ザ・グレート・展開予測ショー

AFTER THE BACk IN THE BORNED


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/ 9/14)


 少年はあせっていた。真剣な眼差し、風よりも早く進めようと空を切る足。途切れ途切れの廃息は、彼の進んできた距離を、大いに予想させてくれる。
 直線を何度か曲がると、そこにはある建物があった。いや、施設といったほうが、確実であろう。
 少年は、その施設の頂上に付いた、大きな時計を眺め見る。それと平行して何事かを知らせるチャイムが鳴った。
「おっし、まだ5分はある。あるはずだ。あってくれ。あってちょぉぉ」
 言いつつ、また加速していき、施設の口の中へ突入していく。

 階段を1階分上り、2−Cと書かれたプレートを発見したとき、ちょうど下の階から、複数の靴音が向かってくるのを、少年は聞いた。
 内心少年はほっとしたのを自覚しつつ、音の主が上がってくるのよりも早く体を2−Cと書かれている部屋の中へ巣滑り込ませる。そして一声、
「ウィーッス。はよー」
 部屋の中の空気が一瞬とまる。
 そして反応。
「お前間に合ったのか」「信じられないわ」「後一回でやばいって聞いたぞ」
 クラスにいた生徒から、心配していたとは、きわめて正反対な反応が返ってきた。
「おまえらなぁ、もうちょっとこう『心配してたわ』だとか『せめて禿男の妨害くらいはしてやるぜ』とか言えんのかよ」
「いや、お前助けて俺らが落ちるってもなぁ」
「お前の遅刻癖を矯正するんならやってもいいけど」
 その一言に少年は期待をする。
「ほんとうか」
「ああ、痛いけど」
「なら、ぱす」
 あからさまに落胆したように、とぼとぼと自分の席を引いたとき、前方の扉が侵入者を迎え入れた。
「きりー、きょーつけー、れー」
 生徒の一人、学級委員長が、もはやお決まりである台詞を言った。
 侵入者は、
「はいお早うございます」
と、温和そうな顔を、クシャと歪めたかと思うと、少年のほうを凝視した。
「!!!!」
 居心地が悪そうに、少年も訊ねる。
「な、なんすか」
「よ、横島がいとるでぇ」
「そりゃあんだけ遅刻しとりゃそろそろやばいとは思うワイ」
 侵入者は、コホント軽く咳払いをしてから、
「そうかぁ、やっと、やぁっと横島も分かってくれたか。先生のこの熱意が。先生はうれしいぞぉ」
などとのたまいつつ、感涙していた。
「いや、まぁ。ただ単に日数不足で落ちたくないだけですよ」
 などとは、口が裂けてもいえなさそうであった。

 G・S横島 AFTER TO THE BACK IN THE REBORNED

 ここは、六道学院。400年ほど前は女学院だったらしいが、250年ほど前に共学として新たに設立。すさまじいほどの月日とともに、伝統と教養を重んじる学院として一部では有名校となっている。
(一部では、ねぇ)
 横島は一人ごちる。
 彼の名は、横島誉人。400年ほど前に世界を救ったスイーパー、英雄三神と横島の子孫である。などとは言っても、当の本人には、そんな自覚などからっきしもなく、
「まぁ、俺にはむりっすよ」
と、苦笑いするだけだが。
 そうならざるをえない状況として、一つは彼の顔があった。
 決して悪いわけではない。かといって良いわけでもない。ぱっとみは冴えないかもしてない。だが良くみると、なかなか光るところもあるはずだが、先祖代々続いて仕えてきた『馬鹿犬』のせいで、彼のコンプレックスは右肩上がりとなっている。
 曰く、
「先生の美顔はこんなものではないでござるよ」
だそうだ。
 誉人自身は、『先生』なるものの顔は見たことがないため、何と比べられているのかさえも分かるはずもないのだが、そう言われて気持ちのいいものではなく、彼の意気は消沈するだけであった。
 そしてもう一つ、彼の過小評価を助長するものがあった。

「じゃぁ、今日はこれまで」
 誉人はうつらうつらした記憶から、断片的な記憶を招き入れる。
 えっくすにじょういこーるにわいしゃーぷさんなので、いい国作ろう平城京。
 ・・・・・・覚えた。
「横島、これからめし買いにいかねーか」
「あ、あぁ」
 生返事をしつつ、誉人は友人に連れられて購買まで足を運ばせる。
  
