である以上、使わない訳にはいかないのだ。

 そんな彼女達を見てる水元としては、苦笑するしかなかった。
 確かに、傍目には電車ごっこにしか見えないからだ。 だが、こんな場所で笑いを取る様な、そんな無駄な事をする人間に、美神は到底見えないのもまた確か。

 それは、紫穂も肯定した。

「薫ちゃん、嘘は言ってないよ」

 片手を周囲を囲む注連縄の輪に、片手を横島の裾にそれぞれ伸ばしているのだ。 紫穂の保証に、薫も仕方なく顔を外へと背けた。

 嫌そうな表情の薫に対して、紫穂は何か楽しそうであったりもする。
 横島が接触感応力を認識していながら、まるで大した事だと思っていないのが判るからだろう。

 彼とて、バラされれば慌てもするし、あまり良くない謀も妄想してたりする。
 だが、読まれたからと言ってどうとも思っていないのは、結局自身で口にしてしまったり、無理矢理口を割らされてしまうのが日常と化しているからだ。
 抱き付いてくる紫穂が不細工だったのならまだしも、見た目は可愛らしいし、子供に懐かれるのは良くある事。 変に避けて、相手を傷付ける様な事が出来る男でも無い。

 彼女にしてみれば、その反応すらも珍しく、そして忌避されないのが心地好かった。

「紫穂がそうゆうんやったらえぇけど…
 にしても、ほんま、見た目、けったいやなぁ」

 葵が苦笑混じりに曰った。

 彼女らは年相応の遊びをした事がほとんどない。
 3人が互いと出会うまで、ずっと周囲から孤立していた事もある。 また異能の子は成長が速いとでも言わんばかりに、普通の遊びになど興味すら持てず、寧ろ見下してすら居たくらいだったのだし。

「けど、カッコ悪ぃなぁ…」

「私だってそう思うけど、我慢するしかないでしょ」

 ぶちぶちとそれでも不満を洩らす薫に、タマモが諦めた様に答える。
 嫌がって下手な行動を取られても困るのだ。 美神から、庇護を分担させられてしまった以上は。

「ま、そう言う事。
 それじゃ、中での行動に関してだけど…」

 ・

 ・

 ・

 3組の電車ごっこに、周りの警官達の視線が痛い。

「おキヌちゃん、始めて」

 が、気にせず美神はおキヌに指示を出した。
 笛が高く響く。 その響きに合わせて、霊達の動きが変わった。 無作為に飛び回っていたのが、彼女らの正面、レストランの入り口に向かって道を作っていく。
 制御に焦点を置いてるだけに、笛を吹くおキヌも少し辛そうだった。

「行くわよ」

 そう言って、美神・葵組が進むのに、残る二組も続いて行く。

「おまえ達、気を付けろよ」

 水元の声に、3人は振り向き頷いて応えた。

 それから、ほんの2〜3分後。 一行がドアに届いたかくらいまで来て、笛の制御が途切れた。
 途端に、今まで出来ていた外への道が、ぼんやりとした騒霊達に埋め尽くされた。

「ふぇえぇぇ。 ホントに効いてるんだ、コレ」

 見えない壁に阻まれる様な動きを見せる霊達に、薫が感歎の溜め息を吐く。
 確かに素人目にも判る効果だ。 薫達は感心して周囲へと目を向けた。

「こないなのがホントに使い物になるなんて」
「うん。 凄いわね」

「当たり前でしょ。
 と言っても、そういつまでも保つモンじゃなし、急ぐわよ」

 この程度の幽霊達なら……ただ居るだけで悪意もって迫ってきてる訳でもない雑霊達相手なら、充分な効果を維持出来る。 新幹線の時よりも新しい代物だけに、色々と改良もなされているし。
 それでも、地面にきっちりと書いた結界と比べると、絶対的ではないのだけれど。

