ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDU−3


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)

「おっそーい、なにやってんのよばかぁっ、あと一分で遅刻よ、遅刻したらブチコロシで針万本で万叩きで小遣い抜かした挙句素っ裸になってタコ踊りをうねうねしながら熊を追い払うのよ!!」 
 二人の額に冷たい汗が流れた。刑がかなり重くなった上、意味のわからないものが混じっているが、確実にこの人はやるだろう。
 というのも、誉人らの目の前にいる派手なスーツに身を包んでいるこのものこそ、彼の母、横島美代その人であるからであった。
 真黒という言葉のよく似合う、長い髪を後ろで束ね、派手なアクセサリーを着飾り、かといってつけすぎるわけでもなく、まさにできる女調のこの女は、やるといったら本当にやる。例え首だけになってもやるような人である。
 生きた心地もしないまま、彼らは首をすくめた。こうなったのも、生まれついての誉人の遅刻癖のせいである。まぁ、簡単に言えば、ぐずぐずしていただけだが。
「そうねぇ、遅刻ではないとはいっても、一分違いじゃぁねぇ、やっぱりある程度の罰則が無いと面白みにかけるわよねぇ」
 面白い面白くないで罰なんて欲しくは無いのだが、これでしゃべって彼女の逆鱗に触れたくは無いので、身をすくめてじっと耐える。
「そうねぇ、帰ってへそ踊りしながら猛犬注意の家に突入ってのはどうかしら」
「それ以前に不法侵入と猥褻物陳列及びその他もろもろでつかまるとおもいますよ」
 法のことをよく知らない彼は、とりあえずそれらしいことを言っておく。だが、実際は彼女のやってきたことは、それだけではすまなかった。
 ある種、霊を撃退することができうるという才能、つまり問答無用で霊魂を破壊することに逡巡してしまうほど優しい彼の父親に代わって、スウィーパーとしてやっていけるのは、ひとえに養娘である彼女の辣腕からであった。
 無論、問答無用として処理できうる性格が成り立ってこその所業ではあるが。だからこそ、彼女に逆らうことは、『それだけではすまない』事態へと変わっていく事であると、ある程度のつき合いのある良樹にでも、容易に想像ができることである。
「そうねぇ、んじゃそのことは帰ってから審議するとして、とりあえず今は除霊することを先決させましょうか」
 あきた玩具をポイッと棄てさる様にして、くるりと後ろを振り向く。
 そこには、一段だけ周りよりも高くなったような場所に、なかなか洒落たレストランが立っていた。確かにここなら、まさか警察も暴○団がいるだなんて思うまい。
 まぁ、あくまでもうわさの域は出ていないが。
 そこに、ガシャァン、という何かを割るような音が聞こえてきた。
「この音は、ポルターガイスト?」
 良樹の顔が、引き締まる。ついこの間、呪いの人形なるものの精製に成功してからは、妙に彼の霊に関する感受性が高まったような気がする。ちょっとおいてかれた様な気が誉人に起こったが、今は首を振って気にしないよう努める。
「さぁ、どうかしらね、多分○○○が中で騒ぎでも起こしてハッスルでもしてるのかもしれないわよね」
 半眼で、スタスタと店のほうへ歩みながら、美代は下らなそうに言う。
 その言葉にとっさに青少年達は、ブッと何かを吹きだしたが、このままとんずらをするわけにもいかないので、慌てて彼女を追う。

