ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(6.1)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/ 9/27)

 遠い世界の近い未来(6.1)

水元は、今までテレポートは何度も体験している。
 3 m ほどの高さから水面に落ちたり、ライオンの檻の内部であったりと、ろくでもない体験をすることも多い。

 ただ、どんな場合でもそれは実体化後のことであり、テレポート中に何かが起こったことはなかった。
 そもそも、テレポートは常に一瞬であり、行った瞬間、それは終わっている。テレポートの中を意識したことなど今まで一度もなかった。

 ところが、今回は、テレポート中の自分がはっきりと意識できるのだ。

 もっとも、意識があるといっても、自分の存在を意識する以外の何もできない状態をそう言って良いとすればの話だが。
 体は、意識に反応せず、五感も言葉にできないようなイメージを形作るだけだ。

 数秒のようでもあり、数時間のようでもある時間が過ぎる中、徐々に異常な感覚が薄れてくる。
 本能が、この不思議な体験の終わりを告げているが、同時に、このままで終わることの危険性を激しく訴えてくる。

『頑張れ、葵!! もう一度、テレポート!!』
 水元は、声になるはずもなく、葵に届くとも思えないが、ありったけの力を込めて叫ぶ。

 通じたのか、引きつるような感覚が全身を包む。


いつものテレポートができたのか、すぐに視界がもどる。もっとも、辺りは、闇で、明るい部屋に慣れた目はしばらく細部を捉えられない。

水元は、自分の体を点検する。鈍い痛みと疲労感は残るものの、異常は感じられない。

横にいた紫穂も無言で床に座り込んでいるが、変わった様子はない。

「ったく、もー、これもあの機械のせいなんか? 今度、見たらスクラップや。」
薫もやせ我慢かもしれないが、元気そうな声でぼやく。

「ふ〜ぅ、とにかく、無事、終わったんやな。」
 葵の声は苦しげである。テレポートの実行者には大きな負担だったようだ。


「そや、薫、紫穂。 あんたら、最後の方でウチに気合い、掛けてくれへんかったか?」

「いや、ずっと、”ヤバイ”って思いばっかり先走って、何をしたかは覚えてへん。」

 紫穂も”覚えはない”と小首を傾ける。

「いや、ウチも”危ない”って気持ちが空回りしてお手上げやったんやけどな。その気合いで、もういっぺんテレポート、やる気になったんや。気合い入れてもらわれへんかったら、そのまま消えてなくなっとったかもしれんな‥‥ 」
少し考えた後
「まさか‥‥? 水元はんは、どや?」

「僕も、薫や紫穂と同じだよ。」
と軽く嘘をつく。
 記憶はあるが、自分にそんな影響力があるとも思えない。たぶん、記憶にはないが薫か紫穂のどちらか、あるいは両方が無意識に気合いを掛けたに違いなかった。
「そやな、エスパーでもないあんたはんが、そんなまねできるはずもないしな。まぁ、いいかぁ。」
心なしか残念そうに納得する葵。


『今日はこれで、限界か。』
 水元は、子供たちのようすからそう判断する。自分の疲れもかなりであるし、ずっと任務に従事していた子供たちはなおさらだろう。

 紫穂ではないが、はやく、風呂に入り、ベットに潜り込みたい気分である。

 逃げた男については、報告を入れれば、公安の方で何とかするだろう。
 インカムで、迎えを寄越してもらうため、指揮所を呼び出そうとする。

「返事がない!?」
 周波数を変え”バベル”本部と直通の回線を開こうとするが、これも反応なし。
 子供たちにも呼びかけさせるが反応はない。
あらためて、先ほどのテレポートが普通でなかったことを実感する。


 当初、真っ暗闇のように感じが、窓から差し込む月明かりもあり、数分もすると目が慣れ、まわりの様子も見えてくる。

 今いるのは、洋館の大広間なのだが、ずいぶんと荒れている。
 けっこう高価そうな壁紙は変色し、家具類も壊れたままほこりをかぶっている。
 さらに、暴走族の落書きやらで、数年は人が近づかない所になっていることがわかる。

「葵ぃ、肝試しでもしたいんか? もうちょっと、気の利いたとこ選んでや。まるで、先月見た特番の心霊スポットそのままやないか。」
 薫は、ことさら軽く言うが、顔は引きつり気味である。最強クラスのエスパーであっても、十歳の子供だ。

「ここなら、浮遊霊とか地縛霊とか‥‥ 」
水元は自分のつぶやきで子供たちの顔がいっそうこわばるのに気づく。
「いや、冗談だよ。そんなものが21世紀の社会にいるはずがないじゃないか。」
 彼は、心霊やオカルトものはあまり信じない質(たち)だが、子供たちの不安を煽るようなことをわざわざ言う必要はない。

「でも、何かが居るよ。」
 紫穂が、その主張を否定するようにつぶやく。
 感情に触れることで不安を紛らわそうというのか水元の腕を取り、身をよせる。

「何に、ブリっ子してんの。似合わへん‥‥」
 葵が言いかけて口をつぐむ。彼女や薫もエスパーとして常人以上の感覚を持っている。周囲の異常さが、1秒ごとに強まってくるのが、肌で感じられる。

「憎しみや悲しみ、うらみ、ねたみ、そんな気持ちばっかりが私に入ってくる‥‥」
サイコメトラーの能力がその異常な空気に反応するのか、目を閉じ、両手で耳を押さえ、しゃがみ込む。

「もう一度ぐらいなら何とかなるけど、テレポート、しようか?」
 葵が尋ねるが、水元は首を振る。
 紫穂のことは気になるが、なんとか踏ん張れている。
 なら、葵にこれ以上の負担を負わせたくない。

 それに、さっきのおかしなテレポートのこともあり、もう少し、状況を確認しなければ危なすぎる。

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