「いらっしゃいませー」
 購買ではたくさんの生徒たちが並んでいた。
「へんだな。いつもはがらんとしてんだけどな」
「なに、良樹はこの時間に買いにきてんの?」
「まぁな、ちょうど3間目が終わった後は時間的に中途半端だからな。いるっつっても3、4人並んでりゃぁ十分いるほうだったからな」
 まったく彼の言うとうりである。いつもならその算段は間違っていなかった。だが今日に限ってはその算段は大きくずれていた。
「いらっしゃいませー」
 再びあの声。購買意欲をつくづく叩き落しつつ、なおかつ上から矢でも吹っ掛けてきそうなそんな感覚だが、若い声がした。
 いつもならば、
「ぃらっっしゃぅいむぁせぇぇぇぇ」
 などと、妖怪よろしくな声の、白髪老婆のおかげで必要以上の長居はしない、という暗黙かつ、絶対不可侵の提携が各自に行われていたのだが、今日に限って若い声(しかも女)ならば、男どもはいくらでも野獣に生まれ変わろう。
「うぅぅおぉぉぉぉ」
 突如、隣の男の変質に、良樹は驚きまた、また・・・・・・また頭を抱えうめいた。
「もう俺のそばにくんな」
 誘っておいて実もふたもないが、まさかこうなるとは。
「どけぇぇい野郎ども」
 赤く充血した、怪しい眼光を放ちつつ、横島は男どもをかき分けかき分け、ついに購買のショウケースへとたどり着いた。
「うぉぉぉぉ」
 とりあえず、何でもいいから一つ掴む。掴むものは何でも良かった。ただ、それさえ出来れば。
  後は実践あるのみ。
  男とは迷わない。
  己の行いに絶対かつ不変的な何かを被せるのだ!
 そして第一声。
「お嬢さん、これ買うから結婚してください!!」
 周りの男どもは一気に引いた。
 パンを熱く握り締め、求婚するのもちょっとあれじゃぁねーか?など思いつつ、良樹はひたすら他人を決め込んだ。
「お前の友人って、アレだよなぁ」
とっくにばれていたみたいだが。
 さて、困ったのは当の本人。目の前にはパンを握り締めた男。
 恐る恐るといった感じで面を上げる。
「よ、横島さん?」
「へ?」
 まさか、相手が自分の名前を知っているとは思ってもみなかった横島は、素っ頓狂な声を上げて少女を見やる。
 年のころ十代後半といった感じの、はかま姿の巫女。そんな感じの少女だ。
(巫女ははかまだろとか突っ込まんように)
 意味深なことを一応思っておく。
 しかしただ、一点だけ周りとその少女とを隔てているる、違う点があった。
「あっ、いえ、ごめんなさい。人違いでした」
 少女は口元を覆い、ぺこりと首部{こうべ}を垂れた。
「いや、よこしまで、あってるけど・・・」
 そういうと、横島はやや硬くなった。少女が息も届きそうなほどに接近してきたからだ。
「確かに言われてみれば・・・」
「?」
「ひょっとして、誉人さん?」
「そ、そうですけど」
 そういうと、少女の目がぱっと輝いた。
 誉人の頭は疑問符で一杯になった。
 なぜこの少女が自分のことを?この少女のもつ周りとは違う一点でなら、なんとはなくだが説明は付く。
 つまり、
「・・・ゆうれいですか・・・?」
 いやな単語を口にする。回りにはそれが、ひどく滑稽に見えた。
 聞くまでもなく、すでに人魂が浮かんでいる時点で分かるはずだが、相手をよく見もせず、頭を下げた時点で、誉人は相手が何者かを鑑みる余裕など、すでに消失していた。
 だが、
「はい!」
 なぜか妙に明るい口調で、少女は答えた。
 そして、あろうことか、
「やっぱり似ていますねー。血は争えないんですかね。あ、でも誉人さんのほうが礼儀正しいですよ」
いいつつ、こちらの手を握り締める。
 同時に沸き起こる野郎どもの、鬼気に似た殺気。
 生きて帰れると思うなよ・・・
 でも、握られたてはやわらかくて、とても幽霊のものとは思えなかった。
 プツン・・・
 誉人の中で何かがはじけ飛ぶ。
「ねぇぇちゃぁぁぁぁん」

 ごづっ!!

「ほら、いくぞ」
ずるずるずる・・・・・・

 良樹の疲れきったような声と、引きずられていく様な感覚。誉人はそこで気を失った。

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