ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(4)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/ 9/20)

 遠い世界の近い未来(4)

 火の粉は周辺の雑木林に散り、延焼の恐れが出始めている。
 いくら関係機関に根回しをして、付近を封鎖をした作戦であっても限度がある。山火事になれば、土地の消防や警察が動き始めるはずだ。

「撤収だ、爆破準備に入れ。」 隊長は苦い決断を下した。
 施設の破壊と平行して行う予定だった研究データー奪取はあきらめざるを得ない。できるだけ早く施設を破壊し、逃げ出すだけだ。


 いつものことといえば、そうなのだが、今日の針のムシロは、一段と居心地が悪い。

 さっきまでは、共同任務ということで水元を立てていた隊長も撤収の指揮に集中する必要もあり、こちらを見ようともしない。他の隊員に至っては、存在自体を無視している。一度だけ、施設の爆破時間を伝えられただけだ。

 彼女たちは消えたままだが、呼び戻してもトラブルを起こすだけなので爆破直前まで、好きにさせることにする。


「こちら、紫穂です。聞こえますか?」
 インカムから呼びかけが入る。いつもは、勝手に物事を進めるため、向こうから呼びかけられることは珍しい。それに、紫穂がお嬢様口調を使わないことも。

「ホールから下へ続く通路を見つけ入ったんだけど、『力』が入らなくなってきたの。」

「アンチエスパーなのか!?」
 水元は、マイクにくってかかるように怒鳴る。
 すべての超能力を抑圧する超能力者にとって鬼門ともいえる能力である。先日もその能力者のおかげで危なく全員が命を失いかけた事件が起こったばかりだ。

「耳が痛いわ、アホ!!」
 薫の声が、割り込んでくる。

「すまん、つい。」

「前とは、違って『力』が使えないわけじゃない。何か、こう頭にモヤのようなものがかかって、集中しにくいだけや。」
 一番冷静な葵が、状況を追加する。

「すぐに引き返せ、これは命令だ!!」
 本来であれば、こんな時こそ特殊部隊の出番であるが、今までのいきさつで、あらためて特殊部隊に協力を要請する図太さはない。

「いやや。まだ『力』は使えるようやし、こうなったら手ぶらで帰るわけにはいかんやろ。見ててや、今度こそ、ちゃんと帳尻は合わせたるさかいに。」

どうやら意地になってしまったらしい。こうなると水元には止める方法は思いつかない。

「それじゃ、一度戻って、俺を連れて行け、弾よけぐらいにはなる。」
 超能力が使えなければ、ただの十歳の女の子達である。水元なら、ないよりはマシ程度ではあるが戦闘訓練を受けている。

「いらん、いらん、足手まといなだけや。」と薫。

「この餓鬼ども、大人をなめんのもいいかげんにしろ!! 帰ったらお仕置‥‥」

 葵が水元から2〜3m 脇に出現する。思い通りの場所に出なかったことに顔をしかめながら、水元の方に歩み寄る。
 いったん深呼吸してから、猛禽類が獲物を狙うような微笑みを浮かべ、水元とテレポート。


「どうします?」
 一部始終を見ていた部下が一応尋ねる。

「知ったことか! 爆破時間は伝えているから、勝手に自分たちで脱出するだろう。我々は我々の仕事をするだけだ!」
 部内では温厚で実直であるとの評判の高い隊長ではあるが、勝手にどんどん行動を進める”バベル”の連中に堪忍袋の緒が切れたようだ。

 あの連中のことを忘れようと頭を横に振り、再び、撤収作業に意識を集中する。


「いつから、ワイらにお仕置きできるほど偉うなったんや。」
 実体化すると同時に水元は、猛烈な力で壁に押しつけられる。指一本動かせず、全身の骨が悲鳴を上げる。
「まったく、大人は少し甘い顔をするとつけあがる‥‥」
 葵も威嚇するように詰め寄る。

「アレ?! 変な感じ消えとるわ。」
 さっきまであった違和感がなくなっていることに気づく。同時に、普段通りの力が出ているとすれば、水元には200 kgほどの相撲取りがのしかかっているのに相当する力が掛かっていることに気づき、押しつけるのをやめる。
水元は、そのまま床へ座り込み、肩で大きく息をする。

『力が弱ってると思って気合い入れたが、やり過ぎかな。』
 という表情で葵を見る薫。
『あんたがやり過ぎたんや、私は知らんで。』
 責任を転嫁するように首を振る葵。

「まぁ、来たんやから弾よけぐらいには使こたるワ。」
薫はそう言い捨て、先に進み、葵もそれに続く。

「予定通りなんでしょ。」
残った紫穂は、うずくまる水元にささやく。

「二人とも、心配してくれてることはうれしいのよ。」
三人とも、前のハイジャック事件以来、彼がいつも本気で心配してくれていることを知っている。そして、その思いが、自分たちに心地良いモノであることも気づいている。

水元は微笑もうと思うが、痛みのため顔が引きつる。

紫穂は手を差しだそうとするが、控える。
 触れてしまうと、押さえようとしてもある程度の情報が流れ込んでくる。今更、嫌がるとは思わないが、水元の心を読むことに抵抗を感じるようになってきている。

 水元も『わかってる。』という表情を浮かべ、立ち上がる。

「早くケリをつけて帰ろう。良い子は寝る時間だよ。」
 先に進んだ、二人を追うように通路に奥に進み始めた。

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