彼は確かに存在したのだから・・・(後)
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/ 1)
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2時間後・・・白井総合病院502号室
「おキヌちゃん、脳波にも以上なかったし。三針縫っただけなんから・・・」
「・・・・・・・・・」
おキヌは美神の言葉に耳を傾けながらも返事を返すことはなく、ジっと静かな寝息を立てる横島を見つめ続けた。
あらかたの事情は聞いた美神がタメ息をつきながら「何か飲み物を買ってくるわ」と病室を出ると、
会話を交わす者がいなくなった502号室は沈黙に包まれた。
(・・・・・・・お願い目を覚まして・・・・・私・・・・私は・・・あなたが・・・・)
ギュっと眠る横島の左手を両手で握り締める。
生きているという証明が温もりを通じておキヌ伝わる・・・そして・・・
「ん・・・」
「!?・・・・横島さん!!」
「あ、あれ・・・・おキヌちゃん・・・・」
「大丈夫ですか!?動いちゃダメですよ!!頭ぶつけてるんですから!」
おキヌが涙を浮かべながら見つめるのを横島はボォーっとしながら頷いた。
そして・・・・
「そっか
『俺』・・・・
メドーサに攻撃受けて・・・・マリアと一緒に大気圏に突入して・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・横島さん」
おキヌの横島の手を握る手が震える。
横島が言っていることは1か月前のこと・・・ならばこの1か月ことは・・・
「あれ?もう2月・・・?カレンダー間違ってんのか?」
チラっと壁に掛けられたカレンダーに目を移した横島の何気ない言葉・・・
それなのにおキヌの胸が締め付けられ、突き刺すような痛みに襲われる。
「ったく、花もないなんて美神さんも冷たいよなぁ〜〜!ねーおキヌちゃん?」
「・・・・・・」
「あ、あれ?」
横島は努めて明るく言ったみたつもりが、
かえっておキヌの表情は沈み顔を伏せ体を震わせる結果となった。
そんなおキヌからこぼれた言葉・・・
「・・・・ごめ・・・・な・・・さい」
「え!?あ、いや・・・そんな花くらい・・・」
おキヌの涙にギョっとしながら横島は上体を起こした・・・瞬間。
ギュッ!
それと同時におキヌが横島に抱きついた。
キツくキツく・・・まるで横島の存在を確かめるように・・・。
そんなおキヌの行動に横島は思わず赤面してしまう・・・だけど自分の胸がしだいにおキヌの涙で濡れていくのが分かる。
「ごめんなさい!!ごめんなさいッ!!」
おキヌの口から漏れるの謝罪の言葉、瞳から溢れるの後悔の涙、心に浮かぶのは罪悪感。
「え、いや・・・・あ、あれ・・・」
おキヌをなだめようとした横島の動きが止まる。
いきなり視界がボヤケ始めたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・涙で。
別に悲しいことが起きたわけじゃない、むしろ理由はともかく美少女が自分の胸に飛びついたのだ。
普通は美味しいシチューエションなのに・・・なぜか悲しくて哀しくて仕方がない。
「横島ざ・・ん!!ごめ・・・なさい・・・ご、ごめんなさい!うッ・・・うあっ・・
うああぁぁぁああああ・・・くっ・・・うぅあああぁぁああぁぁああ!!」
「何だよ・・・泣くなよ・・・ぐっ・・・おキヌちゃん泣くなよ・・・何で・・・ぐぅ・・
こんなに涙が出るんだよ・・・泣くなよ・・・泣かないでくれ・・・・よ・・・おキ・・・ヌちゃん
ぐ・・・・うああぁぁあ・・・ひぐ・・・」
儚き記憶・・・・いつか人は必ず死んでいなくなる。
でも死ぬことが一番辛いのだろうか、寂しいのだろうか・・・
誰にも覚えてもらえないこと・・・記憶に残らないこと・・・
それが一番哀しく、淋しく、辛いことでないのか・・・
なら・・・
あの横島は幸せだったのではないだろうか・・・
502号室から聞こえる二重奏の嗚咽を聞きながらドアの前で美神はブラックコーヒーを口に含みそう思うのだった。
そのコーヒーの味は少しだけいつもより苦い気がした・・・・。
fin
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あとがき
『今はひの記で手一杯なので『企画』に参加できません(^^;』
と、某チャット発言したユタです、おはよう、こんにちは、こんばんは。
・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・書いちゃった (ノД`)
罪悪感でいっぱいな投稿です、ああ・・・
「このうそつき優柔不断野郎が!!」
と、いう声が聞こえるようだわ(TT)
久しぶりに現在編なわけですが、凄い新鮮でした!
最近ひの記でオリキャラばかりでしたから、原作キャラ動かすっていうのはやはり楽しいですね(^^)
ひの記が終わったらシロやタマモを主人公にしたSSも書いてみたいなぁ〜と思う今日この頃でした♪
最後まで読んでくださりありがとうございますm(__)m
今までの
コメント:
- そう、彼は確かに存在したんです。
自分が自分であることの証明が、周囲の反応によって、過去の記憶が無いことによって崩れていく。
自分は一体なんなんだろう?
誰の為に存在しているのだろう?
自分に向けられた視線は、別の誰かに向けられている?
どうして、今ここに居る自分を誰もみてくれないのだろう?
切ない、本当に切ないことです。
だから今回の一票は、確かに存在した彼に奉げます。 (矢塚)
- うん。甘カユなお話、ごちそうさまでした。(^^)
おキヌちゃんがヒロインになると、本当に雰囲気が変わりますね。(私はこーゆーの好きですが)
さーて、止まっている横×おキヌの続きを書くとしますか(爆) (湖畔のスナフキン)
- 涙やな〜・・・。正統派のラブですね〜
やっぱりこの二人で奏でる話は何処か癒しを感じます。
記憶が戻らなかった場合こうなるのか。と言うお話とても面白かったです。
記憶に残らない・・・消えるより悲しい。けど、彼は幸せだった筈だ。 (えび団子)
- 記憶喪失中の人格が、独立した自我を持つ別の人格だったとしたら……
元の人格を求める周囲の反応が痛くて耐えられないでしょうね。
死ぬのとも違って本当に消滅してしまう人格なら、せめて誰かの心の中にとどまりたいと。
何だかルシオラたちに通じるものがある気がしてきました。俺だけか?
そんな横島クンとおキヌちゃんの切ないラブストーリー、お見事でした。 (U. Woodfield)
- すみません、なぜかブランコの揺れる音に笑ってしまったマリクラです(挨拶)
ユタさんの隠し芸の原作裏話、すごい久しぶりでした。
なんか、原作のあの記憶を取り戻す場面をこの作品と差し替えてもいいくらいの出来だったと思います。
最後の横島クンがおキヌちゃんと一緒になって、なぜか号泣してしまうシーン。
今の横島クンも、記憶を失って悩んでいた横島クンも、やはり同じ横島クンだったんだ、と教えてくれてますね。
誤字とかちらほら見かけられましたが、「あたおも」「ひの記」を通して、ユタさんの「人気作家」の名前に負けないくらいの成長を感じることができました。
忙しい中の投稿、お疲れ様でした。 (マリクラ)
- 切ないですね、この話・・・・。
横島vおキヌのラブ話かと読んでいたら、全然違っていましたね。
周りの反応、記憶を失った横島の苦悩、記憶を失った横島の愛の告白を拒絶するおキヌ。
そして、記憶を取り戻した横島に抱きついて、泣きながら謝罪するおキヌ。
そして、無意識の内に涙が出始め、いつの間にか号泣する横島。
>そのコーヒーの味は少しだけいつもより苦い気がした・・・・。
この文章の意味、何となく分かるような気がします。
本当に切ないラブストーリーでした。
投稿、お疲れ様でした。連載の方も頑張ってください。 (TAITAN)
- 極楽全編を通して、こういった場面で心から『他人のため』に行動できるのは、確かにおキヌくらいであると思います。――月並みではありますが、自らが確かに存在したという証を求める『横島』の切なる思いにもそれはそのものとして頷けます。
ほろ苦く、そして少しだけ温かい話でした。
投稿、お疲れ様です。できれば企画にも参加してほしいカナ?(←台無し)w
(ロックンロール)
- 記憶は人格を形成する要素であり、他者との絆の証でもあります。
横島が求めた絆とおキヌが求めた絆は異なる物でしたが、そのすれ違いと苦い思い出すらも一つの記憶であり絆なのでしょう。
と、小難しい事を書きましたが、一番印象に残った事は唯一つ。
斯様な好青年をセクハラ小僧に変えてしまうとは、記憶が人格に与える影響って凄いなあ(笑)。
投稿お疲れ様でした。 (dry)
- 正直、読み始めたとき、これほど読後に感動するとは思ってませんでした。
記憶喪失の時の人格の横島―――彼もまた横島なのですね。
彼の気持ち、想い、そして存在は何時までもおキヌちゃんの中に残ると思います(^^)
投稿お疲れさまでした。 (NGK)
- 切なくて、締め付けられて、涙の溢れそうなお話。
こういうの苦手なんですよ。涙腺弱いんで。(涙)
うう・・・それでも感動でした。(涙) (KAZ23)
- 誰も死んだわけでもないのに、確かに失われた誰か。
仮初の存在とはいえ、それもまた思いの一つとなるのでしょう。
実にほろ苦い、それでいて甘いお話でした。 (赤蛇)
- 確かにこれはハートフルでした(挨拶)
いや、正直こういうアプローチもありだと思います。素晴らしいです。心にしみました。
ユタさんの新たな一面を見ることが出来た気がして、とても楽しい気分です。いや、本気で(笑)
素敵な作品に感謝しつつ、賛成の一票を投じさせていただきます。 (ロックハウンド)
- 矢塚さんへ
今回このネタを思いついたときは『革新的だろぅ!?』と思ったんですが、
よく考えたら前に矢塚さんがドッペルネタで同じことしていたのを思い出してヘコみました(笑)
そんな先駆者の矢塚さんにコメントもらえて嬉しいです(^^)
湖畔のスナフキンさんへ
お粗末様でした(^^)
やっぱりおキヌをヒロインに持ってくると扱いやすいですね、
なんて言うか正統派な話しを作るにはもってこいですw
スナフキンさんも止まってる時間をそろそろ動かして下さいよぉ(ニヤリ) (ユタ)
- えび団子さんへ
なにげにえび団子さんにコメントもらうの初です!ヤター(笑)
横島×おキヌってお約束のカップリングかもしれませんけど、
いい話作りやすいですよね^^
U. Woodfieldさんへ
そうですね、この儚さはルシオラ達に似てるかもしれません。
真面目横島が二次の性格からには元に戻って自分が消える恐怖を抱えていた・・という可能性もありますね。
でも、おキヌの中に自分の存在を残した彼はきっと幸せだった・・・と思います。
コメントありがとうございますm(__)m (ユタ)
- マリクラさんへ
マリクラさんにコメントもらえたのって何気に半年振り以上な気がしますね(笑)
さて、レスですが・・・
もうこれでもかっていうくらい褒めてもらえて嬉しい反面少しの驚きと怖さを感じてしまうボクはどうしたんでしょう?w
冗談は置いといて『原作にあってもいい』と思ってもらえるのは嬉しいですね♪
これからもそう思ってもらえるような作品を仕上げるよう頑張ります(^^) (ユタ)
- TAITANさんへ
いつもコメントありがとうございます(^^)
このお話は実は真面目横島とおキヌとラブSS・・・っていう構想から始まったんですが、
それじゃあ元の横島が可哀想だからこういう結果になりました^^;
人間の味覚は感情によって違うらしいですからね、コーヒーの演出分かってもらって嬉しいです(><)連載のほうも頑張りますんでよろしくお願いします♪
ロックンロールさんへ
そうですね、原作キャラの中で人のために何かが出来るのはおキヌ・・・
・・・・・と、女華姫くらいでしょう(爆)