「ちょっとあんた達、チカラを使って見てくれる?」

「ん」

 即座に動いたのは薫だ。
 相変わらず手にしていたドリンクの小瓶を、触れずに動かし出す。 結界内では、問題無し。 離れる程に制御が甘くなるのも、外からやった実験通り。 5m程離れた辺りで潰してしまい、実験は終了。

 その彼女から新しい瓶を受け取って、次に葵が試みた。
 彼女のテレポートは、2種類に分けられる。 一つは、一定サイズの知覚範囲内に有る複数物体と共に、直接移動する通常の『瞬間転移』。 もう一つは、同じく一定範囲内にある物体の『送り出し』。
 取り敢えず、瓶を水元の下へと送り出してみた。

「いけるで」

 浮遊霊達の向こうにぼんやりと見える水元の様子で、ちゃんと届いたのが判った。

「美神さんは殺しても死にそうに無いからいいけど、この子らはちゃんと守らないと……って、あぁ、また読んでるし」

 紫穂の声が、横島の言葉を告げる。
 あうあう口走ってる横島が、美神の視線に身振り手振りで言い訳を続けていた。

「何、ツラに似合わない事言ってんだか」

「普段は馬鹿でスケベだけど、そう言うヤツでもあるのよ、ヨコシマは」

 薫の言葉に、同じ輪の中のタマモが教える。
 あのスキー場での一件は、彼女の認識をすっかり変えていた。 しょうもない所もあるが、群れの仲間としては信頼に足る。

「まぁ、その辺のお仕置きは後にするとして…」

 美神の言葉に頷いて、横島が前へと出た。

 扉を少しだけ開けて、中を覗き込む。
 すぐ正面にカウンター、場所の割りに大きな造りを建物自体がしてるだけに、結構広かった。 そこを飛び交う幽霊達。

「中は、外と大して変わんない程度っスね」

「そう。 じゃ、侵入するわよ」

 見回してそう言う美神に、5人は頷いた。

「それじゃタマモ」

「判ったわ」

 先頭を切って進むのは、タマモと薫。 タマモの鋭敏な感覚は探索向きだし、ポルターガイスト現象程度を防ぐだけならなら薫の能力は有効だ。
 続いて、人質救出のメインとなる葵と美神。 殿を務めるのは、急な展開にも対応可能な横島と、今回の件では直接の接触が難しい為、あまり役に立てない紫穂。

 建物の見取り図は、事前に頭に入れている。
 フロアと調理場が大部分を閉めている1階と、オーナーや職員の住居になっている2階。 それと、食料庫や備品置き場となっている地下室で構成されていて、そう大きな建物でもないから手分けせずとも大丈夫な筈。

「どう?」

「こん中入ってから、あっち行ったりこっち行ったりしてるみたい。
 どっちにしても犯人も人質も霊力は低そうだし、こいつらで充満してるから、霊気で追うのはやっぱり無理みたいだわ」

 タマモの答は予想していた通りだから、美神は肩を軽く竦めただけだった。

「じゃ、まずは2階だな」

「そうね。 くれぐれも注意しながら進みなさい。 タマモの指示にはちゃんと従って」

「わかってるわよ、ソレくらい」

 ぷんと顔を背ける薫に、むっとするのを抑えて同じ輪の中の葵へ顔を向ける。

「大丈夫や。 ウチもそんくらい判ってるから」

 頷くと美神は、タマモ達の後に続く。

「それじゃ、俺達も行くよ」

「はい」

 よし、と微笑み返して紫穂の頭を撫ぜると、横島も美神達の後ろへと続く。
 幽霊達で溢れていて狭い視界の中、一同は2階へと上がって行った。





 【続く】



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……ぽすとすくりぷつ……

 結局、『雪』と繋げてもぉた(爆)

 しっかし、間隔が開いてる割に、今回も全然話が進んでないなぁ…(^^;
 突発的に書いたのとか間に挟んでるからだけど、1ヶ月以上経っちゃってるし(苦笑)

 次回はさすがに展開が動かないと間延び過ぎ。 とにかく、がんばりましゅうぅぅ…


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