ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その36)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 9/28)


5月21日午後3:10 長野県M山、『青少年の家』体育館


「よ〜し、ええかぁ!全員注目ッ!」

鬼道の凛とした声が長野県M山、『青少年の家』の体育館に響いた。
『青少年の家』とは青少年が、恵まれた自然環境の中で、
団体宿泊生活を通じていろいろな研修や体育・レクリエーション・野外活動を行いながら(以下略)

とまあ全国にある安手の公共合宿所みたいなもので、今回霊能科が泊まる宿でもある。
生徒の中には・・・

「臨海合宿のほうが宿豪華じゃぁん・・・」
とか
「何かボロい〜〜」
とか
現代ッ子らしい不満も口に出たが来年は豪華な臨海合宿が待ってるということで渋々我慢しているようだ。
そんな生徒達の不満に『これも毎年恒例やな』と苦笑いしながら鬼道は今回の除霊作業の段階を説明していく。

「各班の待機位置の説明は以上や、もし分からんことあったら30分後の班長会で聞くように。
 それから各自持ってきた除霊道具に不安がある場合も担当の先生に遠慮なく相談するんやぞ」

そう今回は学校行事とはいえ除霊修業の一環、当然各自愛用している除霊道具を持参している。
中には霊能と関係ない出身の者もいるので学校側からの貸し出しもされていた。

「ねぇ、ひーちゃんは何持ってきた?」

髪をポニーテールにまとめたジャージ姿の幸恵が隣にいるひのめにそっと尋ねる。
同じくジャージ姿のひのめは「え〜と」と考えると・・・

「オーソドックスに神通棍・・・それに神通グローブ・・・・かな?
 ほら、私最近まで霊力を込める除霊具って上手く使えなかったじゃない?
 だから本当は素手でのほうがやりやすいんだけどさ・・・」

「そんな!危ないよぉ」

「わーってるって、ちゃんと除霊具も使うわよ。で?さっちゃんは?」

「ん?私はねぇ・・・・」

幸恵はニパっと微笑みながら答えた。

「ちゃんと『介錯丸』持ってきたよ♪」

「ぶほ────っ!!」

その名を聞いた瞬間に咳き込むひのめ。
何事かと周囲の生徒が振り向くのに気まずくなり小声で幸恵に語りかける。

(・・・『介錯丸』って・・・・一年前に師範からもらった日本刀・・・曰く付きの霊刀だよね?)

(・・・大丈夫だよぉ、ちゃんと師範が清めてくれたし、それに私の特技って剣術だよ?)

(・・・いや、そうじゃなくてね・・・)

ひのめは純真な瞳で自分を見つめる幸恵にそれ以上何も言えず「は〜」とタメ息をつきながら頭を抱えた。

(こりゃ、今夜は血の雨が降りそうね・・・・妖怪ならまだいいけど・・・まあ、もしものときは・・・)

ひのめはチラっと右手のリストバンドに目を移す。

「心眼を盾にしよう」

『ゴルァ!!!』








同日午後4:50 長野県M山、『青少年の家』大食堂

少し早めの入浴をすませた生徒達はこれまた早めの夕食を楽しんでいる。
この後は午後六時三十分に就寝し、翌AM0:30に起床と普段の生活習慣とは全く逆のことしなければならない。
GS予備軍とはいえまだ高校生になったばかりの彼女らに少しキツい日程だろう。
それを日常としてる現役GSの面々と言うと・・・

「くぅ・・・・やっぱ山道ってのは疲れるわねぇ」

「オタクが運動不足なだけでしょ?」

「なんだってーー!!?」

「「まあまあ」」

今にもケンカを始めそうな妻達を胃が痛む思いでなだめる横島とピート。
少しこぼれたコーヒーを布巾で拭きながら今度はまともな話を進める。

「で、この二時間で周囲を実際調べたみた感想は?」

横島が話を切り出し三人に視線を向けた。
その問いに応えたのはまずはピート・・・

「特に問題はないと思いますよ?
 学校側、M山管理者側からの報告と異なるところもありませんし結界もちゃんと作動してますしね」

そしてピートは賛同を求めるように妻であるエミに視線を向ける。

「そうね、ピートの意見に概ね賛成。
 何もなければ六女の生徒でも十分今年の分は除霊可能じゃない?
 ただ・・・」

「ただ・・・?」

エミの少しひっかかった言い方に横島の眼つきが厳しくなる。
そして、その続きは令子が言った。

「ちょっと今回の除霊場はN山に近すぎるわね、
 霊山の影響でたまに突然変異のように強くなる妖怪もいるし・・・まあそのために私達がいるわけだけどさ」

コーヒーにミルクを入れながら吐く令子の言葉に自然と気を引き締める三人。
N山とM山はいわゆる双子山で北にM山、南にN山とつながっている。
前にも書いたとおりN山は十数年前より霊山となっている、今でもその影響で行方不明者は絶えず、
富士の樹海とまで行かなくても自殺者のメッカになりつつあった。

「で、オタクらはこのお守り役が終わったらどうするワケ?
 私とピートは温泉宿に一泊するつもりだけど〜」

「はぁ〜・・・私達はこの仕事が終わった直後にオカルトGメンからの依頼でN山の事前調査ぁ・・・
 近々本格的な捜査が入るんだってぇ・・・ったく自分でやりなさいよねぇ、オカルトGメン!」

あからさまに機嫌が悪い視線が向かう先は・・・・オカルトGメン所属のピート。
まるで蛇に睨まれた蛙のようにダラダラと汗を流しながら後ずさるピートは救いを横島に求める。
そんな友人に苦笑いを浮かべながら横島は妻をなだめるのだった。

