ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDU−4


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)

 肉片のようなものが、木のドアを抱きかかえていくように、動き出す。明確な意思を持ったように、それでいてゆっくりと獲物を捕らえるように。
 慌てて美代は、ドアから足を引き剥がして、腰に携えていた神通棍を握り締めた。ジャキンと音が鳴ったと思うと、そのグリップに当る部分の先端から、輝く棒が生まれ、さらにその間断に解読不能な文様が生まれる。
「いいスウィーパーだよなぁ、お前の母親はなぁ」
 いつの間にやら復活した良樹が、眩しいものでも見るかのように、嘆息を漏らす。その腕には、これまたいつの間にやら持ってきたのか、このレストランの食材やら何やらが乗った皿が乗っており、反対の腕で、散乱したうちの一つである椅子を引いているとこであった。
「お帰り、あっちの世界はどうだった」
「なんのことだ?」
「・・・・・・なんでも」
 などと、皮肉っては見たが、当の本人にはまったく通じないようである。だがしかし、この友人の(歪んではいるが)落ち着いたペースが、確実に誉人に落ち着きを与えたことは確かであった。
 少なくとも、状況確認くらいの、ではあるが。
 まず自分たちはレストランから入ったらすぐ見えるであろう、フロアに二人でちょこんと座っている。さらにそこから2,3メートルあたりに母、さらにそこから足が届く場所に躍動を始めた肉片がいる。否、肉片だったものというべきか。
 肉片とまず最初に思われていた要因である生々しさ、それらを強調するように染まっていたどす黒い紅、しかし今はその片鱗さえも見当たらないくらいに緑色に変わっていた。
 その肉片からは、今はじゅわーという音とともに煙が立ち込めている。
 ちらりと友人を横目見る。彼はまるで安全地帯にでもいるかのように、そしらぬ顔で拝借したものをムシャリと食べていた。まさか調理場の者たちやらが、それを分け与えたわけではないだろう。おそらく中には誰もいないはずだ。
 そして野次馬さえも集まらない入り口周辺。スウィーパーの中には、周りに被害が及ばぬように、特殊な結界や、物理的なバリケードを用いるものも多い。そうでないものは、超一流と呼ばれるものたちか、駆け出しもいいところのシロートであろう。おそらく誉人たちが入ったと同時に、母が結界を張ったのだろう。並みの腕では務まらぬ所業だ。
 せめて非常出口というか、安全圏とでもいうか、それくらいは確保しなければと思い、周りを見回した誉人の目にそれは映った。
 母、美代から死角である散乱した椅子とテーブルの間を縫うようにして、何かが流れていく。緑色をした、あの何かが。
「右下だ!」
 叫ぶ誉人。美代は声にすぐさま反応して、神通棍を振り回す。 
 獣のつめにも似た一撃を、その棍は霧散させ、立て続けに振り払うことにより生まれる瞬撃は、緑を白く一変させる。
「とどめ、くらいなさい」
 大きく振りかぶってから突き進むつきは、鉄製でもない木のドアを容易に突き破り、その奥にいる何かに突き刺さる。
「やったか・・・」
 意外にすんなり終わったため、今までの気苦労の分だけ大いに安堵した誉人は歓喜の声を上げる。
「こっちにくるな!!」
 しかし、そこにかぶせられるように発せられる、美代の怒声。その声に誉人の動きは止まる。さすがの良樹でさえ、先ほどまで食べていたトマトをポロリと落とす。
「・・・・・・やってくれるじゃないのよ」
 疲れたような美代の声が聞こえたかと思うと、不意にドアがたたききれた。神通棍で、美代がそれを力任せに切りつけたのだ。
「せっかく、せっかくなのよ、こんな日だったのに。きょうにかぎって・・・」
 いつもは強気な美代は、力なくそうつぶやき、握っていた棍をカランと落とした。
 いぶかしんだ誉人はおそるおそる近づいて、彼女の様子を伺う。
 彼女の右腕には緑のゲル上のものがくっついており、そこを中心をしてぶすぶすと煙を上げていた。
「うわぁぁぁ」
 とっさに、彼は落ちていた神通棍を拾い上げ、刃となるべきものを編み上げる。
 そこから放たれる一閃。母とは比べるだけ無駄だが、それでも何とか戦力となる程度の光を持って、緑を吹き飛ばす。
 異変に気づいた良樹がいいタイミングで、美代を連れて隅に倒れていたテーブルの陰へ隠れる。
 それに習って、誉人もそこへ向かう。
 事態はまったくもって、相手の有利なような展開に向かっていくようであった。

