ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(5)


投稿者名:yorimiti
投稿日時:(03/ 9/24)

 遠い世界の近い未来(5)

その通路は、緩やかな下り坂になり、地下へ降りている。
 二階分ほどの深さを降りたところで、どこかの大金庫を思わせる扉に行き当たる。この奧がこの扉に見合うシェルターなら上での爆破もほとんど影響を与えないだろう。

「力仕事担当、出番やで。」
先頭にいた葵は、薫に場所を譲る。この怪しげな扉の向こうにいきなりのテレポートするのは危険と思ったようだ。

「あのなぁ〜、もうちぃと言い方あらへんか。」

「いくら、力仕事しか能がなくても、そ〜いう言い方すると〜、薫ぅ〜でも、傷つくんじゃなぁい。」

「紫穂、あんたなぁ、そういう言い方も傷つくと思わへんか?」

「そうなの〜?」小首を傾げる。

「‥‥」
本気でわからないのか、わかって言っているのか、テレキネシスよりテレパシーが欲しいところである。
 肩をすくめ、扉に精神を集中する。

 数秒、何も変化がないように見えた扉が異様な音を立て始める。

人の腕ほどある鋼鉄製のかんぬきが飴のように曲がりはずれる。じりじりとt単位の重さがあろうかという扉が開き。向こう側の明かりが入ってくる。

 拳銃を構えた水元を先頭に全員が踏み込む。

そこは10 m四方ほどのホールになっており照明が白い壁を一様に照らし出している。
置かれているものと言えば、入り口の反対側の壁際に大型の衣装ダンスほどの機械が一台、手前に椅子。椅子には白衣を着た人物が腰を下ろしていた。

機械は、何台もの真空管で動きそうな通信機を異様なコイルやガラス管でつなぎ寄せ集めたような形態である。機能中であるらしく低い振動音が聞こえ、ランプやガラス管が怪しく明滅する。
 当然、どのような機能を持ったものかは見当もつかない。

入ってくるまで、機械に向かっていた人物は、ゆっくりと立ち上がりこちらを向く。

年齢は、局長と同じぐらいか。雰囲気も局長に似て、ある程度の肉体労働がつとまりそうなこつい体に精悍そうな顔つきである。ただ、局長と違うのは目つきがイッてしまっている。月並みだがマッドサイエンティストをの言葉が全員の心に浮かんだ。


「オッチャン、ゲームセットや。」
薫は、さっきと同じようにテレキネシスで動きを封じようとする。
「ん!!」
 初めての感覚にとまどう薫。手応えがまったくないのだ。
 いらだちながらも、さらに力を加える。しかし、結果は同じ。

男は、さも満足そうな顔つきで、薫のあわてぶりを見ている。

「見てみぃ!」
 葵が装置の方を指さす。
 例の装置が放つ光が格段に明るくなり、コイルから出るモーターのような低い振動音も大きくなっている。

「超能力を吸い取るのか?」
 水元がとっさに可能性を探る。
 だが、薫は首を振る。『力』が強制的に吸い取られるというような感じはない。ただ、いくら『力』を込めても装置のそばいる男に働かないだけだ。

 水元は、銃を向けるが、撃つのはためらう。
 相手の不気味な力に警戒したのと、狙いをはずし装置に傷を付けた場合に何が起こるかわからないからだ。

「賢明な判断だな。」
 男が、初めて口を開く。
 ドスの利いた声で、人間的な迫力はかなりなものである。

「ところで、そのお嬢ちゃんたちの超能力は特別なものかね? 通路とこのホールには、超能力封鎖システムが作動しているんだが効き目がなくてね、こちらのエスパーで効果は確かめているんだが。」

男がしゃべっている間に、さりげなく 薫が、葵の肩に手をかける。
 テレポートで接近してもらい、至近距離からテレキネシスを試してみるつもりらしい。

「あっ、君、ここにテレポートするのはやめたまえ。装置の周囲は、お嬢ちゃんの『力』を消す別のシステムが働いている。そちらは機能しているようだから、ここへテレポートしたら、何がおこるかワシにもわからんからな。」

薫は、葵から手をどける。

「こちらでわかるわけがないでしょう。」
 水元がさっきの話に応える。話しているうちに打開の機会が来るかもしれない。
「それより、人工エスパーは全員逮捕しました。施設も破壊されます。降伏したらどうですか? もう、あなたにはその装置以外何もないですよ。」

「この装置が私の手にあるかぎり、何度でもやり直せる。人工エスパーなどささいな副産物にすぎん。」
 水元の言葉に対し、自信たっぷりに言い切る。

「それよりも、お嬢ちゃんたち、政府の飼い犬では面白くないことも多いだろう。こちらに協力せんか? お前たちの超度7の『力』は、この装置の可能性を大きく広げてくれる。」

水元が答えようとするのを紫穂が制し、葵が前に出る。
「ウチらのまわりはいけ好かんのが多いし、お灸を据えたらなあかんアホもおる。まぁ、少しはマシなのもおるけど‥‥」
チラリと水元を見るが、気づかない。
「‥‥とにかく、上のエスパーはんたちは、あんたがこさえたんやろ。それを使い捨てのティッシュみたい言うスカタンとウチらみたいな良い子が組めるはずないやないか。」
隣で薫がアカンベーをする。

「良い啖呵(たんか)だ。十歳でそれなら、将来、政治家がつとまるな。」
感心する素振りを見せるが、本気でないのは明らかだ。
「では、交渉決裂だな。」
 男は、装置の操作盤にある赤いレバーを倒した。

照明が非常灯に切り替わり、サイレンがけたたましく響く。
装置の後ろの壁が開き、床ごと装置と男が引き込まれる。さらに、防火壁のようなごつい壁が上から現れ、装置が引き込まれた口をふさぐ。

「「「「自爆!?」」」」

 四人の頭に同じ言葉がひらめく。

 葵は、全員を連れてテレポートを行った。


消えて、十秒もたたないうちに、照明は普通に戻り、サイレンも途絶える。防火壁が上に上がり、男が歩み出る。

 男は、しばらく邪悪な笑みを浮かべ、水元たちがいた場所を見続けた。

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