「ままま、しゃーねぇだろ?ピートにそういう決定権があるわけじゃないし」

「そりゃ分かってるけど・・・。そういえばピート、あんた何で大学行かなかったの?
 いつまでも『現場』じゃ出世しないわよ?」

高校卒業と同時にオカルトGメンに入隊したピートは美智恵と西条の推薦もあり世界中のオカルトGメン部署で研修を受けた。
その間にエミといろいろあった「恋話」は置いといて娘の出産と同時に極東部署に配属。
そして現在に至る・・・

「そうですね、オカルトGメン入って15年目ですけど・・・やっぱり現場の雰囲気が好きなんですよ、
 それに大学は娘の世話が一息ついた頃にでも入ればいいですし」

「ああ、そっか。あんたんとこの子供今いくつだっけ?」

「今年幼稚園に入ったばかりなワケ、ふふ・・・なのにもう足し算が出来るのよ!
 将来はきっと世界を動かすような子に!!」


こいつも親バカか・・・令子は自分の旦那とエミを見比べたながら冷めた視線を向けつつも、
今頃自分の子供達はどうしているかと思いを馳せるのだった。

「ま、在り来たりだけど非常事態には常に備えるってことで…いいわね?」

令子の意見に残りの3人は頷くと、自室で休息を取ろうと席を立ち上がった。
すると、チラチラと数人の生徒が4人に視線を向けていることに横島は気づく・・・。

(はは〜ん、六女の生徒にとってGSは花形の職業、
 その中でもTOPレベルの俺達は憧れの的なわけだ・・・うんうん、話しかけるのも戸惑う気持ちも分かるなぁ♪)

と、一人で納得して一番近くにいる三人組の生徒に声をかける横島。

「ん、何か俺らに用あったぁ〜?♪」

まるで下手なナンパ師のような横島にはじめは戸惑う生徒達だが、
やがて緊張の中そっとその口を開いた。

「あ、あの・・・」

「私達お願いがあるんです・・・」

「その・・・」

三人は視線を合わせると一斉に叫んだ。

「「「サイン下さいッ!!!」」」

同時に出されるノートとマジックペンに思わず横島の刻(とき)が止まる。

(ああ・・・・いつの間にか俺にも『ファン』という存在が・・・
 令子のようにがめつく稼いでないから総合GSランキングだと10位前後の俺にもついについにぃ!!)

心で涙を流しながら三人組の生徒に返答する横島。

「もっちOKOK!」

「本当ですかぁ!」

「やったぁぁ!!」

「言ってみるもんね〜」

嬉しそうな声と共に差し出される真っ白なノートとペンを横島が受け取った瞬間・・・





「美神令子さんのサインお願いします♪」

「え?」

その声に横島は思わずマヌケな声を上げてしまう。さらに・・・

「私は小笠原エミさんのを!大ファンなんです!」
「あ、あの!私はオカルトGメンのピートさんのを・・・もう一目見たときから(はぁと)」

「・・・・・・・・・・・」

しばらくショックで動けない横島の背後から・・・

「私のサインが欲しいなんて殊勝な子達ね♪」

「勘違いするじゃないワケ!この子達は私のサインを求めてるのよ!」

「まあまあ二人とも・・・」

石化してる横島を他所にサラサラとサインを書いていく三人。
その光景に周囲の生徒達も我先にと駆けつけ、ちょっとしたサイン会、握手会へと突入する。
ワイワイキャーキャーと騒がれる令子、エミ、ピートを輪の外から見つめる横島・・・

「寂しくない、悲しくないぞ!ちくしょおぉぉぉっ!!」

と食堂から一目散に駆けて行く・・・そのとき。

「あ!お兄ちゃん!」

食堂の入り口でバッタリと出くわしたのはジャージ姿のひのめと幸恵、
それに同じ班の斉藤 久美(出席番号8番)木下 光(出席番号6番)だった。

「あ、ああ・・・ひのめちゃんか」

「な〜によ、その言い方ぁ!ま、いいけど。・・・で、食堂で何かあったの?何か騒がしいけど」

「あ〜、令子達が生徒達に囲まれててな」

「ふ〜ん、お兄ちゃんは?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・聞いちゃまずかったかな?でさ、お願いがあるんだけどぉ」

上目使いの義妹に取りあえず「何用?」と聞いてみる・・・・すると・・・。

「ん、この子同じ班の斎藤久美ちゃんって言うんだけど・・・」

ひのめの紹介でそっと出てきたのは図書委員でメガネっ娘の斎藤久美、
見た目どおり物静かで大人しく本が大好きな彼女・・・そんな久美の憧れは・・・。

「あ、あの!私斎藤久美って言います!あ、あの・・・その・・・わ、わわわ私ぃ・・・!」

「ほら!久美頑張って!」

勝気で明朗活発な木下光が後を押す。

「わ、わ、私!横島さんのファンなんです!!サイン下さい!!」

久美の手から差し出される色紙とペン・・・・それを横島は震える手で受け取る。
そして・・・


「うあああああぁぁぁあああぁぁぁああぁぁっ!!」

(ひーちゃんのお義兄さん、何で泣いてるの?)

(・・・・さぁ?)

(『アホだわさ・・・』)


なぜか涙を流してサインを書く横島に木下光は『あぶねー』と思いつつ斎藤久美は『素敵・・・』と呟くのだった。




                                  その37に続く

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa