AFTER THE BACK IN THE REBORNED 5
投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/17)
それは無謀な賭けだった。霊壁に身を包まれた誉人は、涅槃の霊弾を押さえ込もうとする。が、しかし、その出力のためであろうか、高圧電線に触ったかのような霊圧に、誉人の体が折れる。
いや実際折れていた。
「誉人めぇ」
呪いの権化と化した良樹の手には、これまた呪いの藁人形が。その格好は、ちょうど今の誉人と同じ格好であった。
「あ・・・・・・・・・ほんとうに効いてしまった」
良樹は誉人を哀れと思いつつも、・・・まだむかついていたのでまた人形を弄くりだした。
「うあああああ」
彼の首があらぬほうへとねじれる。
その首の先には・・・・・・
少女が立っていた。
先ほどまで泣いていたのであろうか、白いハンカチをその細い右手に握り締めていた。
霊史の小倉がその隣に座っていた。どうやら彼女はここで気を落ち着かせていたらしい。校内でうろうろさせないよう考慮に入れたのはまぁ、妥当なせんだ。体育中というのは間抜けだが・・・。
誉人の目は、ちょうど彼女らのほう、観客席へと向いていた。
誉人の目には、彼女の瞳が、悲しそうに、辛そうにしているように見えた。
誉人が苦しむほどに歪んでいく瞳。
「何がそんなに悲しいんだよ」
だんだん遠のいて行く意識では、己の体がやばいことを自覚する余裕すら、すでにない。
「俺か?俺が悪いってのかよ」
少女が客席から身を乗り出そうとする。しかし、何らかの結界により、それも阻まれる。妨害及び、自殺防止のための結界で、これらは授業や、なんらかにより体育館を使用すると展開されものであった。
そして、誉人は見た。結界により弾かれた少女の瞳には、先ほどとは違う涙。
そして、何かを訴えようと動く唇。
「!!!」
ばちぃぃん!!
そんな音を立てて、良樹の手に収まっていたはずの藁人形は壊れた。
驚いて、あわてて良樹は誉人を見やる。藁人形の破壊は即ち、対象者の死をも意味するからである。
だがそこに、誉人の死という現実は起こらなかった。
「死んでねんかよ」
なんとなくがっくりきたものの、彼の身に、何らかの変化があったことは、見逃してはいなかった。
「あああああああぁぁぁぁ」
両の手をボールを挟む様に展開させる。ボールと手の間に霊気を放出。ひたすらに薄く、小さな霊壁が生まれる。
ブワッと音を立てて、誉人の腕から血が弾け飛ぶ。彼はここに来て、肉体に深刻なダメージを受けていることに気づいた。
「くそぉぉぉぉ。まだネーチャンと一回もヤらんで、死ねるかぁぁぁぁぁ」
・・・・・・・・・
時間が止まった。
ただし男子生徒陣だけだが。
即ち、呆れ顔で誉人を眺め見るだけであったが・・・
「こんなとこで死ねるかぁぁぁぁ。まだ見ぬネーチャンの為にもぉぉぉぉ」
しかし確かに、確実に『それ』は変わっていった。
幸運なことに、そんなことで彼の霊力は飛躍的に向上した。
先ほどの少女の涙も、後ろで苦しそうに霊壁を張っている女生徒達のことも、何もかもを頭から吹っ飛ばして。
回転する霊弾を無理やり押さえ込もうと力を込める。摩擦によって、不可視の火花が弾け飛ぶ。
「いまだっ!皆で玉を押さえ込め!」
溺升が皆に指導を与え、コートの中が一変する。
「おお、何じゃこりゃ」
やっと正気に戻った誉人が、驚いて手の中のものを凝視する。
誉人が気がつくと、己のうちに抱いているバスケットボールが目にはいる。凶悪に回転したそれは、しかし後ろから自分を含めて、優しく包み込もうと迫る布のようなものの力によって、怪しささえ残すものの、拮抗しているようであった。
「それを放すな!放したら死ぬぞ」(僕たちが)
溺升がひどく荒い声で檄を飛ばす。
「霊気をもっと集中させろ。流れさえ変えることが出来れば、そのままボールを返せるはずだ」
それを聞いた生徒たちは、皆うなずき、霊波の質を一様に変質させる。
「させませんよ」
涅槃もそれをさせまいと、さらにボールをコントロールして、霊壁を突き破ろうと力を溜める。
「これは・・・」
溺升は思った。確かに、力を叩きつければ、ボールは止まるかもしれない。こちらは3分の一しか残っていないとはいえ、10数人はいるのだ、一人の教師に敗れることはまずない。
だが、この状態で投げても、大した力にならず、簡単に止められるかもしれない。
では、ボールをいなした場合はどうか。確かに、先ほど自分で言ったとうり、力の方向さえ変えれば、涅槃の力を利用して少ない力で逆に大きなダメージを期待できる。
だが、その際にあふれ出た力がこちらにも降りかかる恐れがあった。完全に力を殺していないからだ。まるで、川の流れにある、石の様に。
石は、長い年月をかけて、少しずつ削られていく。しかし、川が氾濫などを起こせば、一気に削られる。
今のこの状況と似ている。
ならば、どこかに人柱というか、人身御供というか、代わりになるものがあればいい。
溺升は、自分の前に立っている人物を見てにたりとした。
次第に、力の方向性が変化していき、ボールの向きが変えられていく。河の石の様に使い続けられた霊壁も、磨耗しきっていつ破られるか分からない。
「みんな、いくぞ」
溺升が叫んだ。ついでに衝撃を拡散吸収するための人員を、より良くその仕事をこなせる様に、蹴飛ばしてやる準備をする。
「いっけぇーー」
球が急カーブを描いて、涅槃のほうへ突き進んで行く。と同時に壁が粉砕する。
処理しきれなかった、大量の霊波が生徒たちに降り注ごうとしていた。
「すまん、ゆるせ」
決まり文句を一応言っておき、溺升は右足を突き出す。そこにある確かな手ごたえを求めて。
だが返ってきたものは、
「あれ?」
素っ頓狂な自分の声と、間抜けなようなほど、何も感じない己の右足だけであった。
「うおおあ?」
意味の分からない唸り声が聞こえ、そのほうを見ると、これまた意味の分からないように捻じ曲がった誉人がいた。そしてそのちょっと向こうに自分の右足が・・・ちょうど誉人にかわされる様なかたちでそれが生えていた。
その光景の向こうには、やっと呪いが効くようになったので、再び人形をこねくり返している良樹の姿が・・・
力場関係上、勢いつけて蹴りだしたもんだから、当然重心は前に行くわけであって・・・
「あああああっ!!!」
無残な叫び声とともに、誉人と溺升は遥か彼方に吹っ飛んで行き、お星様へとなっていった。
「ぐはぁー」
同時に涅槃にも、その致死球が叩きつけられ、吹っ飛んでいった。
そのさきには、正義は勝つとか何とか言っている良樹の姿があった。
今までの
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