AFTER THE BACK IN THE REBORNED 6
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)
・・・・・・・・・
「どうでしょうか、彼は」
「ええ、大丈夫だと思いますよ」
観客席の柱から、遠く体育の授業を見守っていた二人が囁きあった。
一人は和服に初老の男。この学校ではもっとも有名な人。ついでに霊能関係では、彼を知らなくては生きていけないほどの多大な影響を持つもの、六道勝政である。
もう一人は、コートを着込んだ若い男。派手なサングラスをしているが、良くありがちな謎を全面的に押し出している風もなく、社交的で良く似合っている。
「今スウィーパーの中じゃぁ、彼をほしがって躍起になっていますからね」
「何、皆彼の名前が欲しいだけですよ。現に、うちの高校を卒業したら何て言ってはいますが、誰も彼自身を知ろうとなんてしてはいませんし」
勝政が深くため息をつく。
「それで、勝政さんはどうしようとお考えていらっしゃいますのでしょうか?」
勝政はこの若者のものの言い方に背中が痒くなるのを覚えた。小さいころはじい様といっていた人物が、自分と同じ世界に入ったと思ったら、こうも変わるなんて。
彼は私情を振り払うため、一つ咳払いをすると、こういった。
「まぁ、彼の意思もありますが。小竜姫様のところへ修行をさせてはいかがなものかと考えていますよ」
「それはいいかんがえですね」
青年も肯定の意思を表す。
「ですがその前に、俺のところで少し鍛えてからでもいいですか?」
青年の提案に勝政は驚く。
「いいのかい、君はあんなことがあってからは二度とアシスタントは採らないと・・・」
そこまで言ってから、勝政は自分の失言に気がついた。
あわてて口を手でふさぎ、
「すいません、これは失言でした」
と、詫びる。
「いえ、それはいいんですよ。あれは俺のせいだったし。それよりも、あのまま小竜姫様のところへ行けば、彼、死ぬと思うんで・・・」
何しろ小竜姫なるものの修行はDEAD OR ARIVEで有名なのだ。観光化、親睦化が豊かになり、下界にあるものの情報交流手段が盛んになってきたために、ある程度の生存率は上がってきたが、それでもまともに生きて戻れる保証はどこにもない。
「・・・・・・そうですか」
勝政は問題になっている彼、誉人を見た。何か意味の分からないポーズをとって、逃げもせずに今にも殺人的な霊波に飲み込まれようとしていた。
ぎゃぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・
何か、とても近くで遠い場所で、聞いてはならないものを聞いてしまったような気がした。見ると、隣の青年も同じ様な表情をしている。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
はぁ、と、とても長い嘆息をした。
「そうですね、そのほうがいいかもしれないでしょうね」
勝政は頷いて、
「では、彼に掛け合ってみましょう。美神除霊事務所で働くことを」
勝政は、正面の青年、美神公博へそう告げた。
「何が人生の春やぁ」
涙ながらに訴えたのは、当然誉人である。
隣のベッドには花束を抱えた溺升が寝ていた。
当然のようにここは病院である。狭い共同部屋に、本来なら六人収容されるはずであったが、ガキがうるさいと人生の玄人達は退室していた。
彼はうるさそうにして、
「あれはあくまでも僕の予想としてであって、希望的観測にしか過ぎない。実際は、君みたいな阿保に向き合ってくれる気のおかしい女性なんていなかったってことさ」
と、自慢げに笑う。
さらにその向かいには良樹が半ば狂ったように新しい藁人形を、せっせと作り出していた。
「おい、いまさらまた俺に呪いをかけるって言うのか?」
誉人がかなりつり上がった目で彼を見据えると、
「いや、もうお前のようなやつにこの人形を使うなんてもったいない。さっきの体育でこの人形の信頼性は有るということが立証された。ならば、これを使ってぼろもーけできる。ってことも保障されたってことだろ?」
といいつつ、そのうちの一体を、箱の中に入れる。ベッドの下には、同じ様な箱がさらに五つほど並んでいて、「ヘヴンリーデス」と、書かれてある。
後日談だが、この人形は危険だということで、学校側に処分されている。
「・・・・・・・・・」
誉人と溺升は顔を見合わせると、意気消沈したような面持ちで、同時にベッドに突っ伏した。
「ふふふ、うふふふふ」
気持ちの悪い笑い声を上げて、良樹は叶うことの無いぼろもーけの為にいそしんでいた。
彼らを遠くから見守るように、少女は立っていた。
・・・『空中に』・・・
空中にいて、立っているも何も無い気もするが、何しろ彼女は二回も死んでいる。そのうえ七百年近く現世にとどまっているのだ。そのような癖が出てきてもおかしくはあるまい。
「がんばってくださいね、横島さん。私も応援しています」
少女はそう呟いてから、霧のように姿を消した。
「?」
何者かに見られていたような気がして、誉人はベッドから身を起こした。ここはとある病院の四階である。
通常の人間に見られたような、何て室内に相手がいない限りまずありえない。
通常の人間には・・・。
誉人は背筋に悪寒が走って、あまり考えないようにした。
「どうした?」
親友である良樹ではなく、溺升が自分のことに気がついてきたことに、驚きと怒りを覚えながら、
「なんか、誰かに見られたような気が・・・」
と、呟いた。
「はははー、ないない。お前なんか、生身の女子ですら見向きもしないんだ。たとえ幽霊でもおんなじだって。幽霊よりも見向きもされないんだから悲惨だよなぁー」
「うるさいな、ほっとけ」
なかなか的を得ていたような気もしたので、誉人はツンと窓のほうへ視線を向けた。
そういえばなんであの少女は俺を知っていたのだろう。
誉人は幽霊という単語であの少女を思い出した。
あまりに人間くさく、自分を知っている少女。だからこそ、世間などでよくある、純とした恐怖や嫌悪などの感情が無かった。
窓の向こうに彼女の顔があるような気がして。
そのときだった。
「うーす、見舞いに来てやったぞぉ」
同級生の数名が、花と果物を持ってやってきた。
「何だよ、さっきも女子たちが『溺升だけ』に同じ様なこといってきたぞ」
誉人が迷惑そうに言うと、
「安心しろ。今回はお前ら全員にだ」
そういって、各自に花と果物を分け始める。
女生徒の一人が、それを受け取って、こちらに向かってきた。
「さっきはありがとう。おかげで助かったわ」
感謝の意をこめて、そういう。確かに必死に壁を作っていた人員の中に彼女も入っていた、ようなきもすると誉人は思った。
しからばとかなんとか、意識を変換すると、誉人は熱く彼女の手を握り締め、
「なら話は早い。結婚しま・・・」
・・・ぼがぁ・・・
脇から溺升の腕が飛んできて、誉人を沈黙させる。
「阿保なことをいってんな」
「ぐぐぅ、このぉぉぉ」
何とか頭を抑えて立ち上がった誉人は、その間ずっと手を放していない女生徒に気がついた。
「だ、大丈夫ですか」
慌ててさすがに手は放したが、ベッドに寝るよう彼女は促した。
仰向けになりながら、誉人はわらった。これは誉人にとって偉大な一歩へとなるはずだ。なんてったって生身の人間なのだから。
クスリと女生徒もつられて笑った。誉人もまた笑った。良樹はフフフと狂ったように笑っている。それを見ていたほかの生徒たちも笑い出した。もちろん引きつったようにだが。
笑い声は室内を満たし、やがては青い空へと木霊していった。
その後、良樹の退院が長引いたのは、言うまでも無い・・・・・・
今までの
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