ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDV−5


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/10/ 1)


 実際のところ、魔族に対して有力な能力を持つものといえば、今この場にいる者で挙げるとしたのならば、ハーフアーマーの青年と、ピートくらいなものである。
 力及ばずといった表情で、女性は唇をかんだ。
青年が言うように、さまざまな種族がその格式を取り払って連帯しない限りは、各々の未来はなくなるかもしれない。しかし、その種族内には、人間は入ってはいけない。おそらく、今の時代には彼ら、異種族のような強力な霊力を発揮できうる存在は稀だ。そんな人材を探している時間などはない。
これは、この抗争が終了したと同時に、次の抗争に発展する恐れがあることを示唆していた。
つまるところ、人間が今まで形成してきた社会の崩壊である。
人間に取って代われることを、認識したほかの種族。たとえば高い知能、霊力を有し、なおかつ森を奪われた恨みも大きい人狼たちなどが、その際たる存在だろう。
ほかにも、力や知能の高い種族などはいくらでもいる。ここで人間の存在を主張しなければ、いつ取って代れるかもしれない。それくらい、この抗争には種族的な高い駆け引きが必要とされていた。
「しかたがない・・・わね」
 覚悟を決めたように、女性は目をつぶる。
 ピートもその口から発せられる一言を聞き逃すまいと、固唾を呑む。魔族の青年は、人間がどのような対応をするのかと、考えをめぐらせているようだ。
「じゃぁピート君。前歯を折りなさい」
「はぁ?」
 ピートは意味が割らずに、素っ頓狂な声を上げる。
「だって、そうでもしないと人間側としてはどうしようもないわけだし、そうなったらことは魔族だけではいかないのよ。だったら、人間側として有能なスウィーパーを送る。これなら彼らをけん制するって意味でもいいと思うのよ」
 ・・・だそうである。要するに、ヴァンパイアである特色のうちのひとつ、牙を折り、人間に見せかける、という作戦のようだ
正論といえばそうだが、あまりにも現実を無視したような気もしないでもない。
(・・・隊長、相当まいっているな・・・)
 少しかわいそうな目で。ピートは目の前の上司を見つめた。

 結局、有能なGSを紹介することを前提にピートは歯科医へいくことを免れ、ビルから離れることができたのであった。


「粗茶ですが、どうぞごゆっくり」
 ピートの前に、コン、とお茶の入った碗が置かれる。
「はい、すいません」
 彼は照れたように、お茶を差し出してくれた少女を見上げる。なにぶん座っているものだから、見上げてしまうのも無理もない。
 今、彼らは先程までテレビを見ていた部屋、リビングに戻り、のんびりとしていた。
 とはいっても、のんびりとのほほんしていたのは誉人と、彼と一緒にいた少女、ペコと呼ばれていたが、彼らだけであった。
 対して客人であるピートは、客人の持つ特質的な落ち着きのなさ以上に、落ち着きがない。
 先程から膝をさすったり、腕時計にちらちらと視線を這わせていたりしている。
 実際誉人の家は、外見からもわかるように大きな室内にゆとりのある内装で、金に余裕のあるものにしか判らない独特の暇とも呼べる空間をかもし出していた。めったにこういった室内を拝めないものでは、多少ぎこちなくなってしまうかもしれない。
 とはいえ、彼は世界最高峰のスウィーパーのグループ、Gメンに所属していると名乗っていたので、なかなか稼ぎはいいはずだ。この家が多少はお金持ちだったとしても、それにたいして落ち着きがないわけではあるまい。
「ええと、お父さんとお母さんはまだでしょうか」
 ピートはもう何度目かの質問を再び繰り返す。
「ええ、申し訳ないですね・・・今夜はかなり遅くなるみたいですね」
 誉人も、何度目かになる返答を、疲れたように返す。言いながら、誉人の右手には受話器、これで両親のケータイへと連絡を行っているのだが、一向につかまらない。おそらくまだ仕事中なのだろう。彼らは仕事中は、ケータイの電源を切っている。霊と戦うことになったときに、いきなり呼び鈴の音がしてはいけないことを考慮していたからだ。
「・・・つながらないですね。じゃぁ、僕でよかったら伝言なんかしておきますけど」
 ピートは、腕を組むようにして、黙考していたが、
「いや、いいですよ」
といってから、席から立ち上がる。
「じゃぁ、僕は今日は帰りますから。もしお父さんと大母さんが帰ってきたら、アポを取っておいてください。予定は僕からあわせるけど、三日以内に連絡がつけばいいですので」
 そういって、彼は帰っていった。


「イヤー、今夜もまた冷え込みますなぁ」
 燃え盛る火を囲み、男の一人がそう漏らす。全身を黒っぽい緑色の軍服に包まれた、青年である。肩には帯剣しており、腰に精霊石をこめた銃をぶら下げている。ここの守衛が標準的に装備を命じられる格好だ。
「秋だってのに、妙に寒い・・・こうなったら『夜だけ冬』みたいな名前に変えてもいいと俺は思うぞ」
 またもう一人が、くだらない呟きを発した。
 彼らの後ろには、大きな倉庫のようなものがあり、その入り口のすぐ横には、
『為戦重要証拠物件保護管理庫』
と、なにやらそら恐ろしい文字が・・・
「俺たちこのまま二百年はここの守衛なんかして、全然出世してないんだぞ。これじゃ故郷にいる貧乏なかーちゃんたちに合わせる顔がねぇよ。おまけにこんな薄ら寒いとこで守衛だなんて、俺の人生はなんだったんだ?」
 とまぁ、守衛独特の愚痴をぶつぶつと二人して言い合っているのだが、これから就職やらなにやらは不景気の最中にある昨今では到底難しい話なので、結局はこんな職場しかないのだが・・・
 と、ぶつぶつ文句を言っていた二人から、やや離れる場所に影が現れた。警戒体制を敷きやすくするために、雑物がなく見晴らしがよい上、幸いにも火をともしたので二人にはその気配に感づくことができた。
「だれだ!!」
 すぐに二人は、腰にぶら下げてある銃を引き抜く。この場には自分たちしかいない上に、もしほかの守衛がここに来ることになっても、何らかの形で連絡が来るはずだ。
 なんにしても、この影の正体は怪しいものであることには、違いはない。
「もうお気づきになられましたか。さすがに対応が早いですね」
 影はそういいつつ、ゆるりと姿を現した。
 それは男だった。長いコートに派手なベルトや、バックルを妙に多く取り付け、とがった頭を治そうともしないようにとがらせきっている。そして一番不自然な点に、顔の周りを包帯でぐるぐる巻いていることであった。
「きさま、だれだ」
「ああ、僕のことは気にしなくていいですよ。名前が割れるとお尋ね者になっちゃうじゃぁないですか」
 男は、諸手をふりふりと振ると、そのまま万歳して見せた。
「ほら、武器なんて持っていないですよ。ちょっと話し合いに来ただけですので」
 守衛たちは顔を見合わせると、一人は男に接近していき、もう一人は銃を構えたまま男の横手に回りこむ。
 侵入者に接近して行った男は、そのまま男の体を触り身体検査を始める。
「ああ♡そんなところまで触らないでください♡いや、感じるぅ」
「真面目にやらんか!」
 とりあえず、適当にぺたぺたと男の体をお触りしてから、何の武器の携帯をしていないことを認める。
「・・・で、何を話し合いたいんだって?」
 武器を構えた守衛が、男を促す。
「ええ、ちょっと貸してもらいたい物がありまして」
 男の言葉に首をかしげる守衛たち。自分たちに貸せるほどの何かがあったろうか。年中貧困にあえぐ自分たちに。
「何をだ」
「ええ、その倉庫の中身を」
 その言葉をつぶやいたとたん、侵入者の瞳の中に、凶気が走る。
「侵入者だ!!」
 守衛の一人は、すぐさま胸ポケットに入っていた笛を吹く。カン高い異音とともに、この一体の守衛が駆けつけるはずだ。
 それと並行するように、銃を構えていた守衛は、すぐさま発砲する。
 低い発砲音とともに、その破壊の権化は解き放たれる。世界をまばゆく照らしながら、獲物に貪欲に喰らいつこうと突き進む弾丸。その弾丸は、男の右肩口へと被弾し、さらには内在する力をすべからく解き放つ。
 着弾する衝撃に、男の右肩は木っ端微塵に吹き飛んだ。
 吹き飛んだはずだった。吹き飛んだはずでは・・・
 侵入者はいまだ健在であった。確かに、被弾した瞬間腕は吹き飛んだはずだが・・・
「ちょっと、痛いじゃないですか。死んだらどうするんです。葬式を行ってくれるんでしょうね」
 男は迷惑そうにそういうと、こちらにじりじりと近づいてくる。
 その恐怖心から、守衛の二人はさらに銃弾を畳み掛ける。
 夜空に舞う無数の閃光。光り輝く線たちは、その存在を自ら確かめるように、獲物に当っては圧力と音へと変換していく。 
 その衝撃に男の体はぶれ、震えた。
が、衝撃がやんだときに現れたのは、五体満足な男が立っていただけであった。
「いったいじゃぁないですか。本当に。こんなことをしてたら僕も本当に怒りますよ」
 緊張感のかけらもない男は、大きく手を広げ、それが何かの意味をあららしているかのように、示唆した。
 守衛たちは、顔を見合わせて帯剣していた刃を、一気に引き抜く。
「言っても、無駄ですか」
 侵入者は深くため息をつくと、守衛たちへと向かっていった。
「うああああ」
 気迫をこめた剣気を放ちつつ、守衛たちは侵入者へと向かっていった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa