ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦!「三人だけの晩餐会〜もしくは同窓会」


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 9/29)




 東京、赤坂。


 その一角にある高級ホテルのレストランのある円卓にある三人が座ってた。
 店内で静かに流れる小洒落たピアノ曲が、ほの暗い照明と相俟って、その場の雰囲気を演出している。
 来ている客も様々だ。カップル、老夫婦。
 中には接待目的で嫌々やって来ているようなビジネスマンの姿も。
 

 さて、ソムリエが私達のためにワインを持って来た。
 彼が持ってきたのは赤ワイン。
 それが三つのグラスにそれぞれ注がれてゆく。


 注がれたワインの色は深く紅い。それはルビーよりも深く、そして何よりも紅い色をしている。
 この場にはぴったりのワインかも知れない。私はそう思った。
 何故なら、彼女の髪も『紅かった』からだ。さすがにこのワインの色ほどではないが、
 それでも彼女の髪は赤い。しかもこれが地毛だというから、驚きではあるが。
 まぁ、いずれにせよ、神秘的ではある。


「じゃ、乾杯しましょうか?」

「そうだな……。」

「それじゃ、私達の数年、いや二十年ぶりの再会を祝って、乾杯……!」


 手に持ったワイングラスを三人とも軽くかざし、一口飲み込んだ。
 そして、私達は堰を切ったように喋り出す。


「いや、それにしても、神父もめっきり変わったわよねぇ、特にその大きなオデコ♪」

「大きなお世話だよ、美神君。そんな事言ったら、君も立派な二児の母じゃないか。」

「アラ?まだ私、令子に負けたとは思ってないわよ、ねぇ、あなた?」

「ん、あぁ……。それにしても本当に久々ですね、こうして三人で集まるのも。」


 そう。こうして集まるのは久々だ。美神君とは仕事の関係でよく会う事があるが、
 公彦君とはほとんど会う機会もなかった。まぁ、彼の仕事を考えると無理もないか。
 そのせいか、おかげで私と公彦君は話に華が咲せた。


「しかし、老けたねぇ、公彦君も。まぁ、私も人のことは、言えないがね。」

「エェ、本当に。でも、神父のオデコを見ると時が流れたんだなぁ、と思いますね。」

「君もか、ブルートゥス。君だって、皺が目立って、年よりも老けて見えるぞ?」

「ハハハ……。それを言われるとキツイなぁ……。」


 頭を掻いて苦笑いしながら照れる彼であったが、未だにその鉄仮面を外せないで居る。
 端から見れば、それは異様な光景にしか見えず、この店内にもその仮面を気にする視線がちらほらと。
 本人はその視線に慣れている様ではあったが、やはり気にはしてるみたいであった。


「………相変わらず、『見える』のかね?」

「えぇ。今はこれ(鉄仮面)を付けているからさほどではないですけど、それでも……。」

「そうか……、すまない。」


 彼の能力である、精神感応。後天的ではあると言え、それは未だに衰えを見せてはいない。
 あの一件以来、その能力も格段に弱くはなったがそれでもしかし、彼を煩わせているものであることは違いないだろう。
 関わった身としては、彼の能力が弱まったことは嬉しいことではあったが、それが根本的解決にはならず今も続いていることに、
 私は心苦しさを覚える。


「まぁ、もう諦めはついてますけどね。」

 
 そう言って、微笑む彼の顔は少し残念そうにも見えた。


「ナァ〜ニ、大の男二人してしんみりしてるのよ?そんなんじゃ、せっかくのゴチソウも不味くなるわよ?」  


 彼女はあっけらかんと明るく振舞いながら、私達に言った。
 そうこう会話をしている内に食事は進み、今、メインディッシュが運ばれてきている。
 やって来たのはサーロインのローストビーフ。厚めに切られたそれはシンプルな盛り付けで皿の上に載っている。
 それが三人の下にそれぞれ置かれていく。
 皿の上のローストビーフを切り、一緒に添えられているマスタードを付けて、口に頬張る。
 さすがにこういった店になると、美味しさもひとしおである。


 その後も私達は話を続けた。
 初めて会った時の事、
 その時の第一印象の話、
 現在の話、
 過去と現在を繋ぐその間の話、
 公彦君の研究の話や、
 もちろん、彼らの子の話も。


 こちらが知っている話、あっちが知らない話。
 私達三人が共有する話題もあれば、私の知らない話、公彦君たちが知らない話などなど、
 色々な話が飛び交い、楽しい食事を演出する。


 その会話の中でも映えて見えたのが彼女の笑顔。
 二十年経っても変わらないその笑顔は屈託が無く、彼女の性格をよく表しているようにも思えた。


 だが、今となっては彼女も人妻だ。それも私がよく知る相手の、だ。
 ………。何を妬ましく思っているんだろうか、彼女は人妻だぞ?それも公彦君の……。
 いや、しかし……、でも、なんで、こんな気持ちになるんだろうか?
 なんで、この気持ちが今になって湧き出てくるんだ?
 ……もしかして、私は諦めがついていないのだろうか?


 食事にも終わりが近付いていた。
 テーブルには季節のデザートの洋梨のタルトが運ばれてくる。
 食べ終わると、何も無くなった皿が三つ。
 それを給仕が運んでいくと、しばらくして食後のコーヒーがやって来た。


「あ〜、美味しかったわ、たまにはこんな感じで三人で食べるのも良いわねぇ。」

「あぁ、本当に。でも、話が楽かったせいで、味の方をよく覚えてないけどね。」

「アラ、そんなこと無いわよね?しんぷ……、神父?」

「ん?あ、あぁ、なんだい?」

「どうしたの?随分、深刻な顔してたわよ?」

「い、いや……、なんでもないさ。」

「そぉ?」


 彼女の声に気付くまで、私は考え事をしていた。あの事を言うべきか、言わないべきか。
 言えば吹っ切れるだろうが、それを公彦君の前で、言い出すことでもないだろうし、自分が胸の内に秘めておけばそれで済む。
 第一、一度は諦めのついたことだ。今更、悩んでもどうにもならないことではあるが……。
 変な感じだ。20年経った今、この事で悩んでいる自分が居るなんて。笑うしかない。
 さて、どうしたものか……。


「……………、ちょっとトイレに行って来る。」


 公彦君はそう言って、席を離れた。残された私達は黙っているのも嫌なので、何か話すことにした。


「……二人きりね。何か話しましょうか。」

「そうだね。」

「そういえば、今日はひのめちゃんの世話、どうしたんだい?」

「あぁ、令子に任せたわよ。あの子がやらなくても、遊び相手も、お世話係も大勢いるし。」

「まぁ、そうだね……。」


 ……今なら、話しても差し支えはない。脳裏にそんな考えがよぎった。
 でも、いいのだろうか?彼女に言っても。いきなりこんな事を言いだして、変な顔されないだろうか。
 ……えぇい、駄目で元々だ!


 私はコーヒーをグイッと一口で飲み干すと、美神君の方に面と向かう。
 が、いざとなってみると少し気恥ずかしくなってきた。そのせいかもしれないが、少しに苦笑いしてから、彼女に言った。


「美神……、いや、美知恵君。今だから言えることなんだが……。」

「何よ、神父ッたら、いきなり真顔なんかになっちゃって。」

「……今更、こんな事言うのもなんだが、あえて言っておきたいんだ!」

「何を言うの?」








「………君が好きだ。」







 言った途端、彼女は驚き、飲んでいたコーヒーを少し吹き出し、そしてむせた。


「………神父、それ、マジで言ってるの?」

「もちろん。ただし、20年前の僕の言葉だ。」

「? どういうこと?」


「つまりは、言い出せなかった言葉と言うべきかな?
 ……初めて君に会った時は、世の中をナメタ小娘だとばかり思っていた。しかし、実際は違った。
 君にはGSの資質が有り余るほどあったし、信念もあった。あの頃の私は、教会から破門され、
 神への信仰を失いかけていて、ただ無力感しかなかった。だが、君に会った事で、状況は一変したんだ。
 あの夜の一件で、私も再び神への信頼を寄せるようになったし、君は彼と結婚するまで至った。
 しかし、よくよく考えてみれば、全て君の天真爛漫さのおかげだったんだと思う。僕も公彦君もあの夜、君に魅せられたのさ……。
 あの後、君が居なくなった時、複雑な気分だったよ。ポッカリ穴の開いた感じだった。
 その気持ちにあの時、気付いていれば……。そう思いつつ、今の今までそれを胸の内に閉まっていた自分が、
 今日になって、急にもどかしくなってね。で、今、言ってみたわけさ、ハハハ……。」


「フゥ〜ン、そうだったの……。」


 話を聞き終えた彼女は、すました顔で私の方を見つめている。そして、暫くの沈黙の後、
 突然、彼女はクスクス笑い出した。


「フフフ………、結局、神父、私の魔力に負けてたわけなんだ。」

「ん、まぁ、そういう事になるの……かな?」


 そう言うと、私達二人は見つめ合いながら黙っていると、自然と笑い声がこみ上げてきて、
 二人してしばらく何がなんだか分からないまま笑い続けていた。
 その後、公彦君がトイレから戻ってきて、三人でもう少し話をしてから、店を出て行く。
 そして彼女達と別れを告げた後、私は何か清々しい気持ちだった。
 ……今夜は有意義な夜だったと思う。そして、私は彼女に届いた想いを再び胸に閉まい、家路に着いた。
 あの頃とは違い、なにか満ち足りた感じを持って。









 唐巣神父と別れた後、私はウチのダンナが運転する車で帰路に着いていた。
 その時、さっきの神父の事をダンナに話してみた。すると、

「へぇ……、神父がねぇ……。」

 と、なんかすました表情で言っているので、私は妙に思った。

「……もしかして、アンタ、神父の心が見えたから、席を外したんじゃないんでしょうね?」

「ギクッ、な、何の事だ?僕は何も……。」

「やっぱり。とぼけたって無駄よ?私にはお見通しなんだから。」

「……済まない。」

「まぁ、あなたらしいっちゃ、あなたらしいけどね。でも、そーゆー所も好きよ♪」

「……それは告白かい?」

「そ。あなたはどうなの?」

「もちろん、愛してるさ……、君を。」

「……私もよ。さぁ、早く帰ってひのめを迎えに行かないとね?大分遅くなっちゃたわ。」

「そうだな。じゃ、行こうか。」



 こうして、三人だけの晩餐会は静かに幕を下ろす………。


 〜fin〜

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