 美代の目はうつろで、ゲルの触れた右腕はずたずたで赤く染まっていた。高そうな服もこれではなかなか直せないだろう。
霊力でも持っていかれたのか。それとも何か精神的な攻撃でも受けたのか、それとも絶大な攻撃力を相手が持っていて、その一撃でここまで弱ったのか、それとも・・・・・・
 彼女がこうなった可能性はいくらでもあった。しかし、そのどれがあたっていようが、今の自分たちにそれを治す術など、持ち合わせていないことも、同時に分かっていた。
 ただ、彼女の目はうつろで、何かを呟いているようであった。
・・・め・・・・・・・ご・・・・
「何、なにいってるかわかんないよ」
 誉人は、必死で呼びかけた。このまま彼女が戦力として成り立たないのでは、自分たちの命も危ない。それはある。それはあるが、それだけではないものもある。
 何よりも彼は、そんな母の姿を見ていたくはなかった。
 気丈で、横柄で、力強く、自己中心的。それでいてあけっぴろで、厳しさによく似た優しさを持ち合わせる。『自分』というものによく似た感覚で話せる彼女の存在は、やはり自分の親なのだということを思い出させてくれる。
 だから、自分は文句を言いながらでも母についていっているんだと思う。
 それは、母のことが好きということではないのか?
 それでも美代は、心苦しそうに瞳をつぶるのであった

良樹が即興で編み上げた簡易結界も、もはや限界であった。もともと所詮素人であるうえ、まともな方法で作り上げられた結界ではなく、あくまでも即興でしかないので、物の数分とすら持たず、それは破り去られる。
「うわお!」
 本体から切り離された小さい緑色の玉が、こちらへ突き進んでくる。それをすべるように良樹はよける。頭上すれすれのところを、それは超えていき、その先にあった木のオブジェクトを破壊する。
 この隙に、今のうちに新しい式を展開しようと良樹は霊力を練り始める。
 一方小さいゲルも、ひとしきり木を破壊し終えると、本体のあるほうへ戻り始める。その姿は、まるでスライムのようであった。
 
 誉人が美代に声をかけ、霊波を送り、考え付くさまざまなことを行っているうちに、一つのことに気がついた。
 今日は彼女は除霊を行いにここに来たはずだ。それなのに、派手なスーツを着こなし、アクセサリーを身につけている。
 あと数年若ければ・・・・・・ではなくて、普段から、確かに彼女はある程度は派手な服で除霊にのぞむ。これは完全に趣味から着てはいるのだが、アクセサリーなど、高価で、しかもよく動くほどなくしやすいものを、そうチャラチャラとつけるであろうか。
 それに、今日はなぜ自分を呼んだのか。確かに、彼女は今はこんな状態ではあるが、これが彼女の実力のすべてではないはずだ。戦力外どころか、足手まといである自分を呼ぶなんておかしいのではないのか・・・確かに、何度かスウィーパーの仕事を手伝ったこともあるし、彼のおかげで助かったことだってあるはずだ。だからこそ、彼の実力を鑑みることもできうるし、彼を仕事に使うか否か位の観察力だってあるはずだ。
『きょうにかぎって・・・』
 その言葉が、激しく誉人の耳朶を打つ。きょうは何の日だったのか。無力な息子にも付き合って欲しい何かが、一張羅で準備したい何かがそこにあるのではないのか。今日、自分たちにとって大切な・・・
 その答えを知ったとき、誉人は・・・・・・・・・

「ああああぁぁぁぁぁ」
 大きく振りかぶった神通棍を、誉人はやつに向かってたたきつける。
 スライムによく似たそれは、その体のうちの四割ほどが、大きく跳ね上がり中に舞う。
さらに誉人は中に舞った緑を、翻る刃でもって霧消させた。
「あいつ、・・・泣いている?」
 良樹の瞳には、淡く光を反射する滴が写っていた。

 たたき、たたき、切りつける。その短絡な作業の繰り返しだった。それだけでもよかった。ただ望むは、このものを屠るだけの力が自分に備わっていることを。
 脇から飛来する緑の糸を、誉人は回転する刃で受け止めた。防げない分は、良樹がバックアップをしてくれる。たまたま彼をつれてきてよかった。
 この世は死せるものに死せるための行いを与える、逆もまた叱り。それは許す。
だが、やつは生き抜くために美代を悲しめた。誉人にとって、身近なものへの攻撃が、逆鱗に触れる行いであった。同時に深い悲しみも・・・
 だから、せめて・・・
「極楽へ導いてやる!!」

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