ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(幕間1)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/ 9/21)

 遠い世界の近い未来(幕間1)

 バベルの長である桐壺帝三は、水元が特務エスパーに同行したと報告された段階で、公安の地下オペレーションルームから外へ出た。水元が現場でさらされたような雰囲気に逃げ出したわけではない。

 水元と異なり、その面相以上に頑丈な神経は、この程度では傷も付かない。

 部屋を出た理由は、禁煙の部屋で長く居続けることがヘビースモーカーである彼にとって苦行だからである。

 撤収作業自体は”バベル”に関係なく、水元たちについても心配はしていない。水元が加われば、アンチエスパーがいても問題はないはずだ。


 廊下に設けられている喫煙スペースに向かい、煙草に火をつける。今回の結末のような苦さをじっくり味わう。

「煙草の臭いは、けっこう、子どもに嫌われますよ。」
 少しからかいを含んだ声に振り返ると、そこには彼の同志といってよい人物がいた。
 元公安部の実力者で、現在、政府の超能力問題に対する専門委員会の参事官を務めている才媛である。付け加えるなら、桐壺とともに”バベル”の設立さいの立て役者の一人であり、部内でも少ない特務エスパーチームの応援者でもある。

 今回の作戦のきっかけとなった情報は、彼女のプライベートな情報網を使って入手したものである。
 そのため、部外者が入ることのできないオペレーションルームにオブザーバーとして立ち会い、ことの成り行きを追っていた。

「柏木君にもずいぶん言われるんですが、こればかりはネ。」
 日本の財政にしっかり貢献している割に、肩身が年々狭くなっていくのが喫煙者の立場である。

「しかし、何ですナ。情報としては聞いていましたが、人工エスパーが存在するとは信じられませんでしたヨ。」

 ”本当の超能力者”が世に認められるようになってから十年、様々な研究が進められているものの、手探りの域を出ていない。人工エスパーなど一番眉唾な話と今日まで思われていた。

「治安担当の連中も不安で頭を抱えてますヨ。」
 エスパーが引き起こす犯罪を解決しようとすれば、特務エスパーに助力を求めるか、犠牲覚悟の力業でねじ伏せるかの二者択一しかないのである。この上、人工的にエスパーの数が増えるとなると、とうてい手が足りない。

「そういう公式見解はともかく、桐壺局長、あなたご自身の見解をお聞きしたいわね。」
 面接をする試験官のような雰囲気を漂わせながら、本音を促す。

「そうですね、人工エスパーの可能性に喜んだ人も多いでしょうナ。」

『やっぱり、わかってるわね。』との表情が浮かぶ。

「やっと、エスパーに対抗できる手段を得たわけですからネ。」
 エスパーが超能力をもって社会に混乱をもたらす、という恐怖感が超能力を持たない人の心をじわじわと蝕んでいる。先日のハイジャック事件もその延長上にある。
 もし、人工的にエスパーが生み出せるなら、それは、自然発生のエスパーに対抗する有力な武器となり得るだろう。ただし、そのことで、エスパーとそうでない人たちとの対立がかえって表面化するかもしれない。

「人工的にエスパーを作る方法についての情報が得られなかったのは、その意味では、幸いでしたネ。」
 上層部の連中が最初にこの情報を知った時の笑みは思い出したくもない。彼らは、超能力をパワーゲームの一つ駒とし考えていない。

「エスパーとそうでない人が、『力』で均衡を図る社会なんて願い下げにしたいわ。何とかして、私たちの世代で共生の芽だけでも作っておきたものですわね。」
彼女と桐壺の認識は、その点で一致している。

「そのための”バベル”のですから、頑張りますヨ。」
力強く請け負った。が、理想の実現への道のりは険しいことは誰よりも知っている。
 ただ、現運用主任である水元が、その状況を打破するかもしれないとの希望が、ようやく持てるようになってきたのはわずかな朗報といえる。

その”バベル”を震撼させる、特務エスパー全員と運用主任の失踪という知らせが入るのは、この1時間後である。

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