遠い世界の近い未来(2)
投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/ 9/15)
よりみちです。特に、反対もないようですので続きを入れさせてもらいます。
遠い世界の近い未来(2)
施設の正門脇に設けられた特殊部隊の前線指揮所では、電子/通信機器を積み上げた簡易テーブルを中心に野戦服に身を固めた数名が、緊張した空気の中、連絡や指揮など自分の責任に全力を挙げて取り組んでいる。
「お届け物でーす。ハンコはいりません。」
テレポートでそんな前線指揮所にもどった時にの葵の言葉である。その言葉に反応し、不快げな視線が目の前に出現した一団に向けられる。
「これで、第一班は全滅か。」
倒れている一人が部下であることを認め、強襲部隊の隊長の端整な顔立ちが歪む。
特殊部隊側として、特務エスパーたちが相手のエスパーに集中できるよう、精鋭の戦闘班を護衛に付けたのだが、これで、最後の一人がリタイアしたことになる。
「水元主任。」
隊長は、新たな患者を軍医が診断するのを横目で見ながらの隣に立つ人物に声を掛ける。
声をかけられた人物も、特殊部隊員と同じ様な出で立ちにだが、ジャケットの記章から別の組織の一員であることが読みとれる。
彼の名は、水元光。超能力がからむ問題を解決するために組織された”バベル”その中核である特務エスパーチームの現場運用主任である。
「確かに、エスパー相手ですから、我々だけでは、もっと犠牲が増えたかもしれません。」
その点は、まぎれもない事実であり、彼女たちの活躍で、現れたエスパーたちは全員無力化できた。
「しかし、もう少し、味方のことを考えた戦い方ができないものですか? 」
第一班は、特務エスパーと敵の護衛やエスパーやとの戦いの中で被害を受けたわけだが、直接、敵にやられた者は一人もいない。
葵が、乱戦の最中、まとめて敵を制圧するために、テレポートで空中に出現させ、降らせた1tに近いのガラクタの下敷きになった者三名。
薫に敵と間違われてテレキネシスで壁に叩きつけられた者ニ名。そして、今回の彼を含め、手近に投げつけるモノがなかったという理由(だけ)で代わりに敵めがけて投げつけられた者二名。
「そうですね。」
水元は、ハンサムといって差し支えない顔をわずかに俯け、気弱げにうなづく。
毎回言われることで、その点は、充分に承知している。
だが、彼女たちに、周囲への配慮という考え方を理解させることは、人類を別の星に送り込むぐらいに困難なことだとわかっている。
自分たちの責任者の苦悩をよそに三人は、一服とばかりに、指揮所で自分たちのために確保されているスペースにむかう。
そこのテーブルの上には、袋の開いたスナック菓子や食べかけのチョコが散らかり、誰が読むのか美容室の待合い場にあるような女性週刊誌が広げられている。
薫は、テレキネシスで足下のクーラーボックスから缶ジュースを二つ取り上げ、葵と紫穂に渡す。自分はお気に入りのスタミナドリンク取り出し、一気に飲み干す。
「プハッーー。 人を使こても減らんと思たら、気安う使うで、まったく!」
薫は飲み干したビンをわざとらしく音をたてテーブルに置く。
「ほんまや、もともと時間外やし、十歳児をこんな夜に働かすて、労働基準法違反やね。」
葵が、周囲に聞こえるように応じる。時計は十時前を指している。
「ふぁーあ。」 紫穂も、どれだけ本気か、眠そうにあくびをしながら。
「もう子供は寝る時間じゃないかしら。早くお仕事終わって、お風呂にはいりたいわねぇ〜」
子供扱いされることは嫌いな割に、自分に都合が良ければ十歳の立場を強調する。
当然、聞かされている隊員たちの表情は厳しくなる。
「暇やし、いっぺん、さっきのホールの偵察でもしに行こか。」
しばらく、周囲の大人たちをイライラさせること言っていたが、それにもあきたのか、葵が二人に声を掛ける。
「あいよ。」「行くの〜ぉ。まぁ、いいか〜。」
気のないようすでまとまる。
「みんな、ちょっと待ってくれ。」
テレポート寸前に水元が呼び止める。
「ちっ!何や。」
出足をくじかれた薫が、不満げに舌打ちする。
「先に解決して欲しいことが起こったんだ。」
三人の不満げな顔に、水元は両手を合わせ拝むような表情で頭を下げる。
話によれば、エスパーらしき一人が爆発物を持って、危険物を置いた倉庫に立て籠もったそうだ。直接の危険はないが、長引かせたくないので、解決して欲しいとのである。
説明の途中、何度か後ろが気になる素振りを見せる。特殊部隊側からかなりのプレッシャーが掛かっているようである。
もともと、超度7という極めつけのエスパーであるということ、それに、十歳の子供ということもあり、彼女らの振る舞いに問題があっても(というか、問題ばかりだが)、直接、苦情を言う者は誰もいない。その分、彼女たちへの悪感情は、彼女のそばの唯一の大人である水元に集中する。
‥‥というか、彼女たちに、気持ちよく仕事をさせるために、現場運用主任はそれを引き受ける仕組みになっている。
最近まで彼女たちは、そうした板挟み状態の水元を見れば、余計に意固地になったり困らせたりしたものだが、今は、少しだけだが、水元の希望に沿ってみようかという気分になってきている。
「‥‥ だから、頼む。」
水元は、これが最後にとばかりにもう一度手を合わせ、頭を下げる。
三人は、目くばせをし、それぞれが同じ気持ちになっていることを確認する。
「水元、心配せんでもええで。ウチらも今日は、あんたに肩身狭い思いさせてることはわかとんのや。」
珍しく、しおらしいことを薫が言う。
「だから〜、すぐ片づけ来るから待っててね〜。」と紫穂
「それじゃ、ちゃっちゃっと行きますか。」 葵がしめる。
なんとなく水元の顔がゆるむ。その分、さらに、周囲の冷たい視線が厳しくなっていることには気づいていない。
今までの
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