不思議の国の横島 ―1―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/ 2)
―― バリバリバリバリッ! ――
真っ黒な夜空に、無数の白き閃光が走る。
「くっ!なんて雷よっ?!」
「ふははっ!やるぜ、人間!」
そこは人里から離れた山の奥。
「じょーーーだんじゃないわっ!?こんなに強いなんて聞いてないわよーーーっ!!」
「美神さーーんっ!今はんな事言っとる場合じゃ無いっすよーーーっ!!」
―― ドゴーーーンッ!! ――
盛大に大地が爆ぜる。
「うぎゃーーっ!!こ、こらアカン!洒落で済まん?!」
「ふはははーーーっ!これもかわすのか?面白いぞ、ヌシら。なんだったか……確か“ごーすとすいぱぁ”とか言ったか?頑張るな。ワシ相手にこれだけやれた奴もそうはいねぇぞ…」
対峙するは2人組みの人間と、白き面の大きな獣。
「じゃが、今度のはどうだ?」
そう言って白き獣は右手を天に突き上げる。
「かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なによっ!?この馬鹿みたいにでっかい妖気はっ!?」
その強大な力に惹かれるように、隙間からバチバチと雷光を発する黒雲が、視界を埋め尽くさんばかりに集まってきた。
「やばいっ!!横島クン!アノ雷雲はやばすぎよっ!!逃げ…逃げましょ…」
「そんな事言ったって!逃げ道なんて何処にも無いっすよーーっ?!空一面が雷雲の塊じゃないっすかーーっ!!」
わたわたと慌てふためく男女……美神令子と横島忠夫。
「くっはっはっはーーー!!喰らってふっ飛べ!!」
「うぎゃーーー!!?文珠っ!!文珠――――っ!!!」
両手を空にかざして横島は叫ぶ。
―― バリバリバリバリバリバリ!!ドゴッ!ドゴン!!ドゴゴゴゴーーーーーーンッッ!!! ――
「避」「雷」
眼前に、四方八方から迫りくる雷の群れ。一辺の光も差さぬ闇夜が、一面真っ白に染め上げられた。
だが、それらは横島と美神の周囲で弾かれ逸れる。横島の両手にはそれぞれ「避」「雷」の文字が書かれた文珠が発現していた。
「まーたその玉っころかよ?じゃが、ワシの全開は天井知らずだぞ!?」
「よ、横島クン頑張って!!」
「きっ!きっつ、うがが…う、嘘!?押されて、や、やばっ!?もう持たな……」
―― ドゴン!ドゴン!ドゴゴン!ゴガガン!! ――
「避雷」の文珠で逸らされた雷は、地面と言わず木と言わず…周囲にあるものを次々削っていく。だがしかし、次から次へと襲い来る雷は、あっと言う間に横島の霊力と体力を奪い取って行き……
「み、美神さん…もうげ、限界。これ以上、持たな……かあぁぁ!!!」
「が、頑張って横島くん!!私の霊力も使って!!」
美神は横島の肩に両手を乗せ、自分の霊力を横島に送り込む。
「本当にたいしたもんだ、ヌシら。ワシの全力を堪えるのか…くくく、面白いぞ人間!」
「あ、ありがと。お褒めついでにこの辺で手打ちにしない?こっちも引くからアンタも引いてくれたら嬉しいんだけど?」
すでに限界に近い美神は、それでも余裕を見せながら獣に交渉を持ちかける。
「なんだ?そっちから売って来た喧嘩だろう?最後までやって行けや!」
「あ、アンタがこんなに強いなんて知らなかったのよ!私たちじゃ手に余る…」
2人と1匹の周りには、未だ雷達がまるで生き物のように駆け巡っていた。そんな中で三神と獣は会話をしている。
「ふん!バーカもんが……ワシを誰じゃと思っておった?ワシこそ最強の妖…」
「はいっ!御見それいたしました。御免なさい!流石!貴方こそ最強です。私たちじゃあとてもかないませんでした。御免なさい、御免なさい!」
愛想笑いを浮かべながら、ヘコヘコと頭を下げる美神。
「いやあ、流石!伝説の大妖怪、長飛丸様っ!!」
「ふん!女……ワシを長飛丸と呼ぶな。ワシの名は…」
「がぁぁぁぁーーーーっ!!もうアカーーーン!!」
と、そこで横島は力尽きた。文珠が割れ、押し留まっていた雷が一斉に2人に襲い掛かる。
「ちょ!?嘘…」
「美神さっ…」
―― ドッ!!ガーーーーーーーンッッ!!! ――
突き刺さる雷の群れ、響き渡る爆音、舞い上がる粉塵!
明らかに地形が変わるほどの衝撃を受けた美神と横島は……
………………
「はっ?!」
「あれ?どうかしましたか、美神さん?」
―― おキヌちゃん? ――
ここって……事務所?!どう言う事……確か今…
私はさっきまでの事を思い出そうとする。依頼、富士の樹海、除霊、長飛丸、雷、壊れた文珠、横島クン…
「そうだ!?横島クン?!」
「えっ?横島さんはさっき帰りましたけど…」
キョトンとするおキヌちゃん。
―― アレ? ――
落ち着きなさい、私!
私は今の状況を考える。
「そういえば…明日のお仕事の、長飛丸ってどんな妖怪なんですか?」
「え?」
―― 明日? ――
おキヌちゃんの言ったこの一言が、急速に私の脳の働きを活発にさせた。
長飛丸を対峙しに行くのは明日?違うっ!!
私は今、戦っていたわ!あの馬鹿強い長飛丸と!そして、雷の直撃を……
―― 雷? ――
「あっ!」
「え?な、なんですか美神さん?」
判ったわ!
―― 時間移動 ――
偶然だけど、長飛丸の雷のエネルギーで時間移動してしまったんだわ。外は夜…ってことは、丁度1日分の時間を戻ったって事ね。
「おキヌちゃん!横島クンはさっき帰ったのね?」
「え……はい。でも、美神さんだって横島さんが帰られる所見てました……よね?」
とりあえず、横島クンが無事なのか確認しないと。
―― バダン! ――
「み、美神さんっ!!」
と、思いっきり焦った風に横島クンが事務所に飛び込んできた。
「アレ?どうしたんですか横島さん?」
おキヌちゃんがびっくりして問いかける。
私も平然としてはいられない。確認しなければ。彼が私の知る横島クンなのかどうか……
「横島クン!さっきのこと、ちゃんと覚えてる!?」
「あ、ハイ、美神さん!じゃあ、美神さんも……」
ふう、良かった。どうやら横島クンも無事に飛んでこれたみたいね。
「どうやら、私の時間移動の能力が働いちゃったみたいね……」
本当はもう使えない事になってるはずなんだけど、何かの拍子でリミッターが外れたのかしら?
何にしても、助かったわね。あれは本当にヤバかった。
「あ、やっぱりそうだったんですかね?俺もそうかなーって思って、急いで事務所に来たんすよ。」
「あの…美神さんも横島さんも、いったい何の話をしてるんですか?」
おキヌちゃんにはなんの話しだか分かっていないようだ。まあ、あの場にいなかったんだから当然なんだけど。
「ああ、おキヌちゃんにもちゃんと説明するから…でもちょっと待ってて。頭の中きちんと整理して落ち着きたいからさ。」
「そうっすね。俺はまだ心臓バクバク言ってますよ。」
私もまだドキドキしてる。
偶然、時間移動出来なかったら…
「……ゾッとするわね。」
私は椅子に腰を落ち着かせて一息付く。
「フウ……おキヌちゃん、お茶入れてもらえる?」
「あ、ハイ。じゃあちょっと待ってて下さい。」
のどがカラカラに渇いてる。
「ま、なんにせよ、明日の依頼は絶対キャンセルね……」
あんな強さは反則だわ!絶対、絶対、もう二度と関わらないわよ!?
………………
「ハッ!?」
あれ?今、俺!?
「なんだ?アレ?俺、今……アッ?!」
そうだ!俺、今、美神さんと一緒に長飛丸ってやつと戦ってて……
「俺……生きてるのか?」
右手を見て、左手を見て…有る、動く。
足は……有る、動く。
「生きてる……のか。」
ホッとする。でも…
「どうなったんだ?」
あの時、あの信じられない雷の渦に飲み込まれて、確か直撃だったような?
