ザ・グレート・展開予測ショー

虹色の笛  〜〜(第二声)〜〜


投稿者名:えび団子
投稿日時:(03/ 9/23)


 スッ・・・スッ・・・スッ・・・スッ・・・っ痛う!


「やっぱり上手くは切れないなあ・・・」


林檎の皮をフルーツナイフで切っていたが何分不器用で、
彼女の凄さが色んな意味で分かった。歪な形になった林檎を
一口サイズに合わせる。真っ白なお皿にそれを乗せると
爪楊枝を数本突き刺す。円形のテーブルに出来上がりを静かに置く。
我ながらまあまあではないのか?と思いつつも食べてくれるか
心配だった。


「まっ、いいか。」


椅子から立ち上がり窓に近づく。彼女を起こさないように
一歩一歩静かに進む。白く且蒼いカーテンを波打たせ、
両手で一気に開ける。朝日が暗がりに慣れた瞳を容赦なく照らす。
一瞬、顔を俯き加減に背け目を細める。窓の鍵を外し、
す〜っと透明なガラスを解き放つ。爽やかな風が全身に
纏わりつき大きく深呼吸する。背伸びをしベットに寄る。










――――――――おはよう・・・昨夜は大変だったよ――――――――










寝顔にそっと朝の挨拶。限界ギリギリまで近づけた顔は、
端から見てると結構危ないワンシーンだった。普段はできない
からこの場を借りて・・・な?おそらくこれが最後になるから。
そう――――――意識が戻ったのだ。昨夜に・・・。











『えっ、・・・』


知らせを受けたのは家に帰ってから10分も経たなかった。
受話器を持つ手に力が入らなかったから落としそうになった
のを覚えている。俺は電気も消さずに鍵も掛けずに出て行った。
ともかく一秒でも早く会いたかったのだ、『おキヌちゃんに』


――――――――ガチャッ・・・――――――――


肩で息をしていた。走りっぱなしだったからな、当然か。
ドアノブに手が伸びそっと開けた。鼓動は加速して行く。


『おキヌちゃん・・・』


優しい瞳がこちらを見ていた。闇の中に消えていた筈の瞳が。
俺は一歩一歩確実に近づきゆっくりとその手を握った。
白くて細かったけど、たしかに熱を含んでいて、温かかった。

『お帰りっ・・・!』


泣き出しそうなくらい堪えた。自分が言った一言に、
言葉が届くことの幸せに。無理に笑ってみせた。


『横島・・・さん』








――――――――聴こえてました、笛の音色が・・・――――――――









「はっ・・・!?」


椅子に座り込んで俯いていた俺の首が持ち上がる。
朝の挨拶をして花の水やりを済ました後、缶コーヒーを
買ってベット近くの椅子に腰掛けてたところ、記憶が・・・
昨夜を辿っていってしまったのだ。


「ふう・・・」


一息つく。窓から見える空を眺める。
いつもは四角い形のそれは高さ東京屈指を誇る
オカルトGメン特別医療センターの上層部からの展望
は少なからず違って映った。青い画用紙の上に白い絵の具
を子供が遊び塗っていったような・・・そんな感じ。


「・・・・っ!?」


空をぼんやりと眺めていると、ふと思い出した。今日は皆がお見舞いに来る筈だ。
美智恵さんの気遣いで俺しか呼ばなかったと言うらしいが正直嬉しかった。
というより皆、四苦八苦していたからだろう。精神的にも身体的にも。
美神さんに至っては霊療の権威を探して世界中を飛び回ってるから連絡が行ったとしても今日にしかこれないし。余計人が増えて騒ぎになるのを
避けたかったのもあるらしい。状態が状態なだけに。


「つーことは何かするなら今がチャンスか・・・!」


ベットに忍び寄る俺・・・










――――――――ガチャッ!!――――――――


「意識が戻ったってっ・・・」


美神さんがドアを勢い良く開けて入って来た。見る限りは満面の笑み。そして、
その両手には花束が。後にシロやタマモも続いて各々に見舞いの品を片手に。シロはお肉、タマモは油揚げ。好みを持ってきてどうする?ところが・・・雰囲気がよかったのはここまでで。


「へえぇ〜〜、横島くん?何をしてるの一体?」


「先生っ!拙者にも、拙者にもでござるっ!!」


「ふーん、そう言うことね。ヨコシマ」


あんまりにもタイミングが悪く後数cmの場面であった。
俺はこの後延々と弁解を続けるが分かってもらえず、
お仕置きを受けたのは言うまでもなく。『眠りを襲う』
等とレッテルを貼られてしまったのだった。


「くそうっ!しゃーなかったんや、あの唇が俺を誘ったんやあ〜〜!!」









『ヴヴヴヴヴヴヴ・・・』










全員が同じ反応をした。殺気を感じ取る仕草だ。
さっきまでのおちゃらけした雰囲気は微塵もなく、
美神さんの紅い髪がふわっと持ち上がり。
シロは野生の本能が危険を察知し周囲を探る。
タマモは妖しい光を瞳に宿していた。


「来るわよっ・・・。オカルトGメン本部の中に飛び込んでくる
なんてよっぽどの馬鹿か・・・」


神通鞭を床に垂らす。


「実力者ね」


タマモが付け加える。


「誰であろうとおキヌ殿は守ってみせるでござる!」


シロの霊波刀が天井に伸びる。


おそらく霊波の乱れが現在回復したばかりなので
通常時より霊への耐性が落ちていることを察知しての襲撃
だろう。まあ、こんなことは10日前から日常茶飯事で。


「大丈夫です、美神さん。」


俺は幾度となく経験している。ざっと数十匹の悪霊を
この場所で葬ってきたのだから。守ってみせる!
ルシオラ・・・力を貸してくれ。お前に出来なかったことを。
果たすべき誓いの為に、だから玉砕覚悟で今までやってきた。


「来るわよっ!!」













続きます。『食い止めろ、守りぬけ!』

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