ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦! 「告白の意義」


投稿者名:斑駒
投稿日時:(03/ 9/27)

―――ッピ

「確認!
 …現在位置。
 北緯・48度22分17秒、
 東経・10度41分03秒、
 スイス・イタリア国境付近!
 …時刻。
 21時39分46秒……
 11月2日…
 西暦1999年……!!」

「なるほど。ここか……」

うっそうと茂った森の中、木々の合間から星空を見上げるマリアの傍らで、カオスはゆっくりと周囲を見回した。

「………。どうじゃ? あの時と比べて違いはあるか?」

「イエス。………微細な・差異は・多数確認できます……けれども・大きな・変化は・認識できません」

「……そうか」

カオスはもう一度ゆっくりと森の中を見回した。
『あの時』……マリアが美神令子と共に過去にタイムスリップした時に、辿り着いた場所がここであるらしい。
確かに、自分にも見覚えがある。
いつか二人で実験材料の採集をしながら歩いた、あの森だ。
周囲の様子は、不思議なくらい全く変わっていなかった。

「まあ、良い。どんなに細かな差異でも、つぶさに記録しておけ。せっかく時間移動などという貴重な体験をしたのだからな」

「イエス! ドクター・カオス!!」

「うむ。歳月を隔てた同じ時間・場所における地磁気の状態なんかにも注意しろ。何か面白い発見があるかもしれんからな」

実に700年以上も前にこの場で観測・記録したことになる“その瞬間”まで、あと一時間弱。
マリアはその一瞬を逃さぬために、星空を見つめたままずっとその場に立ちすくんで構えた。
カオスもしばらくは、そんなマリアの横顔を何とはなしに見つめていたが、ふっと思い立ったように木々の奥に姿を消した。





こんなにも月日が経ち、最近では自らの記憶すらはっきりしないと言うのに、意外と覚えているものだ。
カオスは迷うことなく、意図していた場所へと辿り着いた。
森の木々が織り成す黒い海に浮かぶ古城。
そこはかつて自分が、長い人生の重要な一部を過ごした場所だった。

「まさか、まだ残っていようとはな」

その可能性が高いことは、分かっていた。
この地域では中世の古城、特に森の中に在るようなものはほとんど手をつけられずに残されている。
この城もおそらく例外ではないだろうことは分かっていた。分かっては、いた。しかし……

「ここも…変わらんのか……」

いざ城の中を歩いてみて、実感する。
マリア姫が入り浸り、質問攻めに辟易した自分の研究室。
共に星を見て、月を見て、日の出を見た、尖塔の上。
いつも帰りを迎えてもらった、城門の下。
どれもこれもがさびれたり崩れかけたりしているが、全てが当時の面影を残したままで……
そのどれもが、在りし日の幻を鮮明に脳裏に思い浮かばせるものなのだ。

「やれやれ。歳は取りたくないものだな。見ずとも良い余計なものまで見てしまう」

ひと通り城内を見て回ったカオスは門を出たところで足を止め、柱にもたれかかって独り皮肉笑いをした。
思えば、自分はあれから、
ここを出てマリアを創ってから、
ずっとこの場所を避けていたのかもしれない。
なくしてしまって二度と取り戻せぬものを、自ら見つけてしまわないために……

「ドクター・カオス?」

不意に、背後で声がした。
振り返ると、これまた昔の面影を残したままのものが、こちらに歩み寄るところだった。

「マリア……!」

「観測・完了しました。詳細は……」

「……なあ、マリア」

「? イエス?」

カオスの目に、歩み寄るマリアと在りし日の姫の姿が一瞬だぶって見えた。
そして次の瞬間、カオスは思わずマリアの報告を遮って話かけていた。

「おまえはあの時に…過去に行った時にマリア姫に会い、伝言を預かってきたな。『心はいつも共にある』と……」

「イエス」

「うむ。姫はいつもこちらが何も言わずともわしの意を汲んでくれたし、わしも姫とは心が通じ合っていると感じていた。しかしそれを確信することが出来たのは伝言を聞いたから、口に出して言葉を伝えたからこそじゃ」

カオスは押し黙って聞き入るマリアに伝言の礼を言う代わりに、その瞳をやさしく覗き込んだ。

「わしも何度か自分の気持ちを口に出して伝えたことはあるが、それはいつもプロポーズという形じゃった。ほとんど断わられるのが分かってやっていたのだが、そんなわしでも言わなかった言葉がある。いや『言えなかった』と言うべきか……。気恥ずかしさもあったが、それまで拒絶されたらと思うと口に出すのがためらわれてな……」

カオスの顔に自然と苦笑が浮かぶ。
しかしすぐに真剣な顔つきに戻って、マリアの両肩に手を置いた。

「だが、姫は700年の時を越えてわしに伝えてくれた。口に出して伝えることこそが重要なものもあると。わしの声は700年の時をさかのぼることなど出来ぬが、それでも。それでもわしは……」

カオスの両手が、マリアの肩をぎゅっと強く握り締める。














「あなたのことが、ずっと好きだった」


カオスの目は、まっすぐマリアの瞳に向けられたままだった。
しかしその言葉が向けられた先は、もっと遥か遠くのようでもある。


しばらく沈黙が続いた後、再びカオスが口を開いた。

「くくっ。年甲斐もないマネをしたが、なんだか言わずにもおれんかったものでな。まあ、伝わりようもないが……」

「マリアも!」

「!!?」

自嘲気味に顔をそむけたカオスの背中に、マリアが突然沈黙を破って声をかけた。









「マリアも・ずっと・ドクター・カオスが・好きです!」

「!!!」

カオスの目が驚きに見開かれる。
そして次の瞬間、その目はやさしくゆっくりと閉じられた。

「……ありがとう。」

背中越しに呟いたカオスは、グッと天を振り仰いだ。
空には無数の星が、700年前と変わらぬ光でまたたいていた。

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