ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDU−5


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)

 美代はぼやける瞳で、自分の息子の戦いを見守っていた。生命力や霊力をごっそりもって行かれた今の状態では、まともに物を見ることができなかったが、それだけのせいで物が見えないわけではなさそうだった。
 自分の息子ががんばっている。あの様子では今日がなんの日なのか、思い出してくれたのであろう。たった、それだけのために、でも、それだけのことに固執していた自分も、大人気ない。
 でも、だからこそ、いいのかもしれない。もともと、夫婦そろってこんな仕事についているものだから、こんな日でないとまともに顔を合わすことすらできはしない。
 だからこそ、美代はこんな日を大切にしたかった。
 きょうは、彼女の結婚記念日だった。たったそれだけ、周りからすれば、それっぽっちのことだったかもしれない。でも、彼女はこの日を大切にしたかった。
 息子が友人を連れてきたときには、それをおくびにすら出してはいなかったが、内心は不機嫌だった。仕事だって、あせってへまをした。公私混同もいいところだ。
「良樹君」 
 俯いたまま、美代は結界を張ることに勤しんでいる息子の友人に声をかけた。髪が邪魔でよくは見えないが、彼は汗をだらだらとかいている。疲労の色も濃い。
 しかし、
「なんですか」
光明見えたりといった顔で、彼はこちらを向いてきた。
 美代は顔を上げると、
「私の顔をひっぱたいて」
と、きりだす。
 そのことに、彼は驚いたようだが、こちらの真剣なまなざしに何かを見出したようだ。
「じゃ、じゃぁ、いきますよ」

 ・・・ぱん!・・・

 小気味のいい音に、美代の視線は気持ちのいいくらい右側へとずれる。
 ジンジンする頬が、すでに殴った後である事実を彼女に伝えていた。
 そして、
「いったいじゃぁないのよ、この馬鹿!!」
次の瞬間、良樹は美代の腕から伸びたグーなるものの力によって、たたきのばされた。

 緑が目の前を覆う。いくらか誉人が四散させたとはいえ、まだ二メートル近くかあるそのゲル上の前に、もはや彼の体力的にも限界であった。
 壁のように包み込んでいくそれを、金色の刃が分断し、跳ね上がりながら、なおも生きようとする意思たちを続けざまにかき消す。しかし、まったく無事である小さい破片や、跳ね上がらなかった本体たちが、誉人を侵食しようと弾丸のごとき速さで食い尽くそうとした。
 ガキィィィン!!
 良樹が張っていた結界がいともたやすくはぜ割れる。彼の霊力ももはや限界なのか、しかし誉人の目に映ったのは、何者かの力によって、吹っ飛ばされていく良樹の姿であった。
 だが誉人に友人の心配をしている時間はない。簡単に貫かれたとはいえ、だがしかし、ほんの少しだけ減速したゲルが、誉人に迫る。
 だがしかし、そのほんの少しの減速が、勝負の世界を色濃く変える。
 そのとき、誉人の傍らをなでるようにかすめ去って行く一陣の風。指向性を持った力の奔流。霊力を単純な圧力に変化させた、純粋なる破壊の現象。
 誉人に迫っていた緑の雨は、たちまちの内に一掃された。
「無様なところを見せて、悪かったわね。ここからはちゃんと、相手をしてやるわよ」
 何かに挑むかのような目つきで、美代は歩いてきた。
 ちょうど彼女が誉人の横まで歩いてきたところで、彼女が腕を振るった。偶然、無事だった左腕の袖から、隠しアームでも仕込んであったらしく、にゅっと数枚の札が飛び出してきた。
「やつ相手に神通棍何て、使うだけ疲れるだけよ。やつらみたいな眷属は破魔札なんかで焼ききるしか具体的な撃退方法はないわよ」
 そういいながら、誉人の手に、何事かが書かれた札を渡す。
 ・・・千円・・・
「おどれはー、自分の息子の命を千円で済ます気かー」
 泣きたくなるような気持ちで、誉人は美代をにらみつける。
 彼女は笑いながら、冗談よ、と告げ、
「大きくなったわね・・・」
と、誉人の頭に手を置いた。ぽんぽんと、二、三度彼の頭を触ると、今度は十万円と書かれた札をわたし、
「これはあくまでやばくなったときに使うのよ。じゃないと、もったいないから」
と、いった。
「焦ってぜんぜん敵の正体に気づかなかったなんて、馬鹿もいいとこよね」
 自嘲気味に美代はつぶやき、キッと前方を見据える。ゲルは周りのものを取り込み始め、ダメージを回復していた。
「結局は、ただのスライムなんてね」

 彼は大きく変貌していた。その意思、体、さまざまなものが、従来の彼の仲間たちとは異なっていた。
 最初に変化を遂げたのはいつからだったのであろうか・・・
 そう、あれは一ヶ月ほど前のことであった。家賃を滞納していると嘆いている不気味な自称天才科学者から、意味のわからないものを飲まされた。生産性の高い変異体。それは、自己改良、自己増殖が可能なように作り上げられるもの。彼がどのような意図でそれを自分に分け与えたのかは知らない、そのとき彼は「これでやっと家賃が」などと、意味の不明なことをいってはいたが。
 しかし、自分の存在は、彼の意図とは別のものであったようだ。自分の子や、仲間たちを無慈悲に焼却処分していった。だから、彼は逃げた。そして、ここにたどり着いた。それが二日前のことであった。その間に二人を飲み込み、彼らの血と肉を奪っていった。
 それが、たった二人の者の手により、再び無に帰ろうとしていた。活きたかった、死にたくはなかった。もしこの世に自分を生み出したものがいるのであるのならば、彼は自分を活かすために生み出したのではないのか。しかし、彼を『彼』として生み出した者は、すでに『彼たち』を殺している。ならば自分は死するために生まれたのか。
 その答えを見つけるために、『彼たち』は、最後の攻防を始める。

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