ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDU−6


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)

 突然、弾丸のごとく四散したゲルが、その圧倒的な圧力を誉人たちに向ける。
 その力の大半は、破魔札の力によって、封殺され、焼殺されていく。しかし、何しろ相手の数、総じて物理的な圧力がこちらよりは、はるかに高いのだ。誉人の手の中にある札で、これらを抑えきれるはずはない。
 誉人は美代をちらりと横目見た。彼女の実力では、まだまだ余裕であるようだ。しかし、あくまでも霊的な実力を持った上での余裕であって、身体的な余裕とは違う。いくら腕がたつとは言っても、彼女も女性だ。もうそろそろで、単純な腕力ならば、誉人でも張り合えるかもしれない。そういった状況なので、膨大な圧力で迫るゲルたちを一人で捌くのは、困難を極めるようだ。
「!?」
 不意に、誉人への攻撃が、軽くなった。美代への攻撃が集中してきたようだ。見ると、美代の右腕から、血が滴っていた。先ほどの怪我が、この攻撃によって悪化したのだ。
 美代の命が危ない。そう思った瞬間、誉人の手にあった千円の札が吹き飛んだ。
 もう、迷っている暇はなかった。

 それは勝利を確信していた。やはり自分は生きていていい存在なのだと。
 それは、敵対するものの内、女のほうが強い存在であることを知っていた。向かい合っていれば、その強さに震えが走る。
 だがしかし、女というのは、男に比べて力がない傾向にあることも理解していた。高い自己改良能力を持ったそれは、消化した二人の脳から、彼に『智』を与えることに成功していた。
 このまま女のほうに圧力を加えれば、先ほどの怪我もあり、いずれ限界が来る。男のほうは、そうたいした実力もないので、まず問題はないはずだ。
 そんなことをそれは思った。そんなとき、彼の『目』にそれは移った。

 十万円と書かれた紙が、びりびりと破け、その幾何学文様は全貌を現した。
 今までの札とは圧倒的に威力の違う、そう考えることすらおこがましい力を持ったもの。
 迫り来るすべてを滅し、たちどころにやつへと肉迫する。
 やつは必死さをも持ったように、弧を描く緑を放つが、なんとか気を戻した良樹の結界によって阻まれる。
「最後だからって、いきなり起きやがったな」
 なんとなくいいところをもっていかれたような悔しさで、誉人は笑う。その眼前には、ひたすらに緑色の礫をこちらに向けているなにかがあった。
 霊的な何か、苦しさと悲しさを持った何か、ひたすらに抗う為だけの何か。
 逡巡さえしそうになったが、誉人は札を構えるしかなかった。ここまで来たのならば、すでにやることは限られている。
 その限られた何かを、何かのために、行うことでしか現実は動き出さない。
 そして、誉人は動き出した現実に向かってまっすぐ札を叩きつけた。

 それは光だった。単純な光ではなく、すべてを焼き焦がす閃光。彼の目となり思想であり、スベテでもあった、唯一のもの。脳とも呼べない不完全な機関を焼ききる。
 それでも、いきたい。いきたいいきたいいきていたいいきのびたい・・・・・・
 『それ』のからだから、なにかがわかれた。

 あまりの体の重さに、誉人は目が覚めた。そこには、自分の顔に肉薄した自分の母の顔があった。彼女は目をつぶっており、周りに広がる瓦礫と挟まれ、痛さを感じていた。
 そんな中で、場違いな思いが彼に駆け上がる。
「そ、そんな。自分の子との禁じられた愛に目覚めるだなんて・・・」
「あほなこといってんなぁ」
 すぐさま、母に殴られた。起きていたらしい・・・
「ほら、たってよね。もう、こんなでかい息子の面倒見るんだって疲れるんだから」
 母は、悪態をつきつつ誉人に左の手を貸す。
「ああぁ、ごめんなさい・・・」
 居心地が悪かったので、素直にそれに従った。だが、起きるために母の手に力を込めたとき、その母美代の腰が、がくっと落ちる。
「どうしたんだよっ!」
 慌てて御世を抱きとめると、美代の背中に大きな傷がついているのを見つける。裂傷、焼けどなどで、背中の半分ほどが傷つき、すぐさま病院に連れて行かねばならないようだ。
「・・・・・・ごめん、おれのせいで」
 誉人はいたたまれない気持ちになった。彼女がこうなったのも、彼のせいともいえる。あの圧倒的な力から、息子を守るために、その身を挺して守ってくれたのだろう。だからこそ、誉人が起きたときに肉薄していたのではないか。そもそも、誉人が札の威力に酔わずに、ちゃんと制御さえできれば・・・
「別にあんたのせいじゃないよ。これはあたしがそうしたかったからやっただけ。
確かにまだまだ実践じゃ通用しないけどさ、まぁ、大きくなったあんたを見れてよしって事にしておいてやるよ」
 疲れた瞳をこちらに向けて、美代は言った。その顔には、言葉どおりのやってやったという色が見えた。
 そのとき誉人の目には、美代の後ろからむくりと起き上がる緑色の物体が鎌首を持ち上げるのを捉えていた。

