彼は確かに存在したのだから・・・(前)
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/ 1)
轟々と大気圏との摩擦で燃え上がる肉体、しかし竜神の加護へた少年とアンドロイドの少女は燃え尽きることはなかった。
『横島さん・どこへ・落ちたい?』
「いやあぁぁあああぁ────ッ!!美神さーん!おキヌちゃーん!!」
宇宙からの帰還を果たした少年の目覚め。
「横島さん!よかった、もう会えないかと・・・!!」
ほっと安堵の息をもらす仲間達・・・・・・・・・・しかし
「ふ、不思議な人たちですね・・・手品師・・・ですか?」
失われた記憶。
「ボクは令子ちゃんの恋人で西条っていうんだ!君は僕を兄のように慕っていて、言うことは何でも聞いてくれていたんだよ!!」
「なーんだ、そうだったんですか・・・!!」
「横島!お前俺に借金があるんだぜ!!」
「横島さんは小鳩と結婚しましたっ!!」
好き勝手に記憶を刷り込むライバルとクラスメイト達。
「そこの君!!どっちが本当なんだっ!?前半!?それとも後半ッ!?」
「うっ!そ、それは・・・・・・・・もちろん、前・・・いや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後半・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かな?」
「なぜ目を逸らす?」
究極の質問に優しい(苦しい)ウソをつくしかないヴァンパイアハーフ。
「あれの方がどーかしてたのよ!あんた、女性としてあんなセクハラ放っておいていいのっ!!?」
「でも・・・私、横島さんは横島さんだから好きなんだもん・・・!バカでスケベでも────やっぱり元の横島さんのほうが・・・」
「・・・・・・・・・」
葛藤する少年の上司と同僚・・・
その後・・・少年、横島の記憶は同僚の少女、おキヌの機転と上司の女性、美神の左ストレートで蘇る・・・。
しかし・・・・もし、そのとき記憶が戻らなかった場合はどうだったのだろう・・・
今回はそんな『if』・・・パラレルワールドのお話。
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■
がちゃっ!
ゆっくりとバスルームに入った横島の視界に入ったもの・・・それは抜群のプロポーションの美神の裸体。
スラっと伸びた四肢、豊かなバスト、くびれた腰、健全な少年なら誰もが欲情するような肉体に横島の目が皿のように丸くなる。
当然条件反射で美神はバスタオルで体の前面を隠すと、今後の展開を予想し瞬時に左拳を作った。
しかし・・・
「う、うわぁぁッッ!!す、すいませんッ!!!!」
「へ?」
がちゃ、バタン!!
美神の予想と反し横島は顔を真っ赤にしながら風のようにバスルームから去っていく。
そんな横島の反応に今度は美神の目が丸くなるのだった。
20分後・・・
いつもどおりの服装に着替えた美神が事務室に入ってくる。
そこにいたのは何ともバツの悪い表情をしたおキヌ、そしてまるで怒られた子犬のように落ち込む横島の姿だった。
そして、横島は美神が入ってきたのに気づき瞬時にその前に移動すると・・・
「美神さん!!すいません・・・・本当にすいませんでした!!」
なんとその場で土下座してみせた。
「ちょっ!あ、あんた!!」
「よ、横島さん!!?」
以前の彼とは全く違う行動に美神とおキヌは戸惑いながらもゆっくり立たせた。
「ち、違うんです!!横島さんが悪いじゃなくて私が!!」
「え?」
「へ〜・・・どういうことかしらおキヌちゃん・・・?」
いつもは横島に向けられる美神のジロっと睨む視線に「あうあう」と顔に縦線を走らせるおキヌ。
横島は一体何だろう二人を交互に見つめているとやがて美神が「はぁ〜」っと大きく息を吐いた。
「まあいいわ、大体分かるから。そんじゃもう仕事はないから横島クンは帰ってよし、
おキヌちゃんはちょっと残ってくれるかしら?」
「「はい」」
二人が同時に返事しその日の美神除霊事務所は解散となった。
横島が退室し美神と二人きりになるおキヌはやっぱり怒られるんだろうなぁ〜と覚悟を決め美神の言葉を待つ。
「おキヌちゃん・・・」
「は、はい!!・・・あ、あのさっきは本当にごめ・・・」
「違うわよ」
「え?」
美神のその言葉に少しだけ驚いた表情を見せてからおキヌは「じゃあ何かな?」と少し考える。
「おキヌちゃん・・・横島クンのことはしばらくそっとしておきなさい」
「え?で、でも・・・」
今の『真面目横島』肯定派の意見におキヌは少し抗してみる。
なぜ記憶を取り戻させるのがいけないのか、前の横島にそんなに戻って欲しくないのか、
そんな感情がちょっとだけ表情に出た。
「別に記憶を取り戻すのが悪いとは言わないわよ・・・・でもね・・・」
「でも?」
首をかしげるおキヌを見つめながら美神は遠い目をしながら言った。
「今の横島クンも・・・・横島クンなのよ。・・・・・それを忘れないでね」
「え・・・は、はい・・・」
そんなことは十分分かっているのに・・・おキヌは美神の言葉を不思議に思うのだった。
■
それから一週間が経った。
人格者となった横島の生活態度は180°変化を起こす、
学校での生活態度はいたって真面目、宿題は元より予習復習は欠かさず居眠りもしない。
私生活でも自炊、洗濯をこなし主婦顔負けの節約術を実践しキツい生活費でも立派な一人暮らしをしていた。
そして、何より煩悩を失ったことで霊力が減退しているにも関わらず事務処理能力などの他の分野で立派に助手として活躍する横島。
以前の横島を知らない者ならさぞ彼を褒め称えいい友人関係を築けたろう・・・
そう・・・以前の横島を知らない者なら・・・
「おーい、横島ぁ」
自分の名を呼ばれ振り返るとメガネをかけたクラスメイト、佐藤一郎がニタニタと笑いを浮かべていた。
横島は机の中から教科書を取り出し「何?」と尋ねた。
「おい、今日の放課後ちょっと付き合えよ!ほら、一ヶ月前に話してた例の『裏ビデオ』が手に入ったんだぜ!?」
肩を組まれ横島は少し戸惑いながら返事を返す。
「な、ななな何言ってるんだよ!う、裏なんて高校生が見ていいわけないだろ!?
そ、それに今日は掃除当番だってあるし!!」
しどろもどろになりながら誘いを断る横島に佐藤は最初は驚いたものの、
最後はそんなリアクションを取る横島に冷めた視線を向けながら言った。
「そうか・・・ならいいや。・・・・ちぇ、前の横島なら喜んで飛びついてきたのによ」
「あ・・・」
立ち去るクラスメイトの背に少しだけ罪悪感を感じる。
そこに・・・
『横島クン!!今日の掃除当番はあなたよ!今回は逃がさないわよー!』
ビシィっと机妖怪の愛子に指を差された横島は少し後ずさりながらも笑いを作って応えた。
「う、うん。分かってるよ、ホウキで掃いてから雑巾掛けだよね?」
『え、あ、いや・・・分かってるならいいのよ』
「掃除当番だって学生の義務だよ、さぼったりしないって・・・さ、じゃあまずは机を運ぶかな?」
『あ、うん・・・』
愛子は横島の支持に従いながら自分が宿る机を教室の後方へ運ぶ。
横島が取っている行動は学生として、人として当たり前の行動だ、
それを毎回毎回「俺は権利は好きだが義務は嫌いなのだー!」と逃げられた日々を思いこす愛子。
だから、今見てる光景は望んでいたはずなのに・・・
『何かモノ足りないなぁ〜・・・』
「・・・・・・・・・・」
不意にもらした愛子の言葉を横島は敢えて気づかないフリをするのだった・・・。
■
「・・・・・・・・・・・」
PM6:10、自分のアパートへ戻った横島は一ヶ月前とは見違えるほどキレイになった部屋の畳にゴロンと横になった。
ときどきチカチカと点滅する蛍光灯をボヤァと見つめながら『今度買わなきゃ・・・あ、近くのスーパーが安く売ってたな』と考える。
そして、次は今日の学校の出来事を思い出してみる
────そうか・・・ならいいや。・・・・ちぇ、前の横島なら喜んで飛びついてきたのによ
────何かモノ足りないなぁ〜・・・
二人のクラスメイトの言葉が小さな棘のように横島の心に突き刺さっていた。
いや、何も今日始まったことじゃない・・・
初めは親切で話しかけてくれていたクラスメイト達が最近やけにヨソヨソしい。
いや、別にイジメとか避けられているわけではない・・・
ただ・・・
『前の横島のほうが面白くなかった?』
『つーかさ、記憶戻るのかな?』
『何か今の横島クンって違和感感じるよね〜』
という声が日増しに増えていた。
陰口ではないし、明るく直接言ってくる友人もいる。
そんなときは横島はいつも愛想笑いを浮かべながら適当に返すのだが家で一人になると少しだけ塞ぎがちになることがあった。
「前の・・・僕か・・・」
ポツリと言葉をこぼすと起き上がり押入れからアルバムを取り出しペラペラとめくってみる。
幼稚園の自分、小学校の入学式、家族とのクリスマスパーティー・・・そして・・・
美神を中心にして笑ってみせる自分とおキヌ。
確かにそれは自分・・・横島忠夫が写ったアルバムなのに『懐かしむ』という感情が沸き上がることはほとんどなかった。
「何だよ・・・」
まるで他人の思い出を覗き見してるみたいで気分が悪くなりそっとアルバムを片付ける横島。
そのとき・・・
コンコン・・・
「あ、はーい!」
部屋の戸を叩くノックに気付きゆっくりと開ける。
そこにいたのは・・・
「あ、よかったぁ。居たんですねぇ♪」
「お、おキヌちゃん!?どうしたの?」
横島の目の前に現れたのは六道女学院の制服のままスーパーの袋を手にしたおキヌだった。
「えへへ、今日は友達のウチにお邪魔した帰りなんです、それでもしよかったら横島さんのご飯を作ろうかな〜なんて」
「ほ、本当!・・・あ、でも美神さんが・・・」
「ふふ、忘れちゃったんですか?美神さんは今日から二日間出張ですよ?」
「あ、そうか!・・・・と、いうことなら、ささ!どうぞ」
おキヌの申し出に高級レストランのウェイターのようにこうべを垂れる横島。
そんな横島にクスクスと笑みを浮かべながら部屋へと上がったおキヌの足が止まる。
これが本当にあの小汚い小屋のような所だったのだろうかと・・・
そして、ふとキッチンに目を移す。そこにはおそらく昨日の晩に自分で作ったであろう『肉じゃが』が。
以前の横島の料理のレシピなど知れていたはずなのに・・・。
「横島さん・・・」
「何?」
「・・・・・・・・・・・・・明日・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デートしましょうよ♪」
おキヌの一言に赤面しながら横島の時(とき)が止まるのだった。
『中』に続く
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