 彼らが追いついたときには、すでに美代はレストランの入り口のまん前に立っており、足を振り上げていた。
 その足を思い切り前に突き出す。
「邪魔するわよ」
 ドゴンと派手な音がしたと同時に、蝶番ごと、とんでもない力とぶち当たったかのように、ドアは吹っ飛んでいった。
 ドアはそのまま吹っ飛んで行き、もともとは綺麗な内装であったろうあらゆるものを散乱させ、さらに奥へ奥へと飛んでいき何かとぶつかる。
 ぐしゃっと音がしたその先には、叩き潰されたようなドアと、何かは分からないが、生生しい肉片のようなものと、なぜかは分からないが、滴り落ちて行く大量の血があり、それらがテーブルや、椅子、その他調度品を散らかしていた。
「・・・・・・えーと」
 誉人は、それらの断片的な事情を見て、事態を処理する。
 そして、彼は一つの真実、いや、真理、それらすらおこがましき定理を見出した。
「って、いきなり人を殺してどうするんですか」
 ひたすら涙をズタボロと流しまくって誉人は抗議する。自分の後ろにいた良樹などは、やや壊れ始めてあっちの世界に旅立ってしまった。
「だぁいじょうぶだって。『まだ』死んでないって!」
 軽く肩をぽんっと叩いてから、肉片のようなものに接近して行く母。
「じゃぁ、俺はそうゆうことで」
 母が、自分を押さえつけることが出来うる射程外に行ったのを確認してから、シュタッと腕をあげて、誉人は脱兎のごとく逃げ出す準備をする。
 このままこんなところにいては、自分も殺人犯になりかねない。この惨状を見た警察は、自分たちをどのように解釈するのであろうか、誉人は考える。
 1、刑務所、あるいは少年院に長い間収容され、暗い一生を生きる。そして、そこに住まう男好きな男、つまりホ○かなにかの餌食になっていくのであろう。
 2、ぶち切れた母が、やってきた警察をこれまた叩き殺して、暗い逃亡生活をすごす。最後は廃ビルかどこかに立て込んで、父や同級生がスピーカーかなにかで、「誉人ー、罪を悔い改めて自首するんだー。お父さんは信じているぞー、お前たちはそんなやつじゃないってなー」みたいなことを叫んでいる姿が・・・そしてそのまま警官隊との激しい銃撃戦かなにかに発展して、・・・ちょっとかっこいいかもしれない。
 3、自分は無罪を主張して、警官の高い信用を勝ち取る。母のあの態度ならできるかもしれない。そうすればあのいやな女王様もくっさい飯を食わせてくれる場所にいるだろうから、しばらくの間は楽な生活を満喫できるだろう。そんでもって、警察の信用は信頼へと変わっていって、いつかは名探偵とでも呼ばれて事件解決に勤しむカッコいい自分がそこにいるかもしれない。・・・そんなわけはないけれども。
 誉人は0,5秒ほどで、それらの可能性を全て否定してから、とりあえず最初のプランどおりに逃げ出そうとした。
 そのほほすれすれのところ、わずかの間すらも許さないような隙間に、ヒュッと音がしたかとおもった瞬間、外れた出入り口のすぐ脇の柱になにかがつき刺さった。
 美代がよく持ち歩いている、大量のカードのうちの一枚、キャッシュカードの一種がそこに突き刺さっていた(ドアを壊した支払いはオリ○カードなのか?)。そのカードの端っこに赤い線がひいてあるのは考えるまでもなく、
「血だ・・・」
自分のほほから暖かいものが垂れるのを自覚しつつ、しかし体が動けないことも自覚していた。ふけない血がたらたらと、その量を増して行く。
「もう一回、逃げようとしたら今度は首がそんな感じになるわよ」
 脅し、というよりは決まりきったことをいうような感じで、美代は唸る。
 この女は、先ほど述べたようにやる、といったら絶対やる。それは自分の子供にですら変わらない。人、というよりは『他人』と、『自分』という境を極端に徹底しているもののやることだ。
「人が一人死んでいるんですよ・・・逃げたっておかしくはないでしょう!」
 ヒステリーすら起こしかねない声で誉人は叫ぶ。生きたここちがしないとはこのことだ。
「だからぁ、死んでないって言っているでしょう」
 まるで世間話でもするような感じで、美代は笑う。
 そのまま、ぐたぐたになったドアのほうへ接近して行くと、
「てい!!」
と、言う掛け声とともに、おもむろに足をつき出す。
 ぐしゃ、という音とともに、ドアは叩き潰され、さらに椅子やら調度品やエトセトラが散乱していく。
 芸術的な破壊力だ、あれこそが世に聞くヤクザきっく(はぁと)というものなのであろう。 
 さらに美代は、立て続けに数発蹴りを沈める。そのうちに蹴りに反応したのか、肉片がぴくりぴくりと動き出していった。
「い、生きていたんですか!!それは」
 安堵の気持ちも大きく、堰を切ったように言葉とともに苦息が吐き出される。
「まぁ、ね。生きていたっていうんだか、これから殺すっていうか」
「やっぱりコロスのかー、口が割れないうちにってかー!!」
 またもズタボロと涙を流す誉人に、美代の目が語りかける。 
「・・・だまれ」
 逃げることすらできない誉人は、所在無げにその身を震わすのであった。
 
 そこにある何かは、確かに感じていた。自分を滅すべき何らかの意思を。だがまだ彼は死ぬわけにはいかなかった。
 生きるためにいき、死するために死す。生と死は等価値ではけしてないが、それがそうなるべき有り様であるならば、甘んじてそれを受け入れよう。希薄で淡白な彼の意思からは、その事柄でしか真実を見出すことはできないようではあった。
 彼の『目』となるものから、それが見える。醜悪としか形容することができない意思の躍動が。その意思は自分の死を願い、そのために動いている。
 己が生きるべきものであるのならば、彼は生きなくてはならない。それが意味あるべきものであり、真理であった。
 そのためには、まず自分の動きを妨げるこの木の板をどかす必要がある。
 波紋が彼の体を駆け巡る。邪魔、障害をすべからく排他するために、目的を遂げるために。ここの従業員を二人ほど飲み込んだときのように・・・

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