ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACK IN THE REBORNEDU−2


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)

「ただいまぁ」
 玄関前でまず最初に言っておく。すると、
『お帰りなさいませ』
人で無きものの声が聞こえた。
 後ろの良樹がもはや慣れたように、
「失礼します。久しぶり、人口幽霊4号」
と、会釈をする。
 この人口幽霊4号とは、既存の1号に改良を重ねて発展した形態で、凄まじい索敵能力と対霊圧防御をかねそろえている。
 玄関を空けるとミドルショートを二つに分けたかわいらしい少女が、ちょこんと正座して深々と頭を下げた。
「お帰りなさいませ、誉人殿」
 これで三つ指でも立っていた日にはダッと抱きしめていたのだが・・・
「あぁ、ただいま。ペコ」
 ペコとは長い付き合いになる。シロが老いて寝たきりになった今、この家にいるのは両親と彼女とさらに双子のケンだけであった。
 彼女はすっと立ち上がると、
「では、ご学友もこちらへおこしくださいませ」
すたすた歩いていってしまった。身によく合う服を着ているからであろう、服のずれる音などほとんどしない。ただ、その昔、誉人が与えた精霊石の指輪がその存在を主張していた。
(あいつ、薬指にはめるって意味、分かってやってんのか?)

 男子制服に特有の、黒い制服を脱ぎながら誉人は尋ねた。
「親父と母さんは?」
 居間の端っこでちょこんと正座していたペコは、まるで長年勤めていた秘書のように答える。
「ハイ、だんな様、忠誉様はホテル・ザ・デジャヴーで浄霊を行っています。
奥様、美代様はレストラン・成金堂で除霊を行っています」
 誉人は、広い居間にそわそわしている良樹を眺め見て、頭をかいた。
 父親の仕事はとても難しい仕事だ。力押しで霊を吹っ飛ばすだけではなく、その力を保持したうえで霊を説得しなければならないからだ。
 過去に何度か父親の仕事場に言ったことはあったが、ろくな目にあったことが無い。
 かといって母の今日の仕事場は、ただの除霊現場ではない。場合によっては、霊よりも数段性質が悪い。
 成金堂は表向きはただのレストランであるが、その実○暴が警察たちから身を隠すのに用いているなど、嫌な噂が絶えない。
 本来ならば、この時点で良樹を帰すのが妥当なのだが、誉人独特の気の弱さから、みちづれじゃ精神が発揮して、なかなか帰そうという気すら起きない。
 そこに唐突にペコが声を出す。
「奥様から伝言がございます。『ちょっと状況が変わったんで、必ず来ること。七時までに来るのよ。遅れたらブチコロシて針千本呑ましたうえ、百叩きと小使い抜きだかんね。わかった?じゃぁね。がしゃん』だそうです」
「なに、がしゃん・・・ってのは?」
 とりあえず、当然の疑問を口に出してみた。
「はぁ、ちょっと電話ふうに・・・」
「あーはいそーですか」
 しかし、あのとんでもなく強い母親の言うことである。駆け出しにすら満たない自分たちに援護を求めるだなんて、よほどのことであろう。
 誉人は側壁にかかる大きなはと時計を見上げ、約束の時間までまだいくらか時間があることを確認した。
「良樹、ちょっと待っててな。ペコはそいつにお茶でも出しておいて」
 適当に指示を出しておいて誉人は部屋を出ようとしていた。
「ちょっと、どこいくんだよ。おまえは」
「ん、シロの様子をな」
 良樹はその一言で居間に広がったソファに腰を落ち着かせた。

 誉人が部屋と開けたとたん、白い煙がモクモクと放散されていた。
 部屋の片隅には巨大な機械が設置してあり、その部分を除いては全てが緑色になっている。シロの気持ちを汲んでのことだった。
 誉人は顔にかかる煙を、うっとうしそうに払った。この煙は、いかに長寿といえども年には勝てぬせいか、年追うごとに霊気の減退を防ぐために作られた装置から出る、煙であった。
 けして煙が出るほど壊れているわけではない。決して・・・
「やぁ、ただいま、今帰ったよ」
 努めて明るい声で誉人は声をかける。こうしなければ、何かを自覚してしまうから。
「お帰りでござる、誉人殿」
 思ったよりも元気な声が、返って来た。
 ほっとした誉人は、内装を見回す余裕が生まれた。普段にも何気なく点検のため、見回してはいるが、こう、意識した中で彼女と顔を合わすと、また違う気分になる。
 部屋の中心に設置された大きなベッドには初老の女性が寝ていた。白い髪に一房だけ色が違う髪の毛が印象的であった。
 しかし、その腕に設置された延霊装置が、嫌が応にも誉人の意思を現実にとどめていた。
「元気にしていたかい」
 萎えてしまいそうな気を落ち着かせるために、軽く頭を振ってから、会話を切り出す。会話をするに当って難しいことは切り出しである。何とか会話を弾ませなければ、双方の気に悪い。
「はい、拙者はいつも元気でござるよ」
 若いころの癖が抜けないせいか、年甲斐も無いような口調で答えるシロが、誉人にはただ眩しかった。
「そうか、それはよかったな」
「ところで、誉人殿は母上殿の約束を守りに行かなくてよろしいのでござるか」
 突然の切り出しに、誉人は驚いた。いまだに我が家の事情は人口幽霊と犬神の一族がいなければなりたたらないらしい。自立するにはまだまだ時間がかかるようである。
「何で知ってんだ?」
「何でって、ペコがそう言伝を頼まれたって・・・」
「・・・・・・」
 さすがに犬神である、凄まじいまでの地獄耳を持つ。
「この犬の前じゃ内緒話すらできないのかよ・・・」
 半ば呆れるように一人ごちると、
「狼でござる」
 誇りある狼の戦士は、身を起こして訴えた。
 慌てて、誉人は彼女を優しくベッドに寝かしてから、布団をかけてやる。
「あんまり無茶しないでくれよ。少なくとも、お前が体壊して悲しむやつは大勢いるんだから」
 俺もな。心の中で付け足しをする。 
「誉人殿、お気遣いありがとうござる」
 シロは、覇気の無くなった手を誉人のそれとかぶせる。弱弱しく、だが代わりに長い月日をかけて培った何かを、誉人へと送るかのように。
「シロ、・・・・・・」
 誉人はシロを見つめてから、心を落ち着かせる。
「もうちょっと若けりゃぁ、貰ってやってもよかったんだがなぁ」
 だが口から滑り出たのは、そんな皮肉だった。
「結構でござる。それに、わが心は先生ただ一人だけでござる」
 同じ様にシロも皮肉で返す。
「そうか」
 そこで誉人はふと、思いつく。
「なぁ、周りはうちのご先祖様をすげーすげーって言ってるけど、どんな人なのか実はさっぱりわからないんだよ、俺。だから今度機会があったら教えてくんないか?」
 シロは意外なような言葉を聴かされたように、だが同時にその言葉を待ち焦がれていたかのような顔をして、
「もちろんでござる」
八つ返事で承諾した。
 それを見た誉人も、妙な安心感が沸いてきて、これでいいと自分自身に頷いた。
「じゃぁ、いってくるから」
 軽く誉人が手を挙げると、
「がんばってくるでござるよ」  
と、檄を飛ばされた。誉人の心の中には、自分の幼いころに沸いた重い何かが晴れようとしていた代わりに、きつい何かが生まれようとしていた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa