彼は確かに存在したのだから・・・(中)
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/ 1)
翌日・・・
祝日を交えた三連休の初日ということで街中は人ごみでごった返していた。
そんな中楽しいそうに会話を交わしながら歩くバンダナ少年と青髪の少女のカップル、
ときどき冗談で笑いあいながらウインドウショッピングを楽しむ横島とおキヌはどこから見てもお似合いの二人という感じだった。
ただ違うのは、いやちょっとだけ違和感があるのはおキヌほうか・・・
────「あ、横島さん!あそこの百貨店にちょっと寄っていいですか!?」
「あ、うん。全然いいよ」
────「横島さん!今度はあのお店で服見ていいですか?」
「OK」
────「あの祠でおまいりして行きましょう!」
「うん」
と、まるで横島を引っ張るように積極的に行動していた。
おかげで太陽が傾く頃には横島は足がクタクタに疲れてしまったがそんなものはおキヌの笑顔を見るだけで吹き飛んだ。
おキヌの声、表情、笑み・・・そんな当たり前の仕草が横島の心を癒していく。
(・・・・何をヘコんでいたのだろう、確かにクラスのみんなは僕に馴染めないみたいだけど・・・いるじゃないか・・・
ちゃんと、今の僕をありのままで見てくれる人が・・・・)
おキヌちゃんがいる・・・それだけで・・・
■
「くはー!今日は遊んだねー!」
「あ、ごめんなさい・・・何か連れまわしてばかりで」
「そんなことないって、僕も凄い楽しかったし!」
斜陽に赤く染められた丘の公園のブランコに座りながら二人はしばし休息を取る。
もうすぐ日が沈み一家団欒の食事を楽しむ時間が近いせいか、公園に子供達の姿はときおり犬の散歩で人が通るくらいだった。
はじめは今日のデートの感想や学校のことを話していた二人だがしだいに会話がなくなり沈黙が訪れる。
ギィ・・・・・ギィ・・・・・
二人以外誰もいない公園にブランコの鎖が支柱こすれる音が響く。
そんな静寂の世界を崩したのは横島のほうだった・・・
「あのさ・・・おキヌちゃん・・・」
「は、はい!」
不意に名を呼ばれ少しだけおキヌの声が上ずった。
横島は少しだけ間を空けると静かに口を開く・・・
「僕達が・・・・・・・・・恋人だった・・・っていうの・・・・・あれ、西条さんのウソだよね?」
「えッ!!?そ、それは・・・・」
おキヌはその問いに答えが詰まった。
────彼女は君の恋人だよ。
────こ、恋人!?知らなかった!そんなことがあったなんて、ちっとも!君みたいな可愛い恋人がいたなんて嬉しいよ!
────え!?・・・・えっ!
横島が記憶喪失直後起こった出来事だが、その場では何も言わずそれからもタイミングがつかめずお互い何も言わずのままだった。
事実はどうあれ横島はそれを信じてはいたがおキヌの自分に対するリアクションに少しだけ疑問を持っていた。
今日のデートも恋人というには少しだけ物足りない・・・言葉には出来ない違和感を感じていたのだった。
「あの・・・その・・・」
「あ、いいんだ!別に責めてるわけじゃなくてさ・・・・・・ただ、前の僕とはどういう関係だったのかな・・・って」
「か、関係ですか!?・・・あ、・・・その」
当事者である横島からの質問におキヌは顔を真っ赤にして答えを考えてみる。
恋人?友達?同僚?兄妹みたいなもの?どれも当てはまりそうで当てはまらない・・・そんな関係を何ていうんだろう。
おキヌがそんなことを考えていると・・・・
「僕さ・・・最近少し落ち込んでたんだ・・・」
「え?」
「クラスメイトや先生は・・・何か僕じゃない・・・・前の僕ばかりを見てる、求めてる・・・
まるで今の僕は存在しないほうがいいみたいに・・・」
「そんなこと・・・」
「ううん、分かってる・・・・でも、いいんだ・・・・ちゃんと今の自分を見てくれる人もいるから」
「え・・・」
ガチャンッ!
