ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(6.2)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/ 9/27)

 遠い世界の近い未来(6.2)

「とにかく、部屋の外へ。」
 動こうとしたのが引き金になったのか。部屋内の空気が、一気に騒然となる。
家具が大きく揺れ、小物は浮かび上がり、こちらへ向かって飛んでくる。
「ちぃ!」
 薫のテレキネシスが飛んでくるものの軌道を変え、全員をそれらから守る。

「ポルターガイスト?!」
 水元は、昔見たホラー映画のタイトルを思い出した。

さらに、自分たちのまわりに人の頭大の薄ぼんやりとしたもやのようなかたまりがいくつも浮かび上がってくる。

 それは、様々に苦しむ人の表情のような模様を刻々と変化させ、周辺を飛び交う。その数とスピードは、少しずつ増している。

「浮遊霊?!」
 さっき、否定した単語が思い出される。

最初、意味もなく動いていた霊たちは、やがて、水元たちを中心に周り、かすめたりぶつかったりする。

「痛っっ。」かすめられた葵がうめく。

ある程度実体があるのか、それが体にぶつかると痛みが走る。
 スピードのついたものでは、衣服がわずかではあるが裂け、それが素肌だと、小さい傷をつくる。

「葵! テレポート! 逃げるで!!」

「待て!!」
 水元が、あわてて止める。
 こんな状態でテレポートするのは、さっき以上にリスクが大きすぎる。
葵もまとわりつく霊たちに集中を妨げられ、それどころではない。

「何とか、このままで、部屋の外まで移動するぞ。」
 次々、霊たちに触れられ、ぐったりした紫穂を抱き上げ、進もうとする。
 だが、霊たちが、水元たちの進む方向で厚みを増し、柔らかい壁のようなものを構成する。
 それに阻まれ、思うように進めない。

「このぉぉ!!」
 薫はテレキネシスの焦点を浮遊霊に合わせる。
放電とともに霊の幾つかがはじけ、消滅する。
 効果はあるものの、数が違いすぎる、三つ消滅させるうちに五つは増えてくる。

「葵、こうなったらアレいくでぇ!!」
 マジ切れモードにはいった薫は、叫ぶようにいう。

「アレって、アレか?!」
 葵が狼狽したように聞き返す。

 彼女も”アレ”は1回しか見たことはない。それも試しに、何十分の一の力でやったものを見ただけだ。

 ”アレ”とはテレキネシスを周囲の空間全体に放射し、物質の結合する力を無効してしまうという技だ。たぶん、超度6以下のテレキネシスでは不可能な芸当である。

「葵、あんたも出し惜しみはなしやで。」
 先ほどの一件で消耗が激しい葵だが、薫がアレをやると言っている以上、同じくとっておきを披露するしか仕方がない。

薫から少し離れ、水元を招く。

「早よう、私の前に。できるだけ小さくなって。」
 水元は、指示通り、紫穂を全身でかばいうずくまる。

 葵は、両手を大きく広げると、三人を包む、ぼんやりとした光る半球型の膜のようなもの生成する。

 それは、触れたあらゆるものを2〜3 m テレポートさせることできるフィールドであり、このフィールドの内側の空間は、どんな攻撃からも安全になる。こちらも、同じマネができるのは超度7クラスの能力者だけだろう。

 パチ、パチ
 突っ込んでくる霊が光の膜に触れるごとに軽い放電が生まれ、その反対側で実体化、そのまま飛び去る。

「すぅ〜〜 はぁ〜〜」
薫は、一つ深呼吸をすると目を閉じ、精神のテンションを目一杯に上げていく。

 それに惹かれるように彼女の周りに霊たちが集まってくる。外から見れば、灰色の渦に取り込まれたようにも見えるが、薫は集中を崩さない。

数秒後、目を開き、不敵な微笑みを浮かべる。

「いてこませぇ!!」
 保護者が聞けば泣きそうな台詞が飛び、部屋全体が閃光に包まれた。

 閃光が消えた後、半径3mほどの半球状の空間にあった壁や家具、柱、天井、二階の床を含みすっぽりと何もない状態になっている。

 影響圏のすべてのものが結合力を失い、ガス化するかチリとなり足下に積もっている。
 薫の周りに集まっていた大量の霊たちも一掃され、ホコリっぽいものの空気は正常なものに戻る。

「どや、なめたらあかんで。」
 薫は、立っていられないような疲れを感じながらも、中指をつきだした拳を上向きにかざす。しかし、その高揚感は、葵を見て消えてなくなった。

「防ききれんかったわ。」 
 うめくように言った後、葵が両膝をつき、そのまま倒れ込もうとする。

 水元自身も洗濯機に放り込まれて5分ほど回された気分だが、反射的に体が動き、葵を支える。


床に横たわった葵は、体は熱を持ち、呼吸も安定しない。

 薫と紫穂は、葵の傍らで心配そうにのぞき込む。紫穂は、水元にかばわれていたためかそれほどダメージは受けていない。


これほど悲惨な状態に特務エスパーたちがなったのは”バベル”設立以来、初めてのことだ。
 味方とは連絡は不通。

 テレポーターの葵は、ほとんど意識不明。

 薫はまだ『力』は使えるが、消耗は限界に来ている。

 紫穂のサイコメトラーもこの状態を変える役には立たない。

そして、自分といえば、
「IQ 200 といっても、こんなものか。」
自嘲気味につぶやく。

 薫と紫穂が不安げにこちらを見ているのに気づき、口をつぐむ。

『こんな時こそ大人である自分が頑張らなければ‥‥』
と、から元気でも精一杯の力を込めて立ち上がる。

 今のうちに外へ出ておこうと考える。
 もう一度、あの霊たちが現れたら打つ手はない。

”♪〜〜〜♪ ♪〜〜〜”
 そこに美しい笛の音(ね)が聞こえてくる。いや、それは耳ではなく、直接、心に届いている。

「「「?」」」

 (葵を除く)全員の胸に疑いと不安が生まれるが、しばらく、耳を傾けているうちに、その心休まる旋律に心が引かれることを止めることができなくなる。

「笛の音の方へいってみよう。」

少しためらったが、全員が同じ判断を下した。

 水元が先頭になり、葵を背負い、紫穂の手を引いて音のする方に進む。
 一瞬、もの欲しそうな顔をした薫だが、無言で続く。

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