いや、流石にアレが直撃してたら生きてる死んでる言う以前の問題だろ?
「アレ喰らってたら、消し炭も残らず消滅してたんじゃねえのか?」
―― ブルブルブルブル ――
うわ!今になって足が震えてきた!やべっ!立ってられねぇ!
―― ドスッ ――
俺は足の震えに耐え切れずに尻餅を付いてしまう。すると、眼前には一面の星空が見えた。
「そう言えば、ココって…」
俺は周りを見回そうとして、
―― ヒュウッ ――
「風?」
生ぬるい風が俺の頬を撫でる。そして、独特の匂いが鼻を突いた。
―― ザザァーーーーッ ――
「……う、海?いや、船?」
目が慣れてきた。俺がいた場所、そこは…
「船だ……しかも、客船…」
見回した俺の目に入ってきた景色は、かなり大きな船。縁が無いんで詳しくは分からないけど、これって十分アレだろ?
「豪華客船ってやつじゃねえのか、この船って?」
「おや?こんな時間にどうされました?」
「?!」
と、突然俺は後ろから声を掛けられた。クルッと振り向くと、そこにはどう見ても船乗りって格好をした白いあごひげのおっさんが立っている。いや、こちらに向かって歩いて来てた。
「あ、えっと…俺……アレ?」
―― なんだ、コレ!? ――
それは突然、俺の頭に浮かんでくる。俺は目の前の見知らぬ人物を知っていた。
「せ…船長……だよな?アレ?俺……アレ?」
「おやおや、どうされましたかな?流石に1ヶ月も船の上にいたのでお疲れになりましたか?しかし、あと3時間ですよ。もう直ぐ東京に着きますからな。」
なんだ、今の?!
俺はどうなったんだ?
待て待て!落ち着け俺!!
「まずは深呼吸だ!スーハースーハースーハースーハー…」
「横島さん?」
思い出せ!俺は誰だ?
―― 横島忠夫、20歳、GS、 ――
うん。これは大丈夫。
―― 俺は南米で修行してて、そんで修行が一段落から日本に帰る事にして、ある事情でこの船に乗って、目の前にいるのはこの船の船長で、もうじき東京に着く所 ――
「なんだと?!」
「うわっ!?ど、どうされましたか?」
なんだそれ?!違うぞ!俺の記憶は違う!
―― 俺はずっと美神さんの所で助手してて、ようやく見習いから脱出して、そんでもってさっきまで美神さんと一緒に長飛丸と戦っていて ――
そうだよ!
俺はずっと東京から離れてない!そして今、東京に帰る所だ!
「!!?」
なんだよ、俺!?
なんなんだよ、俺は……
「俺は……」
俺は……
「…………俺は誰だ?」
俺が考えられたのはそこまで。その呟きを残し、俺の意識は再び夜の闇に溶けて行く。
今までの
コメント:
- え〜・・・お久しぶりでございます。
覚えておられる方はおられますでしょうか?汗
はじめましての方、はじめまして。
半年くらい前に少しだけ投稿していたKAZ23という者です。
その後、色々と予定外の事があり、NET自体から引っ込んでいたのですが、ようやくなんとか、今度こそ本当に環境が整いまして・・・
いきなりぱったりと書き込みしなくなって本当に申し訳ありませんでした。 (KAZ23)
- それで、書き途中のモノがある癖して全然別の奴を乗せてしまいました。
重ねて申し訳ありません。
実はアレは行き詰ってしまって・・・
それで、ちょっとリハビリしたくなって別の話を書いて見ました。
え〜・・・世界観自体が全く別物の話です。
あまりにも不評とかでなければ、これを書いてみたいと思います。
よろしくお願いいたします。
長飛丸様には特別出演していただきました。w
今回のみのゲスト出演でございます。 (KAZ23)
- お久しぶりですね、KAZ23さん♪
こちらも最近2月くらい前に復帰したえび団子でございます(^^)
えっと・・・私のことは覚えていらっしゃるでしょうか?(汗
まあ、それはさて置き今回の話は横島くんがなにやら大変なことになってますねえ
次回に期待ですう。で、思った点が一つ・・・。
美神さんが危うい場面での時間移動で事務所に帰ってから『絶対関らないわよっ!?』『あの依頼はキャンセルね』について美神さんの信念からして『次会ったらぶっ殺す!!』とか言ってそうだなって思った所存です(汗)まあ、相手が強すぎたら無理もないですよね、滅法弱さがありますもんね美神さん(^^; (えび団子)
- うああああああああああ!!(挨拶)
久しぶりです!KAZ23さん!!
待ってましたよ!復活を!!
本物!?本物のKAZ23さんですよね!!?(←失礼w)
ネット環境も整ったことらしいのでこれからのKAZ23さんのSS大期待です♪
同じサンデー誌の作品でしかもジャンルが微妙に似てるから両作品の競演は納得できますね(笑)
というか、う●おはどこへ行った!!?(^^)
次回を期待しつつ・・・
さ、休業前に書いてた連載の続きも書いてくれるんですよね(ニヤリ) (ユタ)
- お帰りなさい〜〜会うのは初めてですけど貴方の作品
帰って来た横島〜〜 KINKIステーション悪霊事件
のシリーズは好きです
あのシリーズは復活するのですか? (羅綺紫好姫)
- 何だか状況が……今ひとつ理解できてません。
これから少しずつわかってくるんでしょうか? (U. Woodfield)
- 突然の急展開、横島君どうなっちゃうんでしょうか?次回に期待ですね。
はじめましてです。ひさと申します。
貴殿の「帰ってきた横島」から成る「ハーレムシリーズ」(←勝手に命名)
の大ファンです。「不思議の国の横島」シリーズと同時進行での復活を楽しみにしています! (ひさ)
- まずはお久しぶりです。
不安定なランダムジャン……もとい、時間移動で意識と言うか記憶が他所にもいっちゃったっぽい横島君ですが…多分大丈夫でしょう。どう違っても、所詮は彼ですから(笑)
長飛丸今回限り<……チッ(お気に入りだったらしい) (MAGIふぁ)
- 復帰したばかりのこの話に感想を頂けて感動しております。
これからまた、よろしくお願いします。
えび団子さんどうもです。
もちろん覚えております。忘れる訳が有りませんです。
なにしろ投稿して最初にコメントを頂けたのがえび団子さんですもの!w
今回もほんとうにお早いコメントを有難うございました。またよろしくお願いいたします。
ユタさんどうもです。
勿論本物です!w期待していただけるとはまさに感激!本当に嬉しいのです!
あっちの続きはもう暫くお待ちくださいませ。必ず書きますので。 (KAZ23)
- 羅綺紫好姫さんはじめまして。
コメント有難うございます。
あの作品を好きだと言って頂けて感激です。有難うございます!
それで、えと・・・書きます。もう少ししたら書き始めます。暫くお待ち下さいです。
そうそう、宜しければお名前の読み方を教えていただけませんでしょうか?m(_ _)m
U. Woodfieldさんはじめまして。
状況がいまいち分からないのは当然かと思います。今回はそういう書き出しですので。
それで、これから分かるのかというと・・・今回は解く謎もあれば解かない謎もあるのです。でも、多分大体分かるんじゃないでしょうか?
分かるように書こうと思ってます。今後もよろしくお願いします。 (KAZ23)
- ひささんはじめまして。
横島がどうなるかは・・・これから徐々にです〜♪
帰ってきたの方、大ファンとは、こちらこそ大感激です。嬉
あっちもきちんと書きますので、宜しくしてやって下さい。
MAGIふぁさんお久しぶりです。
またコメントを頂けて嬉しいです。
これから又、よろしくお願いします。
あまり心配ではないのは・・・・・・多分、大正解です。w
長飛丸さまお好きですか?実は私も・・・ (KAZ23)
- 雷撃だったから移動、なんですね(^^;
混濁横島二十歳、の冒険譚、コレからが楽しみ(笑) …って、冒頭の美神や横島は幾つなんだろ?(^^; (逢川 桐至)
- 逢川 桐至さんおひさしぶりです!
ようやく帰ってきましたです。またよろしくお願いします。
でですね、冒頭の横島はそのまま20歳です。(美神さんは23ね)
あれから色々頑張って、いまではきちんと正社員で助手です。
力や知識の方もその分成長しておるデスよ。
ちょっとだけ大人になった横島クンの話です。 (KAZ23)
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