横島は少し乱暴に立ち上がるとおキヌを真摯な瞳で見つめる。
おキヌもそんな横島につられ立ち上がると・・・・・・・・・・・横島はそっとおキヌの手を握った。
暖かい手の温もり・・・横島の体温を感じておキヌ頬がカーと紅くなる。
「僕・・・・じゃダメかな・・・」
「え・・・あ・・・それって・・・・」
横島の照れた表情が視界に入った途端におキヌの胸の鼓動がニトロでも入れたかのように加速する。
頭の中がまるで霧に包まれたように白くなる、喉の辺りが震える・・・心臓が期待でハチ切れそうなったとき・・・
「おキヌちゃん!・・・・・す、好きです・・・ぼ、僕と付き合って下さい!!」
気絶・・・・・・・・するかと思った。いや、事実気絶しかけたおキヌ。
いつも、いつでも夢見てた瞬間・・・それが間違いなく現実に起こっている。
横島からの告白、夢のような出来事・・・・。でも夢はいつも現実が打ち崩す。
「おキヌちゃんって僕のことを例え同情でもいつも構ってくれるし・・・」
────チガウ
「前の僕にはなれないかもしれないけど、それでも一緒にいてほしいし・・・」
────チガウ
「僕・・・・おキヌちゃんに釣り合うよう努力するから・・・」
────チガウ
「やっぱ誰にもわけ隔てなく優しいとこが・・・・あははは!」
「違います!!!」
「!!?」
告白のあと一人照れている横島におキヌの叫びが飛ぶ。
その表情にあるのは『悲しみ』・・・・
「あ、・・・・やっぱ僕じゃダメだよね?」
「違う!違うんです!!」
首を横に振りながらおキヌの瞳からポロポロと涙が溢れる・・・。
横島はそんな彼女に少しだけ戸惑いながらもそっと肩を寄せた。
「僕・・・・真剣なんだ・・・!」
両肩に添えられた横島の手が熱く感じる。
交わる二人の瞳、近づく二人の顔、そして・・・あと1cmで口唇が触れる・・・・瞬間。
「・・・やっ!!」
ドンッ!
おキヌは顔を背けながら横島を両手で押した。
ヨタヨタと後方に2、3歩下がった横島の表情をおキヌは見る・・・そこに浮かぶのは『拒絶された悲しみ』
少しだけ・・・ほんの1、2秒のときがおキヌには永遠にも感じた。
そしておキヌの取った行動・・・それは・・・逃避。
「あっ!」
横島が声を掛ける間もなくおキヌは一目散に振り返り走り出す。
風に流される涙がポロポロと宙を舞い、嗚咽を漏らさぬよう右手で口を押さえるおキヌ。
(違う・・・・私は・・・優しくなんか、いい子なんかじゃない・・・)
横島の先程の言葉を思い出しさらに涙が溢れてくる。
なぜなら・・・・今日のデートは・・・
────横島の記憶を取り戻させるためなのだから
そう、今日のデートコースは全て以前横島と仕事やプレイベートで訪れた場所だからだ。
少しでもいい、以前の横島を取り戻そうと・・・・
おキヌはそんなことを全く知らず自分へ告白してくれた横島と目が合わすことが、その場に一緒にいることが出来なかった。
自分が汚い、卑怯な存在に思えてしかなかった。
(・・・・最低・・・・私って最低だ・・・・)
自己嫌悪から正常な思考が成り立たないおキヌ。
人間に何かが起こるときはそういう不注意なとき・・・
パ────パウ────パパパ────!!!
「!!?」
けたたましく鳴り響くトラックのクラクション。
無造作に道路を横断しようとしたおキヌの目に入ったのは眩しいくらいの光。
その光の中におキヌの意識が飲まれて、命が散ろうと思ったそのとき・・・
「おキヌちゃん!!!」
その声と共におキヌの体がグイっと引っ張られ一気に反対側の歩道まで運ばれる。
ガンッ!!
5秒後・・・
ザワつく周囲の声にゆっくり目を開ける・・・何で助かったかはよく分からない、
とにかく自分の体はどこも痛むところはなかった。
だが・・・
「よ、横島さん!!」
起き上がったおキヌの視界に入ったもの・・・それは自分を抱きかかえる形で地面に転がる横島の姿。
さらにその額から勢いあまって壁に頭でもぶつけたのかダラダラと流血していた。
「ま、待ってて下さい!!今ヒーリングを!」
ポウと放たれる淡い光の中で横島はゆっくり意識を取り戻していく。
「・・・・や・・・っぱおキヌちゃんは暖かいなぁ・・・」
「違うんです!!私は・・・私は・・・・」
何かを必死で訴えるおキヌに横島はそっと首を振った。
「いい・・・んだ・・・本当は・・・分かっ・・・てたんだ・・・。僕を通して・・・・前の僕を見て・・・たって・・・
でも・・・欲しか・・・った。今の・・・僕が・・・存在した・・・って証明・・・が」
「横島さん・・・」
「だから・・・もし・・・次に目覚め・・・ても、今の・・・僕だ・・・・ったら・・・う、うぐっ!」
「横島さん!!横島さん!!!横島さあぁーーーんッ!!」
おキヌの絶叫が夕陽に照らされる車道にむなしく響くのだった・・・
『後』へ続く
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