ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その35)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 9/20)

ブロロロロロ・・・・

さんさんと太陽が輝き、爽やかな風が吹く5月21日(金曜日)PM1:30
フロントガラスに『六道女学院霊能科林間学校御一行様』と掲げられた観光バス2台が整備された山道を登っていく。
その中で自然の緑が流れていく風景を1−B出席番号23番・美神ひのめは気持ちよさそうに見つめていた。

「う〜ん、やっぱり山っていいわよねぇ〜心が洗われるっていうか・・・・」

「くす、それじゃあひーちゃんの心が汚れてるみたいだよ」

ひのめの隣の座席でくすくすと笑みを浮かべるのは、
腰まできれいに伸びた黒髪とおっとりとした表情が特徴の江藤幸恵(えとう さちえ)出席番号4番。

『いや、案外当たってるわさ』

「何だとコラァ!」

ひのめの右手に巻きつけられているリストバンドに浮かぶ一つ目、
霊力を制御するために小竜姫の息吹から生まれた心眼の言葉にケンカ腰になるひのめ、
これももう日常と化したなぁと思いつつ幸恵は苦笑いを浮かべるのだった。

「ほらほら、ひーちゃんも心眼さんもケンカしない。実習合宿なんだから二人が力を合わせなきゃ」

そう今回霊能科が向かっている長野県『M山』はハイキングやピクニック、登山客で賑わう観光名所なのだが、
隣山のN山が十数年前から霊山になってしまった影響で悪霊の類が集まるようになってしまっていた。
もちろん結界は張ってあるし、集まる悪霊も大したことはない。しかし、そのまま放置しておけば悪霊はたまる一方、
そこで一年に一回六道女学院霊能科が実習合宿を兼ねて除霊作業を受け持っていた。

まあ原作で登場した臨海学校の『山バージョン』だと思ってくれればOK。(←身も蓋もない)

そんなわけで各班6人ずつでチームを組むわけだが、ひのめと幸恵が組むD班は・・・
斉藤 久美(出席番号8番)木下 光(出席番号6番)それにひのめと幸恵・・・・・さらに・・・

三世院京華(さんぜいん きょうか)と橘かすみ(たちばな かすみ)を加えた6人だった。  

ひのめと幸恵の後の席に座る京華とかすみ。
窓側に座る京華は無表情のままお蝶婦人のようなクルクルとした縦ロールの金髪をいじりながら窓の外を見つめた。
そして思い出す・・・四日前の対決、そして二日前の出来事を・・・・










二日前 5月19日


「ねー、聞いた聞いた?」

「うんうん!聞いたわよぉ!」

「え、何?何?」

その日六女の霊能科1−Bではある噂話で持ちきりだった。
それは・・・

「昨日美神さんと三世院さんが学校休んだじゃない?それって二人がケンカしたからなんだってぇ!」

「うっそー!でも勝負見えてるじゃない」

「それがね、何と美神さんが勝ったらしいのよ!」

「ええ!?マジでぇ?」

「ホントだって!A組の友達が見たって言ってたもん!」

こんな感じでクラス中に広がった話に幸恵は苦笑いしながら耳を傾けた。
なかには背びれ尾びれがついて「美神さんが火を吹いた」とか「三世院さんが素手で木を折った」とか人間離れした話題になっている。
そんなとき・・・

「お〜す、さっちゃんおはよ〜♪」

「うわ、ひーちゃん・・・いいタイミングというか、悪いタイミングというか・・・」

「何が?」

バッグを机の上にドンっと置いてひのめが席についた瞬間。

ドドドドド!!!

4、5人の生徒がひのめの元に殺到する。

「ねー!美神さん!三世院さんとケンカしたって本当!?」
「しかも圧勝だったの!?」
「三世院さんを燃やしたって・・・それ霊能力!?」

「な、何これ!?」

ひのめはクラスメイトの質問攻勢に思わずいすを引いてのけぞってしまう。
そんなひのめに幸恵が耳打ちをして今の状況を教えた。

(おとついの二人の対決見られてたんだよ、一部始終見られたわけじゃないからいろんな部分がハショってあるけど・・・)

(あちゃー・・・校内での暴力行為なんてバレたら停学・・・・だよね?)

(『そんなことになったらあんた美智恵さんに殺されるわさ・・・』)

心眼の言葉にひのめはブルっと震える。

「「「で、で、で!?」」」」

「い、いや・・・・それはぁ・・・」

嘘が下手なひのめが困ったなぁと思案していると。

────まあ、嘘でもホントでも三世院さんが学校休んでくれるんだから気が楽よねぇ」
────ホントホントぉ」
────あいつといると疲れるシィー」

ひのめ達から少し離れたところでクスクスと笑う集団。
それは『三世院派』と言われていつも京華に付き従っていたクラスメイト達だった。
しかし、その内容はとてもいつも一緒にいるクラスメイトに対して言う言葉じゃない。

「いっつも偉そうにしてるし、ホント何様っていう感じよね〜」
「ね〜、人のこと見下してさぁ〜」
「三世院家って言ったってGS界じゃ落ち目じゃない」
「しかも美神さんに負けるようじゃねぇ」
「お嬢様って感じでいつも楽してそ・・・」


ドカンッ!!!!