ロックさんのいうとおりホロ苦さと少しの暖かさを感じてもらえたなら幸せです♪ (ユタ)
- dryさんへ
そうですね、二人思いはすれ違ってはいたけど、
それはそれで大事な絆なのでしょう・・・。絆・・・ああ、いい言葉やぁ〜(TT)
>斯様な好青年をセクハラ小僧に変えてしまうとは、記憶が人格に与える影響って凄いなあ
確かに!(爆笑)
NGKさんへ
ああ・・・ごめんなさい、今回はごめんなさい(TT)
何で謝ってるかっていうのはおそらく志狗さんとマリクラさんとNGKさんだけしか分からないですねw
NGKさんに感動してもらえたことに感動しております (ノД`) (ユタ)
- KAZ23さんへ
あなたの涙腺を緩ませたことが出来て幸せです(ぉ
次はKAZ23さんの感涙話を待ってますよぉ(ニヤリ)
赤蛇さんへ
生命が失われたわけではない、でも確かに一つの存在が消えた。
そこの所を読み込んでいただき感謝です (ノД`)
コメントありがとうございましたm(__)m (ユタ)
- ロックハウンドさんへ
>確かにこれはハートフルでした
ダッテ僕ハートフル作家ダモン(・_・)
ええい!反論は許さん!(笑)
感動部門をハウンドさんの独壇場にするわけにはいかないので僕も混ぜてください(^^)
>ユタさんの新たな一面を見ることが出来た気がして
今までどういう目で見てたんですか!!?
全く!面白いこと言わないで下さい!!!w
コメントありがとうございました^^ (ユタ)
- なぜか今更コメントを書いてみます(笑
原作であの話はギャグでしたけど、確かにこういう見方をすることもできますよね。
目から鱗です。お見事でしたm(_ _)m (紫)
- 紫さんへ
いえ、コメントありがとうございます^^
紫さんの目から鱗を落とせる作品に仕上げることが出来て至福です (ノД`)
これからも頑張ります! (ユタ)
- 良いお話でした。
こんなに良いお話にコメントが遅れたのは。け、決して企画に参加してくれないのを快く思わなかったからとか、「ひの記に専念する」という言葉に反していたのにわだかまりを感じたとかではないのです。……たぶん。ってゆーか、良いお話だからこそ何をコメントしたら良いか迷ったとゆーかコメントを考えるのに時間がかかったとゆーか。
しどろもどろですがともかく横島くんが釣られて号泣するのに釣られて私も涙が出ました。
話の展開の仕方などもユタさんらしさを感じて面白かったです。
では「ひの記をひと段落させてからの企画への投稿」楽しみにさせていただきます(凍笑) (斑駒)
- 良いですねぇ・・・。
思わず涙が・・・いやぁ、良いです、ハイ。
泣けるお話をかけるのって、本当にうらやま・・いえ、尊敬します。
ひの記の続き、期待してます!
たいしたこと言えなくてすみません(汗) (月夜)
- 斑駒さんへ
ううぅ・・・あうあう・・・何気に斑駒さんからコメントもらうのって凄い久しぶりで涙が(TT)
で、・・・・・ああ!すいません!
自分で言ったこといきなり破って!電波がだって電波がぁぁ!
ひの記のほう終わりましたら酷薄企画のほう必ず参加させてもらいますので (ノД`)
コメントありがとうございましたm(__)m
月夜さんへ
月夜さんコメントありがとうざいます(^^)
あなたがGTYの存在を知ったことに僕の作品が役に立ったと思えると嬉しくてありません。
そして、かなりの実力者な月夜さんの参加を心から喜んでいます♪
これからもお互いGTYで頑張っていきましょうね!!(握手) (ユタ)
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