 それは死を覚悟していた。生物的な死ではなく、己を己と自覚できなくなる『死』。自分が自分でなくなっていくことが、驚くほど手に取るように分かってしまう。彼の唯一彼として成り立たせていた機関であるものが、崩れ去ったせいだ。
 だが、そんな薄れ行く意識の中で、彼は目の前の破砕跡の生々しき瓦礫の上に座っている二人に、狙いを定めた。それは感じていた。・・・あれは敵だと。
 そして、自分の生死を賭した、最後の一撃を放とうとする。もはや、彼には逃げて体勢を立て直すだとか、この一撃を放てば死んでしまうなどとは、考えられなかった。
 失った『脳』とでも呼べる不自然な機関がない今の彼には、もはや文字どおりの、『鉄砲玉』としか出来ることはなかった。
 そして、彼の意識は文字どおり、霧散した。

「僕だってね、自分の妻や息子が黙ってやられるのを見過ごすわけには行かないんですよ」
 高い度のめがねをつけた伊達男、横島忠誉は哀れみをこめた瞳で『それ』を見つめた。
(なぜ・・・わたしは・・・いきたかっただけなのに)
 どこからともなく、声が聞こえる。それに対し、忠誉は返す。
「きっと、みんなそうなんでしょう。でも、生きるためには何かを犠牲にしなければ生きてはいけない。まだ、あなたの出現は早かった。だから、こう犠牲が増えるんでしょうね」
 憂いさえこもった瞳で、忠誉は虚空を見上げる。
(馬鹿な、ではわれらはその時が来るまで苦汁をなめろと)
 怒りを明確に伝えようとそれは努めるが、薄れ行く意識の中で、抑揚としたものの言い方になる。
「すいません。これも仕事ですから」
 困ったように頭を下げ、忠誉は胸に十字を描く。すると、たちまちの内に「それ」をなしていたものは、霧のように細かくなって消えていった。

 恐怖で目をつぶった誉人だが、一向に敵の攻撃も、痛みも、死という現実すら来ないのに訝しんで、目を開ける。
 そこには、しゃがみこんで何事かを呟く眼鏡の伊達男、忠誉の姿があった。彼も珍しく、ブランド物のコートやら帽子やらと、一応は身なりに気をつけているようであった。
「がんばったな」
 こちらに振り向いた父は、にこりと腕を上げて微笑みかける。
 そこに、
「あぁぁなぁぁたぁぁはぁぁー」
 地獄の黙示録よろしくに店内に響く、鬼のような声。見ると、美代はキッと忠誉へと向き直り、今にも掴みかからんばかりの様子であった。
「あんた、見てたでしょ。絶対見てたでしょ!」
 というか、掴みかからないようにしていたのは、ひとえに誉人が押さえつけていたからである。あとでどうなったかは、言うまでもない。
「まぁまぁ、悪かったって思っていますよ。でも息子たちが大きくなっていく様も見ていたかったんですよ。だから、悪かったと思ってるからこうして・・・」
 と、父は二人に手をかざすと、ぼやっとした淡い光に包まれた。
「ヒーリングをかけてるじゃないですか」
 すると、だんだんわずかずつだが、痛みが薄れ、血も止血されていく。
 彼はその控えめな性格のせいか、攻撃的な術をあまり使用しようとはせずに、ヒーリングなどの術法を主としていた。
「それに、代えの服だってもってきましたし・・・」
 といって彼はどこからともなく、服を取り出した。 
 それにたいして、ついに美代はぶちきれた。
「貴様はこっちがピンチだって知ってたんかー!!!」

 ドッゴォォーン!!!

 本日最大級の破壊力を食らった我が父は、どこか遠い世界の彼方へと旅立っていった。

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