「「「「「「「!!?」」」」」」

何かがぶつかったような大きな音に教室で交わされていた会話が全て止まる。
そして皆がその音源のほうへ振り返った。それは・・・・
ひのめが勢いよく立ち上がり、机を両手で思いっきり叩いた音だった。
そしてひのめは立ったまま顔を強張らせキっと三世院派の連中を睨んみながら叫んだ。

「あんた達勝手なこと言ってんじゃないわよっ!!」

「な、なによ・・・」

予想してなかったひのめの啖呵に思わず声が詰まる三世院派の連中。

「別にあんた達が普段ヘコヘコしてるのは気にしないけどねぇ!
 三世院京華のこと何も知らないくせにあの娘をバカにするような言葉を二度と吐くんじゃないわよ!
 もし、それ以上何か言うなら私許さないわよ!」

ひのめの言葉に悔しそうな表情で押し黙る生徒達。
2週間くらい前までは落ちこぼれであったはずのひのめが今では彼女達には大きく見える、
それがまた悔しさを盛り上げるのだった。


そんな会話を・・・京華は教室の扉の影にかくれて聞いていたのだった。
当然胸にこみ上げるのは格下の連中に侮れる悔しさと、よりにもよって宿敵にかばわれる屈辱・・・・だが・・・
それだけじゃない・・・何か言葉には出来ない温かい感情が京華の胸にあるのだった。


それは・・・














・・・か

・・・ょうか

・・・・・きょうか


「京華!」

「!!?」

京華は体の揺さぶりと共に自分の名を呼ばれていることにハっ気づいた。

「どうしたの?酔った?」

「かすみ・・・。い、いえ・・・何でもないですわ」

ツインテールの幼馴染にそっけなく答えると京華はパーキングエリアで買ったペットボトル飲料を口に含んだ。
喉を潤す冷たいお茶が少しだけ思考に冷静さを取り戻させたような気がする。

「食べる?」

「いらないわ・・・。・・・・・・、少し寝ますわ」

かすみが差し出した菓子を断るとアイマスクを取り出し頭にかける。
そして自分の視界が暗くなる前に目の前でチラつく亜麻色の髪の主を見つめる。

(・・・・美神・・・ひのめ・・・か)

心の中でその名を呟きながら京華は『フッ』と嘲笑を浮かべた。
誰にも気づかれないような笑みを・・・・・・それはひのめにか、それとも自分自身に向けたのかは誰にもわからなかった・・・

そして京華が眠りにつこうとしたそのとき、急にバスの中がざわつき始めた。
何事かと起き上がると皆の視線を追ってみる・・・それは・・・




パウウウゥゥゥゥウウウウウウウウウウ────ッ!!!!!
ブロオオオオオォォォォォォオオオオオ────ッ!!!!!
ババババババババババ・・・・!!!!

けたたましいエンジン音をアスファルトに刻みながら六女のバス後方から走ってくる一台の車とバイク、そして上空を飛ぶヘリ。
その運転手は・・・・

「いーかげんにしなさいよ、令子ッ!!登りでバイクに勝てると思ってるワケっ!!?」
「あんたの腕でホザくんじゃないわよ!!今年こそ決着つけてやるわッ!!!」
「二人とも〜、何で毎年競争しちゃうのぉ〜?危ないわよ〜〜〜〜」

車には亜麻色の髪を肩のあたりで揃えている令子、
バイクには黒髪を強風になびかせるエミが乗り込みお互い譲ろうとはしない。
その二人を上空から六道女学院校長の冥子が諭そうとするがまるで効果はなし。
さらに令子カーの助手席、エミバイクの後部座席にいたのは・・・

「れ、令子おおおっ!!もっと安全運転しろぉぉ!!俺には俺の帰りを待つ三人の子供がぁぁぁっ!!」
「え、エミさ────ん!!お願いしますぅ!もっとスピード落として下さぁぁぁいッ!」

令子の夫横島と、エミの夫ピートが泣き叫ぶ(マジ泣きで)が妻達は全く聞こうとはしない。
それどころかカーブでの体重移動や車体の傾きを調整する重し役になってしまっているのが現状だった。

(も、もう・・・・駄目だ・・・ここはヴァンパイアミストで脱出して・・・・)

と気が遠くなりそうなピートが打開策を思い浮かべるが・・・

「な、何で・・・霧化できない!!?」

自分の能力が発動しないことに戸惑うピート、しかし自分の胸元であるものが光っていることに気づいた。
それは・・・

「も、文珠!!?」

それは先程何かのときのためにと横島が令子、エミ、ピートに配ったものだった。
ピートに配られた文珠・・・そこには『封』と刻まれ輝いている。

「ふふ・・・ピートぉぉぉ、一人で逃げようなんて許さぁぁん、道連れじゃあぁぁッ!!」
「横島さ────ん!こんな状況で文珠の遠距離発動なんて器用なことしないで下さいよぉぉおっ!!」

「次は山道にしては珍しいロングストレート!!人工幽霊壱号!ここで突き放すわよっ!!!」
『了解、オーナー』

令子は右手をハンドルから離すと赤い取っ手のようなレバーを握り締めそれをグイっと力強く前方へスライドさせる。

「ブーストぉ、オンっ!!!」
『ブーストポット作動、エンジン臨界点へカウントスタート・・・』

「令子ぉぉ!!サンラ●ズに怒られるネタはやめろぉぉ!!人工幽霊壱号もノリよすぎだあぁぁぁぁぁ・・・(←ドップラー現象)」


横島の悲鳴が山中にこだます頃・・・・六道女学院1−B組のバスでは・・・

「ひーちゃん・・・今のってひーちゃんのお姉・・・」
「言わないで何も言わないで・・・私は何も見なかった聞かなかった・・・」

ひのめが現実から目を逸らしていた。





                               その36に続く

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa